婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです 作:品☆美
ドレス、良し。
靴、良し。
化粧、良し。
私室に備え付けられている大鏡の前で自分の格好を逐一確認する。
正直、皆から聖女様と讃えられている今でもこんなドレスを着るのは慣れない。
もっと良い素材を使って専門の職人に作らせた最高級のドレスを誂えた方が良いと神官や女官は進言するけど、神殿の予算の大部分は人々からの喜捨で賄われてる。
必要な部分に必要なだけ使えば良いって考えは政治や外交の場では通用しない。
どれだけのお金を蓄えているか、どれだけの権力を持っているのか。
周囲に見せびらかして余計な争いを避けるのが貴族のやり方だ。
お金で血が流れる状況を回避できるならそれに越したことはない。
せっかく訪れた平和をドレス一枚で維持できるのなら安い買い物なんだろうと無理やり自分に言い含める。
「よくお似合いですオリヴィア様」
「ありがとうございます」
ドレスの着付けや化粧を手伝ってくれたカーラさんが褒めてくれる。
とりあえずお礼を述べるけど本当に自分に似合っているかどうかは分からなかった。
「マリエさんは良いよね、可愛いドレスが似合うから」
「暗に幼児体型だって聞こえましたよ。私はもっとこう、女性的で派手なドレスが好みなんですが」
「無理だよ、胸がこぼれるって」
「くぅ~~ッ、ひもじい暮らしだった子供時代が恨めしい~~」
マリエさんは十代前半のお嬢様が着るような薄紅色のドレスを着て髪を後ろで纏めている。
どの方向から見ても良家の生まれに相応しい可愛さで私よりずっとドレスが似合ってた。
カーラさんに化粧を施されるのを嫌がる姿は撫でられるのを嫌がる猫みたいだ。
そんな光景をぼんやり眺めながら支度を整える。
何せ予定に無い急な呼び出しだ、何処かに手落ちがあってもおかしくない。
「はい、終わりました。これなら傍目からは知り合いじゃなきゃマリエさんだと気付かないでしょう」
「そもそも仮面を付けるんですから化粧なんて不要ですよ」
「何処で誰に見られるか分からないから用心に越した事はありません」
「はぁ、分かりました。オリヴィア様は鬘を忘れないでください」
「それじゃ、お願いします」
ぶつくさと文句を言い続けるマリエさんの次いで頭に黒髪の鬘を被せられる。
腰の辺りまで届きそうな長髪を付けるとまるで別人になったみたい。
とりあえず身繕いは終わった、そろそろ行かないと約束の時間に遅れてしまう。
「あとは上からローブを着て完成です」
「カイル君も馬車の手配を済ませた頃かと。時間も押しているから行きましょう」
「分かったわ」
ドレスの上に神殿所属者用のローブを着込むのはかなり変な気分だった。
壁に架けられた絵画の一枚を外すと金属製の取っ手が現れる。
それを引くとゆっくり壁の一部が横にずれて人一人がようやく通れる程度の狭い通路が現れた。
緊急事態に備え聖女の私室に設けられた緊急脱出用の仕掛けだ。
魔石で輝く灯りを持ち先にマリエさんが通路を進む。
「それじゃ行ってきます、留守の間は頼みます」
「お任せください。今日の当直は私で助かりました」
この仕掛けは通路の外からしか動かせない、誰かが部屋に残り元通りにする必要があった。
順当に考えれば私の代理人を任せられるのはマリエさんだけど、彼女が私の信頼できる神殿の仲間で一番強い。
カイル君なら護衛も務まるだろうけどハーフエルフは否応なしに目立つ、これから向かう先なら尚更だ。
消去法で私とマリエさんが向かうしかなかった、カーラさんさんには留守番を担当してもらう。
狭い石造りの通路をひたすら進む、出口は神殿の端なので結構な距離だった。
「こんな物を使う事になるとは思わなかったね」
「本来は緊急脱出用の秘密通路ですけど、今までの聖女はまともな使い方をしなかったと聞いています」
「例えば?」
「家柄だけが自慢で遊びたい盛りのろくでなし聖女がお忍びで外を出歩く時に使ってたみたいです。他にも貴族出身の神殿騎士や女官が夜中にこっそり宿舎から抜け出す時に使う馬車乗り場がありますからそれを使いましょう」
「神殿の綱紀粛正を唱えてる私がこんな物を使う事になるなんて複雑な気持ち」
「これも全てユリウス殿下のせいです。●×□▲潰してやりましょうか」
突然マリエさんの口から女の子が言っちゃいけない単語が飛び出して冷汗が出る。
子爵家の生まれだけど両親から令嬢としての教育を受けられなかったマリエさんは時折とんでもない言葉を口走る。
狩りの仕方を教えてくれた狩猟者や戦い方を教えてくれた冒険者からそんな卑語を学んだみたい。
普段は注意してるけど感情が高ぶるとつい無意識に口走ってしまうらしい。
「あはは……、それ他の人の前で言っちゃダメだよ」
「オリヴィア様にご迷惑をお掛けする輩が相手なら半分本気です。王族相手でも例外はありません」
「マリエさん」
「……失礼しました、以後改めます」
「うん」
話してる間に随分進んだ、そろそろ出口が近いのが空気の流れが変わって来た。
出口は聖女の部屋と違い内側からでも開けられる。
扉を開くと神殿の端にある倉庫に偽装された小屋の隣に出た、ここから少し歩けば神殿から最寄りにある馬車の待合駅。
神殿の敷地を抜けて場所の待合駅に辿り着くとカイル君が待っていた。
「お待ちしてました、こちらにどうぞ」
「ありがとう」
「御者は口が堅い男なのでご安心を。目的地の近くまで御二人を送ります」
「了解、後はまかせて」
「朝までにお帰りにならないと神殿の皆に気付かれるので早いお帰りを」
「分かりました」
「お土産は期待してないで」
「してません。マリエさん、オリヴィア様をよろしくお願いいたします」
「はいは~い」
カイル君の言葉を聞き終え馬車に乗り込むとすぐに移動を開始する。
移動にかかる時間を考慮すれば余裕はあまりない。
何とか早朝までに帰らなきゃ。
焦りを感じつつ私達は窓から見える夜の道を眺めた。
馬車が止まり御者が扉をを叩いて合図してくれる。
着込んでいたローブを脱いで余計な荷物と一緒に置いていく。
案内状と仮面をバッグに仕舞い込んで扉を開ける。
御者に一礼し慣れないハイヒールの靴で石畳の王都の道を進む。
王都の主要道路から逸れ少し入り組んだ道の先に目的地は存在する。
何処から見てもドレスを着た私達二人の姿は周囲から浮いていた。
夜が更けるまであと少し、まばらとは言え道を歩く人が居ない訳じゃない。
幾度も角を曲がると目的の場所は其処にあった。
何処から見ても古ぼけて平凡な建物。
ただ扉の前には数人の若い男性が屯している。
着ている服は整っているけれど表情や身の熟しからどう見ても堅気の職業に携わってる人には見えない。
普通の女性なら近づく事も躊躇するだろう、でも私達はこの建物の中に用があった。
彼らから私達が見えない場所で仮面を付けて建物に向かう。
見張り番の男性は三人、若い男性二人と中年男性が一人。
バッグから取り出した紹介状を男性に渡すと私達を頭頂から爪先まで怪訝な表情をして眺める。
正直あまりいい気分じゃない。
「……ちょっと、いい加減通してくれませんか」
焦れたマリエさんが苛立たしそうに男性を睨みつける。
この場所を訪れるのは何回かあったけど、今夜のように待たされるのは初めてだった。
「まぁ待ちなよ。ちぃっとばかし手続きってもんがあるんだよ」
「そうそう。何事も信用が第一だからな」
そう言って彼らは私の方に向き直ってニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていた。
またか。
この手の人達は何処にでも居る。
『戦場に女は必要ない』、『女が政治に口を挟むな』と女性を軽視し力で我を通そうする人々だ。
彼らの多くは強い者、優れた者を標的にしない。
常に自分より弱い物、劣った者に対し冷酷非情な振る舞いで力を振るう。
私が女性、マリエさんが小さな体格なので明らかに見下して何らかの役得を得ようと考えたのだろう。
「なぁに、取って食おうって訳じゃない。少しばかり融通してくれるだけで良いんだ」
「こんな所に来るんだからその辺は分かってんだろ?」
下卑た笑みで私達を威嚇する、楽し気な彼らに対して私達の心は冷え切っていた。
この先は一種の中立地帯だ、身分や立場の垣根が無く秘密を抱えた人達が集まる場所。
だから高貴な人達もお忍びで訪れる事も多い筈だけど、若い女性が二人だけだと油断し私達に無理難題をふっかけたらしい。
中年の男性は何も言わない、彼らに呆れているのかわざと見過ごしているのか。
どちらにせよ、彼らに構う時間が惜しかった。
「ちょっとだけでいいからよ」
若い男の手が私に向かって伸びてきた瞬間、隣にいるマリエさんから殺気が漏れ始めた。
失敗した、マリエさんは自分が軽んじられるより私が非難される事に怒りを覚える。
特に私に対して邪な想いを抱く相手なら一切の手加減をしない。
彼女は私に憧れる神殿騎士や女官よりも聖女(私限定)過激派なのだ。
「その御方に触れるな下郎」
伸びて来た手の指二本をマリエさんの手が掴んだ次の瞬間、
ポギキィン
小さく乾いた音が聞こえた。
男性の指はそれぞれ曲がってはいけない方向を指し示す、どう見ても骨が折れていた。
指は神経が集まっているせいで他の部位より痛みを感じやすい、その上女性でも簡単に破壊が可能。
男性は何が起きたのか理解できなくて呆然としている、ただ指の曲がり具合と痛みでみるみる青褪めていく。
「はぁあぁぁあぁッ!?」
彼は怪我をしてないもう片方の手で必死に折れた指を押さえようとした。
その瞬間、彼の頭の中は怪我で埋まり大きな隙が生じる。
パァンッ!
マリエさんの掌底が男性の眉間に叩き込まれる。
顔は視覚・嗅覚・聴覚・味覚を司る器官が集まる急所の塊。
撃たれた眉間は両目と鼻が作る三角形の中心、衝撃によって一時的に視覚が麻痺するし鼻血が出れば呼吸も覚束ない。
ドォッ!
「ギャァアッ!!」
男性の股間をマリエさんの足が蹴り上げた。
苦悶の叫びが夜の空をに響く、流石にやり過ぎだと思ったけど指折りから股間への蹴撃まで十数秒、とても止められる速さじゃなかった。
マリエさんの攻撃を受けた男性は地面に蹲って身悶えしている。
「このアマッ!!」
もう一人の若い男性が拳を振り上げマリエさんに襲いかかった。
彼とマリエさんの間に立ち塞がり両手で構えを作る。
振り下ろされた拳が私の体に撃ち込まれる、だけど怒りに我を忘れた攻撃の軌道はあまりに読み易い。
一歩進んで肘の内側に回り込み左手を相手の手首に添え力の方向を変える、更に男性の上腕を右手で掴んで体の勢いに私の力を加える。
力を勢いを操作された男性はそのまま近くの壁にぶつかり崩れ落ちる、あまり勢いが無かったのは彼の膂力がその程度だから。
どうやら外見は厳つくても実力は然程でもないらしい。
「そいつの攻撃には気付いていましたよオ、……お嬢様」
「いくら何でもやり過ぎですよマ…、貴女」
思わず互いの名前を呼びそうになったので慌てて誤魔化す。
流石に神殿の聖女が夜に男性を投げ飛ばしたなんて外聞が悪過ぎる、態度の悪い門番をお仕置きしたのはちっとも後悔してないけど。
地面に倒れ伏した二人を余所に建物の中から声が聞こえて来る。
扉が開くと体格の良い男性が十人近くが出て来た。
その中の一人は若い男性と一緒に門番をしていた中年男性、どうやら彼が応援を呼びに行ってたらしい。
出て来た男性達は私達に成敗された二人とは明らかに違った身の熟しで荒事に長けていると分かる。
さて、どうしよう。
素手でこれだけの人数を相手にするのは大変だ、聖女の首飾りや腕輪があれば力を増幅してくれるけど神器を持ち出す訳にもいかないから神殿に置いてきた。
これだけ大事になれば目的の場所に辿り着く事もままならない、万事休すかな。
じりじりと男性達が距離を詰める、私達を積極的に攻撃するつもりは無いが逃がしたら面子に関わるから逃がしてはくれなさそう。
「こんな所でどうした?」
不意に声がかかり振り返ると仮面を付けた男性が私の後ろに佇んでいる。
紅色、水色、紫色の髪で体格の良い三人はよく見知った友人だった。
彼らを見た瞬間に緊張していた体から力が抜ける、どうやら助かりそう。
そこまで考えて被っている鬘が気にかかった。
マズいなぁ、気付いてくれなかったらどうしよう。
(オリヴィア、一体何があった?)
水色の髪の男性がそっと私に耳打ちしてきた。
どうやら私の変装に全員気付いてるみたい。
「お嬢ちゃん、相変わらずらしいな」
「お久しぶりですね。見てたのなら早く助けてくれてもいいじゃないですか」
「悪いね、僕達も来たばかりだ。まさか入口でこんな事になっているなんて思いも寄らなかったよ」
マリエさんが他の二人に詰るような口調で反論するけど意に介されない。
遠巻きに私達を観察していた男性達の中で私達に叩きのめされた二人が怒りを露にして私達を罵る。
「痛え!痛ぇよォ!」
「殺してやる!あのアマ共!」
あまりに醜悪な声に耳を塞ぎたくなるが、此処で逃げ出す訳にはいかない。
無礼を働いたのは先方だけど攻撃を仕掛けたのは此方側、その点を踏まえて説明する必要があった。
このままじゃ時間だけが無為に過ぎ去ってしまう、早く神殿に戻る為にも面倒事は速やかに終わらせないと。
「これは何事か、詳しい説明を求めます」
「そいつがッ!その女が俺の指を折って襲って来やがったんだ!」
責任者らしき男性が前に出て私達に訊ねてくるが殴られた人が延々と自分の被害だけを訴え続けてる。
彼の怒りは収まりそうになかった。
「門番の二人がお嬢様に対して不埒な行いをしました、金銭の要求と体での奉仕を要求したのです」
私の代わりにマリエさんが答えた次の瞬間、背後から膨れ上がった怒気が熱となって背を灼く。
あまりに率直な物言いは確かに事実を伝えている、これからこの場所で凄惨な争いが起きる事を配慮しなければ適切だっただろう。
「……本当か?」
「事実です、彼女の物言いはかなり誇張されていますけど」
「しかし貴女に迫ったのは確かなんだね?」
「まぁ、その通りです」
「決まりだな」
カァ~~ン
三人が仮面を脱いで地面に投げ捨て男性達に近付く、月の光と街灯のおかげで夜でも人の顔を判別できる明るさだ。
自分達が対峙してる相手が誰なのか、彼らの顔を知っている男性からは驚きの声があがる。
「まずは自己紹介といこう。ブラッド・フォウ・フィールド、以後よろしく」
「クリス・フィア・アークライト」
「俺はグレッグ・フォウ・セバーグ。名前ぐらいは聞いた事あるよな?」
三人の自己紹介が終わり男性全員の闘志がみるみる萎んでいく。
無理もない、彼はこの数年間で国を救った英雄としてホルファート王国内で名を馳せている。
護国の英雄、優秀な冒険者、小剣聖等々と称号は数え切れない。
つい先日も王都に潜伏していた反王制過激派組織である『淑女の森』を壊滅させたばかり。
後ろ暗い組織に所属している彼らにとって英雄に目を付けられるのは死と同意義だった。
「この嬢ちゃん達は俺達の連れだ。今夜はこの先で用があったんだけどそうもいかないらしいな」
「クリス、闇賭博場を壊滅させるのにどれくらいかかそうだい?」
「一時間もあれば済む。彼女達と後からくる奴も加えたらもっと短い」
「そうですね、じゃあやりますか」
三人とマリエさんは闘志を漲らせ青褪める男性達を威嚇する。
相手の瑕疵を見つけて優位に立つのは交渉の鉄則だけど私にそのつもりは無い。
この場は穏便に治めたい、私達の目的は此処であらそう事じゃないのだから。
「……こいつらは貴族崩れの新入りだ、内部で客の応対をさせるにはまだ未熟だから門番をさせていた」
「それで客に喧嘩売ってたら世話無いぞ、ここには賭博以外の目的で利用する奴が多い。俺達みたいにな」
「客を舐めてかかる者が居たら商売は成り立たない。ましてや裏稼業は信用が第一だ」
「その通りだ、二人には然るべき制裁を必ず下すと誓う。だから怒りを治めてくれないか?」
「それは僕達に聞くべきじゃないだろう」
責任者は三人に促されて私に頭を下げる、その立ち振る舞いは澱みなくて本心から反省してるのが感じ取れた。
私は最初から許すつもりだった。
でも先に攻撃をしたのはマリエさんだから止められなかった私にも監督責任がある。
責任者の礼に応じて私も頭を下げ謝意を露にした。
「攻撃したのは私達の方が先です。彼らにどうか寛大な処置を、私は過剰な制裁で命を喪う事や不具に為る事を望んでおりません」
「お嬢様が謝る必要はありません!」
「人を傷付けたら謝るのは当然の事です、貴女も謝りなさい」
「…………申し訳ありません」
私に続いてマリエさんが頭を下げる明らかに不服そうだ。
でも喧嘩っ早い彼女が今後問題を起こさないようにこの場で釘を刺す必要があった。
「お気遣い痛み入る。今後このような事が無いように努める。中へは私が案内するので他のお歴々も続いて欲しい」
「分かりました」
責任者の言葉を信じ慎重に中へ進む、狭い廊下を少し進むと賑やかで煌びやかな部屋が目の前に現れた。
ホルファート王国の王都の裏路地にはこうした闇の賭博場が存在している。
為政者がどんなに民を抑えつけようと人間の欲求を完全に無くす事は出来ない。
綱紀粛正を掲げている神殿さえ堕落している上、取り締まる側が欲に溺れるなど珍しくない状況だ。
それなら悪徳業者ではない裏組織に非合法の部分を任せて裏の秩序で統括した方が上手くいく。
此処以外にもそうした違法賭博場や闇競売は王国の暗部として幾つも存在している。
ただホルファート王国の裏社会に於いて最大勢力でありホルファート王国の恥部だった淑女の森は私達が撲滅した。
どんな必要悪でも母体となる国を蝕むのなら切除しなくてはいけない。
まして淑女の森の森は人身売買、違法薬物の販売、武器の取引と悪行に加えて王都での大規模な叛乱を計画している。
他国からの干渉があったと判明し、今も王妃様や宰相様が継続して調査を行っている。
こうした闇賭博場はよく王侯貴族が秘密の会議を行う場所としても機能していた。
此処に居るだけで誰もが罪人として連行されてもおかしくはない。
誰かを見かけたと口にすれば自分がその場に居た事を証明してしまう。
王宮や神殿で誰の目や耳があるか分からない場所で話すより安全と言える。
尤も、さっきの貴族くずれの門番を見る限り組織の質が大分落ちているのかもしれない。
ホルファート王国はファンオース公国とこの数年で二度も戦争を起こし多くの人命が犠牲になったし、フランプトン侯爵や淑女の森と関りがあった貴族は家を取り潰されてる。
人が不足して仕方なく程度の低い元貴族を雇うのは今の王国でよく見かける光景だった。
案内されたのは一番奥の部屋、ここに来るまでは狭い廊下を通り何人もの監視者を見かけた。
更に部屋の扉は牢獄並みに分厚くて外への音を漏らさない。
明らかに悪巧みしているぞという感じの部屋に案内されて思わず苦笑してしまう。
聖女になった頃は清廉潔白な世の中を作ろうとしていたのに、今の私は清濁併せ吞む事を強いられてる。
部屋に入ると既に先客が居る、白い礼服に身を包んだ男性だ。
扉が閉まるとやっと一息が付けた、それから各々が仮面を外して着席する。
「なんだよジルク、よりにもよってお前が一番乗りか」
「私は常に迅速な行動を心掛けていますから、貴方達の方が遅いんですよ」
「仕方ないだろ、オリヴィア達が門番と揉めてたんだから」
「どうしてそんな事態に?」
「あの糞憎たらしい門番がいやらしい目でオリヴィアに触ろうとしたらからです。まぁ指を折って殴って股間を蹴り上げてやりましたけど」
「……加減はしたんでしょうね?」
「必要ですか」
「貴女の行動は確かに正しい、しかし何事も限度が存在します。まして殿下に呼び出された状況で問題を起こすのは正しい判断と言えないかと」
「アイツらのせいでオリヴィア様が頭を下げなきゃいけなくなったんです。反省はしますけど同じ事が起きたらもう一度やります。私はオリヴィア様を護るのが使命ですから」
「いいぞ、嬢ちゃん!」
「嬢ちゃんは止めてください、同い歳でしょうが」
「それよりユリウスはまだなのかい?」
この場に皆を呼んだのはユリウス殿下だ。
数日前、密かに送られた手紙は時刻と場所が指定され出来るだけ来るように促されていた。
話の内容はおおよそ察しがつく。
もうすぐで去年の論功行賞が行われホルファート王国の人事が大きく変わるからだ。
アンジェリカ様が数日前に神殿を訪れて私に接触してきたのはその為だ。
渡された書類にはアンジェリカ様が知る事と改革案の纏められていた。
おそらくアンジェリカ様はレッドグレイブ公爵の説得が失敗した時に備えて私に情報を託した。
その上でどうするべきかを私に問い掛けている。
「殿下がいらっしゃる前に情報を整理しましょう、何せこうして全員が集まるのは久しぶりですから」
「じゃあ僕から。とりあえず今の所は国境付近に目立つ動きは無い。ラーシェル神聖王国にしてもヴォルデノワ神聖魔法帝国にしても静かだ。商人達は平和な間に出来るだけ稼いでおきたいと忙しそうにしてたよ」
「国内の冒険者については減少傾向にある。冒険者に憧れる奴が減ったというよりも大して稼げない新人や腕が今ひとつな熟練者が王国軍に流れてる感じだ。三食寝床付きで給料が良いなら不安定な冒険者稼業を辞める奴が多いのは無理ない」
「王国内の犯罪率は減少傾向だ。逮捕者は情状酌量の上、更生の余地がある者は罪を償った後に受け入れ先を用意した方が良いと考えている」
「王宮の人事に関しては公爵派が数を伸ばしています。中立派は静観を決めていますが状況次第ではどちらに転ぶか分かりません。宰相閣下は率先して公爵と事を構える気はなさそうですね」
「……神殿は先日、公爵家から多額の喜捨を受け取りました。名目は戦争で失った神殿騎士の補充や救貧院の増設です。でも明らかに私を公爵家に嫁がせる為の賄賂で、大神官様はかなりの額を着服してます」
正直、明るい話題はあまりなかった。
公爵様は別にこの国を我が物にしたい訳じゃない。
フランプトン侯爵と違い他国と内通して王位を簒奪したい訳でもない。
ただ、この国の未来を憂いて行動しているだけだ。
ホルファート国が抱える矛盾や不条理に憤り、王家に任せられないと考えている。
その切っ掛けの一つが私達だった。
この部屋に居る全員がその事にに気付いている、二十代の未熟者達が集まって知恵を搾りやれるだけやった。
公爵様は無碍に王家の人達を処刑なさりはしないだろう。
幾つかの条件を呑めば無駄に流れる血は流す必要はないはず、この国の人々は度重なる戦争に疲弊していた。
重苦しい沈黙が部屋を包み込んでる、誰も口を開こうとはしない。
ドンッ!!
分厚い扉が叩かれた。
何事かと思ったけどおそらくはノックだ。
漸くユリウス様が訪ねて来たみたい。
全員がホッとして扉が開かれると黒い礼服を身に纏い仮面を付けた男性が入って来た。
『誰だろう?』
一瞬、誰だか分からなくて混乱する。
私とマリエさん以外の四人は身構えて席を立った。
男性は空いている席の前に立つと仮面を外す。
その顔の左側には大きな傷痕があった。
賭博場は26章と同じ建物です。
本編マリエはオリヴィアに対し塩対応ですが今作では恩人として慕っています。
オリヴィアの戦闘力については聖女アイテム無しなら並みの暴漢相手とタイマンなら制圧できるイメージ。(原作10巻などの描写+今作では実戦経験アリ
どれだけ個人として優れていても政治は根回しや交渉力が必要、20代の若者が老獪な公爵に対抗するのは難しい。
次回はリオン視点でオリヴィアや四人との会話が中心です。
リオンさん、めっ!
追記:依頼主様のリクエストで絵下手でこめね様にイラストを、馬鳥件様に挿絵イラストを描いていただきました。
ありがとうございます。
絵下手でこめね様 https://www.pixiv.net/artworks/118992472
馬鳥件様 https://skeb.jp/@eni_112234/works/6
ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。