婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです 作:品☆美
「どんな技術だよコレ?似たようなもんは俺達の国にもあるけどさ」
『単純な電気信号の送受信です。小型化については衰退した新人類の技術でも十分に可能かと』
「いちいち言い方がムカつく野郎だなお前」
『新人類に対し礼を尽くすのは私の
「もういい、お前と話してると疲れる」
『これは失礼、会話をするのは久々なので。例え相手が新人類であっても情報収集の効率を優先すべきと判断しました』
「頼むから口を閉じろ」
『私には口唇が存在しませんからそれは不可能です』
「揚げ足を取るな」
『足もありません』
「もうお前とは口を利かねぇ」
こいつと会話してると本当に疲れる。
ただでさえ金属球が頭の周りをウロチョロ浮かんでるのは神経に障るのにお喋りときたもんだ。
体の傷が癒えてないのに精神まで疲弊してたら屋敷に帰る前に過労で死んじまう。
とりあえず写真機を使って施設の中を撮影しまくる。
上手く出来たかは分からないが、それが逆に相手の不安を煽るなら儲けものだ。
命を賭けて得た物は数枚の写真、よく分からないこの世界の真実、そしてちょっとした小道具。
情報は慎重に扱ないとヤバいし小道具も代用が可能、写真だって現像すりゃ偽装そうな物かもしれない。
小心者の俺が関わるべきじゃなかったかな?と今更ながらに思う。
まぁいいさ、どんな物の使う奴のやり方次第だ。
『……貴方が私の存在を新人類に知らしめるのならば、この場で抹殺しなけばなりません』
「またやんのかよ」
『消耗した貴方を処理するのは容易い事です。それこそ施設の損害を無視すれば砲撃で肉体を蒸発させられます』
「お前が世界を滅ぼさないなら喧嘩を売るつもりは無い。そもそも、うちの国の全戦力を集めてお前に勝てると思い上がるほど頭が悪くないつもりだ」
『ではリオン・フォウ・バルトファルト、貴方の行動目的を述べてください』
「そんなの決まってんだろ」
俺の欲しい物は昔から決まってる。
「愛と平和だよ」
ゆっくり体を起こして細かく体を揺らし動きを確かめる。
戦場で培った習慣か、それとも俺の臆病さが原因か。
不安があるとやたら眠りが浅くて困る。
敵に襲われて熟睡してたら永遠の眠りになっちまう。
人間は眠りが深い時と浅い時を数時間ごとに繰り返す。
十日ぶりにアンジェと一緒のベッドで寝てるのに深夜に起きなきゃいけないのがつらい。
アンジェの柔らかい体を抱き枕にして朝までぐっすり寝るぐらいの贅沢が許されても罰は当たらないのに。
欠伸を噛み殺しながら隣で寝てるアンジェから体を離す。
そっと気付かれないようアンジェの手首を握って、もう片方の手を口元に近づけた。
手の平に感じるアンジェの呼吸と脈拍を簡単に測る。
人間は寝ている時に息がゆっくりになって脈拍が減少するのは避けられない生理反応だ。
どれだけ上手く寝たふりをしてもそこまで誤魔化せる奴に今まで会った事は無い。
戦場で負傷した仲間の安否を確認したり、死を偽装する敵兵の証明としては慣れ親しんだやり方だった。
どうやら本当に寝てるらしい。
今回みたいに夫婦揃って面倒事の解決に奔走するのは初めてだ。
飯を食って入浴して寝る前までずっと話し合っていたせいでろくに夫婦の時間が取れなかったぞ。
書類は纏まって幾つか見つかった改善点の修正が出来たけれども脳みその消耗が半端ない。
アンジェは緊張が解れたのか会話もせずに眠りに落ちた。
俺も約束の時刻まで寝るつもりだったがいまいち眠りが浅くて疲れが取れない。
時間はそのまま無情に流れて気が付けばもうすぐ約束の時刻。
寝ていても妊娠しても艶っぽいアンジェをベッドに残し、気付かれないよう音を立てずに部屋を抜け出す。
飛行船の乗降口の途中にある更衣室で寝巻の上にコートを羽織り外に出た。
何人かの船員が俺の姿を確認して敬礼する。
今回の王都来訪に同行させてる連中は口が堅い連中を俺自ら選抜した。
アンジェに内緒の計画だから気取られないように振舞えるのが同行の最低条件だ。
そうして選ばれた奴らも計画の全容は知らない。
知っているのはこれからどんな奴らが来るか、明日もしもの事態が起こったらどうするかだけ。
俺の道連れにするつもりはない、計画が失敗したら俺の命で部下の命を保証してもらう以外にない。
そろそろ時間だ。
ジッと目を凝らすと空港の魔力灯で照らされうちの飛行船に何人かの人影が見えた。
空港には遠方から王都を訪れた他の貴族の飛行船があるのに迷わず近づいて来る。
こんな深夜にうちの飛行船を訪ねてくる奴は計画の協力者だけだ。
人影は全部で五人、どうやら賭博場に居た奴らは一人を除いてやる気満々らしいな。
部下に指示を出して飛行船の中に戻る、向かうのは格納庫近くの部屋だ。
普段は倉庫みたいになってるけど、今日の為にテーブルやらソファーやらを詰め込んで簡易宿程度には居住性を確保してある。
入室したのは五人、グレッグ、クリス、ブラッド、ジルク、そしてマリエと賭博場で誘った奴らが勢揃いだ。
「マジか、誰か一人ぐらい躊躇って不参加になると思ってたんだぞ」
「誘っておいてそれはないだろ」
「こんな計画を持ちかける人に言われたくありませんね」
全員が俺に対する罵声を吐くのを手を振って制す。
アンジェが寝ている部屋までこいつらの声は届かないだろうけど念の為だ。
元々が成功率が低い計画だ、此処で揉めて更に失敗の可能性が増えるのは避けたい。
「さて、うちの飛行船へいらっしゃいませ英雄殿。今日は俺の計画に賛同いただき誠にありがとうございます」
「挨拶は良い、君の名演説を聞くつもりもない」
「とっとと説明しろ」
なんだよ、ノリが悪いな。
上司から命じられた無茶な作戦に怖気づく王国軍やバルトファルト領の兵を言葉を使って煽るのが俺の流儀なのに。
こいつらホルファート王国の若い連中じゃ最上位の連中だから俺の言葉になかなか惑わされない。
頼りがいはあるだけど性格が強烈で扱い難い事この上ない。
オリヴィア様はどんなやり方でこいつらを宥めてんだろ、次会ったら聞いておこう。
「計画は四段階、まず最初にアンジェの改革案を持ちかけて公爵の説得を試みる」
「勝算はどの程度だ?」
「アンジェ自身は五割って言ってるけど俺は怪しいと思ってる。良くて三割と四割の間かな」
「先日アンジェリカ様と話し合って改革案を修正すると聞き及んでいますが」
「そもそも王妃様とアンジェが話し合って計画したもんだぞ。近隣国の細かい動きや改革案の賛同者が増加も考慮したけどぶっちゃけ誤差。いろんな欄に記入してある数値がちょっと変わったぐらいだ」
王国の実質的な支配者の王妃様と次期王妃として教育されてきたアンジェが立案して、さらに宰相や大臣にも見てもらって問題点を洗い出してあった。
過去の蟠りを捨ててホルファート王家とレッドグレイブ家が手を取り合い国を復興させよう。
その為に王家が考えた復興案を公爵家に提出し助力を求める。
理路整然と公爵を説得して素直に賛同してくれるのが一番良いに決まってるだろ。
だけど正論で解決するなら戦争は起きません。
むしろえらい奴らが感情に流されて途轍もないバカをやらかすのが現実だ。
俺とアンジェが婚約する前、ファンオース公国との休戦が決まった辺りから王家は公爵家に和解工作を仕掛けてる。
それを全部突っ撥ねたのが公爵だ。
信頼を得るのはとても難しいけど失うのはあっという間だ。
今の公爵は王家に対して反骨心バリバリで話し合いの場なんて持とうとしてない。
まぁ『悪いのは公爵家を罠にはめたフランプトン侯爵とその一派、王家は騙されただけ』みたいに上から目線の言い訳してるから当然なんだけど。
いや、王家が臣下の公爵家に対して大っぴらに頭を下げるのは面子が丸潰れなのは分かるよ。
でもズルズルと謝罪を渋ってたせいで王家が弱体化が歯止めが掛からないのも仕方ないじゃん。
公爵があそこまで強硬な姿勢になったのは王家の対応に問題があり過ぎたせいだ、俺だって正直味方したくない。
「だからあの人は王妃様とアンジェに内緒でこんな事を企むんだよ」
「妃殿下とアンジェリカは知っているのか?」
「知ってたら全力で止めるだろ、でも一度言い出したら聞かないじゃん」
「だからややこしい状況なっているんです。我々が貴方に協力しているのも彼に累が及ばないようにする為です」
「それを世間じゃ自業自得って言うんだぞ」
「重々承知してるよ、彼も僕らも」
「意外なのはお前の方からこんな計画を持ち込んだ事だ、何を企ててるバルトファルト?」
「決まってんだろ、愛と平和の為だ」
「……もっと上手い嘘を吐け」
失敬な奴らだな、俺はいつも本音を語ってるぞ。
芝居がかった大仰な仕草は弱気で迷ってる連中を鼓舞するために無理してやってんだ。
おかげで外道騎士だの戦争好きだの狂犬と陰口を叩かれる。
俺ほど真面目で誠実に生きてる奴は珍しい筈なのに世間の評価は逆。
神様のバカ野郎、滅んじまえ世界。
「俺の夢は昔から決まってんの。優しくて胸の大きな女の子と夫婦になって畑を耕しながら悠々自適な生活を送りたいだけ」
「それ、私に対する嫌味ですか?」
「マリエは性格キツいし胸も無いだろ」
「セクハラッ!セクハラされました!リオン様は最低な男ですね!」
「どう考えても俺の好みからお前は外れてる、自意識過剰だ」
「待ちたまえ、それなら心優しく美しいオリヴィアに対し君も好意を持っていると?」
「話を混ぜっ返すな、聖女様と釣り合うなんて畏れ多い事を考えるほど驕ってないから」
優しいオリヴィア様は確かに素敵な人だけど嫁にしたいかと考えると微妙だ。
あの人が平民のままで男爵家から離れた俺が平民として出会ったら違ったかもしれないけど。
でも今の俺は貴族なもんで、領地や領民の事を最優先で考えなきゃいけない。
文句を垂れて渋々と領主様をしてる情けない俺は尻を蹴っ飛ばして適度に褒めてくれるアンジェを選ぶ。
アンジェはオッパイ大きいし、ちょっと怖いけど優しいし、オッパイ大きいし。
「あの人が謝罪しても公爵は手を弛めないし、油を注ぐ結果になる可能性が高い。だからって王妃様やアンジェが理屈で説き伏せてようとしたら意固地になる。言葉の説得が無理なら力で講和した方が勝算がある」
「お前が相手でもそれは同じだろ」
「俺を排除すれば公爵派の手勢は減る。アンジェを結婚させて俺を個人的に慕う若い連中を取り込む目的の政略結婚だ。俺を排除しようとすれば少なからず公爵派に動揺が走る。公爵にとっちゃ避けたい展開だ」
「無事で済むと思っているのかい?」
「命までは奪わないだろうな。軽くて謹慎か幽閉、重くて爵位の剥奪か領地の没収ぐらいかと踏んでる」
反抗した俺を潰せてもアンジェや子供達まで処罰は出来ない。
寛容で慈悲深いレッドグレイブ公爵家が悪逆非道なホルファート王家を打ち倒し聖女を味方に付けて新たな王家になる。
新王朝が出来た後に功臣や能臣を粛清するのが歴史のお約束だとはアンジェの談。
わざわざ自分で評判を落とすような真似を公爵は出来ない。
少なくても王家を討つまでは無理だ。
「でも明日、というか今日の会談で殺されはしなくても拘束されるかもしれない。アンジェは手加減されるけど俺とあの人に遠慮はしないだろうな。王家との交渉材料にされても困るし」
「だから私達に協力を要請した訳ですね」
「俺の為に命は張れなくても、あの人の為ならお前らはバカな真似をやってのけるだろ」
「かなり語弊があるぞ、聞き流してやるが」
「そりゃどうも。俺はお前らの実力に関しては信用してる」
部屋の隅に置いてある机の引き出しからある物を取り出してテーブルの上に広げる。
何度も修正した跡が残ってる俺が手描きした公爵家の見取り図だ。
流石は王国で二番目に偉い領主貴族の屋敷だ、庭園や温室はもちろん飛行船が停泊する専用の空港まで完備している。
これだけ屋敷がデカければ監視の目も当然キツくなるもんだけど俺は公爵の娘婿だ。
多少はナメられてるけど忖度もされてる、おまけにアンジェが同行して屋敷を訪ねるからどうしても確認が甘くなる。
「情けないけどバルトファルト領で使ってるエアバイクや鎧の多くは公爵家からの払い下げだ。ちょっと偽装すれば傍から見ても判別が難しい。多少の時間稼ぎは出来る」
「会談の場所は?」
「ここだ」
ペンで丸を囲んだのはちょっと裕福な平民の家ぐらい広い応接室だ。
デカい窓から庭園を見下ろせる位置にあって日当たり良好。
窓の外はバルコニーになっていてエアバイクの離着陸さえ出来る広さ。
「確認しておくが、あくまで説得が困難だと判断した時に公爵を脅すだけだ。どんな事があっても殺すな」
「武器を使用しないと制圧は厳しいよ」
「訓練用の銃と非殺傷弾を用意してある。素手ならお前らに勝てる奴はこの国に居ないだろ」
「俺達の技量に期待し過ぎだ、相手に傷を負わせず制圧って高等技術だぞ」
「無茶なのは分かってる。でもこんな状況になったのはお前らにも責任がある、死ぬ気でやれ」
「応接室に来たら公爵様を拘束すれば良いんですか?」
物騒な事を呟くマリエが怖い。
見た目は可愛い少女の癖にやたらと過激な事を口走るから他の奴らが呟くより凄味がある。
「私、エアバイクなんて操縦できませんよ」
「他の奴に乗せてもらえ、公爵の説得が無理だと思ったらアンジェとあの人を回収して逃げろ」
「お前はどうするつもりだ?」
「俺はその場に残る」
ここまでの事を仕出かして誰も責任を取らない訳にはいかないだろ。
悔しいがこいつらは国を救った英雄だ。
戦術はともかく戦闘じゃこの国で敵う奴は居ないし、みんな良い家のお坊ちゃんで頭が良いし人望もある。
王家と公爵家のどっちが勝っても成り上がり者の俺より必要とされる奴らをつき合わせる必要はない。
「お前、一人で殿軍を努める気なのか?」
「俺はギリギリまで公爵の説得を続ける、お前らが逃げ切れるまでの時間を稼ぐ。だから必ずアンジェを逃がせ」
「またリオン様はそんな事を言って、先日もオリヴィア様にお説教されたのをもう忘れたんですか?」
「忘れてねえよ、理解した上で一番確率が高くて犠牲が少ない方法を選んでる」
「普通は自分と仲間が生き残る策を考える、なのにお前はいつも危険に身を晒す作戦を立てる」
「そもそも君は本当に平和を望んでいるのか?」
いつも嫌みったらしい薄ら笑い浮かべてるジルクがどうした訳か真剣な顔をして俺を見つめる。
俺は平和を望んでいる、それは間違いない。
この糞ったれてる世界が争いに満ちてるから、争いを止める為に争わなきゃいけなくなる。
さっさと貴族の立場とか領主の地位とか欲しい奴に譲って穏やかな人生を送りたい。
なのにホルファート王国とファンオース公国は戦争を始める。
戦争が一段落したらホルファート王家とレッドグレイブ公爵家が諍いを始め、しばらくしたらアルゼル共和国で内乱が起こった。
それが落ち着いたと思ったらファンオース公国が再侵攻してきた上に、終戦後は王家と公爵家の争いに神殿が介入してくる。
おまけにラーシェル神聖王国やヴォルデノワ神聖魔法帝国まできな臭くなって平和な時代なんてこの数年間ほとんど無い。
凡人で運良く貴族になっちまった俺には生きるのがつらい世界だ。
別世界で王様になった俺はきっと大した男なんだろう、
公国も神聖王国も帝国も平らげて凄い数の嫁さんを囲うなんて俺には無理。
争いを起こしそうな奴を脅して未然に防ぐのが精々だ。
「俺のやりたい事と出来る事が食い違い過ぎるってだけだ。貧乏貴族の三男坊として育って平民になる筈だったのに今じゃ子爵様だ。いっそ何かしくじって爵位を剥奪された方が気楽に生きられる」
「自棄になって成功する作戦は無いぞ」
「分かってるよ、ただお前らが捕まれば確実に王家と公爵家がぶつかる羽目になる。でも俺がわざと捕まれば公爵は身内同士のゴタゴタで済まそうとする筈だ。俺はいろいろ考えて犠牲が一番少ないやり方を選んでる」
自軍の被害を最小限に済ませ敵軍の被害は最大限にするのが戦術論の基本だ。
俺の戦術なんて指揮官の俺が前線に立って情報をかき集めて相手の不意を突くという拙いもんで誇れるようなやり方じゃない。
そうしないと勝てない、勝つ為に必要だから命を賭けてる。
他人から見れば狂人か稀代の戦術家に見えてるだけ。
いい加減、そんな箔とはおさらばしたい。
机に引き出しに仕舞い込んだ封筒を取り出す。
口は厳重に封蝋で接着して紐を巻き付けてある、どこから見ても機密文書だと一目で分かる。
「俺が捕まった後の作戦はこいつに記した。公爵邸から離れたら王城に逃げ込め。公爵もまだ真正面から戦う気は無い。王妃様にこれを提出して支持を仰げ」
「それ、アンジェリカ様に教えてましたか?」
「教えてない」
「何でそう、勝手に話を進めるんですか」
マリエは心底俺に呆れたという顔を隠そうともしない。
だって仕方ないじゃん、絶対アンジェは止めようとするんだから。
口では何と言っててもアンジェは公爵を尊敬してる。
もし俺と公爵が争ったら俺に味方してくれるけど絶対に悩む。
ただでさえアンジェは大事な時期なのにこれ以上の心労をかけたくない。
父親と夫が殺し合いを始めるより、父親に夫が拘束される方がマシだと思う。
「アンジェリカ様、絶対に怒りますよ」
「やっぱ怒る?」
「私なら離婚しますね」
「止めてくんない、俺の心が耐えられないんですけど」
「なら正直に話したらどうですか」
「それが出来るなら悩んでねぇ」
俺なりに悩みぬいてここまでやって来たのに決心が鈍るような事を言うな。
王家と公爵家の争いなんて知るか!
俺はさっさと隠居して好きなように生きる!
自暴自棄になってそう決断が出来たらどれだけマシだったか。
それやったら確実に領民が犠牲になるしアンジェに嫌われるから出来ない。
真面目な奴が損をするって本当だな。
「あぁ、あとコレも渡しておく」
引き出しから紙袋を取り出して中身をテーブルに置く。
小さくて植物の種みたいな珍妙な機械の塊に五人が戸惑う。
「コレは一体?」
「とりあえず耳の穴をコレで塞いでおけ、それから説明する」
五人が一つずつ手に持って嫌そうに耳の穴に入れる。
硬質の機械を耳に突っ込むのは怖いよな、俺も試したけどヒヤッとする冷たさがどうにも慣れない。
全員が入れた所で紙袋から別の機会を取り出す。
こっちは軟質素材のスイッチみたいなもんだ。
「全員入れたな?」
「入れましたけどコレが何なのか教えてください」
「今から説明する、こいつはロストアイテムの通信機だ」
「コレが?」
「といってもこっちが送信する音を伝えるのとブザーと振動で合図を送るぐらいしか出来ない」
「ショボいな」
「文句を垂れんじゃねえ。コレを使えば俺達の会話をお前らに送れるし、決行の合図も伝えられる」
手に乗せたボタンを見せると疑わしそうに俺を見る。
百聞は一見に如かず、ボタンをゆっくりボタンを押すと全員が身悶えを始めた。
「どうだ?」
「気持ち悪い」
「震えるって聞いてねえぞ」
「でも分かっただろ。決行の合図は長押し一回で『肯定』、短く押すのを繰り返すのが『否定』。これが伝わったら即座に行動開始だ」
「……了解」
「他には質問は?」
「……ユリウス殿下はこの作戦を」
やっぱ気になるのはそれか。
「知らない。あの人に嫌われるのが嫌なら断ってくれてかまわないぞ」
「馬鹿を言わないでくれ、僕達はそれを覚悟の上で此処に来た」
「俺達も馬鹿だけどな」
「昔からオリヴィアに五人一纏めで怒られましたから」
「アイツが王に為れなくても俺達の友情は変わらないさ」
どこか和気藹々と楽しそうな四人が羨ましい。
俺は心配をかけたくないと言い訳をして最後までアンジェに作戦を教えなかった。
嫌われる覚悟も人を殺める覚悟も出来ない俺はどこまでも中途半端だ。
愛してると伝えるのも、平和の為に手を汚すのも俺には難しい。
どうしてこうも世界は残酷で争いに満ちているのか?
嫌な事は忘れてベッドに戻りたい。
今作におけるリオンとルクシオンの関係の詳細はもう少し後で述べられます。
三国を平定してバルトファルト王国を作るのが一番犠牲の少ない方法なぐらいにあの世界は物騒だと原作やマリエルート読んで再実感。
凡人(自称)のリオンには義父と主君の仲介しかできません。
頑張れリオン、負けるなリオン。
追記:依頼主様のリクエストでないん様、吉永はる様にイラストを描いていただきました。ありがとうございます。
ないん様 https://www.pixiv.net/artworks/119544239(成人向け注意
吉永はる様 https://www.pixiv.net/artworks/119554119
ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。