超昂大戦SS 決戦・ルビーVSアメイズ! そして魔女は真の仲間に 作:環 藍河
蛇の淫毒が消えたわけではない。今なお両肩は震え、膝はがたがた。
一瞬でも気を抜けば崩れ落ちるほどの、ぎりぎりで体躯を支えていた。
それでも。
「…エスカ・ルビー、再出撃します!」
(牙の毒なんかに、負けない…っ!)
自分に言い聞かせて。
「いく、ぞおおおおーーーーっっ!!」
長い咆哮の終わりを合図に、紅い弾丸は再び紫水晶めがけてはじけ飛ぶ。
「でやあああああーーーーっっ!!」
「ヒュドラ! やあっ!」
アメイズがウィップを一閃すると、再び九体の蛇がルビーに正対し、次々に波状突撃を開始する。
切り込み隊長が落とされても、影から心臓を、脇から喉笛を。
我等がうち一体が必ずや、この蛮勇なる戦士にとどめの牙を突き立て、今度こそ自慢の淫毒で蕩かしてみせよう。
だが。
ルビーの繰り放つ迎撃弾は、最初の蛇たちが容易くかい潜った、様子伺いの手刀や受け身のローキックとは全く違った。
全てが鋭く、そして重い。
ぐしゃっ。ぼとっ。
最初の一頭は正拳で鼻ごと牙を潰される。
ぶちっ。べちゃっ。
次の一頭は拳の甲で進撃を断ち切られ、側壁に叩きつけられる。
(そ…そんなっ、ヒュドラがたった一撃で潰されていくなんてっ…!!)
エキドナに全てを捧げて遣わされた、伝説の毒蛇が、いともたやすく。
ルビーの拳が、蹴りが。
一撃、一撃ごとに、星の煌めきを纏い、破壊力を増していく。
ばきっ…ぐちゃっ。
びしゅうっ…どぼっ。
蹴撃に天井を仰ぎ、廻し蹴りの踵で頭を飛ばされ、一頭、また一頭とヒュドラが地に墜とされる。
しゅっ。
最後の一頭に放ったルビーのストレートが、空を切った。
一触、わずかに頭の脇をかすめたものの、すんでのところでかわすことができた。
(!! しめたっ、ラストチャンス!)とばかりに反転。
ルビーの首筋目がけ、とどめのひと咬みをと大きな口を開け…
「きゅっ…くきゅ~~っっ!!」
ぼとっ。びくんびくん。
牙は虚空を掴み、力なく堕ちた。
拳に乗った衝撃波が、空を切ったはずのヒュドラの平衡器を既に焼き尽くしていた。
最後の一頭は空と勘違いして地べたを這いつくばり、復活を許されなかった。
かつて神話の時代、伝説の勇者は落としたヒュドラの首を松明で焼き、再生を阻んだという。
ルビーの拳は、その神話の再現のように、九頭の淫蛇にとどめをお見舞いした。
「ルビーは…この戦いの中で、成長したというのか…!」
「と…特訓回ナシでパワーアップとか、ホントはズルだけど、今は許すわよっ!
ルビーっ! いっけええええーーーっ!!」
「まっ…まだよっ! スキュラ!!」
再び突撃しようと両足に力を入れ直すルビーを、身の丈を凌駕する螺旋が再び包んでしまった。
「きゃ…あっ!」
ぎゅるん。ぎゅううううっ、ぐりっごりっ。
妹の仇討ちとばかりに、ルビーの肢体全てを隙間なく巻き取り、無慈悲にねじり、絞り上げていく。
「ああっ! や…やっぱりダメだっ…終わりだ…!」
「や…やめなさいよーっ!! ルビーが壊れちゃうーっ!!」
ぐじゅっ。ごりっ。ぎゅうううっ。
…サファイアの絶望とトパーズの懇願は、大蛇スキュラに届くこともなかった。
もはや、最後の悲鳴を吐き出す力さえ、ルビーには残っていないだろう。
激闘の終焉は…敗者の断末魔が響くこともなく、静寂の中で迎える…はずだった。
(…ぐきゅっ? …ぐぽっ?)
微かな違和感。
絶対支配者のはずのスキュラが、苦悶に顔を歪め、色を失う。
「…ガッツ…全開…。」
(ごぐぼっ…!?)
「全力…フルパワー…。」
(ぐ…ぐるぷおぴきゃっ…!!)
螺旋の中心軸から湧き上がる、希望の朱光。
スキュラの胴体は逆に内側から広げられ、自慢の腹筋を引きちぎられる。
「離れろっ、大蛇あああっ!!!」
「ぐるおわえああおぎやあ〜! ぶぐるっ」
どすん。
びくんっ! どくんっ!
力比べに敗れ、戦意を喪失しルビーを開放するも、倍返しのダメージに悶えるスキュラ。
もはや反撃の意志は断ち切られ、地を這いつくばり、己の必殺技を破った少女に畏怖するよりなかった。
はあっ…、はあっ…、はあっ…!
「はああああーーーっ!!」
呼吸を整え、自らを鼓舞するように咆哮し、蛇使いに正対する紅蓮の超昂戦士。
「あ…ああっ…!」
エスカ・アメイズは…万全を期して用意した淫蛇を全て失った紫光の超昂戦士は、なすすべ無くたたずむ。
「ストライクーッ!」
二頭の防壁を失ったアメイズを急襲し、ルビーが繰り出す左右からの廻し蹴り。
がしいっ!
「くっ…うああっ!」
とっさにウィップの柄で防ぐも、一撃目で痺れた右手は握力を失い、二発目には耐えきれない。
びしいっ!
「ああっ!」
からからからからからっ…。
ついにウィップが蹴り飛ばされ、宙を舞い、地べたを転がる。
「くうっ…、…?!」
武器を手放してしまった右手に、一瞬意識をやってしまう。アメイズがきびすを返すと、ルビーはそこにいない。
(…! 上っ!?)
息を呑み、見上げる空。
跳躍競技のアスリートのようにルビーが空に描く、虹の軌跡。
「エスカレーション!!」
背面跳びから、右脚首のパルシオンが翠光を放ち、ルビーの脚に爆発的なエネルギーを蓄積している。
全てに幕を下ろす、蹴撃一閃。
「ひっ…、きゃあああああーーーっ!!」
本能で恐怖し、心の防壁も破られてしまったアメイズは、両目をつぶり、親に怒られた少女のように両手で頭をかばう。
…
……
(…?)
衝撃が来ない。
アメイズが恐る恐る目を開けると、ルビーはずっと左にへたり込んでいた。
「…長官…くん…?」
「…長官…?」
アメイズの魔力で封緘されたトレーニングルームの扉であったが、戦闘でその魔力が衰弱し、解除に成功。すぐさまトキサダと、サファイア・トパーズが二人にレフェリーストップを掛けに割り込んでいた。
ルビーの勢いを横からいなし、トキサダはルビーもろとも転がり込む。
トキサダが止めきれないときはストライク・エスカレーションを二人がかりで受け止めようと、サファイアとトパーズは、アメイズを庇う形で左右に並び立つ。
「スパーリングは終わりだ、ルビー、アメイズ。」
(あっ…?)
…へたっ。
かくっ…かたかたかた…っ!
バトル終了を告げられたアメイズは、力が抜け、その場にへたり込み、そして背筋を凍らせる。
もしもトキサダの割り込みなしに、あのままルビーのストライク・エスカレーションを、まともに食らっていたら…?
「勝敗は…言うまでもないな。」
トキサダは目線をアメイズにやり、異論が無いか確かめる。
「…認めるっ。あーあ、残念。」
戦慄しながらも、やれやれ仕方ないなあ、と強がりのポーカーフェイスで返すアメイズ。
「あはは…もう、立てません…。」
こてっ…。
かろうじて支えていた上半身すら維持できなくなり、トキサダの胸に崩れ落ちるルビー。
「お…おいっ、ルビー!」
思わずトキサダが取ったルビーの手が、判定勝ちを告げるように天へ伸びていた。
ヒュドラの淫毒の源は魔力。バトルが終われば浄化され、文字通り魔法が解けた状態となる。
それでも、精魂尽き果てたルビーは意識を失う。
「ユーノ、ルビーを救護室に運ぶ。回復ユニットの空きを確保してくれ。」
《了解、救護室に連絡しておくわよ。》
こうして、波乱のスパーリングは決着した。
筆者の環です。第4話をお届けしました。
連日お読みいただき、ありがとうございます。
バトル後半戦、このリメイク版ではアメイズやルビーたちのセリフを差し込んだのが改訂のメインです。初出ではバトルの動きの表現ばかり書いてしまって、心の動きも伝えなきゃ…という反省点から、こうなりました。
明日は第5話、バトル直後のエピソードをお届けします。