婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第96章 Farmer's Strategy

「そもそも位階や爵位と実際の税収に大きな差がある貴族が多いのです。辺境伯のように実際は侯爵・公爵ほどの権限を持ちながら爵位が低いなどと称し数々の賦役を免除され、莫大な資産を蓄えてる場合を見過ごしてはなりません」

「必要な経費と捉えよ。国境付近は戦争の火種になりかねない案件が多く実力が無い者には任せられん。実力がありつつ野心の無い手駒が都合よくいる筈もない。中央に反発しない程度に忠誠心を持たせつつ他国との折衷で使う経費を考えれば止むを得まい」

「父上のお言葉も理解は出来ます。しかしファンオース公国を併合した影響で国境に大きな変化が生じました。国防の負担は減ったのに相変わらず一部の貴族は特権を有したままです。辺境貴族の多くは困窮しているのに一部の貴族が戦前の特権を与えられては示しがつきません」

「手元にある特権を奪われるとなれば反発する者も出る、下手に動けば内乱の種になりかねん」

「此れはしたり、今の王国で最も乱を望んでいる御方の言葉とは思えませんが」

「口を慎め、私とて無駄な犠牲は避けたいのだ」

 

 さっきからずっとアンジェとレッドグレイブ公爵(おやじさん)の会話は平行線だ。

 王国内の基本的な人事は変えないまま制度を変えて復興させたいアンジェ。

 貴族の優位性を保ったまま支持を受けて合法的に王様になって国を立て直したい公爵。

 真正面からの父娘談義はさっきから同じ所で止まっている。

 

 政治の話は俺にはよく分からない。

 いや、領主としてそれはマズいから必死に頑張ってるよ。

 だけど、この場にいる三人に比べて政治が明らかに不得手と断言できる。

 そもそも俺は上司から言われた事を出来る範囲内で何とか上手く熟せる程度の男なの!

 おっぱいが大きい嫁と結婚して、適度に仕事を熟しつつ温泉で体を労わって、子供が成長したら家督を譲ってさっさと隠居したいの!

 畑を耕して、温泉に浸かって、訪ねて来た孫に小遣いをあげるぐらいの人生で構いません!

 王国の趨勢に関わる問題とか本当に勘弁してください。

 頼むから俺に過度な期待するの止めろ、神様も王様も大ッ嫌いだ。

 

「妃殿下も狡辛い真似をしたものだ。正面から公爵家と争う訳にもいかず、かと言って公式の場で王家の失態を認める訳にもいかない。こうしてお前を使って裏から手を回す程度が精々だ。分からないのかアンジェ、お前はいいように利用されているんだぞ?」

「お気遣いは御無用です兄上。そもそも私は私なりの利を求めて行動しているに過ぎません」

「女狐は奸智に長じている、美貌で誤魔化されるが腸は黒く染まって見れたものではない」

「長年に渡って手を貸した老蛇も同罪でしょう。私からすれば自らの悪辣さを度外視した醜い争いです」

 

 真正面から批判してきたな、おい。

 まぁ、公爵とギルバートさんがミレーヌ妃殿下を嫌うのは仕方ないかな。

 ぶっちゃけ俺もあの王妃様が苦手だし。

 俺を見る視線がどう考えても使えそうな駒だから手元に置いておこうって魂胆をひしひし感じるもん。

 世の中には親切で爽やかなイケメンや美女を装って阿呆や善人を騙そうとする悪賢い奴がいるんだけどさ、昔から俺はそういう奴は何となく分かるんだ。

 『馬鹿だなコイツ、獲物にしてやろう』って攻撃性とか嘲りが明らかに視線や態度に現れるからね。

 俺が知る限り生粋の善人って言えるのは聖女のオリヴィア様ぐらいしか居なかった。

 あの人も善人過ぎて逆に怖い、何というか良い人過ぎてこっちが逆に不安になる。

 

 そんな訳でどんなに媚び諂おうとしても無意識に出た殺気は制御が難しい。

 俺は戦場で何度も人を殺したし、場合によっちゃ上司を囮にして見捨てて生き延びたから人一番敏感なんで。

 人を殺すってのは気負っちゃダメだ、どんなに嫌でも頭を空っぽにして命を奪えるようにならなきゃ心が壊れる。

 どうしてこんなに俺は荒事に秀でてんだろ?

 心穏やかに過ごしたい善性の塊みたいな俺にゾラ達みたいなクソ貴族が関わったからこんな人生になった。

 神様の馬鹿野郎、呪ってやるからな。

 ぼんやりと俺が阿呆な事を考えてる間も公爵家のお歴々は討論を続けてる。

 俺も加わってアンジェを支援したいけど加わる隙が無かった。

 ぶっちゃけ俺の政治力はこの四人の中で最低だから下手するとアンジェの足を引っ張りかねない。

 無能な味方が加勢して状況悪化するのが世界で一番ムカつく事だ。

 戦場で無能な上官と足を引っ張る友軍の存在は死に直結するもんな!

 

「私を、父上を、レッドグレイブ家を裏切るつもりか。よく振り返れ、お前が忠を尽くすべきはどちらか今一度冷静になって考え直せ」

「ホルファート王家に忠節を尽くす気はありません。この案も父上が王座に座る為に用いてくれてかまいません。ただ現状で王家を滅ぼすのは時期尚早な上に不確定要素が多過ぎると申し上げているのです」

「私は決して下位貴族を見捨てている訳ではない。戦後復興に関しても随分と悩んできた。だが、レッドグレイブ家が王家となるには今を於いて他に無い。予定を先延ばしにすればホルファート王家は力を盛り返す。その時レッドグレイブ家が無事でいられるかよく考えろ」

 

 もう何度目になるか分からない答弁を三人は繰り返してる。

 まぁそれも仕方ない。

 世の中に完全な理論や隙が無い計画なんて存在しないんだもん。

 アンジェの案も穴が無いとは言えないし、レッドグレイブ公爵(おやじさん)の言い分もかなり苦しい部分が多い。

 なまじお互いの頭が良いせいで相手の隙を見つけては突き、突かれては反論する流れが止まらない。

 話し合いの場が今日この時が初めてというのが痛過ぎる。

 交渉ってのは間違いを起こさない為に議題を小分けにして時間を置くのが鉄則なのにこうも結論を急いだら纏まる物も纏まらない。

 

「可愛いがっていた娘に手を噛まれるとは思わなかったぞ」

「手を噛まれるような事をしているのは父上と兄上です」

「口を慎めアンジェ、父上も私も私欲のみで動いている訳ではない」

 

 おっと、良くない流れだな。

 散々お互いに言いたい事を言い切ったせいで議論から個人攻撃になりかけてる。

 こうして見ると確かに父娘兄妹だ。

 政治の問題じゃなくて家族の口論なら俺にも付け入る隙はある。

 何より俺はアンジェの味方だし、嫁の実家が仲悪いのを見ていて楽しめるほど人格は終わってない。

 公爵とギルバートさんと直接顔を合わせた付き合いは長くないけど二人がアンジェを本心から心配してるのはよく知ってる。

 仲が良い家族でも権力闘争で殺意を抱くほど憎しみ合うのが貴族の権力闘争とはアンジェから聞いていた。

 その辺は辺境の貧乏暮らしで力を合わせなきゃ生きていけなかったバルトファルト家(うち)の連中とは違う。

 いや、姉貴とフィンリーはろくに家事を手伝わなかったな。

 うちの姉妹はいつも家の手伝いから逃げ出して俺や兄さんが余計に働く事になった。

 血が繋がってる姉と妹より文句を言わず慣れない辺境で俺に嫁いだアンジェを優先するのは当たり前だよ。

 アンジェは綺麗だし、オッパイ大きいし、優しいし、オッパイ大きいし、頭良いし、オッパイ大きいから。

 

「ま、ま。皆さん落ち着きましょう。一旦休憩してからにしませんか?」

 

 三人の視線が俺に集中する。

 公爵とギルバートさんに睨まれるのは仕方ない、けどアンジェに冷たい視線を投げかけると泣きたくなるから止めて欲しい。

 アンジェは賢い、賢いんだけど理路整然と説得すれば相手を納得させられると思い込んでる所が節ある。

 確かにきちんと考えて理路整然と説けば世の中が全部上手くいきそうな気がしてくるよな。

 

 でも理論は理論であって現実じゃ予想外の事態なんてしょっちゅう起きる。

 正論を説いても反発する奴は出てくるし、わざわざ効率が悪いやり方を選ぶ連中も必ずいるもんだ。

 指揮系統の問題だったり、費用の問題だったり、人員の能力といろいろある。

 そういうの無視して頭ごなしに正論で叱ると嫌われる、めっちゃ嫌われますね。

 

 厄介な事にアンジェはけっこう感情的だ、しかも自分じゃあんまり気付いていない。

 公爵家に生まれて将来の王妃候補として問題ないぐらい優秀だから逆らえる人が居なかったんだろう。

 感情的になると自分の主張を通す為に理屈を無理やり付けてる事に気が付かない、夫婦喧嘩の時もそうだ。

 こんな時は少しの間アンジェと距離を置く、時間が経つとアンジェの怒りが醒めてどうしてダメだったか自省してくれる。

 

 落ち着いたとアンジェはすごく気分が沈んでてしおらしく可愛い、すごく可愛い。

 飼い主にかまって欲しい猫みたいに体をすり寄せて甘えてくれる。

 そんなアンジェを慰めるのも俺の重要な仕事の一つだ、嫁さんが十全に働けるように手配するのもデキた旦那の条件だし。

 男として、夫として、領主としてどうなんだ?

 あ~! あ~! な~んにも聞こえませ~ん!

 という訳で愛する嫁とその家族の為へ保温器に入れられてまだ温かい湯を使って新しく紅茶を淹れ直し配るにも重要な仕事だと思うんですよ俺は。

 

「これ美味いぞ、アンジェも好きなんだろ?」

「……まったく」

 

 アンジェが眉間を押さえたアンジェが仕方ないとばかりに茶菓子に口を付けた。

 甘味は偉大だ、感情的になってた嫁の気分を鎮めてくれるから。

 わざとおどけて嫁の世話をしつつご機嫌を取ってるのをアンジェにだけでも察して欲しいですが。

 俺、夫だよ?領主様だよ?

 こういう部分でアンジェに頭の上がらない尻に敷かれてる夫と公爵家の連中に思われるんだろうな。

 まぁ事実だから認めるしかない。

 とりあえず三人とも黙々と茶を啜って茶菓子を頬張ってる。

 やっぱ似た者同士だよこの人達、本人は気付いてないかもしれないけど。

 

 このままアンジェが説得を続けても二人を同意させるのは難しい。

 数で劣り質で劣り経験で劣る俺達は説得させるには別の視点から切り込むか力で脅すかの二つぐらいしか俺は思いつかない。

 力で解決する方法は既にアンジェに内緒で手配してる。

 アンジェと公爵家を同時に敵に回すから正直やりたくないけど。

 だから別方向から攻めてみよう、こっちはアンジェも協力してくれたから加勢が期待できる。

 

「あ~、この場は公爵?お義父様?閣下?どの呼び方した方が良いですかね?」

「好きに呼びたまえ家族の集まりだが政の場でもある」

「では閣下、私からも意見があります。お耳汚しですが茶飲み話として聞いて下されば恐縮です」

「構わん、私も婿殿の率直な意見を聞きたいと思っていた所だ」

 

 暗にどうせ大した代案を作れないだろって考えが透けて見える態度だ。

 まぁムカつくけど事実だからしゃあない、切り替えていこう。

 

「では失礼します」

 

 テーブルに置かれたポットやらケーキスタンドを避けながら地図を広げた。

 何事かと驚く二人とは別にアンジェは何処か楽しそうだ。

 もう少し手伝ってくれると嬉しい。

 けっこう大きめの地図だからテーブルの半分以上を覆ってしまったな。

 地図の四隅を保温器やティーポットを置いて固定しておこう。

 更に鞄から小さな箱を三つ取り出して中身をぶち撒ける。

 中に入っているのは軍の作戦会議とかで使う兵棋だ、青と赤に色分けされた兵棋を一つずつ並べていく。

 地図にはホルファート王国の全体が記されいる、まず王都に青の大きな兵棋を置いてレッドグレイブ領には赤の大きな兵棋。

 

 そこから順々に兵棋を配置していく。

 例えば赤くて小さな兵棋なら公爵派の男爵と子爵といった下位貴族、青の中ぐらいの兵棋なら王家派の伯爵か侯爵といった具合だ。

 爵位の高さが兵力の強さとは言い難いし、ファンオース公国との戦争による領地の損耗を度外視したからかなり大雑把でツッコミ所満載だけど仕方ない。

 最後に白い兵棋を各地に配意する、これは王家派・公爵派のどっちとも言えない中立の貴族だ。

 バルトファルト家のホールより広そうな応接室に似合わない地図を広げると違和感が物凄い、自分がどれだけ珍妙な事をしているかよく分かる。

 本当に上手く説明できんの俺?

 アンジェは大丈夫って言ってたけど俺にそんな賢い頭も上手い舌も無いぞ。

 仕方ない、やれるだけやってみるか。

 飛行船の砲撃や鎧の強襲ばっかの戦場に比べたら本当に人が死なないだけ穏便だ。

 

「さて、現在のホルファート王国の勢力図はこんな感じですね。この地図だと細かい部分はいろいろ違いがあるとは思いますが、大まかには間違っていない筈です」

 

 赤と青の兵棋はそれぞれの大将棋(キング)の周りに集中し、端に行くほど無秩序に混ざり合ってる。

 どの戦争でも総指揮官は戦場から一番遠い場所で防備を固めて命令を下す。

 尤も大将棋(キング)を討っても戦闘続行なんて場合も珍しくはないけど。

 特に王家派の青い兵棋は王都を中心にガチガチに固まっている。

 いくらホルファート王国の貴族が腐敗してたと言っても頼りにならない貴族に王都近くの守りを任せるほど耄碌はしてないらしい。

 一方で赤い公爵派の赤い兵棋は広く浅い布陣だ。

 派閥として本格的に成立したのがこの数年だし、貴族の人事は王家が握ってる。

 ホルファート王家は今回みたいに領主貴族が徒党を組んで叛逆を企てる状況にならないよう爵位の剥奪やら女尊男卑政策を敷いてきた。

 そうやって領主貴族の力を削ぎ王家の力を強めてきたのが完全に裏目に出たらしい。

 

「御覧のように既に公爵派は王家派を取り囲み、国境付近の辺境伯とは距離が遠く連携は困難です。連携を絶ち物資や食料の流れを止めればじわじわと日干しにするのが最も理想的な形になるでしょう。戦わずして勝つ、まさに王者の戦いですね」

 

 わざとらしく公爵を褒める、アンジェ以外の二人は鼻白んでるけど話を進めよう。

 

「大雑把に見れば青い軍棋が赤い軍棋に取り囲まれてる布陣です。これが単純に一つの浮島、一つの浮遊大陸を攻め落とす戦なら決着は既についています」

「ほう、分かるか?」

「王家派が治めている領地は確かに交易上の重要地点、或いは他国と国境付近。国を治めるなら抑えておきたい場所ばかりです。決してホルファート王家が無能ばかりじゃないと証明しています」

 

 アンジェに教わったけど金の流れ、人の流れ、物資の流れは血液みたいなもんだ。

 上手く循環させれば流れをさらに強めて国はますます発展する。

 

「次に兵站の面から考えたらどうなるか?これが内乱になった場合の王家派の弱点になっています。王国の食糧事情を担っているのは広大な農地を持ち、他領へ食料を輸出できるほどの収穫量を持った領地です。王国の食糧事情を担いながら中央の連中に軽んじられ、田舎者と嘲られた領主貴族は多いと聞いています。そうやって軽んじられた領主貴族が王家派に対して食料の供給を止めたらどうなるか?あっという間に王都を中心とした浮遊大陸や浮島は干上がります」

「飢えた民の怒りは王家に向かう。暖衣飽食を貪る王都の者達には良い教訓となろう」

 

 恐ろしい事を考えるオッサンだ。

 王都のデカい屋敷に住んで上等な菓子と茶を味わいながら、この浮遊大陸に住む連中が飢えるのを辞さないつもりかよ。

 単に自分が王位について支配したいって悪党ならマシだ。

 この人は信念を持って非情な手段を選んでるから恐ろしい。

 

 俺も豊かな王都に住んで食い物を当たり前のように消費する連中は嫌いだ。

 食は全てに通じている、それが俺の基本方針の一つだ。

 一粒の麦や一切れの肉にどれだけの手間暇がかかっているかまるで理解せず、贅沢に溺れている貴族や金持ちが多くて王都に来るのは辟易する。

 ゾラ達はそんな貴族の典型例だった事も影響してるんだろう、つくづくあいつらは俺の人生に禍根を残してばかりだ。

 

「もちろん王家派の領地も領民を養える程度の食糧は最低限蓄えてる筈です。しかし一番の問題になるのは人口が多い王都。国の中心である王都が存在する浮遊大陸は広大な面積に対し農地が足りな過ぎます。食料の供給をほぼ領主貴族達が治める領地から輸入している状況であり、人口が多ければ食料の消耗は飛躍的に増大しますし、物流網を完全に抑えれば一年程度で公爵派の犠牲は最小限のまま勝てるでしょう」

 

パンッ パンッ パンッ パンッ 

 

 公爵が手を叩く、楽しそうに肩を震わせて真正面から俺の顔を見据える。

 この人が俺を見たのは初めてかもしれないな。

 アンジェと同じ紅瞳(ルビーアイ)から発せられた視線が時間を掛けて頭から爪先まで睨め付けられた。

 中々の圧力だけど死の危険を感じる程じゃない、もっと恐ろしい怪物みたいな連中や危険な戦場を駆け巡ったおかげだろう。

 

「アンジェ、此れはお前の差配か?」

「いいえ、違います。リオンが自分で思い付きました。本当に父上の戦略と同じでしょうか?」

「無論、細部は異なるがな。大まかには合ってると判断せざる得ない。あくまで候補の一つだがこうも見事に当てられるとは気分が良い」

 

 まだ在るのかよ。

 作戦を一つだけ用意して固執するのは馬鹿がやる事だけど、戦略を一つ当てただけで過大評価されるのも困る。

 王都を陥落させるのに一番効率が良くて簡単な方法は何かな~?ってぼんやり考えたら出た案だ。

 兵糧攻めは恨みを買うから下手にやると囲まれた連中が決死隊になって突撃してくるから始末が悪い。

 追い詰められた人間は後先考えずに突撃してくるから恐ろしいんだ。

 何せ俺がそんな奴だからね。

 自棄になって敵軍に突撃したら何故か指揮官を討ち取って貴族になっちゃったけど。

 そんなだから懲りて今度は味方の被害は最小限に、敵の被害を最大限の作戦を立て続けたら外道騎士なんて呼ばれるようになった。

 こんな才能あっても全然嬉しくない。

 

「なるほど。バルトファルト卿、君は実に興味深い男だな。いつからこの策に気付いた」

「最初はバルトファルト領で収穫した小麦の販路が無いか調べた時、次は公爵派の貴族の名前と領地を調べた時、最後はもし俺が王家派と戦うならどんな方法が一番効率的か考えた時です」

 

 紅茶を掻き混ぜるティースプーンでバルトファルト領を指し示す。

 咎めるようにアンジェが睨んだけど無視して話を進める。

 

「最近になって漸くバルトファルト領も領民の食料を賄えるようになりました。輸出するにはまだ量が足りませんが、いずれ販路を作るには商品の流れを把握しろとアンジェに言われまして」

「成程、そこで王家派の領主貴族の位置を把握した訳か」

「販路を幾つか調べたら必ずどこかで王家派の領地を経由します。ホルファート王国の物流は王家が握ってると薄々察しました」

「公爵派の貴族の名前と領地を調べた時は?」

「仮に販路が出来たとしても同じ商品で競合する相手が出てきます。食料、特産品を調べて王国の穀倉地帯を調べました。他に貴族の集まりや公爵派として親しくなった貴族の名前が引っ掛かって調べたら見事に一致したんですよ」

「ふむ。最後はどう考えたかね?」

「仮に王家派と公爵派は本格的に争った場合、最も厄介な相手は何だと思いますか?」

「王家の艦に他ならない。あれこそホルファート王家による支配の象徴だ。領主貴族が叛心を長きに渡って挫いてきたロストアイテム。王家の艦の存在故にホルファート王家は国の頂点に君臨できた。だが、最早それはもう存在しない。仮に修復が可能でもどれだけ時間をかければ良いか誰にも分からぬ。攻めるなら今を於いて他に無い」

「じゃあ、次に厄介なのは?」

「聖女オリヴィア」

「俺は聖女様じゃなくて五人の英雄だと思っています」

「私と君の見解は違うと?」

「えぇ。聖女様は同じ国の奴らが争う光景に心を痛める優しい人です。どちらかに加担するよりも和平の仲介をする可能性が高いかと」

「……」

 

 オリヴィア様を褒めた途端にアンジェが不機嫌になった。

 俺の嫁さんは嫉妬深くて困る、真面目な話してる時は勘弁してくれ。

 

「直接的な戦力を考えれば聖女様より殿下を筆頭とした五人の方が厄介です。前の戦争で公女を討ち、今回も公女を捕らえた。超大型のモンスターと相打ちになった王家の艦ばかり目立ちますが、武功に関してあの五人に並ぶ者は王国内に存在しません」

「貴公が挑んでもか?」

「無理です、勝てません」

「領内の戦闘でユリウス殿下と引き分けたと聞いたが」

 

 さらりと俺と殿下が決闘した事を暴露された。

 まぁ、絶対に隠し通せる物じゃないとは思ってたけど今まで黙ってるとか公爵も随分人が悪い。

 たぶんアンジェが空賊に襲われた話もある程度は裏取りは取れてるって訳か。

 やり難いオッサンだな。

 でも真相を知ってるならそれはそれで有利に話を進められる材料にもなる。

 

「あれは同じ条件で一回きりの決闘だから上手く引き分けに持ち込めただけです。五人が連携して攻めればこの国で止められる者は存在しません」

「それほどか」

「五人がかりで聖女様も同行してたとはいえ十代で黒騎士バンデルと公女を討ち取った連中です。艦砲による一斉射撃なら仕留められる可能性はあります。生き残って懐に入られたらこっちの負けかと」

「故に兵糧攻めか」

「失礼ながら、閣下も俺と同じ結論に至ったからこの作戦を思いついたのでは?」

「……業腹だな。度し難い阿呆でありながら戦では類を見ない力を持つ者ほど厄介な者は無い。下手をすれば包囲網に穴を空ける可能性が持つのが彼奴等だ」

「心中お察しします」

 

 あいつら本当に俺と同じ人間なの?と思うぐらいに強い。

 球っころ(ルクシオン)が言ってた旧人類とか新人類の技術で作られたのか本気で疑ってるぞ。

 真面目に相手するとこっちの被害が半端ないから相手したくない。

 でも無視する訳にもいかないって非常に厄介な奴らだ。

 だから戦略的に封じ込めるのが一番だ。

 相手にせず食い物を奪って弱らせるのが最も被害が少ない。

 卑怯とか言われてもあいつらと真正面から戦ったら命が幾つあっても足りないし。

 但し、この戦法を取ったら間違いなく公爵は嫌われる、王家を打倒したいから王都の奴ら全員が餓死しても構いませんって思う奴を王に据えたい貴族はいないだろう。

 恐怖で従ってる奴は自分がもっと恐ろしい目に会うと分かったら平気で裏切る。

 金を借りてるから従ってた奴はさっさと返済して関わり合いを絶つ。

 むしろ生き延びた王家派に正統性を与えるだけになる。

 聖女様を身内にしてもさすがに誤魔化しきれないぞ。

 

「叛逆止めませんか?」

 

 本音をぶち撒けた。

 三人とも口を開けて驚いてる。

 だって、これ勝つの凄く難しいもん。

 勝ったとしても残るのはさらに荒廃した国と喪われた命と後世に遺る汚名だけ。

 それよりも領主貴族筆頭として王国の復興と改革を目指した方が建設的だと俺は思う。

 

「王国が滅びるのは面倒が多過ぎます。ただでさえ弱ってるこの国に致命傷を与えかねませんよ。責任は全て陛下に押し付けて、閣下が政務を執り仕切る。面倒事の負担は少ない方が良いでしょ」

「バルトファルト卿、私は君を高く評価している。今を以って過小評価していた事実を詫びよう。アンジェを娶るには足りない物が些か多過ぎると思っていた。しかし、才能に関しては申し分が無いらしい」

「ありがとうございます」

「話はまだ途中だ、君には貴族として足りない物が在る」

「……何でしょうか?」

「己の手を汚し悪名を遺す覚悟だ」

「御言葉ですが、俺の評判だってそれほど良い物じゃありませんよ」

「私は家族が謀叛人と裁かれても己の意志を貫く覚悟が君にあるのかと尋ねている」

 

 そんなもん無い。

 俺は自分の家族が大事だ。

 家族に為にやりたくもない領主をやってる。

 もし家族と爵位のどっちかを選べってんなら迷い無く家族を選ぶ。

 此処まで生きれ来れただけで幸運、アンジェを嫁にできただけで奇跡と言って良い。

 この生き方に覚悟が無いと言うのならその通りなんだろう。

 何せ気楽な貴族の三男坊として生まれましたんで、平民同然の気楽な育ちだ。

 

「私は物心ついた時からこの王国を見てきた。まだ立て直せる、在りもしない希望に縋り今日まで生きてきた。老境に差し掛かり立て直せる場所を疾うに過ぎ去ったとやっと認められた。残り僅かな人生で出来るのは子や孫の為に生にしがみ付いたホルファート王国を無に帰す以外ない」

「それは早急でしょう?聖女様を筆頭に頑張ってる奴らも多いですよ」

「滅びる時に滅びなければ無様を晒すだけだと理解できないかね。王国は寿命が来ている」

 

 どうやら公爵の決意は固いらしい。

 この人が野心の強い奴なら殴って止められる、単なる悪党なら殺しても気に病まない。

 でも公爵は正義感で動いてる、それも俺が生まれるずっと前から。

 俺がやろうとしてる事は間違ってて、公爵の方が正しいのかもしれない。

 

 でもさ、俺も嫌なんだよ。

 同い歳の奴らがまた戦争で死んだり、道端で飢えに苦しんで息を引き取る子供を見るのは絶対に嫌なんだ。

 それは確かにこの国が生まれ変わるのに必要な犠牲なのかもしれない。

 だからといって俺にとっちゃ許容できるもんじゃない。

 公爵が正しい国を作ろうとして争いを起こすなら、俺は少し汚れていても人が死なない方が好きなんだ。

 だからすいません。

 公爵様の企ては止めさせていただきます。

 

 深い溜め息を履きながらテーブルに置かれた軍棋を弄る。

 これから公爵を無理やり捻じ伏せてアンジェに恨まれるかもしれないと思うだけで気が滅入った。




リオン視点の章、思いの外長くなったので戦略的な部分は次章に持ち越しになりました。
ヴィンス公は原作だと俗っぽい部分もあるんですが、今作はリオンが非転生者でルクシオンを期待できないので王国に対する失望が勝ってます。
ここから更に追い詰められるとか私は人の心が無い…。(汗

追記:依頼主様のリクエストにより笹様、またあおうね様にイラストを描いていただきました。ありがとうございます。

笹様 https://www.pixiv.net/artworks/120324311
またあおうね様 https://www.pixiv.net/artworks/120390999(成人向け注意

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