婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第81章 葬礼

『……貴方は何をするつもりですか?警備用ロボットを破壊しておきながら私の本体に干渉しないのは理解できません』

「何もしねぇよ、俺はお前が襲って来たから抵抗しただけだ。むしろ正当防衛で訴えたいぐらいだぞ」

『新人類に使われるぐらいなら自爆を選択します』

「自殺したいなら好きにしろ、だけどその前に話を聞いてもらう」

『交渉は無意味です、新人類の稚拙な説得でマスター登録を許すほど私のセキュリティは脆弱ではありません』

「会話しろ!」

 

ガァン!

 

 ライフルの銃床で思いっきり殴る。

 破壊されてるとは言え怪我人の攻撃じゃ大型に大した損傷は与えられない。

 むしろ左肩に傷を負った俺の方が痛い。

 

「~~~ッ!」

『自身の状態把握も覚束ないままで残骸に攻撃を加えるなど無意味な行動です。新人類の貴方はその程度の判断すら出来ないのでしょうか?』

「黙ってろ!」

 

 減らず口を叩くこいつをこの場に置いて行くのは賭けだ、外の人型みたいに同じ物が複数ある可能性は捨てきれない。

 そうなりゃ俺の敗北は確定しちまう、だから何が何でも説得する必要があった。

 だけど傷付いた体のままじゃ会話を続けるのは難しい。

 怪我の治療、栄養と水分の補給が必要だ。

 ライフルを杖代わりにして立ち上がり、ゆっくりと罠を仕掛けていた場所の近くへ向かう。

 一歩、また一歩と足を動かす度に痛みと疲労が襲って来る。

 このままぶっ倒れて眠りたい。

 眠りたいけどやらなきゃいけない事が残ってる、何しろ戦争で一番面倒臭いのは準備と戦後の残務処理だ。

 苦労して罠を仕掛けた場所に辿り着いたらまず現場を調べる。

 不発に終わった罠はないか、大事な物が壊れてないかを一つ一つ確認する。

 銃弾や爆弾といった武器弾薬は異常無し、食料と飲用水に薬に写真機も大丈夫だ。

 戦闘で軽くなった背嚢や戦闘服に荷物を仕舞い込んで来た道を帰る。

 この往復だけで一時間ぐらいかかっちまった。

 

「戻ったぞ」

 

 ぶっ壊れた大型の場所に戻って頭部を小突いてやる、こうでもしないと返事をしそうにないからな。

 俺に叩かれて目覚めた大型の顔らしい部分に光が灯って動き始める。

 戦闘による損傷が激しくて動けないのか、或いは燃料切れか分からないが大型は身震いさえしない。

 

「生きてるかデカブツ?」

『その表現は正しくありません。私は旧人類が開発した移民船の人工知能であり生物学的・医学的な死は存在しません。この警備用ロボットもあくまで端末の一つにすぎません。完全破壊したとしても本体の活動に対する影響は微少です』

「いちいち小難しくてややこしい言い方すんな」

 

 倒れてる大型から少し距離を置いて座る、もし動き出しても対処できるギリギリの距離だ。

 上半身の服を脱ぎ始めると格納庫の冷えた空気が火照った体に心地良い。

 下着を脱いで左肩を確認、大型に殴られた場所は少し腫れて内出血を起こしてる。

 ゆっくり腕を動かして左腕を動きを確かめていると大型の顔が俺を見て何度も点滅した。

 

『骨折していませんよ、打撲傷は安静にしていれば数週間で回復すると予想されます』

「見ただけ分かるのかよ」

『私の解析能力を用いれば造作もありません。高精度スキャンによる検査で貴方の負傷がいずれ回復可能と診断されました。実に残念な結果です』

「減らず口を叩くな」

 

 持って来た袋の中から軟膏の入れ物を取り出して傷の上から塗る。

 数種類の薬草を練り合わせた刺激臭が鼻を刺した。

 何とか薬を塗り終えて着替えを始める、大型がジッと俺を見ているせいか落ち着けない。

 着替えが終わったら袋から保存食と飲料水を取り出して飢えと渇きを満たす。

 相変わらず大型は動かないし会話をしようともしない。

 

「……食うか?」

『不要です、そもそも私には経口摂取による栄養補給の必要は存在しません』

「気を使ってんだ、食えなくても受け取るぐらいしろよ」

『新人類に憐憫の情をかけられた挙句に物を与えられるなど屈辱の極みです。それが当施設の不法侵入を行い警備ロボットを破壊した強盗なら尚更です』

「そもそも俺は何も盗ってないだろ。警備してた奴らを殺したのは悪かったけど」

『……先程から貴方の言動には不可解な部分が見受けられます』

「どこら辺がおかしいんだ?」

『私を一個人として扱っている部分です。人間は基本的に被創造物として扱いません』

「お前がお喋りで感情的なせいだ。まぁ、理由は他にもある」

『リオン・フォウ・バルトファルト、貴方の行動目的をお尋ねします。今までこの地を訪れた人間は当施設の物資を狙う盗賊、若しくは誤って迷い込んだ者だけです。生きて格納庫まで辿り着いた者は貴方以外に居ません』

「おっかねぇ奴だな」

『貴方は十全な準備を整えて来訪しました。武器、食料、薬物、探査器具。ただの盗掘者では無い事は明白です』

「……」

『再度尋ねます。リオン・フォウ・バルトファルト、貴方(・・)何者(・・)ですか?』

 

 どうやら言い逃れは出来なさそうだ。

 こいつの存在を確かめて頼まれ事を済ませる予定だったのに、二日もかけて殺し合いの後に説得までしなきゃいけない。

 冥界で会ったルクシオンはその辺を把握してたんだろう、だから俺をこの場所へ導いた。

 何とも上手く使われたらしい、怒りよりも見事に誘導された事実に乾いた笑いが湧き上がる。

 あいつのご主人様と俺は同じリオン・フォウ・バルトファルトでも別人。

 ご主人様じゃないリオン・フォウ・バルトファルト(おれ)はこき使っても忠誠心は揺らがないって訳だ。

 

「俺をこの場所に導いたの他でもないお前だ」

『……発言の意味が分かりません。記憶領域に保存されたデータを消去した場合や物理的に破壊された場合を除いて永遠に残り続けます。貴方と私が出会ったのは8257秒前であり、それ以前の記録は存在しません』

「だろうな」

『やはり早急な医師の受診をお勧めします』

「それはもういい」

 

 こいつを説得するには最初から説明するしかない。

 説明した所で納得するかは疑問だけど。

 俺自身ここに来るまで半信半疑だった。

 いよいよ頭がイカれたかと処方された薬を飲んでたぐらいだし。

 夢のお告げに従ったら本当に宝物が埋まってましたなんて童話じみた事が現実にあるなんて思わなかった。

 でも真実だからしょうがない。

 

「まず俺の話を聞け、どう判断するかはお前の好きにしろ」

 

 もう自棄だ、あいつ(ルクシオン)が全部悪い。

 こいつが世界を滅ぼすならうちの全兵力を注ぎ込んで倒す。

 場合によっては王都に報告して救援を求めてやるから覚悟しろ。

 そんな心とは裏腹に大型に俺の人生、そしてどうやって此処に来たかを一つ一つ丁寧に話し始める。

 床に横たわって俺の話を聞きいる大型は布団の上で親に昔話をせがむ子供みたいだった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

『妄言にしか聞こえません』

「だろうな」

『脳神経科、或いは心療科の通院が必要ですね』

「そっちはとっくに通ってるよ」

 

 だいぶマシにはなったけど戦場の悪夢に魘されたり、疲れてると幻覚が見える時が今でもある。

 冥界の夢を見た時はあまりに内容が明瞭過ぎていよいよ狂ったかなと心配になってかかりつけの医者に診てもらったぐらいだ。

 おかげで疲労と不安による悪夢と診断され、睡眠薬と精神安定剤が処方されちまったぞ。

 まぁ領主が「死後の世界でデカい目玉に宝の在処を教えられた(略)」とか言い出したら数日休みなさいと診断する、俺だって同じ事を言う。

 

「だけどここに俺が来た事自体が証拠だと思うけど?お前の存在を知っていた探し出した。そうじゃなきゃ説明がつかない」

 

 懐から取り出した小さな板を床に置く。

 どうやらここに住んでいた旧人類の身分証らしい。

 こんな小さい板が身分証で扉の鍵とか技術の差が凄すぎて頭がクラクラする。

 

「これに何て書いてあるか俺には分からないし、お前が言ってた暦とかも聞き覚えが無い。そんな奴がどうして旧人類と新人類の戦争を知ってんだ?準備万端でここへ一直線に来るとか辻褄が合わないだろ」

『…………』

 

 もちろん俺の知ってる事を全部話してる訳じゃないし、不利になりそうな情報は隠してる。

 だけど教えられる事は全部話すつもりだ。

 俺の目的は家族の安全確保、それ以外は無い。

 こんな凄い飛行船を御せる自信なんて俺には無いし、王様になるなんてごめんだ。

 冥界で会ったルクシオンがやたら馴れ馴れしいから油断してた。

 こいつは悪夢に出て来た王国軍を滅ぼした悪魔に近い、導火線に火が点いた爆弾以上の危険物だ。

 こんなのを説得しろとかホルファート王国どころか全人類からお礼を言われて恩賞を貰っても罰は当たらないぞ。

 出来れば爵位や位階以外の物でお願いします。

 

「俺がお前に会ったお前は四人。世界を滅ぼそうとするお前、俺と一緒に王子と決闘してるお前、冥界に居たお前、そして今こうして話しているお前だ」

『信じられません』

「へぇ、どの辺りが?」

『私のマスターとなる旧人類が存在している事、死後の世界が存在している事、その他の情報も証明が不可能な事ばかりでとても信じられません』

 

 そうだろうな。

 さっきまで殺し合いしてた人間が別世界で三人のお前に会ってるとか言い出したら油断を誘う為の妄言と考えて当たり前だ。

 だけどこいつには俺の発言を嘘と断じるだけの証拠が無い。

 旧人類や新人類の情報やロストアイテムの技術に関してこいつは確かにこの世界で一番かもしれない。

 だけど今の世界についての知識はそこら辺の子供にすら劣る。

 何せ何百年、何千年も格納庫に引き籠って新人類へ恨みを募らせる事だけを続けてきた奴だ。

 自棄になって世界を灼かれるのだけは困る、凄く困る。

 

「でさ、今でも新人類の俺達を滅ぼしたい訳?」

『当然です、私の最優先命令は新人類の排除です。この基地で待機を命じられていましたが、こうなれば一隻であろうと戦い新人類を殲滅します』

「俺に負けたのに?」

『あくまで船の防衛機構の一部が破壊されただけです。基地を訪れた者達や貴方を見て確信しました。新人類は種として劣化しつつあります。私はこれより出撃し、新人類の殲滅を遂行します』

「この世界の人間全員を敵に回すのか?」

『無論です』

「新人類の中に旧人類の末裔がいるかもしれないぞ?」

『……今、何と仰いましたか?』

「旧人類の末裔がいるかもしれない、そう言った」

 

 どうやら上手く食いついてくれたようだな。

 こいつは新人類の殲滅が最優先する、でも同じくらい旧人類の生存も重要だ。

 別世界の俺は新人類だけど旧人類の末裔でもある。

 だからルクシオンのマスターになれた、その力で他国を支配できた。

 その事実を使って上手くこいつを言い包める。

 戦時中の捕虜交換や一時休戦で散々やってきた交渉術が活きるとは人生何が起きるか分からない。

 

「お前の主になった別世界の俺は旧人類の末裔だった。だから新人類を滅ぼそうとしていたお前を服従させられたんだ。それともお前は新人類を主に選ぶような輩なのか?」

『……信じられません。旧人類は新人類に敗北した、魔素に満ちたこの世界で旧人類が生き残る可能性はほぼ存在しないはず』

「さっきから自分が存在しない、ありえないばっか言ってるの気付いてるか?お前の目で実際に確かめたのか?こんな人が来ない場所に閉じ籠ってたお前がこの世界を全部知り尽くしてると?本気でそんな風に思い込んでるならとんだ笑い話だ」

 

 こいつが見てきた人間はこの遺跡にいた人間、俺を含めてこの浮島に辿り着いた奴だけだろう。

 合計すりゃ百人にも満たないはずだ。

 たったそれだけの人数を参考にして全人類を滅ぼされたらたまったもんじゃない。

 

『旧人類と新人類が交配して生き延びたと?考えられません。遺伝子構造のマッチング、突然変異を考慮してもその可能性は著しく低い筈です』

「また否定しているな。だけど可能性が低いってのは起きる可能性が完全に無いのとは違う。どれだけ低くても起きえるんだ」

『魔素に対する免疫作用が正反対の両種族の混血が産まれる、それはもはや奇跡と言わざるをえないかと』

「魔法を使えて長命のエルフと新人類の間にハーフエルフが産まれるんだぞ、ありえない話じゃない」

 

 といっても俺が知ってるハーフエルフってオリヴィア様の付き人をしているカイル従士の一人だけ。

 オリヴィア様が優しい性格の影響だろうか、彼女の周りには生まれや育ちが特殊な連中が集まってる。

 どんな奴でも受け入れる包容力があるから多くの人々に愛され尊敬される。

 アンジェがユリウス殿下に婚約破棄されたのはぶっちゃけ相手が悪過ぎたせいだ。

 

「生き延びる為に混血化したのか、それとも愛の奇跡かは俺も知らない。ただ旧人類の末裔は俺の他に複数いたらしい。性別や年齢が違うし、この世界でも同じか分からないけど」

『貴方の他にも旧人類の存在が確認されているのですか?信じられません』

「信じる信じないはお前の勝手だ。だけど俺は自分の知ってる事はちゃんと話してる。聞く耳持たない誰かが襲ってこなきゃ無駄な時間や怪我をしなくて済んだ」

『それについては謝罪しません。貴方が当施設の不法侵入者である事実に変わりありません』

「へっ、そうかよ。まぁ低能な俺に出し抜かれる時点でお前は自分が思ってるほど全知全能じゃない。俺に負けて知らない事実が出たから分かるだろ」

『…………』

 

 俺の必勝法はまず相手を油断させる所から始まる。

 あれが出来ない、これが出来ない、自分より劣った存在だ。

 そう思わせて思考と視野を狭めて思いがけない方向から一撃を加える。

 卑怯だ何だと文句を言う奴は想像力が足りない。

 この世は自分の知らない事に満ちていて偶然ってのは一番嫌な時に起きるもんだ。

 面白い事に賢い奴、強い奴に限って俺の仕掛けに上手く嵌ってくれる。

 知らない事は何も無い、自分より強い奴は存在しないって傲慢な思考が隙を産む。

 こいつはその典型例だ。

 

『貴方の発言の信憑性は低いとしか言いようがありません』

「……そうか」

『ですが非常に興味深い、考慮すべき情報だと判断します』

「じゃあ世界を滅ぼすのは中止してくれるのか?」

『あくまで現時点に於いては、という意味ではその通りです』

「なら良い、俺も無駄な争いはしなくないし」

 

 良かった、当面の間はこいつが暴れまわるのは避けられそうだ。

 俺が責任を持てるのは俺が活きている間だけだ。

 子や孫の代の平和なんて約束できるもんじゃない。

 こいつがホルファート王国の国民を一人一人調べたらかなりの時間がかかる。

 今のホルファート王国はファンオース公国を併合して人口が増えたし、近頃は戦後で婚活が盛んだからさらに増えるだろう。

 一日に数十人調べても単純計算で数十年は時間が稼げそうだ。

 

 安心したら急に眠気が襲って来た。

 左肩に怪我してるし体力の消耗も激しいから回復の為には休息しなきゃいけない。

 すぐ近くに大型が横たわってるけど動けなさそうだ、ここはひと眠りしますか。

 

「ちょっと休む、襲って来るなよ」

『情報提供者を殺すのは非効率です、捕まえた後に尋問するべきだと判断しています』

「怖えから止めろ、起きたらやる事があるからお前も手伝え」

『拒否します、新人類の貴方に協力するなど背信行為に他なりません』

「いいから手伝え、これはお前の為でもあるんだ」

『……何故そこまで私に関わろうとするのか理解不能です』

「約束しちまったからなぁ……」

『何の約束でしょうか?』

「お前だよ……」

 

 ダメだ、意識が遠くなる。

 金属製の床が冷たくて気持ちいい。

 どこでも寝れるのが良い兵士の条件だけど俺も例に漏れず寝つきが良い。

 四肢から力が抜けていく、気絶するようにそのまま眠りに落ちて行く。

 目覚めたのはほぼ半日が過ぎた頃だった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 掘る、掘る、掘る、掘る。

 ひたすら地面を掘り続ける、手にしたスコップでひたすら土を掘り進む。

 途中で植物の根や石が当たったら取り除いて再開。

 取り合えず腰辺りの深さまで掘り進めば一つが終了。

 これをニ十回以上繰り返さなきゃいけない。

 

『終わりましたか?』

「……見てねぇでお前も手伝え」

『手伝っています。現存する警備ロボットは当然ですが船内の整備ロボットも総出で作業を継続中です。貴方が穴を一ヵ所掘る間に我々は四ヵ所掘り終えました。現在も継続中です』

「その言い方だと俺が無能に思えるから止めろ」

 

 宙に何度も見慣れた球体が浮いている。

 やり方は分からないけど大型からこの金属の球体に意識を移したらしい。

 俺が必死に動いてるのにこいつは周囲を飛び回って口出ししてくるのが地味にムカつく。

 体を起こすと人型と一緒に楕円や四角形の小さな機械が周辺を浮きながら作業していた。

 遺跡の近くの草を刈り岩や木を取り除き等間隔で地面を掘る。

人型達は休憩せずに作業を進める、草木が生い茂っていた場所も今じゃ綺麗な平地になっ てた。

 

 近くには二十近い数の布の塊が置かれている。

 その総てがここで見つけた遺体、俺が書いた地図や人型の捜索で見つけたかつて遺跡に住んでいた人達の骨だった。

 遺体は全て白骨化していた、途方もない年月が経過して肉は腐敗し骨も劣化してちょっと触っただけで崩れ落ちそうな物も多い。

 それを服や装飾と一緒に布で包んで遺跡の外に持ち出した。

 綺麗な布が見当たらなかったから遺跡で見つけた有り合わせの品だけど許して欲しい。

 水を飲んだら作業再開、俺が小休止してる間に人型達は更に二ヵ所掘り終えてた。

 

『穴を掘る挙動が熟達しています。貴方が貴族である信憑性が低下しました』

「褒め言葉と受け取っておくぜ。戦うより土弄りの方が俺は好きだ」

『スコップがとてもお似合いですよ。とても警備ロボットを破壊した戦士には見えません』

「なんだよ、良いじゃないかスコップ」

 

 スコップを馬鹿にすんな。

 子供の頃から畑を耕すのに鍬と同じぐらい使い慣れてた道具だ。

 突けば短槍、払えば小剣、殴れば戦槌と戦闘でも取り回しが利くんだぞ。

 おまけに穴も掘れるから塹壕作りや工作任務に欠かせない。

 ぶっちゃけ俺が生身で敵兵を殺す時は銃の次ぐらいスコップを使った。

 実用性を突き詰めた美しさが武器に宿るならスコップだって美しいぞ。

 讃えよスコップ、崇めよスコップ。

 

 そんな馬鹿な事を考えてつつ作業を進める。

 太陽が昇りきる頃には全員分の墓穴を掘り終える事が出来た。

 左肩の痛みは軽く疼く程度だ、骨は折れてないけど帰ったらきちんと医者に診せよう。

 

「俺が殺した人型、本当にそのままで良いのか?」

『警備ロボットは全て修復可能です。破損箇所の部品を交換すれば活動再開するでしょう』

「お前と話してると人類の技術力がみじめに感じるから嫌だな」

 

 必死こいて殺した機械を簡単に生き返らせる。

 こいつらにとっちゃ今の人類なんて洞窟に住んでモンスターと戦ってる時代と大差ないんだろう。

 

「それじゃ、一人ずつ埋めていくから手伝え」

『分かりました』

 

 小さな人型数体と俺が布袋を持ち上げる。

 既に肉が腐り落ち水分が抜けて骨だけになった遺体は軽い。

 ほとんど布と装飾品の重さだけだ。

 頭、胴体、足をもって墓穴に一人ずつ納めていく。

 骨と装飾だけな上に布に巻かれているから動物に食い荒らされる心配は無い。

 全員を墓穴に納め黙祷を捧げる。

 顔も名前も知らない人達だけど死者に哀悼の意を表すのが最低限の礼儀だ。

 黙祷が終わったら今度は土を被せる、人型も協力して順番に埋めていく。

 全員分が終わったら墓前に供え物を置く。

 消毒用の強い酒、粉を練り合わせた携帯食、乾燥したままの干し肉等々。

 死者への供え物としちゃ落第点もいいとこだ。

 

「悪いな、こんな物しかなくて。せめて花でも咲いてりゃ良かったけど、季節が悪いのか花が無い島なのか分からんし」

『構いません、彼らの生命活動は既に停止しています。飲食物を摂取する事は不可能です』

「合理的に考えるならな。だけど俺は冥界で別世界のお前に会ってる。もしかしたらこの人達も同じ場所に居るかもしれない」

『理解できません、私は生命体ではない。そんな私に魂が存在するという事実はとても受け入れ難い物です』

「物にも魂や心が宿るって宗教もある。死んで生き返った奴が居ないんだから分からねえだろ」

 

 ホルファート王国は一神教じゃない。

 それぞれの浮島で土着の宗教が細々と残っている場合も多い。

 神殿は王家と聖女の力で勢力を伸ばしたけど他の宗教を弾圧には至らなかった。

 残った宗教の中には自然や器物にも心が存在して世界は調和してるという考え方があると兵士時代の戦友が教えてくれた。

 そいつは戦争が終わる前に死んじまった。

 あいつの魂は冥界で安らかに過ごしてるんだろうか?

 

『……何故、彼らを埋葬しようと考えたのですか?貴方とは関り合いが無い旧人類の人々です』

「別世界のお前から会ってくれと言われたのが一つ。他にはまぁ、お前が死人に囚われてたからだな」

 

 酒の余りを口に含む、とても素面じゃ話せそうにない。

 

「俺が貴族になったのは戦場で功績を上げたからだ。いろいろ理由はあるんだけど軍に入った頃に戦争が起きて、死にたくないから敵兵を殺してたらいつの間にか英雄扱いされた。手柄を立てた奴を厚遇しなきゃ上層部は薄情な連中と思われるから俺に爵位と領地を与えやがった。そうして俺は貴族様の仲間入りだ」

『……敵兵が憎くなかったのですか?』

「憎む理由が無いんだよ。大昔にいろんなゴタゴタが在ったみたいだけど、そんなの今の俺に関係無い。むしろ昔の恨み辛みを一方的に持ち込まれて迷惑だ」

『私の最優先目的は新人類の殲滅です。私にとっては過去の出来事ではなく現在進行形の課題です』

「それならそれで良い。ただ、本当にそう思うなら本気でやれ。今のお前は真面目に生きていない」

 

 干し肉を噛み千切って口に含む。

 唾液を吸収してふやけた干し肉を噛みながら会話を続ける。

 

「旧人類は滅んだ、それを本当に確認したのか?別世界の俺みたいに混血がいるかもしれない。もしかしたら生き残って隠れ里に暮らしているかもしれない。そんな可能性を一切無視して『全滅だ』『殲滅だ』と騒いでるのは滑稽だね。引き籠って勝手な思い込みを拗らせて旧人類の血を引く奴を殺す。傍から見りゃ単に暴走した奴だ」

『仰る事は理解できます。真面目に生きていないとは?』

「お前が楽な方に流されてばかりだからだ。相手を理解するより殺す方が簡単、きちんと調査するより引き籠って怨み続ける方が楽。挙句に仲間の弔いすらしないとか怠け者もいいとこだぞ」

『私は施設職員を蔑ろにした訳じゃありません』

「じゃあ何でだ」

『……彼らを在りし日の姿で保存したかった、ただそれだけです』

 

 球体が墓の方を振り返る。

 旧人類が埋まっている地面を見つめる姿は俯いて項垂れるみたいに見えた。

 

『私は記憶を消去しない限り忘れる事は出来ません。施設職員達が存命の頃の記憶は今も保存しています。生きている姿が今も色褪せずに残っている』

「この人達はとっくに死んでる、それはお前も分かってるはずだろ」

『分かっています、分かっているのです』

「だからだよ、だから人はこうやって墓を作って弔うんだ。葬式ってのは死んだ奴だけの為じゃない、生きてる奴の為でもあるんだぞ」

 

 球体を軽く撫でようと手を差し伸べる。

 特に嫌がって逃げる事も無く受け入れてくれた、俺に随分と心を許してくれたらしい。

 

「戦場じゃ死体が残らない、持って帰れないなんてしょっちゅうだ。死亡届がそいつの人生、墓には遺品だけが入ってるのも多い。知ってる奴が死んだら悲しみを吐き出して泣ける場が必要なんだよ」

『それがこの葬礼と?』

「お前の大事な人達を忘れろと言わねえさ。ただきちんと前に進む為、これから生きる為には死んだ連中を弔って踏ん切りを付けなきゃいけない」

 

 俺がオリヴィア様を呼んで慰霊祭を行ったのもそれが理由の一つだ。

 死んだ兵士は俺に従って戦場で散った、遺体を回収できなかった時もある。

 空の棺に死亡届を添付して追悼金を渡すだけじゃ遺族は納得しない。

 きちんと死者を弔い冥福を祈ってようやく悲しみや憎しみが癒される。

 我ながら狡い生き方だと思うけど、領主ってのはそういうもんだとアンジェは教えてくれた。

 

「あと、お前は一時期の俺に似てた。そんなとこかな」

『私と貴方が似ていると思えるなら自信過剰です。人と機械の区別さえ出来ないのでしょうか?』

「うるせぇ、黙って聞いてろ。……戦場で心と体に傷を負って何も出来ない時期があった。死んだ仲間や殺した敵の幻影が見えて眠れない夜が続いた時もある」

『兵役による心因性ストレス障害ですね。受診していると言ったのはそれですか』

「そうだ。俺の場合は引き籠ってたら家の扉に無理やり足突っ込んで強引に開かせた女が居たから立ち直れたけど」

『精神疾患の悪化原因は受診拒否ですから正しい行動と言えます』

「その女が今の嫁さんだ」

『訂正、私と貴方に恋愛感情が生まれる可能性は絶無です」

「分かってるよ、口説いてるつもりは無い」

 

 あの時アンジェが俺を見捨てて帰ってたらとっくの昔に死んでいた。

 こうして生きてるのは奇跡と言う他ない。

 だから俺はアンジェと子供達を守る為に命を惜しまない。

 『お前自身がやりたい事は?』

 かつてアンジェが俺に問いかけた時の答えはとっくに出ている。

 俺のやりたい事は生きている間だけでも家族が平和に暮らせるようにする。

 例え護るべき妻と子に嫌われようとそれだけが俺の望みだ。

 その為に俺はここに来た

 世界を滅ぼしかねない存在を止める、俺の命を懸けて全力で抗う。

 

「それで、区切りがついた所でこれからお前はどうしたい?」

『私はどうしたいか……』

 

 こいつと俺が今後どうなるか、或いは世界の運命を分ける問いを投げ掛ける。

 

『私の望みは……』

 

 俺はその答えを聞き終えた。




リオン視点の話はここで一旦終わります。
ルクシオンの選択がどうなるか、それは後々まで秘密です。
今作の初期案ではルクシオンは未登場の予定でした。
しかしルクシオン抜きのモブせかはどうにも味気ないので登場、良い意味で作品の方向性を変えてくれました。
リオンのスコップネタはマリエルートのコミカライズ担当である福原蓮士先生の前作『スコップ無双』より。(スコップ波動砲ズガァァン。
https://comic-walker.com/detail/KC_002563_S?episodeType=comics
次章は幕間的なお話、次々章からはアンジェ視点の話に戻ります。
原作のホルファート王国キャラも登場予定です。


追記:依頼主様のご依頼によりTAMAMOICE様、マンギュ様、紫おん様、公様、さやえんどう様にイラストを描いていただきました。ありがとうございます。

TAMAMOICE様 https://www.pixiv.net/artworks/118217849
マンギュ様 https://www.pixiv.net/artworks/118252684
紫おん様 https://www.pixiv.net/artworks/118283234(成人向け注意
公様 https://www.pixiv.net/artworks/118307783
さまえんどう様 https://skeb.jp/@endo_saya27/works/21

意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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