婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第78章 Run&Gun

『――侵入者を確認 排除 排除』

 

 墓所にも似た格納庫に声が響き渡った。

 機械に性別があるのかは知らないけど女ほど甲高くない声からはこいつが今どんな感情なのか推察できない。

 

『侵入者を確認 排除 排除』

 

 警報と警告音を繰り返しながらデカい人型は俺に向かってゆっくりと直進する。

 この遺跡にいる人型が人間と同じ程度の大きさ、こいつはその十倍ぐらいデカい。

 ただ人型に比べて腕が極端に大きい、背丈と肩幅が同じぐらいありそうだ。

 あの腕でちょっと小突かれただけで人間の頭は卵みたいに割れて死ぬ。

 

『侵入者を確認 排除 排除』

「あ~、ごめん。ちょっと話を聞いてもらっても良いかな?」

『………………』

 

 なるべく警戒心を抱かせないように出来るだけ友好的に。

 笑顔だ、恐怖で引き攣りそうな顔を懸命に動かして笑顔を浮かべる。

 上手くいったのか分からないけど大型は動きを止めた。

 よし、何とか会話は出来そうだぞ。

 

「わたし、どろぼう、ちがう。わたし、あなた、はなしたい。わかる?」

 

 わざとらしいぐらい大げさな身振りで意思表示を行う。

 戦闘は出来るだけ避けたい、何事も穏便に済ませるのが一番だ。

 でも、ここに来るまで人型を何人も殺したな。

 怒ってるかな? 

 いや、絶対怒るだろ。

 沈黙が怖い、扉は閉められたからこいつが開けてくれなきゃここで餓死決定だもん。

 

『……音声照合を終了、貴方は当施設の職員ではありません。加えて此処に来たという事は施設職員のカードキーを所持していると判断します。該当者以外の立ち入りは禁止されています』

「かぁどきぃ?もしかしてコレか?」

 

 懐から小さな板を全部取り出して大型に見せると頭部らしき場所が光った。

 どうやらあそこが目玉らしい、何度も首を動かして俺と小さな板を見比べてる。

 

「先に進むのにこれが必要だから借りた。言っておくがこれを持ってた奴らはとっくの昔に死んでたぞ。俺が殺した訳じゃない。返せって言うならちゃんと返す。俺はここに来たかっただけだ。ここに来てあんたと話がしたい。俺の名はリオン・フォウ・バルトファルト。ホルファート王国で子爵位を賜った成り上がり者だ」

『ホルファート王国……。検索の結果、該当する国家のデータは確認できません』

「マジか、けっこう歴史のある国だと思っていたんだけどな。お前の名前は?」

『私に名前は存在しません。私の命名及び改名の権限はマスターとして登録された者に限定されています』

 

 確かルクシオンって名付けたのは別世界の俺だったか。

 今のこいつは単なる名無し、俺はマスターでもないただの人間だ。

 

『質問します。現在は新暦何年でしょうか?』

「王国暦じゃないのか?悪いが新暦なんて聞いた事が無い」

 

 地理も暦も全部違う。

 世界に対する認識が違うのに言葉だけは通じているのは奇跡だな。

 

「状況判断が終わったんなら話し合いがしたい」

『交渉は無意味です。現時点に於ける私の最優先事項は侵入者の排除及び抹殺です。機密保持の為に貴方を排除します』

「機密保持とか言ってもこの船の主は居ないんだろう?旧人類の連中も何処に居るのか分からないし」

『……再度、発言を要求します。現時点に於ける貴方が知りえた旧人類に関する情報の開示を要求します』

 

 よし、話に食いついてくれたか。

 夢の中で会ったルクシオンに教わった情報は本当みたいだな。

 とは言ってもルクシオンが教えてくれた情報は俺の頭じゃ半分も理解できなかったし、この世界がどこまでルクシオンが居た世界と同じかも不明だ。

 上手く誤魔化しつつどうにか交渉にこぎ着けなきゃ一瞬で殺されかねない。

 何だよ、この無理難題。

 

「……むか~しむかしの話だ、この世界には機械を作って社会を築いてた連中と魔法を操って戦いに明け暮れた連中がいた。機械を作ってた方が旧人類、魔法を操る方が新人類だ」

『……続けてください』

「旧人類は新人類に押され始めて数を減らした。今この世界に生きてる人間のほとんどは新人類の子孫って事になる」

『…………』

「ここはそんな旧人類が作った施設の一つだ。そっちのデカい飛行船は移民船、この世界で生きていけなくなった旧人類が別の土地に移住させる為に建造された。それで合ってるか?」

『その通りです』

 

 正直、旧人類とか言われても今一つ理解できない。

 ただロストアイテムを作れる凄い技術を持った連中が太古の昔に居たとぼんやり理解してる。

 俺の目的は二つ、ルクシオンに頼まれてこいつの様子見と世界に害を及ぼさないかの確認。

 上手くいけばホルファート王国を侵略から護れる手段に使えるかもしれないと思ったけどこりゃ無理だ。

 どう考えても俺の手に余る。

 だからと言って他の連中に教えてもマズい事になっちまう。

 こんな凄い飛行船を手に入れたらどんな善人も力に酔う、正直オリヴィア様でさえ怪しい。

 王妃様や公爵に教えたら何の気兼ねなく相手を滅ぼしかねない。

 それぐらい力って物は人間を変えちまう。

 

『貴方の持っている情報は概ね間違っていないと判断します』

「そりゃどうも」

『ですが疑問が残ります。旧人類に関する情報を入手しているにしては貴方の言動から知性を感じません』

「バカに見えて悪かったな!」

『故に疑問が生じます。現状に於いてこの惑星に旧人類の正確な情報を所持している者は非情に限られていると予測されます。その状況下で明らかに知能指数が低い新人類が当施設への侵入を果たした。これは裏で行動を示唆する者が存在している考えてよいでしょう』

 

 鋭い、確かに俺の知ってる情報の殆どはルクシオンから教わった物だ。

 自力で得た旧人類の情報なんて精々が発掘されたロストアイテムの図鑑を眺めた程度。

 とてもじゃないがこの場所に辿り着くなんて不可能に決まってる。

 

『故に貴方へ質問します、その情報をどのようにして入手しましたか?』

「…………」

『速やかな回答を要求します。貴方の情報提供者は何者ですか?』

「……まえだよ」

『繰り返します。情報提供者の開示を要求します』

「お前だよ!夢に出て来たお前!」

『…………警告。不適当な発言は回答として認められません』

「分かってんよそんなの!でも事実だからしょうがないだろ!」

 

 俺もこの目で確かめるまで現実だと思ってなかったんだぞ!

 だって夢に出て来た怪しい金属球のお告げに従ったら古い遺跡に辿り着いてロストアイテムを発見しましたとかどれだけ都合が良い物語だよ!

 何で本当の事を言って俺がこんな赤っ恥をかかなきゃいけないんだ!

 馬鹿か俺!?馬鹿だな!!

 

『記録領域を検索しましたが私と貴方に面識はありません。完全に初対面です。時間感覚の失認、若しくは幻覚の初期症状だと推察します。速やかな医師の受診を推奨します』

「歯に衣着せろ!」

 

 こっちは戦場の後遺症で今でも悪夢を見たり幻覚に悩んだ事だってあるんだぞ!

 何でここまで罵られなきゃいけないんだ。

 

『ですが貴方の取得情報については一考の余地があると判断します。よって警戒レベルを変更します』

「そりゃどうも」

『故に対象に関する行動を排除から捕獲に変更します』

 

 大型が呟いた言葉を理解した次の瞬間、俺の体ぐらいありそうな巨大な掌が目の前に迫ってきた。

 思考よりも早く体が動く、懐の拳銃を抜いて数回引き金を引く。

 

カァ! カッ! カァン!

 

 軽い金属音が同時に火花が散った。

 大型には傷一つ付いていない、今まで倒した人型に比べて力も装甲も桁が違う。

 普通の攻撃じゃ損傷はもちろん怯ませる事すら出来ない。

 咄嗟に地面を転がって回避行動、数秒前まで俺が立っていた場所を巨大な腕が通り過ぎる。

 転がり続けて大型の手が届かない所まで退避しつつライフルに銃弾を装塡、同時に大型拳銃を懐から取り出す。

 

「何のつもりだ、デカブツ?俺は戦うつもりは無いって言ってるだろ」

『はい、私も戦闘の意思はありません』

「だったらどうしてこんな真似すんだよ」

『私の最優先事項は新人類の排除です。但し現時点に於いては情報の取得を優先すべきと判断しました』

「じゃあ、何で!?」

『情報収集の為に新人類である貴方の捕獲を優先、無力化した後に可能な限り情報を引き出します。より多くの情報取得の為に尋問・自白剤の投与・拷問等の行為は許可されると判断。まずは逃亡を画策出来ない程度に無力化します』

「捕虜や民間人の拷問は戦時国際法違反だぞ!」

『それは貴方達新人類が制定した法律です。旧人類の創造物である私は適用外かと』

「ふざけんじゃねえ!」

 

 両手で大型拳銃を構え正確に狙い撃つ。

 

ドォン!! ゴォン!! ダァァン!! バァッン!!

 

 小型拳銃と違う、腹にズシンっと響くような銃声。

 弾丸は下半身、上半身、腕、頭部の順に命中。

 人型なら装甲を貫ける威力だが大型相手じゃ装甲の表面を少しだけ凹ませる程度だ。

 

『抵抗しないでください。正確な情報入手の為に速やかな降伏をお勧めします』

「何一つ安心できる言葉が無いだろうが!」

『そんな事はありません。情報提供をしている間は貴方の生命は保障します』

「俺を甚振って楽しいのかテメェ!?」

『これは失礼、こうして人類と会話をするのも久しぶりなのです。相手が憎い新人類でも興奮するのは仕方ない事かと』

「このポンコツがァ!!」

 

パンッ! パァン!

 

 ライフル銃を大型に向けて撃ち込むが効果は薄い。

 ただ大型は顔を狙われると防ごうとして動きが若干鈍る。

 

パァン! パァン!

 

 ライフルを顔に向けて連射、大型は片手で顔を庇いながら腕を振り回す。

 

ドオォォン!!

 

 やたらめったらに振り下ろされた巨大な腕が床を叩いた瞬間、地響きと共に拳の形で陥没した。

 あんな一撃を喰らったら人間なんてひとたまりもない。

 恐怖で背筋に寒気を感じながらもライフルに弾を装填し続ける。

 度重なる訓練と実戦経験で俺は手元を見なくても弾丸の装填が可能だ。

 弾込めが終わったと同時に大型へ狙いをつける。

 

『新人類は学習能力が著しく低いのですか?その銃弾では当機にダメージを与えられないと実証したはずです』

「なら喰らって確かめろ!」

 

 パァァン!

 

 バァチバチ!

 

 狙うのは頭じゃなくて面積が大きい胴体、着弾と同時に雷光が暗い格納庫を照らす。

 銃弾は効かないと思った大型は防御もせず魔弾をまともに喰らった、銃弾は防げても電撃は防げないだろう。

 電撃で加熱された金属特有の匂いが鼻につく、怯んだの一瞬だけで大型は動きを再開する。

 やっぱりデカいだけあって魔弾の効果が薄いらしい。

 人型は上手く命中すれば一発で仕留められたのに大型を仕留めきるには威力が足りない。

 

パァン! パァァン! パァン!

 

バァチッ! バチバチッ! バチチッ!

 

 雷の魔弾を連射しつつ距離を取る。

 いったい何発の魔弾を当てれば大型を仕留めきれる?

 十発?ニ十発?まさか百発か?

 流石にそれだけの魔弾は用意していない。

 大型の動きが鈍っている間に背嚢のポケットに仕舞い込んでいた筒状の物体を取り出す。

 安全装置のピンを引き抜いて放物線を描くように上へ投げる。

 ゆっくりと上がったそれは大型に当たって軽く音を立てた。

 

バアァチッ!! バアッチィ!!

 

 目を灼くような閃光と同時に魔弾と比較にならないぐらい大きな雷鳴が轟く。

 魔法を宿した弾丸が魔弾ならぬ爆弾に魔法を宿した魔爆弾。

 威力は魔弾の数倍から数十倍、人間相手なら上手く当てられたら一部隊が壊滅するような極悪な性能だ。

 噴煙と砂塵が舞う中でライフルを構えつつ様子を窺う。

 煙の中でゆっくり動く影を確認、デカくて歪なそれは人間の上半身にも見える。

 

「勘弁してくれよ」

 

 魔爆弾を食らっても平気なのかよ、どれだけ頑丈なんだ。

 ここは一時撤退だ、闇雲に戦ってもこいつを仕留めきれない。

 噴煙で視界を遮られ大型の動きが鈍い内に距離を取らなきゃ。

 人型に背を向けて全速力で駆け出す、もしも攻撃されても背負った背嚢が攻撃を防いでくれる。

 肉食獣から逃げる小動物のように俺は恥も外聞もなく逃げ出した。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 走れ、走れ、走れ!

 兵士に必要な能力は走力と跳躍力と持久力、生き残るのに必要な資質は勤勉さと危険を感じ取れる嗅覚だ。

 大型の姿が見えなくなった所で壊れた飛行船の物陰に身を潜めた。

 ここが広い格納庫で良かった。

 もしも船内で戦ってたら逃げ場が無くてとっくの昔に捕まってたはずだ。

 物音を立てないように背嚢を落ろして中身を確認、使えそうな物が無いか必死に頭を回転させる。

 帰りてぇ、来るんじゃなかった。

 そんな後悔は今必要ない、頭の隅に推しこめて今は目の前の戦いに集中する。

 

 このまま逃げ切れないか?

 格納庫の扉は閉められた、爆破して開くのは難しいし気付かれる可能性が高い。

 

 戦って勝てるのか?

 雷の魔弾や魔爆弾は効果があった、倒すのは不可能じゃない。

 

 だけど情報が不十分だ。

 不意討ちに近い形で仕留められなかったのが悔やまれるが、あのまま攻撃していても倒しきれてた保証は無かった。

 あんな技術水準が違い過ぎる飛行船を作れる奴らが拵えた兵器だ。

 俺の知らない武装があっても不思議じゃない。

 幸運なのはあいつの目的が俺の殺害じゃなくて捕獲という事。

 相手を殺さないように戦うのはよっぽどの技量差が無いと無理だ。

 あの大型にとっちゃ俺なんて虫ケラだ。

 だけど昆虫採集を素手で殺さないようにするのはけっこうな腕が必要になる。

 逆にこっちは手加減をする必要は無い、卑怯な戦法を使っても誰に咎められる訳じゃない。

 

 あの大型を鎧と想定して考えろ、どうやったら倒せるか全力を尽くせ。

 鎧は確かに今じゃ戦場の主流になってる。

 多くの戦場が地上戦じゃなくて空中戦が主流になって飛行が必須になったからだ。

 

 じゃあ鎧は最強無敵の兵器なのか?

 違う。

 確かに空を飛んで遠距離から攻撃し続ければ歩兵は手も足も出ない。

 だけど地上に降りたら? 弾切れを起こさせて接近戦に持ち込んだら?

 勝機は完全な無じゃない。

 まだ鎧の製造技術が未熟だった時代、鎧の主戦場が地上戦だった時代。

 教本で語られるようになった昔の戦場で歩兵が鎧を倒した例は幾らでも実在してる。

 見た限りあいつは空を飛ばないし遠距離兵武器も持っていない。

 

 いや、油断は禁物か。

 あいつの下半身は二脚じゃくて人型と同じように浮いてる。

 本当は飛べるけど俺を捕獲する為に地上にいるだけ。

 遠距離武器を装備してるけどまだ使ってないだけかもしれない。

 戦闘に勝つ秘訣は『相手を侮らない』『正確な情報を手に入れる』だ。

 

 背嚢から必要な物だけを取り出して服のポケットや装備運搬具に収納する。

 装備運搬具を装着して銃、弾丸、弾倉、爆弾、鋼線の位置を確認してゆっくり呼吸を整える。

 水や食料、その他諸々はここに置いておく。

 戻るのは闘いが決着した後だ。

 音を立てないようにゆっくり移動しつつ大型の位置を確認。

 浮いてるせいで足音を立てないのはズルいぞ。

 

 老朽化した飛行船の陰に隠れながら大型の動きをじっと観察する。

 大型は飛行船の間や通路を通りながら時折頭を左右に動かす、その時に顔に光が灯る。

 どうやら光ってる部分が目だ、そして俺の捜査方法は視覚による物と考えて良いだろう。

 会話が出来るから聴覚もある、嗅覚と味覚と触覚があるかは分からない。

 雷の魔弾と魔爆弾が効果的だけど全部使いきって倒せるか心許ないので実験代わりに炎の魔弾をライフルに装填する。

 大型が俺の隠れた位置の真横を通り過ぎて数十秒後、角を曲がる瞬間に物陰から飛び出す。

 がら空きになってる背中に狙いを定め引き金を引く。

 

タァン! ダァァン!!

 

 着弾した後に紅い炎が吹き上がる。

 炎の魔弾の威力は通常爆弾に勝るとも劣らない。

 それでも直撃した大型を少しだけ揺さぶっただけ。

 人型なら装甲を焼く爆炎も内部の機械を破壊する衝撃も大型の分厚い装甲に阻まれる。

 だが効果が無い訳じゃない、こつこつ当てていけば損傷は与えられはずだ。

 体勢を立て直し振り返った大型に怯む事無く安全装置を解除した魔爆弾を思いっきり振りかぶって投げる。

 

ドオオォォォン!!

 

 命中した炎の魔爆弾が爆炎を轟音に体が一瞬身が竦む。

 対人用としては威力が高過ぎる炎の魔爆弾は歩兵が鎧を攻撃する際の有効な攻撃手段だ。

 人間の集団に投げ込めばたった数秒で生きてた人間を肉片と骨片に変える。

 そんな非人道的な兵器が直撃しても大型は健在。

 マジでどんな装甲だよ、いくら何でも硬すぎだろ。

 

 だが攻撃が効いてない訳じゃない、今は炎の魔弾と魔爆弾で大型の装甲を削り落とす!

 そうして引き金を引いて数発の魔弾が大型に向かった瞬間、目の前が空間が歪む。

 俺と大型の間にある空間が光を放って幾何学な模様が現れた。

 

ブォン!

 

カァァン カァン

 

 金属のぶつかる軽い音がした後に地面に銃弾が転がる。

 不発弾か!?

 いや、魔法を付与された魔弾が不発になるのは極めて稀だ。

 それが連続で起きるなんて天文学的な確率。

 考えられるのは撃った後に起こった空間の歪みと発光。

 大型が何かしたんだ。

 何かしたから魔弾が不発に終わったと考えるのが自然だろう。

 

『魔法による攻撃が危険レベルに到達しました。これより魔法障壁を発動します』

「なぁッ…!?」

 

 襲いかかって来るデカい二本の腕を必死に回避しながら魔弾を撃つ。

 やっぱり不発。

 こいつは機械なのに魔法を使えるのか?

 いや、魔法障壁は素質がある貴族なら初等教育で習う基礎魔法の一つだ。

 魔法としてそれほどの修得難易度じゃない。

 

「旧人類は魔法が使えないと思ってたぞ!」

『魔法ではありません。魔法その物は現段階に於いて解析できませんが貴方の攻撃に使われている魔法を分析し発動を阻害しているだけです。その為に何度も攻撃を受け、当機に少なからぬ損傷が発生しましたが』

「あぁそうかい!ご説明ありがとう!」

 

 安全装置を外した魔爆弾を力任せ投げつける。

 また魔法障壁が展開されて不発に終わった魔爆弾は大型の胴体にぶつかって床を転がる。

 炎属性は効かない、なら雷属性ならどうだ?

 ライフルに雷の魔弾を装填し撃つ、同時に雷の魔爆弾も投擲。

 やっぱり魔弾も魔爆弾も魔法障壁にぶつかって不発に終わった。

 

「デカくて強くて硬くて魔法が効かない!?反則過ぎだろ!!少しは手加減しようと思わないのか!?」

『申し訳ありません。ですが、わざわざ貴方と同じ条件で戦う必要が私には存在しませんので』

「この卑怯者がァ!!」

『ありがとうございます』

「嫌味かてめぇ!?」

『戦いで卑怯とは褒め言葉である。そう学習していますが、違うのですか?』

「自分がやるのと相手にやられるんじゃ違うんだよ!!」

 

 マジでムカつくなこいつ!

 絶対に泣かしてやるから覚悟しろ!

 回避、回避、回避、その合間に攻撃。

 猫から逃げ回る鼠みたいに地べたを転げまわりながらなけなしの攻撃を続ける。

 高価な魔弾と魔爆弾が不発に終わって大型の鎧にぶつかって虚しい金属音を上げる。

 俺の頭上を大型の左腕が音を立てながら通り過ぎる、体勢が崩れたまま撃った魔弾は大型から外れて床に当たった。

 

ドオォォン!!

 

 発動した?

 突然起きた爆発に大型の体が揺れる。

 何だ?何が起きた?必死に考えろ。

 今までの出来事を思い返しながらライフルに雷の魔弾を二発装填。

 体勢を整えつつ射撃体勢に移り二連射。

 狙いは大型の胴体、そして少し離れた床だ。

 

ブォン! 

 

カァァン

 

 障壁に阻まれた魔弾が大型の体に当たって落ちる。

 そっちは囮、次が本命だ。

 

バチッバチッ!

 

 大型から少し離れた床に当たった魔弾が放電を起こし大型の体表にぶつかった。

 そうか、大型の魔法障壁は自分の体の周りだけなんだ。

 少し離れた場所には展開できない。

 そして魔弾や魔爆弾が起こした爆風や電気まで防げない。

 たぶん魔法の発動を止める障壁で魔法を通さない障壁の二重構造だ。

 次に第二実験、まずは炎の魔弾を装填し次は通常弾を装填。

 これ見よがしに頭部を狙って二連射すると大型は頭部を腕で防ぐ。

 

カァン カァァン!

 

 最初の魔弾は発動せず威力が減衰していた、だけど通常弾の威力はそのまま。

 通常弾の攻撃がうっすら大型の腕に傷をつけてる、ライフルの通常弾による攻撃は全く効かない訳じゃない。

 最期の実験だ、懐から炎の魔弾を数発取り出す。

 高価で貴重な魔弾だ、勿体ないけど必要な出費と割り切って装填して大型の攻撃に備える。

 迫る大型の攻撃を右に回避、同時に射撃。

 魔法障壁に阻まれて魔弾は発動せず床に落ちる。

 そのまま速度を落とさずに右に向かう、大型の顔に灯る光が俺を見ている。

 射撃、魔法障壁が展開される。

 そのまま速度を落とさず右に走る、大型はその巨体が仇になって俺の動きに追いつけない。

 ぐるりと大型の周りを一周したして元の位置に戻った時、ちょうど目の前に巨大な金属で出来た背中が晒されてる。

 躊躇う事無く引き金を引くと魔弾が放たれる。

 

ボオォォォン!!

 

 爆発音が格納庫に木霊して大型がよろける。

 大型が体勢を整える間に懐から爆弾を取り出して深呼吸。

 三つの実験で大型の魔法障壁の性質がある程度把握できた。

 仮説に過ぎないし奥の手を隠しているかもしれないが残りの弾や爆弾の量を考えたらこれ以上粘っても勝機を逃す。

 

 その一、魔法障壁を体に極近い距離でしか展開できない。

 そのニ、魔法障壁を展開できる位置は視認できる範囲に限られる。

 その三、魔法障壁が阻めるのは魔法と魔法で威力を増強させた物のみ。

 こんな所だろうか?

 正直穴だらけの推察だけど戦場で万全な情報を得られて作戦を立てられる方が稀だ。

 何時だって現場の兵士はその場にある情報と武器で戦わなきゃいけない。

 

『気は済みましたか?』

 

 大型が俺に向き直ってゆっくり迫る。

 巨体のあちこちが焦げたり凹んだりして最初に見た時よりも随分と薄汚れてる。

 俺に対する言葉が苛立たしげに聞こえるのは気のせいだろうか?

 

『無駄な手間を掛けたくありません。速やかな降伏を推奨します』

「それは敗北宣言と受け取っていいのか?」

『……意味が分かりません。どうしてそのような意味として受け取れるのでしょうか?』

「だって『僕ちゃん勝てないから降伏してくだちゃ~い』って意味だろ。ちっこくて弱い人間一人捕まえられないから負けを認めて欲しい。そう聞こえたんだがな」

『悪意ある受け取り方です。私は情報収集の為に貴方の身柄を安全に確保しようとしています。貴方の死亡を考慮しているから私は強硬的手段に出ないだけです』

「その割には随分と時間がかかっているようだけど」

『貴方が無駄な抵抗をしているからに過ぎません。疲労や弾薬の枯渇を鑑みれば無意味な行動を継続している貴方こそ愚かの極みかと』

「まぁいいや。別に会話したい訳じゃないし」

 

 安全装置を抜いた爆弾を軽く投げる。

 それこそ球遊びで子供に優しく放るぐらいの自然さだ。

 俺の突然の行動に大型は戸惑ったのか動きがぎこちない。

 大型が咄嗟に魔法障壁を張った時、俺は地面に倒れ目を閉じて耳を塞いでた。

 

ドオオオォォォォォッッン!!!!

 

 格納庫を揺るがす爆発音と熱風が背中の上を通り過ぎる。

 揺れが終わった瞬間に立ち上がって大型の状態確認。

 ……動いてる、あれだけの爆発が直撃したのにまだ動けるのかよ!?

 

『た、ただの物理攻撃?新人類は魔法に依らない戦闘手段を厭う筈では?』

「勝手な思い込みで俺を侮るからこうなるんだよバ~カバ~カ!!」

 

 わざとらしいぐらい思いっきり挑発してやる!

 そもそも喧嘩売って来たのお前だからな!

 

「新人類の殲滅とか言っちゃってるけどさぁ、俺一人にこの体たらくでどうやって人類抹殺なん出来んだか。出来もしない事をほざいてる引き籠りは大人しく部屋に引き籠ってろ!」

『貴、貴様……!』

「悔しかったら捕まえてみろってんだ!」

 

 懐からまた筒状の物体を取り出して大型に投げつける。

 また爆弾と考えた大型は調子が戻らないまま身を捻って防御態勢をとった。

 筒状の物体が大型に当たって床に落ちる。

 五秒、十秒、時間が静かに過ぎ去る。

 

『?』

 

 色とりどりの煙が筒状の物体から大量に排出されて大型の周りを包み込む。

 投げたのは爆弾じゃなくて発煙弾だ。

 煙に含まれた非致死性の毒で涙や鼻水やくしゃみが止まらなく代物だけど機械には通じなさそうだ

 しばらくの時間稼ぎさえ出来れば十分だ。

 

「爆弾と発煙弾の区別もつかないのか間抜け。そんなんで俺を捕まえるとかいい度胸してるな」

『……くぁwせdrftgyふじこ!!』

「怒ったか?じゃあ俺は逃げるから」

『待ちなさい新人類!!』

「俺の名前はリオン・フォウ・バルトファルトだ。お前らの勝手な定義で一括りにすんな」

 

 今のやり方じゃあいつに勝てない。

 あいつが立ち直る前に罠を仕掛けて態勢を整える。

 これで交渉が上手くいくとは限らない、下手すりゃ王家か公爵家に協力してもらってあいつを討伐しないと世界を滅ぼされる。

 何で俺はいっつも体を張る羽目になるんだろう?

 妻と子供達を愛する善良で平凡な男なのに厄介事が向こうから舞い込んでくる。

 

「こんな世界どうなろうと知るか!さっさと滅んじまえ!」

 

 一時期そんな事を思ってたら本当に世界を滅ぼしそうな存在がこの世界に居て、説得は俺の役目みたいになってる。

 どうして人は争いを止められないんでしょうか?

 今度本気で聖女様に相談した方が良いかもしれない。

 泣きたくなる気持ちを懸命に堪えて格納庫を走り続けた。

 後ろから怪物みたいな咆哮が聞こえてくる。

 やっぱこの世界に俺が逃げ込める場所なんて無いと神を呪いたくなった。




リオンvsルクシオン戦前半です。
戦闘はweb版・小説版・コミック版・アニメ版の描写を参考にしています。
魔法障壁に対するリオンの考察はコミック版とアニメ版を参考に、リオンがルクシオン警備ロボと渡り合ってるのは戦闘経験値の差とお考え下さい。
三嶋与夢先生のモブせか完結記念SS(https://ncode.syosetu.com/n3191eh/177/)を拝読して今作後日談に若干の変更しようと考えています。
原作リオンが若死になので今作は長寿する予定です。

追記:依頼主様のリクエストにより悦様にイラストを描いていただきました、ありがとうございます。

悦様 https://www.pixiv.net/artworks/117956040(成人向け注意

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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