婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

80 / 174
第79章 Duel of the Hero

『機械になりたい』

 

 そんな事ばかり考えた時期があった。

 砲弾の雨に晒される戦場。

 鎧という絶対的強者に対人用装備で対抗しろという無茶な命令。

 俺が撃った銃弾に貫かれ恨み言を吐き続けながら息を引き取る兵士。

 すぐ近くで起きた爆発で体を襲う激痛。

 

 良心や感情が無けりゃこんな苦しみは味わわなくて済む。

 罪悪感も痛みも不要だ、淡々と相手を殺せる機械になりたい。

 戦場で生き残れるのは悪党か人殺しだけだ。

 善人や常識人ほど早く死ぬ。

 非情に徹し相手の隙を窺い、感情を揺らさず的確に相手を殺せる。

 明日への不安を持たず、敵の排除に専念する殺戮兵器。

 それが良い兵士の条件だ。

 

 だから機械になりたかった。

 それが一時凌ぎの現実逃避でしかないのは分かってる。

 今日は敵を殺して生き延びた、明日は俺が殺されるかもしれない。

 一時間後の未来さえ見通せない無力な我が身を嘆いて一時の空想に逃げ込みたいなんて誰にもあるだろ。

 だけど、どんなに心を無にしようと試みても完全に消し去るなんて無理だ。

 そもそも不測の事態ばっかな戦場で異変を感じ取れなきゃ俺みたいな凡人はすぐ死ぬ。

 一人で出来る事には限界があるし、ちょっとした油断や異変が死を招く。

 自分が生き残りたいから困ってる奴を助けて、その代わり俺が困ってる時は助けてもらう。

 何度もそんな事を繰り返してたら十代半ばのガキがいつの間にか部隊の中心人物になってた。

 情けは人の為ならずとは先人達の御言葉は大層教訓になりますね。

 

 誰かに助けてもらわないとまともに生活できないのが人間だ。

 俺だって山奥で狩りと農作業して孤独に生きていくならそれで良い、けど妻子を持ったらそんな生き方は出来ない。

 人間は群れで暮らす生き物だ、孤独に生きるのに適していないのかもな。

 そんな人間が作った機械も同じ、扱ってくれる人間が居なきゃ道具の意味を果たせない。

 第一、夢で会ったルクシオンはやたらと感情豊かだった。

 俺を捕まえようとして躍起になっているあいつも明らかに怒ったり他人を見下したりしてる。

 機械に感情が無いなんて人間の勝手な思い込みなのかもしれない。

 そして知能がある、感情があるという事実が重要だ。

 知能があるから思考する、感情があるから判断を誤る。

 単純な構造の武器すら誤作動を起こすんだ、複雑な機械になればなるほど調整の難易度が増す。

 完全無欠な機械はありえない、全ての機械は不完全な人間が作り出したんだから。

 付け入る隙は必ず何処かに存在する。

 付き合ってもらうぞポンコツ。

 ここからは俺とお前の命の獲り合いだ。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 鋼線の張り具合を入念に確認する。

 取り合えず問題は無さそうだけど油断は禁物だ。

 手持ちの品で何とかしなきゃいけないのが凡夫の悲しさだ。

 他人から見たら激戦地を生き延び貴族になって綺麗な嫁さんを貰った成功者に見えるんだろう。

 実際は心身共にボロボロになって欲しくもない身分にされ釣り合いが取れないお嬢様と結婚したという何一つままならない人生だぞ。

 これでアンジェが嫌な女だったら目も当てられない。

 俺は自分が出来る事しかやりたくないのに何時だって許容量を超えた問題ばっか押し付けられる。

 ファンオース公国軍の侵攻を食い止めろとか、与えてやった未開拓の浮島を統治しろとか、ホルファート王国とレッドグレイブ公爵家を仲裁しろとか。

 ふざけんな馬鹿野郎、俺を何だと思ってやがる。

 

 今回の件だってそうだ。

 遺跡で眠っているこいつに挨拶して帰る簡単なお仕事のはずなのに気が付けば鎧ぐらいデカくて恐ろしい機械人形に追い回されてる。

 もうやだ、家に帰ってふて寝したい。

 だけど家に帰るにはあいつを倒さなきゃ帰れないという無理難題。

 そんな訳で単身で大型を仕留めるという超高難易度任務を逃げ回りつつ準備中だ。

 王様も神様も大嫌いだ、夢で会ったルクシオンがまた出て来たら文句言ってやる。

 

 心の中でそんな悪態を吐きながら不思議と気分は落ち着いている。

 大型の目的が俺の殺傷じゃなくて捕獲というのもある。

 けど一番の理由はあいつ自身の動きから分かる戦闘経験の低さだ。

 攻撃手段は拳による打撃、それも力任せな一撃と来ている。

 狙いが雑で動きは直線的だから当たればヤバいが軌道を予測して回避するのはそれほど難しくない。

 悪夢に出て来たルクシオンは本体がロストアイテムの船と言っていた。

 ホルファート王国軍を一隻で壊滅させられる戦艦だ。

 あいつからすれば玩具みたいな敵艦が迫っても雑な艦砲射撃で事足りるだろう。

 

 おまけに格納庫に来るまでこの浮島に辿り着いた冒険者らしき死体を何人も見たけど、格納庫に死体は一つも無かった。

 発言から考えても格納庫まで来れた冒険者は無く、大型の戦闘経験は俺が初めてと考えられる。

 飛行船の操舵士をいきなり鎧に乗せて戦わせて上手くいかないはずだ。

 こっちは戦争中には対人装備や大砲で鎧を食い止め、貴族に出世してからは鎧同士の戦いを経験してる。

 更に誘拐事件でホルファート王国最強の英雄と共闘し、量産型同士とはいえユリウス殿下と一対一の決闘までやった。

 あの大型はファンオース公国軍の鎧よりも強い?

 空賊や騎士崩れが駆る鎧を容易く沈めるグレッグやジルクの鎧よりも?

 ユリウス殿下が操縦する量産型より難敵か?

 否だ、全くの否だ。

 

 もちろん素手で倒すのは不可能だ。

 何回も死線を越えて武器を持ち込んだ今の俺にとっちゃ手強い相手なのは確か。

 だけど用意周到に策を講じて罠に誘い込んで倒せない相手じゃない。

 そもそも戦闘力の土台が違うんだ、正々堂々と出し抜かせてもらおう。

 

 罠の最終確認を終えたら荷物の再確認。

 小型拳銃、通常弾の弾倉。

 大型拳銃、通常弾の弾倉、魔弾の弾倉。

 ライフル、通常弾の弾倉、炎の魔弾の弾倉、雷の魔弾の弾倉。

 通常爆弾、炎の魔爆弾、雷の魔爆弾、発煙弾。

 あとは少しの鋼線とテープに遠眼鏡ぐらい。

 不安を誤魔化すように入念に確認して背嚢に詰め込む。

 どれだけ情報を掻き集めて入念に準備しても不測の事態は必ず起こる。

 恐怖を紛らわせる為に『あの大型は喧嘩の素人だ』とナメつつ、『未知の武装があるかもしれない』と警戒は怠らない。

 人の心は複雑怪奇だ、正気じゃ戦争は出来ません。

 ここに戻るのは作戦が上手く成功した後だ、上手くいかなきゃ俺はあいつに標本にされちまう。

 目を閉じて心を落ち着けると家族の顔が次々浮んでは消えていった。

 心の炉に護りたい人への想いをくべて闘志に変える。

 息を吸って吐く、息を吸って吐く。

 

「行くぞ」

 

 誰かに言い聞かせる為じゃない、俺自身の心を鼓舞して立ち上がる。

 為すべき事は全てやった、後は別世界の俺が本当にあの怪物を倒したって話を信じよう。

 此処は俺とあいつ以外に誰も居ない闘技場。

 闘うのは二人、勝者は一人だ。

 

 

 朽ち果てた飛行船によじ登り目視で大型の場所を探す。

 どんな仕組みか分からないが大型は宙に浮いて移動する、

 そのせいで足音がしないから耳で位置を察知するのがとても難しい。

 近付けば体のあちこちから金属の焦げた匂いが漂ってるんだろうがそこまで近づいたらあいつの射程圏内に入る。

 素早く逃げ回れば当たらないだろうが可能性を無くす事は不可能。

 あいつの拳で一発殴られたらその時点で決着だ、相手の攻撃が当たらずこっちの攻撃が当たる場所を維持するのが勝負の鉄則だ。

 格納庫の凡その地図を頭に叩き込みながら大型の位置を確認。

 進路を推測しながら足音を出さないように先回りで近付く。

 ライフルを構え飛行船と飛行船の間にある物陰に隠れていると曲がり角から大型が現れ俺の真横を通り過ぎる。

 

 十秒、二十秒、三十秒。

 大型が次の曲がり角に到達する直前に意を決して物陰から姿を出す。

 発煙弾を足元に転がしながらライフルを大型に向けて引き金を二度引く。

 

タァァン! カッ タァン!

 

 最初の一発は当たったけどもう一発は外れた。

 俺の狙撃能力はそれほど高くない、止まってる的ならともかく動いてる物体に一発でも当てられただけ上出来だ。

 攻撃を受けた大型が俺に向かって来るが既に通路は発煙弾から出た煙で充満してる。

 わざと足音を立てるように走り出し近くの隙間に身を隠した。

 大型はデカい反面小回りが利かない、さらに施設を壊さないよう注意して移動するせいで移動が鈍っている。

 勘づかれないよう必死に呼吸を整えて大型が通り過ぎるのを待つ。

 

『抵抗は無意味です、早急な降伏をお勧めします』

 

 通路から少し離れた場所まで来た大型がさっきの会話以上に大きな声で俺の降伏を促している。

 周囲には遮蔽物が何も無い、狙撃するにはうってつけの場所だ。

 それが誘いなのは明らかだった。

 弾丸が一発当たれば死ぬ人間と違い大型を倒すには魔弾や魔爆弾を連続で叩き込む必要がある。

 魔弾の狙撃が当たっても十分に耐え凌げる、そして攻撃の方向と威力から俺の位置を割り出し反撃するつもりなのが分かった。

 

 あいつは機械だ、その気になれば何十日も不眠不休で待ち続けられるだろう。

 逆に俺は水を飲み干せば三日、食料を食い尽くしたら五日で死ぬ。

 悲しいまでの人間と機械の性能差だ、持久戦に持ち込まれたら俺に勝ち目は無い。

 確かに悪くない一手だろう、被弾や損耗を覚悟して敵を誘い出す戦法は俺の戦時中にはよくやった。

 ただ、それはあいつが周囲に気を使わない場合ならの話だ。

 大型に背を向けて歩き始め、大型から遠く離れた場所で朽ち果てた飛行船の残骸に近付く。

 炎の魔爆弾を取り出して安全装置を外し振りかぶって投げる。

 魔爆弾が船体の亀裂に入って数秒後、強烈な破裂音が辺り一帯を揺らした。

 

ドオオォォォン!!

 

 激しい揺れと同時に爆発で巻き上がった船体の破片が降り注ぐ。

 少しやり過ぎたか?

 そんな考えが一瞬だけ頭を過ぎったけど無理やり引っ込める。

 これは二人だけの戦争だ、勝つ為なら敵兵の死体を辱めるぐらい平気でやらなきゃ死ぬのはこっちだ。

 あいつは手加減して勝てる相手じゃない、相手が最も嫌がる事を躊躇なくやれるのが俺が外道騎士と謗られる原因だろう。

 ライフルに雷の魔弾を装填し物陰に待機、多少雑に動き回っても爆発の影響で俺の気配を察するのは難しいはずだ。

 しばらく経った後に大型が爆破した飛行船の側に到着した。

 

『…………』

 

 大型は何も言わずに爆破された飛行船をジッと見つめていた。

 その後ろ姿は怒っているようにも悲しんでいるようにも見える。

 ほんのちょっぴり罪悪感を抱いたが周囲を警戒せず突っ立てる敵を見逃すほど俺は優しくないんだよ。

 

タァァン! ビィリビッ!

 

 突然の出来事に大型の魔法障壁は間に合わず魔弾が命中したと同時に紫色の雷が空間を灼いた。

 大型が痺れている間に懐から大型拳銃を抜いて頭部に狙い引き金を何回も引き続ける。

 

ガァァン!! ダァッン!! バァンッ!!

 

 通常弾は魔法障壁の影響が少ない、大型は虫を払うように緩慢な動きで頭部を守る。

 やっぱり大型銃ともなれば急所への攻撃を完全に防ぎきれないらしい。

 大型は巨大な腕で頭部を必死に守りながら腕の隙間から俺の姿を観察している。

 見られている、その事実がやけに腹立たしかった。

 

『止めなさい、貴方は自分が何をしているか理解しているのですか?』

「分かった上でやってんだ、今更止めんじゃねえよ」

『貴方が破壊した船は旧人類が開発した物です。現時点で推察される新人類の鋳造技術では再現不可能な物と推察します。貴方の行為は徒に施設を破壊し苦痛を長引かせるだけであり、即刻停止を求めます』

「やなこった」

 

 安全装置を解除した通常爆弾を大型の足元に放ってすぐ逃げる。

 大型が魔法障壁を展開するが、魔法障壁は魔弾や魔爆弾を防げても通常の弾丸や爆弾は完全に威力を殺せない。

 かと言ってその場で防御を固めても発煙弾だったら俺を取り逃がす。

 選択肢が増えると思考が煩雑になり最適解を下せなくなる、俺も戦争中にさんざん苦しんだ。

 後ろから爆発音が響くが振り返らずに走り続ける。

 遮蔽物や隠れる場所が多い格納庫で本当に良かった。

 これが飛行船の内部なら逃げ場は少ないし爆弾の衝撃が俺まで襲うからな。

 しばらくの間はこうして少しずつ大型に攻撃を仕掛ける。

 目的は行動の刷り込みと誘導、あいつを罠に嵌めるまでの下準備だ。

 だからと言って攻撃の手は抜かない。

 少しでも大型に損傷を与えたいし罠を気付かせない為にも必死さが必要になる。

 

 

 身を潜めてライフルを構える。

 照星を大型に合わせてゆっくり引き金を絞る度に感覚が研ぎ澄まされていくのが自分でも分かった。

 

タァァァン  カァン

 

 やっぱり遠距離から通常弾での狙撃は効果が薄いな。

 俺の狙撃は並み程度だから距離が遠ければ遠い程命中率が落ちる。

 魔弾を使えば威力は補えるが弾数に限りがあるから無駄に出来ない。

 大型が俺の狙撃地点に到着する前に移動しないとマズい。

 排莢して地面に転がった空薬莢を回収して移動を開始する。

 通路に出ると目に留まるギリギリの位置に空薬莢を撒く事を忘れない。

 俺が狙撃地点から移動してから数十秒後に大型が正確に到着したのを遠眼鏡で確認。

 

 大型に攻撃を仕掛ける度に大型の動きは滑らかになって狙撃地点の割り出しも正確になっていく。

 罠に嵌める為に行動を誘導してる部分もあるけど、あいつの成長速度は驚異的だ。

 狙撃地点の割り出しが早くなっているのは格納庫の地形と自分の場所を正確に把握して何処から狙撃されるかを推測している証拠だ。

 このまま戦いを続ければ逆に俺が罠に嵌められちまう。

 そうなった時点で俺の敗北が確定する、そろそろ勝負を仕掛ける頃合いだ。

 

 大型の進行方向へ先んじて向かう、開けた場所に向かう一本道の通路だ。

 この通路は大型が通れるギリギリの広さだ、これなら狙う時間は大幅に短縮できる。

 使うのは魔弾と魔爆弾、最低限の残弾を残してありったけをブチ込む。

 

タァァン! タァン!

 

 通路に大型が現れライフルの射程に捉えた瞬間に射撃を開始する。

 

ヴォ…ン ブォンッ

 

 着弾と同時に電撃と炎熱が放たれるはずなのに障壁に当たって不発、銃弾はそのまま床に落ちるか大型の体に弾かれる。

 やっぱ反則だろあの障壁。

 

『どうやら手詰まりのようですね、回避が困難な場所を選び効果の薄い魔法攻撃を続けるのは得策とは言えません』

「黙ってろ!」

 

 排莢と装填を淀みなく行って再射撃するも結果は数十秒前の繰り返し。

 ただ魔法障壁を張っている間は動きが鈍るのか大型は積極的に仕掛けて来ない。

 罠を警戒してるのか、それとも単に俺をナメてるのか。

 

『嘆く事はありません。稚拙な装備と警備用ロボットに劣る身体能力でありながらここまで戦い抜ける貴方の戦闘力は驚嘆に値します。野蛮な新人類でも兵士としてたぐいまれな逸材でしょう』

「褒めてねぇ!それ褒めてねぇからな!!」

『同時に劣化したとはいえ新人類は我々にとって脅威と再確認しました。投降と情報の開示を速やかに求めます』

「好き勝手言いやがって!」

 

 通常弾と魔弾、通常爆弾と魔爆弾を織り交ぜながら少しずつ後退していく。

 あいつには必死の抵抗に見えるんだろうな、実際に手一杯なんだけど。

 なのでちょっと気を逸らさせてもらうぞ、卑怯と思うなら耳を貸さなきゃいいだけだ。

 

「まぁ、確かにお前の言う通りだな。俺は人殺しの技に長けるから貴族になれた。それは否定しようがない事実と認めるよ。ファンオース公国の兵をどれだけ殺したか見当がつかない。ホルファート王国で」

『ファンオース公国……、ホルファート王国……。どちらもデータベースに保存されていません。新人類が樹立したと推察します』

「敵将を討って貴族の仲間入り、敵部隊を壊滅させて出世。敵味方の死体を積み上げて出世する俺は確かに死神だ」

『戦闘しか取り柄が無く同族で殺し合う新人類に相応しい所業かと』

「そうだな、確かに俺は人殺しの成り上がり者だ。否定はしない」

 

 会話を続けながら後退しつつ射撃を継続、目が回りそうな忙しさに全身から汗が滲み出す。

 一芸に秀でない代わりに小難しい注文を熟せる自分の才能に嫌気が差す

 

「だけど家に引き籠って同胞の死体を弔わない卑怯者よりはマシな生き方だ」

『……発言の意図を理解できません』

「お前だよお前、役立たずのポンコツに言ってんの」

 

 俺の発言に大型の移動が完全に停止する、それに合わせて俺も攻撃を中止。

 緊張感を纏った空気がヒリヒリと肌を焼くような熱さを帯びたように感じる。

 

『発言の意味が理解できません、私が旧人類の同胞を辱めてるという発言の訂正を求めます』

「認めたくなきゃ認めなくていい。ただ事実は変わらないけどな」

 

 こいつは俺との会話に怒っても会話自体は避けようとしない。

 情報収集が目的なのか、長い間独りきりで過ごした反動かもしれないな。

 まさかお喋りって訳でもないだろう。

 ただ確実なのはそこが明確にこいつの弱点って事だ。

 

「幾つもの戦場を体験した。殺した相手ほどじゃないが死んだ仲間や部下はそれなりにいる。仲間として遺体を放置するのは名誉に関わるし、敵に辱められる可能性だってあるからな。可能な限り弔ってきたが全員じゃない。泣く泣く遺体を置き去りにして、別の日に捜しても見つけられなかった事が何度もあった」

『葬礼はあくまでも宗教的・道徳的観点から行われる物です。死者本人ではなく遺族の精神的苦痛を緩和する意味合いが大きく、魂や冥界の存在を実証できない限りはその行為はあくまでケアの一環でしかありません』

「なるほど、お前さん無神論者か」

『事実を述べているだけです』

「なら聞こう、どうしてお前はこの遺跡にある仲間の遺体を放置してるんだ?」

 

 この浮島で何人分の死体を見てきた、その死体は大きく二通りに分けられる。

 一方は冒険者や誤ってこの浮島に辿り着いた輩と思われる死体。

 人型に襲われたのか損傷が激しく死んだ時そのままの場所に放置されていた。

 もう一方はこの施設で暮らしていた旧人類と思われる死体だ。

 こちらも亡くなった状況そのままで放置されていたが、死体の損傷が少ないのは施設内で雨曝しにされてないから劣化が少なかっただけ。

 施設を浸食した植物が巻きついてた死体さえある。

 どちらにしても長年放置してた事実に変わりはない。

 

「さっきから新人類をバカにして旧人類様を崇め奉ってるけど、その割に死体の扱いがえらく雑だ。弔った形跡どころか管理していた気配さえ無い。お前、本当にあの死体状況を知らなかったのか?」

『生命活動を終えた遺体は単なる物体に過ぎません、そう感じるのは矮小で宗教的死生観に囚われている貴方の邪推に過ぎません』

「ならそれで良い。でもな、本当は気付いているだろ」

『何をでしょうか?』

「お前、ご主人様に対してそんなに忠誠心を持ってないな」

 

 大型が拳を振り上げて殴りかかる。

 銃撃を続けながら発煙弾の安全装置を解除して床に投げる。

 狭い通路はあっという間に煙が充満して大型の姿が見えなくなった。

 距離を保ちつつ排莢と装填を繰り返し銃撃を開始。

 この煙の中じゃ俺も大型も狙いが付けられないが、狭い通路は逃げ場が無く適当に撃っても大型に当たる。

 逆に大型は俺の位置を把握できずやたら床を叩いてる。

 俺の挑発に乗せられて一方的に攻撃を受けるのはさぞかしムカつくだろう。

 

「こんなかび臭い格納庫に何百年、何千年も閉じ籠って何もせず。仲間の死体を弔わず、かと言って新しいご主人様を見つけようとしない。ただ新人類への怨みを募らせながら生きてるってだけって役立たずもいいとこだ。お前、自分が思ってるほど優秀でも強くもないぞ」

『……黙りなさい』

「まだ亡くなった飼い主を待ち続けて死んじまう犬の方が忠誠心がある。むしろ誰かに認知されて涙頂戴されるだけ人の役に立ってるな」

『黙りなさい!』

「ポンコツの分際で煽られて怒ってんのかよ。誇りだけは無駄にデカい図体並みだな」

『リオン・フォウ・バルトファルト!!』

 

 お、どうやら俺の名前をきちんと憶えていたらしい。

 単なる新人類から一人の人間として認知されたみたいだな。

 

『私が手加減していれば調子に乗って挑発を繰り返す行為は宣戦布告と判断します。これより貴方に対する行動レベルを引き上げます。仮に貴方を殺傷してもそれは当施設の防衛基準に則った行動であり、私の行動基準に狂いがあった訳ではありません』

「御託はいいんだよ、口より先に手を動かせ役立たず」

 

 お返しとばかりに小型拳銃を引き抜いて連射。

 命中した所で大型には効かないが挑発にはもってこいだ。

 同時に発煙弾を数発手に持って全速力で逃げる。

 俺への殺意のせいか大型は前以上の速さで追って来た。

 とにかく今は通路の先にある開けた場所に辿り着く事が肝心だ。

 

 全速力で開けた場所に足を踏み入れた瞬間、安全装置を解除した発煙弾をあちこちに放り投げる。

 狭い通路と違いそれほど煙は充満しない、ただ一瞬だけでも俺を見失うだけで良い。

 ここは格納庫の中心近く、何本もの通路や集まる交差点だ。

 その中から目的地に向かう通路目掛けて走り続ける。

 俺が再び駆け出したのと同時に大型がこの場所に到着した、だけど充満する煙が視界を遮り俺の位置を見つけられない。

 ある程度の距離を稼いだ所でわざとらしくない程度にポケットに入れておいた空薬莢を床に落とす。

 

カ ァー … … ッ ン

 

 小さな反響音が鳴り響いた数秒後、大型がこっちに振り返ったのが確認できた。

 あいつから見れば煙幕で姿を隠して狙撃しようとしたのを失敗したように見えただろう。

 そう考えるように今まで何回も遠くから狙撃しては逃げ、逃げては狙撃するを繰り返してきた。

 追い詰められた動物が最後の最後に失態を犯した、後は逃げ場が無い場所に追い詰めるだけ。

 そんな思考をしたあいつは俺を目指して近寄って来た。

 疲れて動きが鈍ったように速度を落としながら走る、残り少なくなった発煙弾は分かれ道が近付いた時に投げた。

 通常爆弾や魔爆弾も時々混ぜておく、追い詰められた獲物を装って狩場に近付く。

 漸く見えてきたその場所の前で思いっきり飛び跳ねる、同時に後ろ目掛けて発煙弾を投げた。

 上半身の筋肉に力を込め姿勢を維持、煙幕は俺の腰辺りの高さまで漂って後ろから追って来る大型からは丸見えだ。

 ついに身を隠す事に失敗したリオン・フォウ・バルトファルトは覚悟を決め最後の攻撃を仕掛けて来る。

 そう思わせるように残り僅かな魔弾を装填して狙いを定め引き金を引く。

 

タァァァン カッ

 

 魔弾は虚しく障壁に阻まれて床に落ちたけど煙幕のせいで確認できない。

 俺と大型まで残り二百歩。

 魔弾や魔爆弾を警戒して障壁を張りながらゆっくり進んで来る。

 俺と大型まで残り百歩。

 通常弾を連射して注意を逸らす、照準は大型の頭部だ。

 俺と大型まで残り五十歩。

 大型がその位置に来た瞬間、俺はすぐ横にある巨大な鉄箱の側に身を隠す。

 

キィィ―――ン    ポンッ

 

 金属を引っ掻くような耳障りな音の後に軽快な音が鳴った。

 床にうつ伏せになって目を閉じ耳を塞いで口を開ける。

 時間にして数秒、それが途轍もなく長く感じた。

 

ドドドオオオオオオオオォォォォォォォォォンンン!!!!!

 

 衝撃、振動、轟音、熱風。

 その瞬間、行き場を失った巨大な力が通路を嘗め尽くした。




ルクシオン戦中編、思った以上に話が延びました。
勝つ為に挑発を繰り返す外道騎士リオン、やはり原作ほどの悪辣さを表現できないのは悩み所。
チート能力やルクシオン抜きではちまちま削って隙を窺うしかない、ピエール戦のような爽快感が無いのが悩み所、精進あるのみ。
次回でルクシオン戦は決着です。

追記:依頼主様のご依頼によりm.a.o様、Bomkkachi様にイラストを描いていただきました。ありがとうございます。

m.a.o様 https://www.pixiv.net/artworks/118044492(成人向け注意
Bomkkachi様 https://www.pixiv.net/artworks/118104305

意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。