異世界転生したらピッチングマシンだった   作:Leiren

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第1話 人助け

 自身がピッチングマシンになっていたことに驚いてから、そのまま動かす月と太陽の動きをじっと眺めながら3日が過ぎた。

 俺が立っている場所は、運良くも人が歩く舗装された広めの道が右から左へとずっと続いており、何度か怪しげな表情でこちらを伺う人々とすれ違った。

 

 怪しまれるのは当たり前だろう。まずここがどこか分からないが、草原のど真ん中に電源も通っていないのに、一台のピッチングマシンとか。俺でさえも怪しむ。

 だがどう言う訳か、このマシンには電源はいらないようで、いつまでも昼夜休まずモーターが回る音がシュールに響いていた。

 

 俺の前を通り過ぎる人々はみんな山登りやピクニックをするような装備をしており、たまに洋風の甲冑を着込んだ変な人もいた。

 中には俺の身体に触れようとモーターの中に手を突っ込もうとする奴もいたが、ギリギリで踏みとどまった。

 

 俺はその時に必死に相手に声を掛けて、身体を揺すろうとしたが、やはり動かず。さらに俺の声には一切の反応を見せなかった。

 どうやら俺の声は相手に聞こえないようだ。

 モーターの中に手を突っ込むとは、あと少しで大事故が起こることにガチで冷や汗を掻いた。

 

 まさか、ピッチングマシンの存在を知らないやつなんているのだろうか?

 確かに本物を間近で見ることなんてあまり無いと思うが、存在くらいは知っているだろう。

 しかも如何にも危険なモーターの中に手を突っ込もうなんて子供ならまだしもだ……。

 

 あぁ、それはそれとして。まじで暇だ。じっと動かずにだらだらと過ごす。

 それは快楽主義の者なら夢に思う最高の生活だと思うが、それとは違って全く微動も出来ないのは流石に苦痛だ。

 ただ俺の身体はマシンのせいなのか、疲れも空腹も一切、この3日間感じなかった。それは唯一の救いか。

 

 ただ俺のことを怪しむ人ばかりで、通り過ぎて行く人々を眺めているだけ現状は、俺の精神を確実にすり減らしていく。

 

「ひまだあぁぁ……」

 

 やれることが無さ過ぎて、口から出る言葉も少なくなっていく。

 そうしてさらにそれから4日目の夜となった。

 

 この草原は夜になると狼が出る。

 いやいやいや。野生動物野放しとか何やってんだよ政府は。

 まさか此処は街中の公園じゃなくて、森の中なのか? いやでも、地平線が見えるほどの広大な草原なんて海外にもあるのか……?

 

 そう満点の星空が見える夜空を見上げていると、ふと俺は地平線の奥に今までに見たことがない月明かりに照らされ逆光になる巨大な影があることに気がつく。

 

 目視分かる距離は約100m先。草原に点々とある小岩や他の木を測りにして、影の大きさを見れば恐らく高さは4〜5mはあると見える。

 しかもその影は動いており、恐らくなんらかの生物だと察することが出来た。

 

「熊か……? にしてはデカ過ぎねぇか……?」

 

 目測で分かる影の大きさから考えれば、後ろ足で立った熊に見えるが、デカすぎるその影は俺の背中に冷たい汗が流れる。

 俺は相手から見れば間違いなく生物では無いが、この草原には相応しく無いどう考えても異物。影がこちらに気がつけば邪魔物を吹き飛ばすかも分からない。

 

「なんなんだよあれ……って、は!?」

 

 俺はもう一度目を凝らしてその先を見れば、なんと人型の影が巨大生物に向かい合うように立っていた。

 しかもその影の手には心許ない得物を持っている。

 

「馬鹿かよアイツ……! あんなので勝てるわけねぇだろ! あーくそ動けねえし、声も届かねえ……どうしたら……」

 

 俺は別に近くで人がぶっ倒れても率先して助けたことはない。まずそれが普通の人の当たり前だと思うが、今回に至っては100m先であろうが、目の前で人が喰われるなんて流石に見過ごせない。

 と言っても巨大生物に敵う訳がないなんてことは分かりきっていることだ。

 

 だが、まだなにかすれば助かるかもしれない。あの人影はまだ倒れていない。助けることはできなくても気を逸らすくらいは出来るはずだ。

 そんな考えが俺の頭を何度も過り、ぐるぐる回り続ける。

 そして俺は一つだけ思いついた。

 

 それはもし俺が人間だったら思いつかなかっただろう。そう、俺はピッチングマシンなのだ。

 

 確か最大時速は60kmとあった。()()()()()の速度が有れば、人間は愚かどれだけでかい動物でも頭部に当たれば、かなりのダメージを与えられる。

 

「畜生……これでもくらいやがれ……!」

 

 さて、全く俺は自分の体の使い方が分からないわけだが、なぜかモーターは激しく回りながら高い音を鳴らし始める。

 そして自動的に装填される硬式ボールは、俺のピッチングマシンによって爆速で放たれた。

 

 まるで俺の視界では顔面からボールが発射されているようで、人生初の体験だった。

 

 確かスキルにはストレートのみ撃てるとあったが、流石にコントロールくらいは効くだろう。

 俺から発射されたボールは、夜の景色に映る巨大生物の影に向かって飛び、俺の視界から消えていった。

 当たっただろうか?

 

 体感約2秒。巨大生物の影はぐらり立ちくらむと、ずっしりとした動作でぶっ倒れた。

 

「よっしゃあああああ! クリーンヒットおおぉ!」

 

 俺は思わず叫ぶ。どうせ俺の声は周りに聞こえて居ないだろうから、周りを気にしない程の大きさで叫んだ。

 野獣に向かってボールを発射したことに関しては何か犯罪にならないよな? とほんの少しの罪悪感に駆られたが、それ以上に当たるかも分からない球がヒットしたことに、ただならぬ達成感を感じていた。

 

 が、その巨大生物はそれからピクリとも動かなかった。

 

「あれ……もしかして死んだ? え、どうしよう!? いやでも正当防衛……にはならねえよな。いや人助け……」

 

 あとから一気に罪悪感が襲ってくる。結果的に人助けにはなったが、野生動物を資格もなしに許可もなく殺すことはなんらかの犯罪があった筈だと。

 そう俺は混乱していると、遠くにいた人影がこちらに向かって来ていることが分かった。

 

 そして人影はようやく顔が見える程度まで近づくと、それは年ゆかない少女であることが分かった。

 恐らく17、18程度だろうか。ショートボブの赤髪に、赤い瞳のつり目で整った顔立ちをしており、正直言ってめちゃくちゃ可愛いかった。まるで二次元にいてもおかしくない。

 

 ただ身体に纏う装備は昨日みた兵士風で、それより動きやすさ重視というには、無駄な露出が目立ち、赤を基調としたデザインの薄手の布と、胸板、籠手、脚甲といったゲームに出てくる冒険者フルセットを纏っていた。

 下半身も大分短い赤いミニスカートで恐らくお洒落にも使えるのだろうと察するが……。

 

「よくこんなの着て外で歩けんなこれ。目のやり場に困るぞ……」

 

「はぁ……はぁっ。ってあれ……なにこれ」

 

 そこそこの距離を走ってきた少女は俺の目の前で息を整えると、恐らく巨大生物をぶっ倒した俺に感謝の意の伝えにきたのだろう。

 しかし顔を上げると俺が何度も見てきた怪しむ表情となった。

 

 まぁ、それが普通の反応だよな。

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