婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第88章 Self Sacrifice

 俺の登場が意外だったのか六人は随分と驚いた様子だった。

 特にオリヴィア様とマリエはどうして俺がこの場を訪れたのか目を白黒させてる。

 逆にほとんど驚いてないのはジルクの方だ。

 まぁ、こいつはユリウス殿下の乳兄弟らしいから手紙の文面や呼び出しの仕方で勘付いてもおかしくない。

 とりあえず着席して気分を落ちつかせる、何せ救国の英雄達が殆ど揃ってると圧力が物凄い。

 一対一の何でもありな戦闘に持ち込めば俺にも勝機が微かにあるけどその状況に持ち込むのは不可能だ。

 そもそも今日の目的は戦闘じゃない、家へ五体満足のまま帰るまでが交渉です。

 

「久しぶりだなお前ら。オリヴィア様もご機嫌麗しゅう。活躍は辺境から耳にしております」

「ありがとうございます、リオン様もお元気そうで」

 

 オリヴィア様が丁寧に挨拶してくれた。

 綺麗な女の子が俺みたいな男に分け隔てなく接してくれるだけでも心が和むよ、他の五人の視線に殺気が混じるのはこの際無視。

 外套を脱いで椅子に掛ける、ここに来るまで随分と時間が押してる。

 バルトファルト領から飛行船で王都に到着したのが日が暮れるギリギリ、その後の入港審査で持ち込んだブツの説明が長引いた。

 おまけにここの入口がやたら物々しくて、建物に入るまでやたら念入りに取り調べを受けた。

 何なんだよまったく、厄日か今日は?

 

「……ユリウスはどうした?」

「殿下は今日来ない、俺が頼んで皆にここへ来てもらった」

「つまり私達を呼んだのは君か」

「その通り」

 

 グレッグとクリスが質問してきたから正直に答える。

 率直な男達は良いね、会話が進みやすい。

 

「つまりユリウス殿下の送り主はユリウス殿下ですがオリヴィア様をこんな所に招いたのはバルトファルト卿ですか」

「あぁ」

「●×□▲潰して良いですか?」

「なんでそうなるッ!?」

 

 さらっと女の子が口にしちゃいけない単語を呟いたぞこの女!

 見ろ、オリヴィア様はもちろん他の四人もドン引きじゃねえか!

 マリエは拳を鳴らしながら俺を睨みつけて来た。

 何だよこの侍女、どんな教育を受けたらこうなるんですか聖女様?

 

「どうしてまた?」

「そもそも殿下と個人的な繋がりがあるとは聞いてません」

「元々は王妃様とアンジェの個人的な繋がりだ、そこから俺と殿下が個人的な連絡を取れる連絡網を作った。使うのは今回が初めてだけどな」

「どうして殿下の名を騙って僕達を呼び出したんだい、何か裏があると思われても仕方ないよ」

「だってお前ら、俺が呼び出したら素直に来るか?」

「…………」

 

 その沈黙が答えだ、信頼が低いのはつらいよ。

 でもユリウス殿下を頼らなきゃ俺はこいつらとの連絡が取れない。

 殿下を頼るのは凄く、凄く、すご~く嫌だったけど仕方なかった。

 効果があるけど、俺としても二度とやりたくない。

 

「騙すような真似をしたのは悪かった、何せ状況が状況なんで。俺なりに悩んでお前らに協力してもらうのが一番確実って結論になった」

「だったらまずは何をするつもりか正直に話せ、急に呼び出されて巻き込まれるのは腹が立つ」

「前に俺を無理やりここへ連れ込もうとしたのはどこのどいつらだ?」

「待ってください、リオン様そんな事されたんですか?」

「一年ぐらい前ですかね、公爵邸から付け回されて襲われそうになりました」

「俺達はちゃんと話そうとしただろ!逃げ出した後に奇襲を仕掛けたのはお前の方だ!」

「だったらコソコソ尾行すんな。お前らとやり合った傷をアンジェに見られてこっちも大変だったんだぞ」

 

 最初に攻撃したのはこっちだけど大して効いてなかっただろ。

 馬鹿力で腕を掴まれて木の枝で突かれた俺の方がヤバい。

 オリヴィア様は言い争いを始めた俺達の真横で黙ったまま会話を聞いてる、何だろう聖女様の周囲の空気が淀んでるように見えるんですが。

 

ドオォン!!

 

 オリヴィア様が思いっきりテーブルを叩いた、その音を聞いて俺達は一斉に黙り込む。

 顔は笑ってる、でもよく見ると眉間に皺が寄って側頭部がピクピクしてる。

 四人のアホはオドオドして大人しくなった。

 や~い、怒られてやんの。

 

「バルトファルト卿、その御話は一旦保留します。私達を何故この場に招聘したのかお聞かせ願います」

「あっ、はい」

 

 とりあえず素直に従います、聖女様は怒らせたらヤバそうだ。

 

「俺が辺境で改革案の同意者に貰った署名は集め終わりました。論功行賞はもうすぐですし、これ以上の時間をかけても増やすのは難しいでしょう」

「私は神殿と関わり合いのある貴族、ミレーヌ妃殿下とユリウス殿下は王家派、他の皆さんも関わり合いのある貴族の方々から賛同者を募りました。それら全て妃殿下とアンジェリカ様が王宮で纏めています」

「バルトファルトとブラッドに正直に聞きたい。辺境の領主貴族で賛同した連中はどんな奴らだ」

「殆ど新興貴族か爵位の低い貴族達だね。そこそこの規模の領地を持ってたり、或いは高位貴族は首を縦に振らなかった。僕の実家のフィールド家も最終的には同意してくれたけど今でも懐疑的だ」

「ローズブレイド家が賛同してくれたけど、ぶっちゃけ俺の兄貴と向こうのお嬢様を結婚させる為の結納金みたいなもんだ。あと戦争で俺に助けられたとか個人的な繋がりがある連中」

「宮廷貴族の方はどうですか?」

「芳しくありません。そもそも戦争中にファンオース公国に内通した者、賄賂で私腹を肥やした者、淑女の森に加担した者。そうした腐敗貴族は圧倒的に宮廷貴族が多く、妃殿下や宰相によって人事が刷新されました。新任の閣僚は公爵の息が掛かった者が大半かと」

「……先日アンジェリカ様から極秘に情報を手渡されました。それによると改革案に賛同してくれた貴族は領主貴族と宮廷貴族を合わせてもホルファート王国全体の約二割程度です。口が堅く財政に詳しい貴族を選出する必要がどうしてもありましたから」

 

 オリヴィア様とアンジェが会っていたのは意外だった。

 アンジェが王都へ来た間に何か起きたのかもしれないけど、二人のおかげで会議の進行が早くて助かる。

 公爵家と王家の関係修復の為にアンジェが構想した改革案の肝は経済政策だ。

 この五年の間にファンオース公国との戦争が二度あった、その度に王国の金と命が大量に失われた。

 戦争が終わって公国を併合しました、じゃあ今すぐ復興してくださいと言われても何も無い所から何かを生み出せる訳が無い。

 荒れた領地を立て直すには多額の金と人の力が必要だ。

 何処も資金難と人材難で復興は滞りがち、そうして困ってる貴族に便宜を図ってくれるレッドグレイブ公爵家は頼りがいのある存在だ。

 そもそも俺とバルトファルト領がアンジェを嫁に貰った縁で公爵家の寄子になった。

 恩賞が滞りがちになってる王家よりも気前が良い公爵家を貴族は当てにする。

 そうして公爵家は第二の王家と言えるほどの信用を勝ち得た。

 

 ここからはアンジェの考えた改革案。

 つまり金の流通が滞っている事を利用して公爵家はデカい顔を出来る。

 なら金をじゃんじゃん作りまくってどんどん使わせれば公爵家を頼る貴族は減る。

 だからと言って無計画に金を作れば良い訳でもない。

 俺も慣れない領主仕事で散々アンジェに怒られたからよ~く分かる。

 いきなり出回る金が増えれば物の値段が高騰してヤバい事になっちまう。

 物価が高過ぎれば物が売れないし、逆に安過ぎると儲けが減る。

 もちろん金貨の鋳造や紙幣の発行はホルファート王家が独占してる。

 でも政治の達人が商売の達人だとは限らない。

 王妃様は優れた政治家だけど優先順位がどうしても王家になりがちだ。

 国の統治者である王のみが肥え太っても人口の圧倒的多数である平民が飢えるなら国として破綻するというのがアンジェの弁。

 なので王国内の金の流れを調整する機関を作って国力を回復させるのが大まかな内容だ。

 

「最低でも三割、可能なら四割の賛同者がいれば公爵も和解に応じざるを得ない状況に持ち込めた筈ですが」

「高位貴族の説得が難航したからな。俺達の実家もそうだが今の暮らしが満ち足りてるなら現状の変化を嫌がるのは人として当たり前だ。おまけに終戦からまだ一年、従来のやり方で立て直しが出来る所は博打に近い新規事業や改革に賛同しない」

「賛同者も男爵や子爵といった下位貴族が大半だ、公爵家が本気を出せば意見を容易に封じられる」

「私達の実家も今の情勢でレッドグレイブ家を敵に回したくないのが本音だろう。改革案は見送られる可能性が高い」

 

 それがこいつらが導き出した結論か。

 俺もいまいち足りない頭で必死に考えてその結論になった。

 アンジェは公爵を説得して改革案を王家に実行させる算段だ。

 だけど国の重要な政策は基本的に王族や大臣や大貴族を交えた会議で決められる。

 公爵派が着々と勢力を伸ばしてる現状じゃ提案しても棄却の可能が高い。

 アンジェは実の父親である公爵を説得できると考えてるが俺は難しいと思う。

 公爵家で甘やかされて育った訳じゃないだろうが、アンジェは娘の自分が理を説いて交渉すれば公爵は耳を傾けてくれると考えてる。

 

 だけど俺の意見少し違っていた。

 人間ってのは感情の生き物だ。

 どれだけ丁寧に説明しても理解できない馬鹿はいるし、怒りに我を忘れて冷静な判断を下せない将官を嫌ってほど見て来た。

 面白い事に頭が良かったり学生時代は優秀な奴に限ってこの傾向が強い。

 いや、笑えないし面白くないな。

 どれだけ正確な情報と基に最善手を提案しても相手が嫌いなら絶対に従わない。

 失敗した経験が無いから危険に対する意識が薄い、頭が良いからどんな無茶な条件でもいろんな理屈をこね回して実現可能に思わせる。

 どれだけ戦争中そんな上官に悩まされてきた事か。

 

 今のレッドグレイブ公爵は明らかに王家に対する不信感が強い。

 王都に来る度に公爵邸へご機嫌伺いしたけど会う度に公爵は不機嫌になってた。

 アンジェは自分の親父がそうなってる姿を見てない。

 その辺の認識の違いと父親への愛情がアンジェの認識を甘くしてる。

 寧ろアンジェが正論を説けば説くほど公爵は逆に意固地になって疑いの目を向けてきそうだ。

 そうなる前に何とか止めたい。

 俺と公爵は他人だけどアンジェにとって父親だしライオネルとアリエルには祖父だ。

 高位貴族が家督を争って親子兄弟姉妹で骨肉の争いを起こすなんて珍しい話じゃないけど自分の身内がそうなるのは御免だ。

 どうせ嫌われるなら公爵家と血の繋がりが無い俺が嫌われた方がマシだ。

 

「そんな感じで追い詰められてる諸君に提案だ。数的・質的有利が見込めない盤面をひっくり返す策を思いついた」

 

 この場に存在している十二の瞳が俺の顔を見た。

 その瞳が語ってる、『どうせろくな案じゃないだろ』って。

 まぁろくでもない案だと分かってる下手すりゃ交渉をすっ飛ばして国を二つに割る内乱へ一直線だ。

 でも無謀だって分かっててもやるしかない状況はどんな人生じゃ避けられない。

 

「まぁとりあえず聞け、聞いてから判断しろ」

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

「……どうだ?」

 

 沈黙が重い、空気が肌を刺すように冷たい。

 

「率直に言おう、馬鹿なのか貴方は?」

「いやお前、いくらなんでもそりゃ無ぇだろ」

「そんな見込みの無い作戦を頼るほど追い詰められているのかい」

「危険過ぎる、状況を改善させるよりも悪化させる可能性が高いぞ」

「何でアンジェリカ様はこの人に惚れているんでしょうね?」

「命はたった一つだけなんですよ、早まった真似は控えてください」

 

 うん、そう言われるのは分かってた。

 分かった上でお前らに相談してる。

 

「まぁ、落ち着けよ。それとボロクソに言わないでくれ、泣きたくなるから」

「言いたくもなります、どうしてこんな愚策に走るのか理解に苦しみます」

「愚策なのは俺だって分かってる。ただ案外これが一番効果あるんじゃないかと俺は思ってる」

「詳しい説明を求めます、そもそも改革案を考えたのはアンジェリカの筈。どうして妻君の立案を無碍に出来るのか。これまでの苦労を溝に捨てる行為ですよ」

「だからだよ、明らかに無謀だから効果がある」

 

 俺の意図が分からなくて全員が首を捻る。

 こいつら全員が頭が良くて強い。

 大抵の場合は正攻法で勝利できる連中だ、中途半端な強さだから頭を捻って奇策に頼る俺みたいな真似をしなくて済む。

 だから一つの敗北が全体の勝利に繋がる事に理解が及ばない、勝利の為に捨て駒を使う汚さが思い浮かばない。

 

「そもそも俺達はどうしてこの改革案を成功させようとしてる?まずそこから考え直せ」

「公爵派の権勢を削いで和解に応じさせる、その為に王国の財政を立て直しを図り貴族達の支持を集めていた。これで合ってるな?」

「そうだ。目的は王家と公爵家の和解、ぶっちゃけ改革案は手段の一つに過ぎない。俺達が改革案を採ったのは一番血が流れなくて国内の復興を視野に入れていたからだ。一旦それを取っ払って考えろ」

 

 人材の枯渇、資金の滞納、軍備の損耗、他国の介入、それらを踏まえてアンジェが考えた最善の策。

 可愛い嫁さんが必死に作った案を無碍に踏み潰した最低最悪の方法を考えろ。

 お前らはやらないだろう、公明正大で清廉潔白な英雄殿には不可能な策。

 俺は出来る、自分でも凄く嫌だけどそうしなきゃ勝てないならそっちを選ぶ。

 正しさは重要だけどそれで負けたら意味は無い。

 政治家と違って軍人に必要なのは勝つ方法を考える頭だ。

 

「明確な敵を作る、誰が見ても分かるような悪役。それを討つ為に敵対する者同士が手を組む。貴方の考えはこの辺りですか?」

「流石に悪知恵が働くな、正解だよ」

「私は私なりに最善を尽くしただけですから」

「アンジェは納得しても俺は納得してないんだよ、フランプトン侯爵に嵌められたとはいえアンジェを悪役に仕立てやがって」

 

 外道騎士リオン・フォウ・バルトファルト子爵がヴィンス・ラファ・レッドグレイブ公爵に叛意を抱いた。

 公爵家だけでなくホルファート王家にも害を為そうとした為に公爵は俺を捕縛。

 これが俺の考えた解決策だ。

 

「だからこの案を考えたのか」

「そうだ、明確な敵が現れたら対処するしかない。公爵家と王家が手を組めば被害を減らせるなら一時的にでも手を組むさ。公爵はその辺の計算はきちんとする人だからな」

「君を処断した後に再び王家と公爵家が争いを始める可能性だってあるだろう?」

「公爵派の若い奴らや新興貴族には俺に借りがあったり憧れてる奴も多い。それを見込んで公爵は俺にアンジェを嫁がせた。そんな俺を処罰すれば人を見る目が無かったと宣伝するようなもんだ。娘婿でも処罰する厳正さと受け取るか、用が無くなれば切り捨てる冷徹さと受け取るかは人による。少なくても公爵派は混乱して王家と争う処じゃなくなる」

 

 公爵は王家と争う時の手駒、そして若い貴族からの信頼を得る為に俺を利用してる。

 平民同然だった男爵家の次男坊に娘を嫁がせるぐらいの破格の待遇だ。

 そこまでやったから信頼された、逆に俺を切り捨てれば派閥の戦力は減るし若手の信頼を失う。

 そうなった時に王家と戦って勝てるかどうかは大分怪しい。

 何せ王家の側にはこいつらが居る、俺だって正面からこいつらと戦うのは御免被る。

 

「バルトファルト卿のお考えは分かりました。でもアンジェリカ様はこの事をご承知なのですか?」

「アンジェは何も知らない、これは俺の独断だ」

「でしょうね、この策を知られたら激怒なさってお止めになるに違いありません」

「この策にアンジェが関わらせれば公爵はバルトファルト家全員を処罰するだろうな、実の娘はもちろん孫も対象になる。それだけはどうしても避けたい」

「だから黙っているつもりですか?」

「戦に強いだけの成り上がり者が勘違いして公爵の地位を狙った。外道騎士ならやりかねないだろ」

「バルトファルト家は取り潰されますよ」

「関与が見受けられず罪が無い娘と孫を処刑するほどじゃない。俺を幽閉して孫をに引き継がせるか、それとも公爵家に引き取るか。どっちにしろ命だけは助かる可能性が高いと踏んでる」

 

 領地経営がある程度軌道に乗ったバルトファルト領をわざわざ取り潰して王家直轄領に戻すより自分の孫を領主に据える方が都合が良い。

 領地経営についてはアンジェの方が俺より遥か上だ。

 男子一人、女子一人にこれから生まれる赤ん坊を加えれば後継者問題で困る事も無い。

 家族の皆だってバルトファルト家は元々平民と大差ない暮らしをしていたから、爵位は剥奪されても十分にやっていける。

 兄さんとドロテアさんの縁談が駄目になるのは申し訳ないけど。

 

「だけどやるからには芝居と分かっちゃマズい。本気で企んでると思わせる必要がある。実行するには腕利きが必要だが傭兵は信用できない。ならお前達が打ってつけと考えた」

「ユリウスを呼ばなかったのはどうしてだ?」

「だってあの人目立ちたがりだろ、誘拐事件の時も陣頭指揮を執ろうとしてたし」

 

 皆が一斉に気まずそうにしてる。

 どうやらあの王子様、今まで何度もやらかしたらしい。

 

「それに俺の策を王族が事前に知ってたと思われたら罠に嵌められて和解したと公爵は考える、それは避けたい」

「そこまで徹底する訳か」

「ただ、協力は俺個人のお願いだ。失敗したらお前らは当然だけど実家にも迷惑がかかる。だから強制はしない」

 

 こいつらにはファンオース公国との戦争で随分と助けられたし、誘拐事件でアンジェ達が無事だったのは感謝してもし足りなかった。

 俺の無茶な策に乗って貰おうと厚かましい事は考えちゃいない。

 いざとなったら俺一人でも作戦を実行するつもりだ。

 

「俺は参加するぜ」

 

 真っ先にグレッグが参加を表明した。

 

「コソコソしてるのは性に合わん。バルトファルトに協力した方が面白そうだし」

「面白そうで選ぶなよ」

「僕もだ」

 

 次にブラッドが続く。

 

「此処で退いたら覚悟で君に負けてしまう。それは僕の誇りが許さない。何より美しくない」

「誰と、何と争ってんだお前は」

「私もやるぞ」

 

 お次はクリスが来た。

 

「バルトファルトの提案全てに共感した訳ではないがレッドグレイブ公爵の横暴は目に余る。王国の秩序を護る為にも挑む価値はある」

「それでもありがたい、感謝する」

「…………」

「おい、後はお前だけだぞ」

「この期に及んで逃げるのかい?」

「まぁ姑息なジルクには無理か」

「黙りなさい貴方達!!」

 

 三人にからかわれてジルクがキレた。

 ぶっちゃけ本人が希望しないなら俺は無理とは言わないけど。

 

「あまりにも杜撰な計画です、これでは成功する物も成功しません」

「自覚してる」

「なら資料を渡しなさい、修正して可能な限り成功率を上げます」

「素直じゃないなお前」

「うるさい!」

 

 男は四人全員が参加した、残るのはオリヴィア様だけだ。

 本心を言えばオリヴィア様の参加は危険だ、彼女は余りにも影響力が強過ぎる。

 神殿のお偉いさん方はオリヴィア様をギルバートさんの結婚に協力的らしいが、もしオリヴィア様が参加すれば明確に聖女様が公爵家と反目してる事になりかねなかった。

 ただでさえ先が読み切れない盤面に神殿やオリヴィア様を個人的に慕う連中まで混ざったら誰にも予想が出来ない。

 

「……私は参加できません。大神官様を筆頭に上層部は公爵家と懇意ですが、あくまで現状で優勢だからです。もし王家が優勢になれば即座に切り替える筈です。何より神殿の聖女として争いを助長するような真似は出来ません」

「……その通りです、ご協力していただけなくても恨みません」

「でも私個人が無理でも御付きの女官がいつの間にか居なくなっても、それは私の監督不行き届きで公爵家と不仲になった訳じゃありません」

「え~と、つまり?」

「マリエさん」

「はい、オリヴィア様」

「バルトファルト卿に協力して差し上げて」

「聖女の御心のままに」

 

 どうやらオリヴィア様でなくマリエが参加してくれるようだ。

 とりあえず作戦の目途はついた、後は可能な限り細かい調整をこの場でやる。

 時計の長針が二周するまで作戦会議は続いた。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

「リオン様、其処に座ってください」

 

 会議が一通り終わって男四人が帰った後、何故かオリヴィア様に引き留められ部屋に残された。

 何事かと呑気に構えていたらオリヴィア様は露骨に不機嫌な態度で俺に指示する。

 訳が分からずマリエに助けを求めるがマリエも何か睨んで来る。

 確かにユリウス殿下の名前で呼び出したのは悪かったけど、ここまで怒られるような事したか?

 そもそも神殿から抜け出すのはかなり難しい筈だ、早く戻らないとヤバいんじゃ?

 怯えて座る俺の前にオリヴィア様が巨木のように佇む。

 ちょっと場所を変えてくれませんか?

 椅子に座ると聖女様の大きなオッパイが目の前に来るんです。

 いや、俺が一番好きなオッパイはアンジェのオッパイなんです。

 でも若い男に美人さんのオッパイをチラ見するなというのは無理があります。

 これは本能に刻まれた行動だから自制した難いんです。

 

 そんな俺の頭をオリヴィアの拳が小突いた。

 痛みは大した事ないが流石に聖女様直々に殴られると心が痛む。

 すいません、今度からは気をつけます。

 

「リオン様、『メッ!』ですよ」

「すいません、出来心なんで勘弁してくれるとありがたいんです」

「出来心であんな作戦を立てるんですか?」

「え?あ、あぁそっちですか。騙すような真似をして申し訳ありません」

 

 どうやらオリヴィア様にはバレなかったようだ、マリエの冷たい視線はこの際無視。

 

「先日、アンジェリカ様と神殿でお会いしました」

「みたいですね、うちの嫁がお手数をおかけして申し訳ありません」

「皆さんの迷いを聞くのも聖女の仕事です。でもアレはないと思います」

「アレとは?」

「御自分を犠牲にするような作戦です、アンジェリカ様に相談も無しにどうしてあんな事を考えるんですか?」

 

 どうやらオリヴィア様は俺がアンジェに内緒で暗躍している事にご不満な様子。

 上手く誤魔化そうにもこの人は俺の数倍賢い、言い訳は無理だ。

 

「俺なりにこの数ヶ月間は出来るだけの事をしました。だけど思うような成果は出せません。俺はどこまで行っても兵士で軍人です。もし平和になったらアンジェ以上に領地を上手く差配できるとは思えないんです」

「だからわざと自分を犠牲にするような作戦を立てた、そう仰りたいのでしょうか?」

「貴族教育なんて受けちゃいません。むしろ人殺しの俺よりもアンジェの血を継いだ息子の方が見込みがあるように思えるんです」

「……アンジェリカ様がそれを納得すると本気で思っているんですか?」

「分かりません。どうすればアンジェが喜ぶか、何をすれば我が子に残せる物を増やせるか。最近はそんな事ばかり考えてるんです」

「はぁ~っ。アンジェリカ様と同じことを仰るんですね」

「アンジェが?」

 

 そこまでアンジェとオリヴィア様が話し合うとは意外だ。

 アンジェはオリヴィア様に対して複雑な感情を抱いているのは知ってる、とてもじゃないが腹を割って話し合う関係とは思えない。

 

「自分がリオン様の妻に相応しいのかとか、私やマリエさんの方がリオン様に相応しいとか。そんな事ばかり仰ってました」

「アンジェがそんな事を」

「明日、……既に今日ですがきちんとアンジェリカ様と話し合ってください」

「はい」

「声が小さいですよ」

「はいッ!」

「よろしい、ではお帰りください」

 

 オリヴィア様が扉を差し示したので大人しく従う。

 分厚い扉を開けるのは一苦労だ。

 

「どうして男って好きな女の前でカッコつけたがるんでしょうね」

「分からないなぁ、恋した経験なんて殆ど無いから」

「結局自己満足なんですよ、男が思ってるほど女は弱くありませんから」

「あれだけ仲良いのにお互いに擦れ違ってるとか笑い話にもならないね」

「自慢、自慢か、自慢ですか!?何ですかあの夫婦、お互いが居ない所で惚気やがって!」

「無自覚だから質悪いよね」

「聞こえてますよ!」

 

 何か聖女様と女官がその辺の女の子みたいな会話してるので警告する。

 この国の未来が少し不安になった。




リオン視点の作戦会議、原作でも自己犠牲で状況悪化させるのがリオンなので。
アンジェの改革案の概要がありますが、細かい部分はもう少し先まで秘密です。
今作リオンはルクシオンが居ない分5馬鹿の力を認めています。
次回は夫婦合流後の休息回の予定。

追記:依頼主様のご依頼でドータン様に今章のオリヴィア様のイメージをイラスト化して頂きました、ありがとうございます。

ドータン様 https://www.pixiv.net/artworks/unlisted/UeQcvs7dQMdzBgDu5LSq(pixiv限定公開注意

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。


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