婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第97章 Strategic Eye

「王家派に勝てる確実な算段が存在してるならそれも良いと思います。ですがありません」

「それは戦術的、戦略的に不可能と捉えてよいのかね?それとも別の要因か」

「勝利をどの場所にするかによります。あの五人に関しては正面からの戦いを避け、作戦を練って封じ込めるやり方は可能です。戦えば必ず勝つ無敵の駒、でもたった一つの駒です。あいつらが局地戦で勝利しても他の戦場が全て敗北なら意味がありません」

 

 異なる動きをする超一流の英雄五人は乱れなく戦場を動き回り敵を討つ。

 確かにこの国の誰もが無敵の英雄様達を憧れと同時にあいつらを恐れている。

 アンジェ達が誘拐された時、ジルクとグレッグはたった二機の鎧でニ十機を超える鎧の軍団と大型飛行船を仕留めた。

 十倍以上の鎧を無傷のまま撃墜したあいつらの雄姿を間近で見た時の衝撃は今でも忘れられない。

 味方としては頼もしいが敵から見れば死神の化身としか言いようがない、敵として最も遭遇したくない厄介な連中だ。

 だけど、あいつらの強さは奇跡的に噛み合った集団としての強さだ。

 決して各々が絶対無敵の存在って訳じゃない。

 レッドグレイブ家とホルファート王家が武力で争った場合を考えた時、最強の敵として想定したのはあの五人だ。

 

「奴らの鎧は最新機の上に個々の特性に合わせ改良してます。加えて当人達も超一流の戦士。戦場では無類の強さです。だけど戦争の趨勢を決定的にするには少し数が足りません」

「あの五人を本当に討てるのか?」

「英雄と言えど只の人です、飯を食わなきゃ力が出ませんし疲れたら否応なしに眠りを必要とします。飽和戦術を絶え間なく仕掛け続ければいつかは疲労が限界に達するでしょう。若しくは分断工作を仕掛けます。あの五人の強さは互いの死角を補い合うからこそ成立しています。重要拠点を最低でも三ヵ所、可能なら五ヵ所を同時攻撃を仕掛けます。腕の良い騎士を最新の鎧に乗せてあいつら一人に対し最低でも十機、出来れば二十機で囲めば相討ちには持ち込めるでしょう」

「そこまで手を尽くしても相討ちなのか」

「これでも目算が甘いと俺は思っています。弱らせるまでにどれだけ被害が出るか、あいつらを潰す為に犠牲になれと言って従う貴族が公爵派に存在するか疑問です」

 

 どうすればあいつらに勝てるか、頭の中で試行錯誤を繰り返した末に絞り出した結論は圧倒的な物量で攻めまくるという極めて単純な方法だった。

 敵軍の総数を越える軍勢で昼夜関係無く攻撃を続けて休ませない。

 疲労と消耗が限界に達した頃合いに同時侵攻で戦力を分断せざる得ない状況に追い込む。

 これだけ戦力を投入しなければあいつらを仕留められる自信が無かった。

 しかもあの五人以外にも王家派の軍が存在してる。

 同時に相手するにはこちらもかなりの犠牲を覚悟しなきゃならない。

 

「士気の問題もありますよ。向こうは王家を護ろうとしてる英雄、こっちはどんなに言い繕って反逆者です。今の王国は数年前に比べたらだいぶマシな統治をしてます。公国が去年侵攻してきたのは王家に落ち度があった訳じゃない、初期対応を考えればよくやった方でしょう。おまけに国庫は空に近い状態で王は私財を売り払って国の立て直しに奔走している。いくら王家が失態を繰り返してきたと言っても剣を向けるには躊躇いが生じるかと」

「バルトファルト卿、まるで王家を庇う言い草だな」

「そう受け取られるのは覚悟の上です。多くの貴族が誤解してますが、俺は勝てない戦を勝たせるような天才じゃありません。攻めるより守る方が性に合ってますし犠牲も少ない方が好きです。一から何かを生み出すよりも今ある何かをするよりもダメな部分を無くして良い所は残す。地味な繰り返しで問題を解決する方が得意な凡人ですよ」

 

 前の戦争で公国軍の司令官を討ったのがマズかったな。

 普段から偉そうにしてる貴族の連中が敵前逃亡をしたせいで現場で戦う兵士が纏める為に言った大言壮語が上手くハマるとは思わなかった。

 敵陣に攻め込んだら本当に討てるとはやった俺自身も思ってなかったぐらい無茶な作戦だ。

 何で逃げ出さなかったのか自分でも分からない。

 敵前逃亡した奴らと同類になりたくなかったのか、俺なりに愛国心や家族が居る場所を護りたかったのか、正常な判断も出来ないぐらい追い詰められてたのか。

 その全部が当て嵌まって作戦が偶然上手くいっただけなんだろう、運が良いのか悪いのか分かんねえ。

 もう絶対にあんな無茶はしない、今度から準備万端で戦うと心に固く誓ったぐらいだ。

 

 去年の再侵攻だってそうだ。

 とにかく領兵の犠牲を出さず少しでも公国軍の侵攻を遅らせようとしぶとく戦線の維持に努めた。

 うちの領軍だけじゃ守り切れなくて、近くで戦ってた貴族を助けて貸しを作ったら物凄く良い人扱いされ始めて困る。

 俺みたいな若造がまとめ役とか少しは嫌がれよ、そんな大役を俺に押し付けんな。

 とりあえず犠牲が出て恨まれないように防衛に専念させて、公国軍の隙を狙った攻撃をしまくったらコレが成功した。

 俺が担当した戦線が一番粘って犠牲が少なかったと王国内で称賛され始めた。

 代わりに公国軍や俺を嫌ってる貴族からは外道騎士とか呼ばれてるけどな!

 その場その場で何とか凌いでるのが俺なんですよ、味方にすれば勝てるなんて便利な軍師なんかじゃない。

 死にたくないから必死に戦術書を読んで情報を搔き集めて効果がありそうな作戦を立ててるだけ。

 定石を外したのは敵陣特攻した一回だけです、奇跡みたいな一回をやたら持ち上げられても勝てないもんはどうやっても勝てません。

 

「それにこの勢力図は正しくありません。今は情勢が異なってます」

 

 まずは地図に置かれている公爵派の赤い軍棋の中から幾つかを取り除き、黒い軍棋に変えていく。

 次に王家派の青い軍棋に変えていく、こっちは公爵派よりずっと少ない。

 赤・青・白・黒の四つの勢力が混ざり合って地図の上を鮮やかに彩ってる。

 公爵とギルバートさんはこれが何を示しているか試行している、一方のアンジェは何処か楽し気だ。

 先に気付いたのは公爵の方だった。

 

「ローズブレイド伯爵家、モットレイ伯爵家といった我々の側に付いていた領主貴族。逆に王家派のフィールド家やセバーク家も混じっている。そのどれもがアンジェの掲げた改革案に賛同している者達だ」

「その通りです」

 

 公爵の指摘にギルバートさんが驚きの表情を露にした。

 ギルバートさんの頭が悪い訳じゃない。

 公爵派と王家派の二極化で考えてる人には黒の軍棋の共通点を見出すのが難しいだけだ。

 

「つまり卿はこう言いたいのか?『改革案に反対すれば公爵家の派閥から離反する者達が次々現れる』と」

「はい、公爵派に付いた貴族の多くは資金難に苦しんでる貴族が殆どです。もちろん宮廷貴族や王家に対する怒りを持っている者も多いでしょうが、公爵派に付いた大半の貴族は『金』が理由です。言ってしまえば金を貸してくれるから公爵に従ってくれるに過ぎなません」

「無礼だぞリオン君!」

「落ち着いて下さい兄上」

「でも事実ですよ。俺だってアンジェを嫁に貰って公爵家から融資してもらっている立場ですから。女と金に釣られて公爵家の寄子になったと言われたら否定できませんし」

 

 金を貸してくれるから公爵家に味方する。

 なら別の所がより多くの金を貸すならどうなるか?

 しかも恩着せがましくない上に政争に参加しなくても良いと分かったら?

 みんな挙ってそっちの方に移るだろう。

 飯が食えないから自分達から税を巻き上げ悪政を敷く支配者に歯向かう気力が湧くもんだ。

 逆に衣食住が足りてるなら今の暮らしを壊してまで戦おうとする奴はそうそう居ない。

 今回の叛逆は王国の復興が滞りがちな所に公爵が付け込んだ形で起きてる。

 なら復興の為の資金繰りや人材の確保さえ上手くいけば大半の貴族は王家に逆らう気が失せて大人しく領地経営に勤しむはずだ。

 

「アンジェの考えた改革案に賛同した領主貴族は公爵が絡んでると思い込んでますよ。『慈悲深いレッドグレイブ公爵が領主貴族達を救う為に実の娘や娘婿を使って新しい金融機関を作ろうとしてる』って。この案が漏れなかったのは王家に潰されるのを避ける為に他言無用って伝えておいたせいです。逆に王家派は『公爵派が反対する可能性を鑑みて情報漏洩に注意を払え、これは妃殿下の勅命である』と信じています。反対する者は王国の復興に反対し私腹を肥やそうとする輩に相違無しと思っているでしょう」

 

ダンッッ!!

 

 テーブル上の地図や軍規やティーセットが音を立てて揺れる。

 血走った目で公爵が俺達を睨んでる、怖ぇ。

 

「謀ってくれたな、家名を騙り裏で賛同者を募るとは。王家を潰す算段ならまだしも延命に手を貸すなど正気か。嘗てのお前なら決して選ばないだろうに」

「落ち着いて下さい父上。この案とて成功する保障は何処にもありません。失敗し王国が運営する貸金業者が増えただけで終わる可能性も十分にありえます。何しろこの国に於いて初の試み、失敗すれば王家の信用は地に墜ちるでしょう」

「……その時は王家を批判する材料とせよ、そう言いたいのか?」

「立案した私が言うのも酷い言い草です、ただ今のホルファート王家を滅ぼして玉座に座ろうとも旨味は少なく割りに合いません。国庫は空に近く国内の政情は不安定、王家派の貴族達を潰し領地を公爵派に分け与えた所で統治する者が居ない。積極的な人材登用を考えても、それはあくまで現時点で政務を担う者達の無事が前提条件です」

 

 アンジェが俺の説明の補足をしてくれて実にありがたい。

 このまま最後までやってくんないかな?

 俺は戦術や簡単な政治は上手くやれても複雑な政治の説明は上手く出来ないし。

 縋るように見つめていると『早く続きを説明しろ』とアンジェが促してくる。

 俺の嫁はもっと俺に優しくしても罰は当たらないと思うんだけど。

 

「えぇと、アンジェの案に賛同してくれたのは領主貴族と宮廷貴族を合計して王国貴族の二割程度です。地図で公爵派の変動が大きいのは賛同者の多くが辺境や戦争で被害の大きい領主貴族だからです。一方で王家派の変動が少ないのは賛同者の多くが領地を持たない宮廷貴族。彼らを取り除くとほぼ同数だった王家派と公爵派の戦力は公爵派が不利になります」

 

 赤一色だった公爵派の布陣の所々に黒い軍棋が混じっている。

 改革案に賛同してる連中を敵を見做すなら排除しなきゃならない。

 でも離反者を排除しつつ王家と戦うなんて真似をすれば確実に負ける。

 

「どうします、督戦軍でも差し向けますか?」

「馬鹿を言うな!!」

 

 ギルバートさんの大声が室内に轟く。

 この人とは仲の良い義兄弟になりたかったけどさっきから怒られっぱなしだ。

 絶対に嫌われたなぁ、こりゃ。

 督戦部隊は自軍の兵士が逃げ出さないように監視し、場合によっては処刑する権限を与えられた特殊部隊だ。

 実際の戦闘は命がかかってる、怯えて逃げ出す兵士なんて珍しくもない。

 どの指揮官も頭を悩ませるけど中には「逃げ出す兵士を見せしめに殺す」なんて過激な制裁をやる奴らが出てくる。

 

 ちなみに俺が王国軍に所属してた頃にも兵士の行動を厳しく監視して報告する貴族出身の奴が居た。

 公国軍との戦闘でろくに戦わず部下や兵士の行動を在る事ない事告げ口するのが自分の仕事だと言わんばかりの嫌な奴だったな。

 ある朝、兵舎の近くの森で死体になって見つかった。

 裸で発見された上に暴行を受けた痕が明らかだったけど詳しい調査はされず事件は迷宮入り。

 戦争なんて異常事態で戦ってるんだ、死にたくないから上官を殺すような事を仕出かす奴も出てくるさ。

 指揮官なんてどれだけ偉くても自軍の中の一人に過ぎない、部下全員が叛逆したら押し込められて殺されてしまう。

 

 公爵に関しても同じ事が言える。

 確かにレッドグレイブ家の力は小国規模でそこら辺の領主貴族なんて物の数じゃない。

 でも自分に逆らう貴族を次々と滅ぼしたらどうなるか?

 公爵派の分裂は避けられない。

 横暴な王家に対して不満を抱える領主貴族の代表が独裁を始めたら口先だけの暴君になっちまう。

 公爵自身が王様になりたいから甘い言葉で貴族達を釣って手下扱いにしてる思われて反発を招く。

 最悪、次から次に寝返りが出て孤立無援のまま逆賊として討たれて終了だ。

 

「臣下でもない貴族達はレッドグレイブ家に忠誠心なんて持ち合わせちゃいません。あくまで領主貴族筆頭、共に王家の失政を糾弾する同志と思ってます。横暴な振る舞いをすればその時点で敗北は確定です」

「故に叛逆ではなく諫言を選べと?王位の簒奪ではなく政務改革を選んだ方が得策と言いたい訳か」

「まだ戦争からまだ一年。閣下が王家の弱体を狙って仕掛けたのは分かりますけど領主貴族達も戦争の疲弊から回復しきっていません。消耗戦になればずるずると国全体が弱ってしまう。犠牲が大いに割りに何ともまぁ得る物が少ない叛乱ですね」

「…………」

「それに、この情勢下になると楽にレッドグレイブ家を滅ぼせる策があるんですよ」

「まだあるのか……」

 

 御二方がうんざり気持ちはよ~く分かるけど最後まで聞いてください。

 今までの話は事前にアンジェと話し合って決めた説得案だ。

 ここから先は俺が閃いた物でアンジェは知らない。

 

「見ての通り、王都の近くやレッドグレイブの周囲は勢力がある程度固まっています。一方で辺境は公爵派・王家派・中立派ががバラバラの状態。国境に近づくほどそれは顕著になる。そうなると一筋の道が出来上がります」

 

 レッドグレイブ領をスプーンで指してある地点まで動かしていく。

 途中の領地は王家派や中立派ばかりだ、この方向から攻めればレッドグレイブ領まで阻む物は無い。

 ついに地図の端まで達したその場所に記されている名をスプーンで小突く。

 地図には『フィールド辺境伯領』と書かれている、そして地図の先にスプーンを置いた。

 賢い公爵家のみんなならこれだけで気付くはずだ。

 

「ファンオース公国、いやファンオース公爵が攻めてくると言いたいのか?」

「少なくても俺はそう読んでます」

「いや、それはありえないだろうリオン」

「アンジェはどうしてそう思うんだ?」

「公国は敗戦後に軍部の解体、保有戦力の徴収が行われた上で併合された。今後はファンオース公爵家として扱われるが賠償金や領民の渡航制限など様々な制限が課せられている。とても戦える状態ではない」

「じゃあ聞くけどさ、レッドグレイブ公爵家とファンオース公爵家。今のホルファート王家にとって危険なのはどっち?」

「それは……」

 

 想像の埒外から俺の意見を聞いてアンジェが困惑してる。

 俺の嫁は可愛くて堪らないな。

 アンジェ以外の二人も虚を突かれたらしく驚きを隠せていない。

 これは直にファンオース公国と戦った奴にしか分からない感覚だ。

 今も王国の地図は旧公国の領地を追加されてない物が出回ってるし、貴族はもちろん平民だってファンオース公爵を王国の貴族と認識してない。

 何処までも『ホルファート王国のファンオース公爵家』じゃくて『旧ファンオース公国の統治者』と感覚が沁みついていた。

 そのせいで思考からファンオース公爵の存在が抜け落ちる。

 脅威を思わず隷属した敗北者だと思い込みホルファート王家とレッドグレイブ家の争いに介入しないと考えてしまう。

 

「いずれファンオース公爵家には王族が招婿される予定だったろ。もちろん監視目的だけど王国に準王族で領主貴族な公爵家がもう一つ生まれる。公爵家は王家に何かあった場合に備えての保険なんだから反抗的なレッドグレイブ家をわざわざ残す必要は無いはずだ」

「極論過ぎるぞ、公女や旧公国民に何の得がある」

「それこそ得は幾らでもあるさ。賠償金の減額、制限の緩和、労役の免除。王国で人並み扱われるなら憎んでる王家に使われても文句は出にくいと思う」

「……しかし、今のファンオース公爵家にはレッドグレイブ家に対抗する戦力が無い!」

「モンスターを大量に召喚した魔笛がある」

「あれはオリヴィア達が破壊した筈だ!」

「それを証言してるのは誰かな?」

「ッ!!」

 

 アンジェは言い返せない。

 そりゃそうだろう、前回の戦争で公女を討ったのは聖女様と英雄達。

 今回の戦争でも公女を捕獲しロストアイテムを破壊したのも聖女様と英雄達。

 どっちも王家の側にいる連中だ。

 他の奴らは魔笛がどんな形をして本当に破壊されたのかさえ分からないまま。

 

「これから戦う相手の言ってる事を真実だと思い込む方がどうかしてるぞ。切り札は大切に仕舞って死に札にする物じゃない。ここしか無い時に使うもんだ」

「それがレッドグレイブ家が叛逆する時だと?」

「前の戦争で魔笛は破壊された、そう証言されてたし聖女様が居るから王国はしばらく公国が攻めて来ないと王国全体が油断してた。でも魔笛はまだ残っていて、僅か五年で再侵攻してきたんだぞ。似たような物がまだ在る、修復できないって保証は無い」

「……悔しいが反論できん」

「魔笛ってやつがどんな物か知らないけど王家の艦みたいに修復が難しいのか俺達は分からない。そもそもホルファート王家が真実を語ってるかも不明だ」

「……敢えて我々のような不穏分子を炙り出す為に王家が詐称している。君はそう言いたいのか」

「はい。公女を捕獲して魔笛を破壊したと言ってるのはオリヴィア様とユリウス殿下達です。破壊された魔笛はどうなったのか?公女を処刑しなかったの理由は?疑う余地はあると思いますよ」

「成程な……」

「仮に魔笛の破壊が本当でもファンオース公爵を参戦させる可能性は否定できません。王国に対する怒りの捌け口をレッドグレイブ家に向けさせれば良い鬱憤晴らしになるますから」

 

 三人は返す言葉が無いらしい。

 俺だって一ヶ月前ならこんな考え方を思いつかなかった。

 転機はこの間の冒険、未発見のダンジョンであの玉っころに出会ってからだ。

 故障したと思っていたロストアイテムの飛行船や機械仕掛けの人型を修復する光景を見たら他のロストアイテムも修復可能じゃないかと思いついた。

 公国の魔笛云々を抜きにしてもファンオース公爵家がホルファート王家と協力してレッドグレイブ領を挟み撃ちする可能性は十分ありえる。

 むしろロストアイテム云々は納得させる為の方便だ。

 

「最後に、諸外国の動きが気になりますね。ラーシェル神聖王国、或いはヴォルデノワ神聖魔法帝国が王国に裏工作を進めてます。レッドグレイブ家は標的の一つとして狙われてます」

「淑女の森の件は此方でも確認済みだ。だが我々を標的にしているとは早計では?」

「俺の戦術論の基礎はどんな物でも疑ってかかるです。少しでも可能性があるなら用心に越した事はありません」

 

 少し体を動かしてアンジェの傍に寄る、此処からは夫婦の共同作業だ。

 

「既にご存知でしょうが、バルトファルト領付近の領空を荒そうとしていた空賊と殿下達が討った淑女の森の残党は同一犯です。うちの連中と殿下達が協力して奴らの掃討に乗り出しました」

「聞き及んでいる、むざむざアンジェを攫われたらしいな」

「……仰る通りです。俺が未熟なばかりにアンジェと腹の子を危険に晒しました」

 

 今思い出しても腸が煮えくり返る。

 ゾラは戦闘後に爆死したし、ルトアートとメルセは自白を強要された後で内々に処刑とユリウス殿下から報告を受けたけどあいつらは俺の手で始末したかったな。

 

「残党を指揮していた没落貴族はバルトファルト家に所縁ある者です。俺や父に対しての恨みからアンジェやうちの姉妹を標的にしています。その中で重要なのはアンジェを狙った部分です」

「君に対する恨み故の犯行では?」

「それなら真っ先に命を奪った方が効果があります。しかし奴はアンジェを攫って逃走しました」

「残党にしては飛行船を複数用意し鎧も多数所持していたのを私自身が確認しています。バルトファルト家の領軍では対処が難しい規模でした。あれはもはや空賊とは言い難い、もはや軍勢と称して問題ありません」

「それだけ規模を持つ残党が領地を直接攻める事も無く領主の妻を攫った、なるほど怪しい部分が多いな」

「彼らは国外への逃亡を企てていました。おかしいと思いませんか?私を誘拐して身代金を要求する訳でもなく逃亡を選んだのです。つまり国外への伝手があった訳です」

「アンジェを狙ったのは我々に対する牽制と言いたいのかね」

「はい、少なくても俺達や王家はそう推察しています」

 

 ゾラ達が淑女の森に居たのは本当。

 淑女の森が王国と敵対してるどっかの国から支援を受けてるのも本当。

 ゾラ達が他所の国の指図で動いてた、それは全くの嘘です。

 あいつらはアンジェがレッドグレイブ家のお嬢様と分かった瞬間に怖気づいた臆病者だ。

 とりあえず民間の飛行船を襲ったら偶然アンジェ達が乗ってたから攫った考え無しときてる。

 そんな連中が計画的犯行でレッドグレイブ家を脅すなんて出来る訳が無い。

 殿下の報告から考えても偶発的な事件と考えるのが自然だ。

 でも不明な部分は俺達に都合が良いように使わせてもらおう。

 あいつらは死んで初めて俺の役に立ったな、生きてる内からもっと他人の役に立ってりゃ死なずに済んだだろうに。

 ゾラ、ルトアート、メルセ。

 お前達の存在は公爵を丸め込む為に使わせてもらうぞ。

 相手を騙すコツは大量の真実に少量の嘘を混ぜるやり方なんで。

 

「お前を誘拐し交渉の道具にする。上手く使えばホルファート王家とレッドグレイブ公爵家が争いを始め、共倒れになった所を仕留める訳か」

「その通りです。現在の王国は他国に先んじてる立場になりました。アルゼル共和国の支援により聖樹が成長した暁には優先的に魔石を供給される、ファンオース公国を併合し領土は嘗てない程に広がりました。王国を脅威と考えた諸国が内部からの切り崩しの為に私を狙ったと考えるのは本当に思い過ごしでしょうか?」

「……確かに。外交で優位に立つ為に両国はやりかねない。下手をすれば水面下で同盟を組んだ可能性すらある」

「このまま王家に対して叛逆すれば他国の利になるだけです。父上と兄上は王座を得て国を滅ぼすのが望みでしょうか?」

 

 キツい言い方だけどアンジェの言葉は理に適ってる。

 公爵としては王家が弱体化したこの機会を狙ったんだろうけど他所の国にとってもそれは同じだ。

 自分の行動を上手く利用しようとしてる連中が居ると分かれば迂闊な行動できない。

 悪いけど王位に対するあれこれは諦めてもらうしかない。

 アンジェの言葉を聞き届けた公爵は目を瞑って顔に手を当てて唸ったまま、ギルバートさんは心配そうに公爵を見ていた。

 

「よかろう」

 

 公爵の口から重々しい言葉が出てきた。

 

「お前達の考えは理解した、熟考に値する意見だと認めざる得ない。乱を起こすのも本意ではないからな」

「父上……」

「ありがとうございます父上」

「但し!」

 

 腹に響く声が喜んでたアンジェや心配していたギルバートさんの動きを止めた。

 俺も交渉が成功したと思って油断した体が即座に緊張する。

 落ち着いた態度だけどその瞳は異様な光を放ってる。

 マズいな、逆効果だったか?

 

「代わりに条件を提示する。これに同意できないのならば私は王家に背く事、戦いを挑む事を厭わぬ」

「……お聞きします」

「まず最初に現ホルファート王家には政務に対する介入を禁じてもらおう。その上で我々が擁立する新たな王を認め速やかに監禁する」

「無理です父上!」

「ならば交渉は決裂だ。条件を更に一つ付け加える」

「……お聞きしましょう」

 

 公爵の瞳が俺とアンジェを映した。

 

「其方達の離婚だ」

「……あ゛?」

 

 俺の口から出たのは自分でも訳の分からない音だった。




バルトファルト夫妻離婚の危機。
原作リオンは続編でヘルトラウダの存在を知らなかったり、魔笛が複数存在した事を知らなかった部分のオマージュになります。
アルトリーベ世界は厳しい世界なのでどの国に生まれても戦乱を避けられそうにないので公爵の説得材料としては十分かなと。
まだいろんな厄ネタがありますが次回に持ち越しです。

追記:依頼主様のリクエストによりshii様、またあおうね様にイラストを描いていただきました。ありがとうございます。

shii様 https://www.pixiv.net/artworks/120580113
またあおうね様 https://www.pixiv.net/artworks/120390999(成人向け注意

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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