それから少女との数秒間の沈黙。
次に動くのは少女だった。やはり何度見ても見たことがないような素振りで、俺の身体を周囲から、様々な角度で見つめる。
「さっきの攻撃はこれから……?」
「どうしようこれ。証明のためにもう一発撃つか? どうやら疑っているようだし」
俺は疑う少女のためにもう一度マシンの出力を高め、次は当たっても怪我が少ないように時速20kmに設定し、ボールを装填する。
「う、動いた!?」
少女はマシンの真っ正面に立ち驚く。そこを退いて欲しい。当たると分かっておきながら撃ちたくは無い。
と言っても全く退く気配が無いので、少女の顔面スレスレを狙って勢いよくボールを発射する。
ガンッというマシンが反動で揺れる音と共に、まぁまぁの速度で硬式ボールが発射される。
「きゃあっ! え? え??」
少女はなんとか咄嗟にしゃがむことで、頭部スレスレどころか普通に避けてくれた。
しかしこの反応。マジでピッチングマシンを見たことが無い反応だ。
突然ボールを発射したのも悪いが、少女はしゃがんで頭を抱えたまま動かなくなってしまった。
あぁ〜意思疎通ができないってどれだけ辛いんだ! くっそ。俺はボールを飛ばすことしか出来ねえ。
えーっと俺の所持品はあと硬式ボールが8個だ。補充はできないのだろうか?
でも少女がこのまま動かないのも気まづいだけだ。
俺の周囲にいるオオカミらしき姿の動物たちはまだこちらに気が付いて居ないようだが、俺はそのオオカミに向けて、上手い具合にコントロールを利かせて次々とオオカミに向けてボールを発射する。
「うおおぉ! どうすりゃあいいんだああぁぁ!」
ボールは時速40kmに設定し、数発外れることもあったが、俺はヤケクソになりながらボールを発射し、周囲のオオカミを吹き飛ばして行く。
さっきの巨大生物はクリーンヒットだったからか、今回のオオカミはどいつも一発でやられることもなく、ボールは最後まで撃ち切るも、オオカミは次々と立ちあがる物がいた。
「ちょちょちょ! 待って待って! オオカミに何喧嘩売ってんのよ!」
あ、サーセン……。
少女と俺を囲むオオカミは全部で4体。
俺はなんつーことしてんだ。少女を無視してオオカミに喧嘩を売るなんて。
球ももう無い。あぁぁ最悪だ!
「ガウガウ! ガアアァ!」
そして俺には目もくれず、少女に向かってオオカミを一斉に飛びつく。
あぁ、俺は人殺しだ。少女は剣を構えているけど、そんなコスプレ衣装を着て気合だけあっても勝てる訳が無い。
俺は目を瞑り、きっと無惨に食い殺されるであろう少女の死体を見ないように思いっきり目を逸らす。
が、次に聞こえたのはオオカミの悲鳴だった。
目を静かに開くと、赤い服がさらに返り血で染まった少女が、ため息を吐きながら、たった一瞬の内に絶命したオオカミの群れの前で佇んでいた。
「まったくもう……」
「ひぃっ!?」
この女の子怖えええ。顔はどストライクにタイプだってのに、なんつー女だ。
あぁ、いけねえいけねえ。俺がオオカミを仕向けちまったんだった。
この女子はただ強かっただけ。感謝せねば。
「さて、いきなりオオカミに喧嘩売ったこれはなんなのかしら……」
少女はもう一度俺の正面に立つと次はかなり敵意の籠った瞳で俺を睨んできた。
あぁ、これは完全に怒ってますわ。
俺が少女と意思疎通も出来ないもやもやがヤケクソとなってボールを発射したのが、敵対行動として見られたらしい。
そもそも少女がこのマシンに意識が宿っていると考えているとは思えんが。
さてはて、俺は最悪なことにボールを全て撃ちきってしまっている。
これ以上に少女に対して出来ることが無くなってしまった。
「形からすれば何かしらの武器……? まさか敵国の兵器!? いやでも、オオカミも倒せない程の兵器なんてどこの誰が作るのかしら……」
んーこのマシンは兵器……ではないな。ただボールを発射する装置。知らない人間から見れば武器に見えなくも無いけど……。
「特にこれは何かしら。とても硬いボールね」
女子は俺が飛ばしたボールを拾い不思議そうに見つめる。
まさか野球ボールまで知らないなんて。いや、まさかスポーツすら知らないなんて言わないよな?
この少女はただの世間知らずなのか。それとも、マジで見たことがないのか。
「これがあの兵器から飛んでいた……たしかに当たったらかなり痛そうだけど、痛いだけね。殺傷するには威力は不十分」
なんかすげえ分析してる。確かに人の頭に直撃しても生きることはできるが、もしこれが時速100kmなんて飛ばせれば十分に殺傷能力はあると言える。
俺が気絶したのは何キロのボールだったんだろう? 本当に急なことだったからな……。
気絶、かぁ……。目覚めたらピッチングマシンになってるって。どう考えても有り得ねえからもう死んだって事の方が自然なのかなぁ。
なに? 俺はピッチングマシンに転生したってか? 馬鹿にも程があるだろそりゃ。
「んんん! ここでいくら考えても分からない! お爺さんのところに持っていこう! えーっと……」
すると少女はしばらく唸ると、何を決めたのか俺の身体を抱いた。
ふと視線を下に移せば胸部のたわわがすげえ身体に当たっている訳だが、生憎感触が一切伝わらなかった。畜生。
「重いいぃ……! はぁっ……! 見た目の割にかなりの重さがあるわこれ」
あぁ、持ち上げようとしていたのか。
え、なんで? もしかして俺これから何処かに連れてかれるの!?
おぉ、これが俺の移動手段か。
「さすがに何か紐が無いと無理ね。まぁ、こんなもの誰が此処に置いたか分からないけど、すぐに消えることはないでしょう。
明日の昼、決行ね」
あぁ、また俺は1日此処で1人になるのか……。
すると少女は踵を返して、すぐに走り去ってしまった。その地平線の先には何があるのだろう?