婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第9章 公爵令嬢の病は温泉でも治せない

 貴方が望むなら 私は皆を幸せにしよう

 貴方が望むなら 私は世界を業火で焼こう

 貴方の幸せは 私の喜び

 貴方の悲しみは 私の怒り

 貴方こそが私の全て 私の大事な愛しい人

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた。

嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた。

嫌われた、嫌われた、嫌われた、嫌われた、絶対に嫌われた。

 

 落成式の夜以降、私とリオンの関係がギクシャクし始めた。

 あんな事を言われたら嫌になって当然だ。

 私はいつも致命的な間違いを犯した後に必要だった物に気付く。

 自分の醜さを曝け出した後に恋心に気付くとは愚か過ぎる。

 

 これが世間一般でいう初恋という物なのか。

 ならばユリウス殿下が聖女を邪険にした私を厭う気も理解出来る。

 私だってリオンが罵られたら相手を殴り倒している。

 リオンと共に居たいという想いばかりが募る。

 

 だが私は己の最も醜い姿を彼に晒してしまった。

 もう二度と前の関係に戻れない。

 リオンと共に居たい。リオンに嫌われるのが怖いので近づきたくない。

 相反する感情が私の心を苛み続ける。私はひどく臆病になってしまった。

 こんなに辛いのなら気付かなければ良かった。時を戻せるなら出会う前からやり直したい。

 

 夜になるとそんな事を考え続け涙で枕を濡らした。

 それでも朝はやってくる。腫れた目元を化粧で隠し何事も無かったように仕事を熟す。

 取り繕う事だけは異様に上手い自分が嫌いになる。

 傷付きたくないからどうしてもリオンと距離が取ってしまう。それなのにリオンが傍に居ないと不安になる。

 そうしてまた泣いて過ごす夜が訪れた。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 泣けば否が応でも顔が汚れるし喉が渇く。

 洗面所へ赴き顔を洗いキッチンで水を飲む。

 真夜中の冷たい空気が肌を刺す。

 少しでも寝なくては明日の仕事に支障が出てしまう。

 

 私の部屋に戻る最中、リオンの部屋の前で足が止まる。

 今日もろくにリオンと話が出来なかった。これまであんなに軽口を叩き合ってたのに今ではろくに口もきけない。

 一目リオンの姿を見てから眠りにつこう。彼と私が幸せだった頃の幸せ夢を見られるように。

 そう考えて音を立てないように扉を開ける。リオンはベッドの上に横たわっていた。

 たった一目見れたらそれで満足だったのに。部屋に戻ろうと私の足が動き出す事はなかった。

 

「何かあったのか?」

 

 目を開いたリオンが私を見つめる。この様子だと部屋に入った時点で気付かれたらしい。

 

「すまない、起こしてしまったか。すぐに部屋に戻るから安心しろ」

 

 部屋を出ようときびすを返そうとする。その動きが途中で止まる。振り返るとリオンが私の手を固く握っていた。

 

「ここ数日おかしいぞ。何をしてもずっとうわの空だ。どこか悪いのか?」

 

 悪いと言えば悪いのだろう。

 

「すまない、心配をかけた。明日からは元通りにするから」

「そういう事を言ってんじゃないよ」

 

 リオンの手に力が入る。振り解いて部屋に戻るのは不可能に近い。

 

「落成式の夜からずっとおかしいぞ。やっぱり何かあったんだろ?」

 

 あるにはあった。でも、それは私一人の問題だ。リオンの責任じゃない。

 

「本当の事を話してくれ。アンジェはいつも俺を助けてくれただろ?お互いを助け合うのはビジネスパートナーだって言ってたじゃないか」

 

 本当に私は彼に心配をかけてばかりだ。

 同時にビジネスパートナーという言葉がつらい。婚約者と言ってもお互いの利害が一致しただけの関係。

 私とリオンを繋ぐのが単なる損得という事実に耐えられない。

 

「別れようリオン」

 

 もうダメだ。リオンの側にいるほど心が痛む。

 

「原因は私の過失だからバルトファルト家に迷惑はかけない。賠償金も払う。もちろん融資の契約は継続して…」

「馬鹿な事を言うな!」

 

 怒られた。リオンに怒られた。その事実だけが頭の中に残る。

 

「なぁ、本当にどうしたんだよ?アンジェが悩んでるなら助けになるから。だから泣くなよ」

 

 いつの間にか泣いていた。何で私はいつも彼の前で弱い姿を晒してしまうのか。

 

「だって…!だって私が居たらリオンは幸せになれない!」

 

 あとはもう感情の思うがまま思い浮かんだ言葉を口にしていた。

 

「私がいたらリオンはすぐ隠居できない!ずっと領主をやるしかなくなる!リオンが嫌がる事を無理にさせたくない!でもレッドグレイブ家との契約があるからリオンは逆らえない!だから私がいなければリオンは自由になれる!リオンが好きだから悲しんで欲しくない!リオンがつらい姿をこれ以上見たくない!」

 

 我儘な子供が駄々をこねるみたいに泣き喚く。

 突然の出来事にリオンは目を白黒させるしかなかった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

「え~と、つまりアンジェは俺が好き?」

 

 コクンと頷く。何かを口に出したらまた感情が抑えきれない。

 

「で、俺が嫌々と領主してるのが可哀想だと思ったって事?」

 

 再度頷く。

 

「だから婚約破棄するって言いたいの?」

 

 もう一度頷く。

 

「なに?その馬鹿な三段論法」

「リオンに馬鹿って言われた~っ!!もうやだ~っ!!レッドグレイブ家に帰る~っ!!」

「頼むから泣くなって!」

「怒られた~っ!!絶対に嫌われた~っ!!」

「あぁ、もう俺が悪かったよ!!」

「ふぇ~~ん!!」

 

 幼児が慰められるように抱かれ頭を撫でられる。その感触と温かさすら愛おしい。

 何も言われず数分間抱きしめられて漸く心が落ち着いた。

 もうこれ以上の醜態は存在しないだろう。なら私の本心を告げよう。それで嫌われるのなら潔く諦めて王都に帰ろう。

 この失恋を糧にして生きるならそれも悪くはない。

 

「私はリオンを愛してる。いつ好きになったかは自分でも分からない。自覚したのは落成式の夜だ」

 

 一つ一つゆっくりと真実だけを告げる。

 

「リオンの望みはさっさと領主を引退し隠居生活を送る事。だが領地の経営が安定するまで引退は不可能だ。レッドグレイブ家から融資を受けた以上は契約の履行義務も発生する。どうしても引退する時期が遠のく」

「だから婚約破棄しようって思ったの?」

「そうだ。私の一方的な過失ならレッドグレイブ家も譲歩せざる得ない。場合によっては慰謝料も発生する。何より私という存在にリオンが縛られず自由になれる」

「何とまぁ…」

 

 リオンは心底呆れた表情で私を見た。

 

「アンジェって実はかなり残念な女の子なんだな」

「すまない、気が動転していた」

 

 思い返しても恥ずかしくて死にそうだ。一生分の恥をかいた気がする。

 

「で、アンジェは俺と婚約破棄したいの?」

 

 首を思いっきり左右に振る。

 

「私はリオンを愛してる。これから共に生きて支え合いたいと思っている。リオンが幸せになれるのならどんな苦労もしてみせる」

 

 真っ直ぐに、飾る事なく、偽る事なく、本心から私の愛を告げる。

 

「でも私が傍にいてリオンがつらい思いをするのは嫌だ。お前の幸せの為なら私の感情など無視して構わない。もし他に好き女がいるなら妾にしても良い」

「俺と親しい女なんて家族とアンジェしかいないじゃん」

「だって私達は政略で婚約したんだぞ」

「切っ掛けはそうでもお互いを好きになれば問題ないんじゃ?」

「自分で言うのもなんだが人目を惹く外見だし」

「別に美人が嫌いって訳じゃない」

「性格もキツくて可愛げが無い」

「まぁ、俺みたいな根性無しにはちょうど良い塩梅だと思うぞ」

「せいぜい胸が大きい程度しかリオンの好みに合ってない」

「すいません、俺の愚かな願望についてはすぐに忘れていただけますか」

 

 そう言ってリオンは頭を下げた。

 

「逆に聞くけどさ、アンジェは俺の何処が好きなの?」

「全部」

 

 私は即答する。

 

「口は悪いけど本当は優しい所、文句は多いけど絶対に逃げ出さない所、わざと軽薄な振りをして空気を和ませる所。他には」

「うん、もう黙って欲しいかな」

 

 リオンはそう言って頭を抱えた。まだまだ言い足りないのに。

 

「結婚するならリオンが良い。他の男じゃダメだ。リオンが私を嫌いでも傍に置いて欲しい」

 

 ついにリオンはベッドの上で身悶えし始めた。大丈夫かリオン?

 何とか持ち直したリオンは顔を赤く染めながら私の手を握る。

 

「じゃあさ、俺が何をすればアンジェは納得するの?」

「分からない。自分でも分からないんだ」

 

 リオンが幸せである事。それが私の願い。

 だけど、私が何をすればリオンが幸せになれるか分からない。

 戸惑う私の背にリオンの手が回された。

 

「アンジェは俺を幸せにしてくれたよ」

 

 そう言ってリオンは私を抱き優しく抱きしめる。

 

「アンジェが来てくれたから俺は絶望から救われたんだ」

 

 その声はどこまでも優しかった。

 

「戦争で死に損なって何の為に生き残ったか分からなかった。欲しくもない爵位とやりたくもない領主を与えられた。心が壊れたままで俺は一人で孤独に死ぬとずっと怯えてた。だけどアンジェが来てくれた」

 

 私の顔をリオンが撫でる。

 

「どうしたら良いか分からなかった俺を導いてくれた。だから、もう少しだけ生きてみようと希望を持てたんだ。この命はアンジェのおかげで今も存在してる。だから俺の命はアンジェの為にあるんだと思う」

「だからと言って私の為に死のうとしないで欲しい」

 

 リオンはひどく利他的だ。他人の為に犠牲になりかねない。

 

「それじゃアンジェは俺を幸せにしてくれ。俺もアンジェを幸せにするから」

「分かった、私が必ずお前を幸せにしてみせる」

 

 そう言うとリオンの顔が近づいてくる。いや、私がリオンの顔に近づいているのか。

 ゆっくりと唇が重なった。時間をかけてたっぷりと愛情を込めたキス。

 ある種の確信が私の中に舞い降りた。

 きっと私はリオンと出会う為に生まれて来た。

 私の人生で一番幸せな瞬間だった。




気の強い女性が好きな男性の前で弱くなる姿は好きですか?
私は大好きです(隙自語。
強気のアンジェさんがリオンに告白するか、弱気のアンジェさんがリオンに告白されるか。
どちらにするかで後者を選択しお互いに告白する流れとしました。
本編を読むとアンジェさんは恋をして弱くなるタイプなのでこの方が良いと思いました。
逆に「さっさとアンジェさんを慰めろ(意訳」するリビアさん凄え。
あとモブせか幼稚園を読んで小さいアンジェちゃん可愛いから言動を幼児退行させて泣かせたのは此処だけの秘密だ(オイ。
二人は幸せなキスをして終了?もう一章あるので最後までお付き合いください。
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