婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第94章 Guild

「ほぅ?」

 

 興味を父上が楽し気に肩を揺らす。

 尤もその態度は頑是ない子供の振る舞いを見咎める程度のものだ。

 父上がレッドグレイブ家を継いでから数十年。

 権謀術数を駆使しホルファート王国に於いて並ぶ者が居ない領主貴族からすれば、成り上がり者にしか過ぎないリオンと実務に携わるようになって数年の私など世の道理を弁えぬ若輩も良い所だ。

 皺の数が樹木の年輪の如く私に語り掛ける、『公爵の自分が聞くだけの価値がある物を用意したのか?』と。

 父上、いやレッドグレイブ公爵が発する圧力は否応なしに私を緊張させる。

 

「お前が私に意見を具申するようになるとはな、月日の流れは早いものだ」

「父上の薫陶あればこそです」

「故に無念だ、お前には存分に力を振るえる立場を用意してやりたかった」

 

 そう語る父上の顔は何処か物悲しい。

 私とユリウス殿下の婚約はホルファート王家とレッドグレイブ公爵家、いやミレーヌ様と父上の利害が一致したからに過ぎない。

 ミレーヌ様はレパルト連合王国から嫁がれた故に王国内に於いて立場が弱く、生まれた我が子を王座に就ける為に有力貴族の後援が必要としていた。

 一方の父上は娘の私を生まれた王子の婚約者として差し出し、外戚として国政に於ける発言権の強化を画策。

 双方に政治的な思惑があったとはいえ、私と殿下の婚約が親としての情が無い物とは言えなかった。

 男子の親が婚約者の実家を後援者に選ぶのは常識であり、より良い家に娘を嫁がせようと奔走するのは年頃の娘を持つ貴族なら当たり前の行為。

 ただ、結局どれだけの時間と費用を費やしても人間関係は上手くいかない時がある。

 常識や政治的な思惑だけで人が持つ感情は支配できない、これは神為らざる人が持つ不完全性なのかもしれない。

 

「重ね重ねその節は父上と兄上にご迷惑をおかけしました。ですが私はこの成り行きに存外満足しております」

 

 隣に座るリオンを見ているとついつい顔が綻んでしまう。

 私とリオンの婚約は父上の思惑で持ち込まれたが、彼と愛し合い子を産んでみるとこれはこれで良き人生だと思えてくるのだ。

 王妃として国の趨勢に携わる人生、領主夫人として辺境の領地を開拓し発展させていく人生。

 資産の多寡や身分の上下といった要素は必ずしも幸せに繋がるとは限らない。

 今の人生は確かに妥協の産物かもしれない、だがオリヴィアの躍進に歯噛みしていた頃には無かった安らぎと幸福に満ちている。

 それが愚かと言われるならそれでもかまわない。

 

「どうやらに金の催促では無いらしい。だが、久方振りに会った父との面会で物を申すつもりなら無駄な時間を費やすのは悪手だぞ」

「父上、そのような物言いは」

「控えよギルバート、バルトファルト夫人がどのような案を私に持ち込んだのか興味が湧いた」

「……」

 

 仲裁に入ってくれた兄上は父上の言葉で退けられる。

 父上は私は『アンジェ』ではなく『バルトファルト夫人』と仰られた。

 つまり親子の情など一切期待せずに納得させろという意思表示に他ならない。

 ならば此処で退くなどありえない、寧ろ果敢に挑んで行くべきだろう。

 

「もうすぐ今年度の論功行賞ですが、昨年は終戦直後で陞爵や恩賞が先送りとなり涙を飲んだ貴族も多いと聞き及んでいます」

「あぁ、レッドグレイブ家は影響が少ないが下位貴族の多くは苦しい状況だ。恩賞を戦費の補填に使うつもりだったが当てが外れて苦しんでいる貴族は後を絶たない。陳情しに公爵邸を訪れる者も多く雑事は私が、父上が貴族の応対をしなければならない有様だ」

 

 数年前のファンオース公国との戦いで腐敗貴族の多くは減封、取り潰し、貴族籍の剥奪となった。

 そうして出来た空白地帯や役職を埋める為に王国は功績を挙げた騎士や平民を叙爵、或いは不当に扱われていた下位貴族を陞爵させている。

 リオンはその代表的な一人だ。

 だが貴族に取り立てられた者がいきなり領地経営など出来る訳もない。

 以前その地で働いていた家宰や使用人を雇えれば良いが、腐敗貴族の悪行に関与している者も多く再雇用は難しかった。

 それでも真面目に領主を数年間勤めればある程度の機微が働くようになるが、そこで起きたのがファンオース公国の再侵攻だ。

 二度に渡る戦乱は確実にホルファート王国の国力を低下させている。

 

「昨年度と今年度の歳入を比較した場合、増加率はどれほどでしょうか?」

「約一割だ。もっとも貴族達への恩給、各地の復興支援、軍備の修繕で相変わらず国庫は苦しいだろう」

「その増加率はファンオース公国から膨大な賠償金を含めた額です。実際の税収は上がっていません、寧ろ各地の困窮はより苦しくなっていると考えるべきです。私が学園に在籍し、ファンオース公国との争いが激化する前と比較しても王国の経済規模は明らかに縮小しています。前年度より税収が上がったのは国力の回復ではなく領民から税を搾り取ってようやく捻出しただけにすぎません」

 

 敗戦したファンオース公国、いやファンオース公爵領は併合と同時に幾つもの義務が課された。

 数十年に及ぶ膨大な賠償金の支払い、保持戦力の制限、領地経営に関して王国からの査察の義務化、ホルファート王家との婚姻、思想統制及び危険分子の取り締まり強化等々。

 賠償金を払い終わる頃にはファンオース公爵領が元公国であり公爵が大公だった事実を忘れるほどの年月が経過している。

 そうして元公国から搾り取った賠償金をそのまま予算に組み込んでいる。

 この辺りの情報はミレーヌ様、大臣のアトリー伯爵、ルーカス宰相閣下から入手済みだ。

 

「王国の復興は遅々として進んでいません、時間が経てば経つほど取り返しがつかなくなります。いえ、もう破綻していると言って差し支えないでしょう」

「多くの貴族がそれに気付いている。そして王家に対する不審も膨れ上がっている。皆がより強力な指導者を求めているのだ」

「例えば平民出身の聖女、ですか?」

「……どうやらお前は誤解しているようだな。私達が神殿に寄進を行っているのは民の安寧を願っているからだ。オリヴィア殿は優れた聖女だが国政に関しては素人同然、お支えする者が傍に必要と心得よ」

 

 単純に父上がオリヴィアの人気を利用し下位貴族や平民からの信頼を得る魂胆ならそれで良いかもしれない。

 だがオリヴィアが初代聖女アンの末裔という出自が事態をややこしい物にする。

 ホルファート王国に於いて国祖達の崇敬される存在だ。

 初代国王は偉大な冒険者であり統治者、初代聖女は神の代行者として扱われている。

 偉大な冒険者、それが王家にとって諸刃の剣となった。

 ホルファート王国は冒険者が興した国、故に冒険者の権利を護る事は国是とされている。

 

 そんな冒険者にとって最も唾棄すべき行いは何か?

 仲間の功績を理不尽な理由で掠め取る事に他ならない。

 今でも冒険で得たアイテムや財宝は一定の税を納めれば所有権が認められ、理不尽に奪う事は貴族であっても迫害の対象となる。

 そんな悪業を他ならぬ国祖が行っていた。

 リーア・バルトファルトの功績を奪い、更に神殿と組み咎めた聖女アンを放逐。

 ただでさえ求心力を失いつつある王家と威信は落ち、神殿の神官は背信者として扱われる。

 其処へオリヴィアとリオンを麾下としたレッドグレイブ家が弾劾。

 晴れて公爵家は新王家と相成る、これが父上の凡その筋書きだ。

 確かに王家がロストアイテムを喪失し貴族からの支持を失っている今なら効果的だろう。

 

「私は冠を頂く者が誰であろうで構いません。翼が折れた天馬であろうが、分かたれた血脈であろうが、それこそ失われたはずの一族でも」

 

 一瞬にして室内の空気が張り詰める。

 父上は目を細め、兄上は口元が引き攣った。

 唯一変わりないのは事情を呑み込めていないリオンだけ。

 やはりそうか、父上はバルトファルト家が真の王の末裔だとお気付きだ。

 リーア・バルトファルトの子孫が王に相応しいなら、レッドグレイブ家が王と為る正統性を現時点では担保できない。

 どれだけリオンを重用しようがレッドグレイブ家はバルトファルト家の威光を利用して王座に就いた卑怯者として扱われてしまう。

 

 それではホルファート王家の二の舞だ。

 私とリオンの間に生まれた子孫とレッドグレイブ家の嫡流である兄上の子孫が交われば自分達こそ正統な王の血を受け継ぐ者と名乗りをあげられる。

 だがそれはあまりに時間をかけ過ぎた策であり、血脈を重視する貴族の悪癖だった。

 或いは王家の暗部を知ったが故に迂遠的な方法を取らざる得なくなったのかもしれない。

 何れにせよ、其処までして得る物は自身が正しいという正当性のみ。

 今日の糧を得るのに必死な平民や慣れない領地経営に苦しむ新興貴族にとっては興味の無い血筋争いに過ぎない。

 

「最優先すべきは国の復興です。軍事力のみならず食料の増産、産業の発展、財源の確保。そのどれもが国の復興に必要であり早急に解決しなければならない問題です」

「無論承知している、だが依然として国内は厳しい状況だ。私達も手を尽くしているが限度がある」

「其方達の領地でさえ公爵家からの融資で賄っている部分が大きい。あまり大きな声を出しては失笑を買うぞ」

 

 分かっている、その件に関してはリオンと婚約した時から悩んできた問題だ。

 そもそもバルトファルト領は新たに発見され王家直轄領となっていた浮島をリオンが受領した物である。

 ある程度の開拓はされていたが大規模な農地開拓、空港の拡張、温泉の掘削と療養施設の建築で公爵家から大量の融資を受けてきた。

 その融資が原因でバルトファルト家はレッドグレイブ家の寄り子となり今も返済に苦慮している。

 領地の経営には途轍もない費用がかかる、領主貴族は領地の御用商人や商工会(ギルド)の協力を得て統治している状態だ。

 ホルファート王家から分かれ公爵として大領地を治めるレッドグレイブ家、歴史の長い名門ローズブレイド家を除けば領主貴族の殆どが経営が厳しい状態を改善できない。

 そこへファンオース公国との戦争で経済と人材を同時に失った貴族は立て直しがほぼ不可能となった。

 領地を返上して準貴族に戻りたいと思っている貴族は多い。

 

「国力を回復させるには人材の育成と確保は必要です」

「その復興に必要な人材を育てるにはどれほどの金と時が必要だと思っている?ただでさえ昨年の戦争で次代を担う若い貴族が喪われた事か」

「間口を広げるしかないでしょう。とりあえず思いつくのは学園の休校解除でしょうか」

「またあの掃き溜めを再開するのか?無駄な結果になりかねんぞ」

「それはあくまで上級クラスに限った話です。普通クラスに在籍する平民出身生徒は貴族令息令嬢より講義を熱心に受けた者が多かった。人材の発掘という面に於いて学園は決して無駄ではありません」

「待て、喪った貴族の代わりに平民を登用する気なのか?」

「問題ありますか?功績や資質に応じて積極的に人材の登用を行っているのは今や王国全体の風潮です」

 

 学園に関して私自身も腹蔵ないとは言い難い。

 だが、それは在籍する者の資質が問題であって機構その物を否定する材料にはならない。

 王家は学園を用いて領主貴族の力を削ぎ不必要な怒りを買った。

 確かにそれは領主貴族の側から見れば悪ではある、だが王家の側からすれば叛乱を未然に防ぐという理由があった。

 為政者が危険分子の発見と鎮圧に取り組むのは当然の対策と考えて良い。

 問題は過剰なまで宮廷貴族や高位貴族の傲慢、女尊男卑政策による領主貴族への迫害、旧態依然の教育制度だ。

 

「何より、聖女オリヴィアは特待生として学園に迎えられ優秀な成績を修めました。彼女の存在が学園制度の素晴らしさの証明では?」

 

 我ながら奇妙な気分だった。

 あれほど忌み嫌っていったオリヴィアを褒め称えるなど舌を噛んででも拒んだ筈だ。

 婚約破棄から約六年、漸く私はあの騒動から前に進めるようになったのかもしれない。

 父上と兄上が何度も訝しげに私の顔を見る、まるで信じられない物を見たような表情だった。

 同時にオリヴィアの件を私に持ち出され、どうしても論調が弱くなってしまう。

 何しろ公爵家はオリヴィアを旗頭にホルファート王家の弾劾を目論んでいる。

 それが可能なのは初代聖女アンの末裔である事、オリヴィア自身が優秀である事が同時に成り立っているから。

 

 単にアンの末裔という部分だけならこの国には初代聖女の末裔がそれなり人数が居る筈だ。

 それらの者達を祀り上げたとして王家を糾弾する事は可能だろうか?

 否である、単なる血統だけでは人は心の底から靡くものではない。

 オリヴィアが優れた人物である事、その補強材として初代聖女アンの末裔という事実が意味を為す。

 仮に他のアンの血を受け継いだ者が現れたとしても一笑に付されるだけだ。

 その意味で宰相がオリヴィアを特待生として迎え入れたのは妙手と言える。

 オリヴィアを肯定する立場なら寧ろ真っ先に学園の再開を希望しなければならない。

 自分だけ特例などオリヴィアは拒む筈だ、マリエやカーラといった事情があって学園に在籍できなかった者達に囲まれている彼女は賛同するだろう。

 オリヴィアを利用する筈が逆に攻め手を欠いてしまう。

 彼女は決して為政者の思い通りに動く女ではないからだ。

 

「とりあえず学園の再開に関しては保留しておく。他にも何か案があるのだろう?」

「はい、寧ろ此方が本命です。先ほど申し上げました食料の増産、産業の発展、財源の確保に必要な人的資源の確保はいま述べた通りです。では物的資源の確保に必要なのは何でしょうか?」

 

 父上と兄上が暫し黙る。

 彼も答えは分かっているだろう、これは領地経営に於ける基本中の基本。

 問題は確保に必要な物を何処から仕入れるかという問題が常に付き纏うからだ。

 

「……資金、そう言いたいのだろう」

「はい。仰る通りです」

 

 答えは至極単純、資金だ。

 人は生きる為に食事をしなければならない。

 最初は狩りや農耕から始まり、他の集落との物々交換を経て、ついに貨幣という存在を生み出すに至った。

 時間が経過しても腐らず、持ち運びも可能、一定の価値があるそれは瞬く間に社会にとって必要な存在となった。

 今や王国どころか全ての国々で貨幣が流通している、人間より貨幣こそ社会を支配している言っても過言ではない。

 

「それぐらいは理解している。多くの貴族が私の許を訪れて金の無心をする。如何にレッドグレイブ家が領主貴族筆頭とは言え、蓄えが無尽蔵である訳が無い。投機を持ちかけるならまだマシな方だ。己を着飾る金を親に強請る子供の如き愚劣な者すらいる。そんな者達の相手ばかりしてみろ、私の心が荒んでも致し方なかろう」

「父上のご苦労察し致します」

 

 苦々しく表情を歪める父上だが、返答する私の心は何処となく冷めていた。

 貴族に金を貸しホルファート王家に不審を煽ったのは父上御自身だ。

 そうしてホルファート王家を引き摺り下ろす一環とはいえ、予想以上の貴族に頼られる状況は自業自得でしかない。

 レッドグレイブ家の資産が小国に匹敵しても全て領主貴族に貸し付けられるほどではない。

 貸し付けた金が無事戻ってくる保証も危ういだろう。

 何より今回の論功行賞で支給される恩賞で借金を返済しても当座の資金をどう工面すれば良いのか?

 決して逃れられない蟻地獄。

 下手を打てば恩賞が遅れがちなホルファート王国だけではない、金を貸したレッドグレイブ家も悪辣な金貸しとして貴族達の怨嗟の的に為りかねない。

 

「こうした現状に対してある案が思い浮かびました。ご清聴いただけましたら幸いです」

「無尽蔵な資金など何処にも無いぞ。それこそロストアイテムでも発掘せねばな」

「勿論です、私が考えているのは王国内に於ける資金の流通量を増やす事を主軸に置いています」

「待てアンジェ。王国内の経済を活性化は紙幣の増刷をすれば良いと考えるのは早計だぞ」

「はい、恩賞が少ないからと急激に紙幣を造幣すれば通貨の価値が下落し物価が急上昇します。その結果さらに国内が困窮しては逆効果です」

 

 王国では生産される貨幣の総量について王家が有力貴族を交えて決定する。

 流通する貨幣の量が多すぎれば価値が下がり物価が上がる。

 かといって少な過ぎては貨幣の価値が上がり国内の流通量が減る。

 それを見越した上で造幣量は厳しく決定され、偽札作りは有無を言わさず家の取り潰しか一族の処刑が無条件で適用される程の重罪だ。

 

「現時点での王国で問題点は貨幣の流通が滞っている事、そして復興に必要な分の資金が足りない事の二つです。特にファンオース公国を併合した一件がホルファート王国の経済に著しい混乱を招いています」

「王国と旧公国では貨幣の価値が違う、徒に取り込めば経済に大きな打撃を与えかねん。公国の戦意を急いで折る必要があった」

「それについては間違いないと思います、両国の経済融和には暫くの時を要すでしょう。同時に領主貴族其々の領地でも貨幣の価値に差がある、それを解決しなければなりません」

「焦らすな、結論を述べろ」

「新たに金融機関を設けます、王国の主導し各地の領地に必ず一つ配置し経済の均一化を図ります」

「何?」

「業務は預金、両替、融資、為替など。他にも幾つか業務を考えていますが現時点に於ける主だった物はこの程度です。両替商、投資家、御用商人などに協力を呼びかけるつもりです。重要なのは長期に渡る低金利融資、これを基軸に国の立て直しを考えています」

「待て待て待て、話がまるで見えてこない」

 

 無理もない、こんな物を考えたのはこの国で私が最初かもしれない。

 ミレーヌ様との会談で咄嗟に思いついた案で、以後も幾度となく手紙や面会で修正を重ねてきた。

 この場で全てを理解しろという方が無茶だ。

 

「順を追って説明します。現状に於いてホルファート王国の国力は衰退しています。二度の戦争によって失われた人的・物的資産を埋める為には人材の育成が急務。ですが、その為必要な資産が足りません」

「そうだ、従来のやり方ではこの損失から回復する為に数世代の時間が必要だろう」

「少しでも早く王国を復興させる為には資金が必要、これも間違いありませんね?」

「あぁ。だが大量の資金を持っているのは大貴族とそれに関わりの深い御用商人ぐらいだ」

「新興貴族達は勤勉です。長年に渡り血筋だけを頼りにしてきた世襲貴族に比べて、彼らは自らの領地を盛り立てようとする気概がある。しかし歴史の浅さ故に資金の足りなさと他の貴族への結び付きが弱い。結果、その日の糧を得る事に帰結し領地の発展を疎かにしてしまう」

 

 もしもリオンが私と婚約しなかったらバルトファルト領はどうなっていたか?

 温泉の掘削は放置されたまま、農地の開拓を細々と行い現在の発展は見込めない。

 地位に比べ税収が少ない土地に縋り借金を重ね、いずれ融資を餌に高位貴族から理不尽な婚姻を結ばされるか悪辣な商人に食い物にされるか。

 よくある領主貴族の話だ、貴族とは名ばかりで借金だけが膨れ続け没落した貴族など枚挙に暇が無い。

 

「必要なのは領地の発展に関して確かな目を持つ助言者と設備資金。それさえあればホルファート王国内に発展可能な土地はまだまだ多いかと。あるかも分からないロストアイテムを求めるより遥かに生産的です」

「……途方もない話だな」

「ですが困窮する領主貴族と領民を見捨てて国は成り立ちません。アンジェの言葉には一定の理があります」

「ふむぅ」

 

 父上が顎髭を撫でながら思案する。

 公爵邸を訪ねる領主貴族の陳情を聞いていれば彼らの窮状、そして王国の現状について否応なしに考えを巡らせなくてはならない。

 父上の支持基盤は王国の現状に不満を持つ領主貴族だ、彼らを蔑ろにすればレッドグレイブ家はホルファート王家と同じと見做され排斥の対象になりかねない。

 手に余る支持基盤の対処を新設された金融機関に委ねるか、それとも御しきれぬまま王家への反逆に突き進むか。

 何れにしても難しい問題だ。

 私としてはこれを機に父上が王家に対する憤懣を王国の復興まで抑えてくれるだけでいい。

 現状で王家に叛逆しても共倒れになる可能性は高い。

 どれだけ綿密に計画しても不確定要素は必ず出てくる、勝ち戦に拘るなら機を見る事も重要だ。

 

「しかし各地にそんな金融機関を設立するのは些か時間がかかり過ぎるのではないか?会議を通った所で新しい施設を作るにも時間と金がかかる」

「それも当然考えあります。ですがちょうど良い機関が王国には存在しています」

 

 父上と兄上が首を傾げる、流石にこれは推察できないだろう。

 ホルファート王国の各地に存在する機関。

 資金を預かり、為替や資産運用も行い、ホルファート王国が運営する機関。

 この国の者なら老人はおろか子供ですら知っている。

 

「冒険者ギルドです」

 

 その機関の名を私は告げた。




アンジェの考えている金融機関の元ネタは日本長期信用銀行やナポレオン執政時代のフランス銀行です。
細かい説明は次章に持ち越します。
ルクシオンや「俺は星間国家の悪徳領主!」のリアムが持つ資源生産ってチート過ぎますね。(汗
今作キャラが悩む問の多くが解決できてしまうんですから。
地道に平民の地位向上や金融発展の観点で話は進みます。
お堅い話ですが戦闘もあるので暫しお待ちください。

追記:依頼主様のリクエストによりRe:Aesir様、たま様、酩酊ろっぱ様にイラストを描いていただきました。ありがとうございます。

Re:Aesir様 https://www.pixiv.net/artworks/119888751
たま様 https://www.pixiv.net/artworks/120054319(成人向けギリギリ注意
酩酊ろっぱ様 https://www.pixiv.net/artworks/119925245

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