婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第95章 悪女の本懐

 『ギルド』という物の原型がいつの時代に作られたのか。

 史書を紐解いてもはっきりと記載されてはいない。

 ただ確実なのは貨幣経済が成立し、同業者間での価格競争や為政者による商人への無理な命令から身を護る為に取り扱う技術や品を持つ者が集い一定の権限を持つようになった事実だけ。

 無論、同業者が徒党を組んで商品の価格を不当に吊り上げたり過剰な供給による市場価値の下落を避ける為に権力者はそうした同業者の組合に一定の権限を与える代わりに税を納め有事の際に協力するようにしてきた。

 国を治める者はギルドに対し時には飴を、時には鞭を与えながら商業と技術の発展に努める。

 凡そどの国でも似たような世情を経て国内に幾つものギルドを設立し、その国の為政者と懇意な存在となっていた。

 

 ホルファート王国に於いて最も長い歴史を持つギルドとは何か?

 それは間違いなく冒険者のギルドだろう。

 何しろこの国が建立された当初よりその原型と思しき存在が確認され、時代を経て様々な法整備と国からの支援によりどんな辺境の領地ですら冒険者ギルドは必ずあると断言できる程の数が設立されていた。

 この国を興した初代国王と側近、そして聖女は荒くれ者の冒険者である。

 そして冒険者にとって分け前争いは日常茶飯事だ。

 

 私も最近知った事だが国祖達は功績争いで自分達の指導者的存在だったリーア・バルトファルトを追放している。

 そんな彼らが『自分達も同じように立場を追われるのでは?』、そう思うのは当然の危惧と言えよう。

 冒険者ギルドに預けた資産や物品はたとえ家族や国王であっても本人の意思確認抜きで徴収する事は出来ない。

 命を賭した冒険で得た成果を奪う行為はこの国に於いて最大の禁忌であり蔑視される行いである。

 国が冒険者の資産に介入できるのは明らかな犯罪行為を立証できた場合・国が崩壊しうる危機的状況に於いてのみ。

 どの貴族も最初の一人が冒険で得た成果を王国へ献上という形で納めさせ、その見返りとして王国は爵位や領地を与えている。

 リオンのように戦功で貴族となった者の方が異端だった。

 故にホルファート王国の冒険者ギルドは他国の冒険者ギルトとは比較にならない程の権力と保有資産を所持している。

 たとえ国を統治する者が変わっても冒険者ギルドの存在は不変、それはこの国の実情を知る者なら誰もが信じている事実だった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

「つまり、お前が言いたいのは冒険者ギルドの保有資産を吐き出させるという訳か?」

「ある意味ではそうです、それが全てではありませんが」

 

 驚きの声を上げた兄上の声を制し話を進める。

 ホルファート王国に於ける冒険者ギルドは王族でさえ不干渉が基本方針の絶対不可侵の組織だ。

 無闇に冒険者ギルドへ介入すれば全ての貴族、全ての冒険者を敵に回しかねないほど危うい策である。

 そこまで危うい橋を渡ってまで献策するのはホルファート王国で最も資産と人材が集中しているのが冒険者ギルドに他ならないからだ。

 

「父上と兄上は既に承知でしょうが下位貴族は先の戦争による損耗、そして恩賞支給の遅れにより領地経営に深刻な遅れが生じています。多数の戦没者による領民の減少が深刻な人材の枯渇を引き起こし、領地経営に必要な最低限の資金さえ用意できない。領主は金策に奔走するも満足な成果を出せず、このままでは失政を咎められる前に爵位と領地を返上するしかありません」

「無論だ、おかげで昨年から公爵邸には来客がひっきりなしに訪れ、借財の申し込みをする者が後を絶たない」

 

 そうして不満を抱えた貴族達に恩を売り、王家に対する不信と公爵家を新王家に推す者を増やすのが父上の策でしょう?

 喉元まで出かかった声を無理やり押し殺す。

 貧すれば鈍する、どんなに英明な貴族でさえ追い詰められれば我が子を資産家や歴史ある名家に嫁がせて融資を乞う者は出てくる。

 貴族に取って婚姻は政治の手段であるが、不本意な婚姻をせざるを得ない貴族が統治者を怨むのは当然の帰結だ。

 其処までしても十分な成果を出せない貴族は多く、この状況を放置してはいずれ内乱や他国からの侵略を招きかねない。

 公爵家の資産とて小国並みであるが限度があり、さらに恩賞の支給をするのは現在の統治者であるホルファート王家だ。

 仮に現時点でレッドグレイブ家が王座を奪ったとしてもファンオース公国との戦争に参加した貴族に対し恩賞を支給する義務が生じる。

 国庫が空に近い現状で王座を奪って旨味は殆ど無い、それならある程度の負債を解消させた後に王位を奪った方が良い。

 父上の考える計画が五年後か、十年後になるかは定かではない。

 いずれにせよ、レッドグレイブ家が王家に就く前に多くの貴族が権力者の地位から追われる。

 それらの貴族の大半は戦争さえなければ領主としての義務を全う出来た者が大多数だろう。

 早急に困窮した貴族を、戦で荒廃した土地を、枯渇した人材を補わなければ王座に就いた所で無意味。

 それらを解決する為に閃いたのがこの改革案だった。

 

「確かに多くの領主貴族達が困窮していますし、その原因は領民の減少が主要因なのは確認済みです。ではどうして領地民が減少したと思われますか?」

「ファンオース公国との戦争による戦没者だろう」

「確かに多くの国民が戦場で命を散らしました。しかし領内の男子全てを徴兵した領主はいません。戦没者が少なかった領軍もあります」

「つまり消えた領民は戦後に逃散していると言いたいのか」

「はい、では領民達は何処へ向かったのか?目的地は近隣の大領地、或いは王都です」

 

 実に単純な話だ。

 稼ぎ頭である夫や父が徴兵され戦没するか戦傷を負う。

 これまでと同じように働けなくなった上に渡される恩給は僅か。

 追い詰められた一家は少しでも多くの稼ぎを求めて人口が多い都市部へ向かう。

 しかし、同じ事を考える者は現在の王国に多数存在している。

 窮民となった人々が各地から都市部に押し寄せ人口が過密状態に陥り、職に就けない者が犯罪に手を染め治安が悪化。

 これに加えて人口の流出を止めようとする領主が他領との交易を人民の移動を制限すれば却って資金や物資の流れを滞らせる。

 負の連鎖が止まる事無く連鎖し、都市部は犯罪の増加に悩み辺境は領地の荒廃が加速する。

 早急にこの流れを止めなければ王国全体が衰退してしまう。

 

「冒険者ギルドの金庫から金を吐き出させ領主に当面の資金を貸すまでは分かった。しかし、それだけではまだ弱い」

「はい、重要なのは冒険者ギルドの登録者制度。即ち人材管理の台帳を入手し優れた才能の発掘と登用に用いるのも目的です」

「待て、今居る冒険者達を辞めさせて辺境に送り込むつもりか!?そんな事をすれば多くの冒険者から反発されるぞ」

「そうならないと私は踏んでいます。増えたダンジョン近くの冒険者ギルドは戦後から急激に登録者を増やしました。しかし、その大部分は食うに困って冒険者になった者ばかり。以前から冒険を生業としていた者は競合相手が増えて報酬が減る、新規参入者は仕方なく報酬が高く危険な冒険に手を出さざる得ない。需要と供給が一致していない現状では適度に間引かなければ冒険ギルドも立ち行かなくなります。故郷に帰る旅費にさえ苦しんでる冒険者は寧ろ喜んで引退し他の職に就くでしょう」

 

 そもそもの話、現在の王国で新しいダンジョンが見つかる事は極めて稀だ。

 大多数の冒険者は発見済みで情報が開示されたダンジョンに挑んで生計を立てている。

 そのダンジョンに生息しているモンスターから採れる魔石、採掘可能な資源を求め命の危険を承知で連日ダンジョンを探索する姿は冒険者というより鉱山で働く労働者に近しい。

 ならばモンスターに遭遇する可能性が絶無な職を斡旋し、当座の衣食住を保証すれば領民が減った土地を復興させる可能性は十分に見込める。

 

「それでは国内の冒険者の多くを敵に回してしまうぞ」

「ではお聞きします兄上。過去の二十年間に於いて新しい大規模ダンジョンの発見及び踏破、加えて貴族として取り立てられた者が何人かご承知ですか?」

「…存在しないな」

「はい。新たなダンジョンは発見されましたが何れも小規模、発見されたのも旧時代の金品が多少程度。とても叙爵されるほどの功績ではありません。今や新たなダンジョンを発見し攻略できるのは資金が潤沢で暇を持て余し嫡子になれない貴族の次男三男が大多数。実家が冒険者ギルドに手を回し相続税の対策として金銭を預けている場合すらあります」

 

 国祖達は確かにリーア・バルトファルトや聖女アンから地位や名声を掠め取ったかもしれない。

 だが彼らの功績全てが嘘で塗り固められたものではない筈だ。

 見果てぬ雲海に飛行船を駆って未知のダンジョンに挑んだ彼らは確かに偉大な冒険者であろう。

 大量の資金で装備を整えた探索部隊を編成し、全ての危険を部下に潰させた後に実家から受け取った金を冒険の成果と偽り、冒険者の権利を建前に納税や兵役を誤魔化す者が冒険者を名乗るなど烏滸がましいにもほどがある。

 冒険者ギルドは確かに権力者から一方的に搾取される冒険者の保護・女尊男卑思想に染まっていた王国で唯一財産分与が認められない資産の預け先として必要だった。

 しかし時を経て貴族が地位に甘んじ向上心を失ったように冒険者ギルドも権力者と懇意となり堕落の道を辿っている。

 こちらもまた早急に是正する必要があった。

 

「登録に際し厳正な審査を課します。出自、保有資産、実家の内情、能力の有無。一定の基準に到達できない者は冒険者として認められません。同時にギルドの資産管理部門を切り離し、王国と貴族の監査により厳正に運営される予定です」

「そんな事をすれば冒険者を輩出している貴族すら敵に回すぞ!」

「ご心配に及びません。改革案に賛同している貴族の合意は既に取り付けております」

「なぁッ!?」

 

 驚く兄上と顔を顰める父上を他所にリオンへ目配せを行う。

 リオンは先程受け取った鞄から書類の束を取り出してテーブルの上に置いた。

 兄上が恐る恐る書類を捲り記入された名を読み上げる。

 

「アトリー伯爵家…、ローズブレイド伯爵家、モットレイ伯爵家。力名貴族の名が連なっています。他に下位貴族の署名がありますがかなりの量です」

「……大きく出たものだな。近頃こそこそ王都と辺境で同時にお前達の名が挙がっていたのはこれの為か」

「はい、この日の為に多くの方々から賛同を得てこの場に臨みました」

「誰の差配だ?此処までの事を単なる辺境貴族の妻が企てられる筈もあるまい」

「既にご承知かと」

 

 兄上が一番下とその前の書類を父上に差し出す。

 二枚の書類には其々『ミレーヌ・ラファ・ホルファート』、『ルーカス・ラファ・ホルファート』と署名されていた。

 書類に目を通して尚も父上はその姿勢を崩さない、この方を説得するのは無理かもしれない。

 

「金か?地位か?まさか忠誠心とは言うまいな」

「どれも違います。国を想うというほど清廉ではなく、然りとて我欲かと言われたらまた異なるかと」

「お前は王家を憎んでいた筈だ、そんな女がどうして女狐に尻尾を振る真似をしている」

「単純に貸し借りの清算と領地の安定の為に過ぎません」

「私達からすればお前はホルファート王家とレッドグレイブ公爵家の間を行き来する節操無しにしか見えんぞ」

「領主貴族とは基よりそのような存在では?」

 

 挑発の言葉を聞いた父上が顔を歪ませる、どうやら痛い所を突かれたようだ。

 レッドグレイブ家は確かに領主貴族筆頭だ。

 しかし力によってホルファート王家に臣従した領主貴族とは明確に異なる。

 あくまで非常事態に対して作られた予備に過ぎない。

 内心では王家に対する憤懣を抱えなが臣従する領主貴族、表向きは体裁のいい言葉を吐きながら取り潰しの機会を窺っている王家。

 領主貴族と王家の歴史的な推移を考慮すればレッドグレイブ家はホルファート王家の庇護下にあると言える。

 

「父上が本気で王位を望むのならお止めするつもりはありません、そもそも私達には公爵家を止める力もありませんから」

「では何故に献策した?」

「今に於いて王家を弑するのは愚策、単純にそう申し上げたいだけです」

「バルトファルト家には利用価値がある、私達にそう思わせた命乞いのつもりか」

「それもあります。仮にレッドグレイブ家が王座を手にした場合、今のままでは単に弱体化した王朝が一つ生まれただけで終わりますから」

「その為にこの話を持ち掛けたと?」

「領主貴族の困窮を御二人はご存知の筈です。土地は荒れ果て領民は減少、なのに金を貸してくれるのは利息が大きい商人か恩着せがましい大貴族。資産は目減りする一方なのに領内の冒険者には手付かずの金が死蔵されている。真面目に領主を務める者ほど苦慮しています」

「中央の権力争いばかりではなく辺境にも目を向けろ、そう言いたいのか」

「国家に於いて金銭の流れ、人の流れは血流と同意義です。頭と心臓が無事でも手足が腐り落ちれば滅びは必定です」

「冒険者ギルドを使いそうした流れを正常化せよ、故にこの案か」

「今まで王国は市場経済に対し商業ギルドを通して関与し続けています。しかしファンオース公国との戦争で傷付いた現状に於きましては不十分です。ホルファート王国は冒険者の庇護を国是としてきましたが、見直す時期が訪れた。新王朝の喧伝とするならば良き案と思い具申したしました」

 

 経済を発展させる為には規制を緩め適度に税を課せば良いと考える者はいる。

 だがそれでは只管に強き者だけが肥え太るのみだ。

 朽ち果てかけた大樹の周囲に種を蒔いた所で栄養は大樹が独占し種はいつまでも芽吹く事は無い。

 強き者だけが優遇されるのではなく、弱き者が強くなれる土壌を作らなくてはならなかった。

 

「だが冒険者ギルドの業務変更と金融機関の新設、これには莫大な費用と労力がかかる」

「そうだ、問題は山積みだぞ」

「必要資産の調達はホルファート王家が主導で行うとミレーヌ妃殿下は承認されました。同意されたローランド陛下は私財の一部を既に売却済み、費用として賄う所存です」

「あの陛下が?」

「信じられん……」

 

 驚きを隠せない父上と兄上。

 実際には陛下は同意していない筈だ。

 レッドグレイブ家に王位を奪われた際に自信の妻・王子・王女・愛人・非嫡出子に対する保障をユリウス殿下に任せたのが仇となったらしい。

 ミレーヌ様がユリウス殿下から取り上げた玉璽を用いて陛下の資産を売却し、それを改革の費用に充てたようだ。

 

 だが傍目には王が私財を処分し国を立て直そうと必死に藻掻いているように見えるだろう。

 政を顧みない暗君ならば逆心を抱いても大義名分が立つ。

 しかし愚劣でも我が身を切る覚悟がある王を討つと見えるならば話は別だ。

 懸命に手段を講じる王に謀叛を起こす公爵家に味方をすれば批判は免れない。

 それは王位を狙う者にとって致命的な瑕疵となりえる。

 

「だが王家が調達する資金だけではまだ足りん、その補填はどうする?」

「貴族や大商人からの出資を募ると同時に金融機関の有価証券の購入を義務付けます。購入額は爵位や保有資産の割合で決めます。率先して購入した者に対しては優先的に金融機関の新設を優遇、実際の運営に対する試験を担ってもらいます」

「強引に貴族を出資させるつもりなのか?」

「国王さえ私財を投じているのです、貴族が拒否できると?」

「失敗すればどうする」

「全員が損害を被ります、故に誰もが運営に対し発言権を持ち方法を模索するでしょう。御用商人に言われるまま事業に手を出し破産するより遥かにマシかと」

「失敗するかもしれない物に金をかけるのは先行投資ではない、単なる博打だ」

「ならば失敗した時に王家を糾弾すればよろしいかと。相手がわざわざ分の悪い賭けに出てくれるのです。公爵家が矢面に立って工作するより危険はありません」

 

 口元を歪ませて笑みを浮かべる、今の私は相当悪い顔つきをしている。

 公爵家が私の提案に伸るか反るかは分からない。

 ただ今のホルファート王家を糾弾し、私の改革案に反対すれば賛同した貴族達を敵に回しかねない。

 賛同者は新興貴族や下位貴族が多いが名家、大臣、宰相が同意し総数は王国貴族の五分の一程度。

 これらを敵に回せば公爵派の活動は相当制限されてしまう。

 特に利益を追求し父上の側に付いた貴族を完全に敵に回す筈だ。

 単純に王家派と公爵派の派閥を同数とし改革案に賛同した貴族を二つに割った場合、公爵派の貴族をかなりの数失ってしまう。

 加えて中立派、王家派に鞍替えされたなら公爵家の勝ち目はほぼ無くなる。

 

「必要な人材の確保は?先程の話だと王国の人材は枯渇している」

「故に学園の再開と商業ギルドとの提携が必要となります。平民と貴族の垣根を越え優れた人材の発見と登用に対する格好の機会となりましょう」

「こんな国家事業に平民を使うつもりなのか!?」

「何を仰いますか、王国を護られた聖女オリヴィア様の助勢なさっている兄上の御言葉とも思えません」

 

 痛い所を突かれた、二人の顔が明らかにそんな感情を示す。

 オリヴィア様の活躍は王国に新たな思想を生じさせた。

 先の戦争に於ける貴族の醜態、平民出身である聖女が国政に影響を及ぼす。

 貴族に頼る事無く自分達で国を護ろう、政に対し意志を表示しようと考える平民がこの数年間で急速に数を増やした。

 

 特に昨年の戦争から恐ろしい速度で増えている。

 どれだけ王家や貴族が平民を抑えつけようとしても勢いは留まらない。

 何しろ思想の代表的存在は護国の聖女だ、オリヴィアが居なければ今頃ホルファート王国はファンオース公国に敗北を喫し両国の立場が逆転していたのは揺るぎない事実だ。

 表立ってオリヴィアを批判すれば貴族と言えど忘恩の輩という謗りは免れない。

 現代の王国貴族は自らの力のみで冒険や戦争に於いて功績を挙げた訳でない者が大半だ。

 優れた先祖から受け継いだ名声と財産を誇り、自身は何も持っていない弱輩と多くの平民が気付いてしまった。

 

 ホルファート王国は圧倒的多数の平民と少数の貴族で成り立っている。

 平民は貴族が居らずとも生きていけるが、貴族は平民抜きに生きていけない。

 宿主に対し害を及ぼす寄生虫を生かしておく必要はない、寧ろ即刻排除すべきだ。

 王国から支給される恩給の支払いの遅さがその精神を更に強めている。

 戦争の影響で困窮した土地では領民の暴動すら起きかねない。

 少しでも平民の不満を解消する為に貴族は寛容だと見せつける必要があった。

 特にオリヴィアに対し支援を行っているレッドグレイブ家が率先してそう主張しなくてはならない。

 まさかオリヴィアの人気と初代聖女の血筋を理由に王家に対して叛乱を起こそうと画策していた等と言える筈もなかった。

 少なくとも確実に王位を手に入れるその時まで秘匿しなくてはならない。

 

「まさかお前が聖女殿に対して擁護するとはな」

「彼女との個人的な確執と政は別問題です。私は自分の利になるなら婚約破棄の原因となった聖女と手を取り合います。私を捨てた王家を利用する腹積もりですので」

「……改めて聞く。お前は何の為に動いている?」

「聞く必要がありますか?」

 

 私自身すらこうも自分の立ち回りが狡猾で節操の無い物と感じている。

 それでも恥じ入る気持ちは一切無かった。

 何故こうまで働いているのか、理由は決まっている。

 もう二度とリオンを戦場に行かせたくないから。

 私達の子供が安全に生きられる世にしたいから。

 バルトファルト領が安心して暮らせる豊かな土地にしたいから。

 全てはリオンとの婚約が持ち掛けられたあの日に端を発している。

 

 父上からすれば予想外も良い所だ。

 単に真の国祖であるリーア・バルトファルトの子孫の血をレッドグレイブ家に取り込もうとして、まさか私が本心からリオンを愛するとは。

 我ながら幾度も「どうしてこうなった?」と首を捻り、その度にリオンの顔を見て得心を得る。

 結局の所、私は自分の愛する者達を護りたいだけなのだ。

 その為なら血の繋がった父に刃向かう、主君さえ利用する。

 私は婚約破棄されて仕方のない手前勝手な女かもしれない。

 それでも何ら悔いは無かった。

 他者からの批難など愛する男の微笑み一つで消し飛んでしまう。

 愚かな娘を持った父上、私を甘く見た兄上には御苦労願いたい。

 何しろ私は婚約破棄されるような悪女だから。




アンジェの改革案説明会。
歴史に於ける貴族社会の衰退、平民の権利向上の歴史などを参考にしてます。
ヴィンスとギルバートはある意味で貴族社会に於いて真っ当な人物であるが故に急激な社会情勢の変化に対応しきれてないイメージで、決して無能な訳ではありません。
原作本編でレッドグレイブ家から絶縁された時や最終決戦で援助を求めたアンジェのシーンが好きなのでオマージュ入っています。
次章はリオンのターン、外道騎士によるレッド公爵家を滅ぼす戦術講義。(予定
あと本日はアニメモブせかでアンジェを演じたファイルーズあいさんのお誕生日。
おめでとうございます。

追記:依頼主様のリクエストにより兔耳浓汤様、Sundajin Asagi様、むぎお様にイラストを描いていただきました。ありがとうございます。

兔耳浓汤様 https://www.pixiv.net/artworks/120093522
Sundajin Asagi様 https://www.pixiv.net/artworks/120093374
むぎお様 https://skeb.jp/@mugio29/works/3



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