【完結】生意気な義妹がいじめで引きこもりになったので優しくしたら激甘ブラコン化した話   作:崖の上のジェントルメン

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25.悲しくて仕方ない

 

 

……タタンタタン……

タタンタタン……

 

私とお兄ちゃんがまず最初に向かったのは、城谷さんのいる警察署だった。メグの家や柊さんの事務所など、いろいろ行き先の案は浮かんだんだけど、いきなり押し掛けるのは迷惑になるし、何より警察が一番安全だと思った。

 

電車から降りて警察署へと向かう途中、お兄ちゃんはスマホで城谷さんに電話をかけていた。

 

「すみません城谷さん、今大丈夫ですか?」

 

『明くん、どうかしたの?』

 

「ちょっと……事情があって家出をしてて……」

 

『家出……?まさか、おうちで何かあったの?』

 

「ええ……」

 

『わかった、じゃあいつもの相談室で聞くね』

 

「ありがとうございます」

 

そう言って、お兄ちゃんは電話を切った。

 

「…………………」

 

時折、お兄ちゃんは辺りを見る仕草をしていた。ママを警戒しているのかな?

 

「お兄ちゃん、ここまで来れば大丈夫なんじゃないの?おうちから電車で数駅離れたところだよ?ママには追い付けないと思うけど……」

 

「…………いや、たぶん向こうは車で動いてるよ。車ならここから30分弱でつく。ちょっと油断してると、追いつかれてもおかしくない」

 

「車で?でも、ママは車持ってないし、免許もないよ?」

 

「美喜子さんがじゃないさ。運転するとしたら……間男の方だ」

 

「!」

 

お兄ちゃんは前を向きながら、私の手をぎゅっと握った。汗がじわっと手の平に滲んでいる……。

 

「ちょっと変だなと思わないか?美結」

 

「変……?」

 

「朝方美喜子さんは、美結を置いて1度は間男の元へと向かった。しかし、それから数時間もしない内に家へと帰ってきて、また美結を連れていこうとしてる」

 

「うん」

 

「正直なところ、俺は美喜子さんは家へ戻ってこないと思ってた。戻ってくるとしても……今日の夜か翌日、間男と散々遊んだ後だと。なのに、数時間のスパンでまた戻ってくるということは……相当美結がほしいということだ。そして、家へ数時間で戻ってくるために、間男に車を運転させて移動したとしたら、今こっちを追うのも車かも知れないと……そんな風に予想できる」

 

「……うん」

 

「美喜子さんは、なんで美結をそこまでほしがってると思う?」

 

「……分かんない。私、そこまでママに執着されてた気がしないもの。いつもほったらかしにされてたのに、いきなりどうして……」

 

「……ここからは、俺の勝手な想像だけどな?」

 

「う、うん」

 

「美結を欲しがってるのは、実は間男の方じゃないか?と思うんだ」

 

「……!」

 

私はその言葉に、思わず唾を飲んだ。その唾はびっくりするほど固くて……喉をぎゅっと苦しめた。

 

「美結もさっき言った通り、美喜子さんが美結にここまで執着するような気がしない……。あの人はいつだって体裁……見てくれを気にする人だ。自分にめちゃくちゃ反抗して全然懐いていない娘を、新しい男に見せたがるだろうか?」

 

「…………………」

 

「そうなると、美喜子さん自身が美結を連れてきたいと思っている線は薄くなる。だけど、間男が美結をほしいと言ったから、美喜子さんがこんなに執着しているとしたら……?」

 

「な、なんで……私のことを……」

 

「……なぜなのかは分からない。間男の性格がどんな人間なのか知らないから、読みようがない。ただ、そこに愛がないことは確かだ。人妻と子どもをこさえて、略奪結婚みたいなことをする人間が、相手側の連れ子と純粋に仲良くなりたいから会いたいと……そう思うような気がしない。もし本当に仲良くなりたいのなら、ちゃんと家に訪問しにきたり、誠実な対応を見せるはずだ」

 

「……じ、じゃあ……も、もしか、もしかしたら……」

 

「ああ……美結の身体目当てか、日々の雑務の奴隷か……。おそらくその両方かな。まあ、美喜子さんの手前、日々の奴隷目当てとして連れてくるっていうのを前提にしてそうではいるけど」

 

「…………………」

 

私は、全身の震えが止まらなかった。眼がちかちかして、目の前がよく見えない。お兄ちゃんの腕にしがみついて、通りすぎる車にびくびく怯えてしまった。

 

「でもな、美結。俺はぶっちゃけ……そっちの方であってくれと思ってる」

 

「え……?」

 

「身体目当て、奴隷目当て……。そういうところなら、俺も一応の理解はできる。糞みたいに最悪な要望だが、まだ……人間らしいというか、一応の筋は通ってるから、なんとか俺の頭でも理解できる範疇だ」

 

「…………………」

 

「でも……もし、もし本当に……美結と仲良くなりたいとか思ってたらと思うと、怖くて仕方ない」

 

「…………!」

 

「不倫して、子どもを作って、略奪結婚して……その上で、美結を含めて暖かい家庭を築きたい……なんて思ってるんだとしたら、もう俺の頭で理解できる範疇を超えてる。他の家庭を平気でぶっ壊しておいて、幸せな家庭を築きたい……?本当に狂ってるとしか思えない。一体何をどう考えたらそんな思考に至るのか分からなすぎる」

 

「…………………」

 

「だから、まだ理解できる人間でいてくれって思う。理解できる範囲内なら、俺も対策の仕様がある。でも、気の狂った相手じゃそれはできないからな……」

 

「…………………」

 

私の足取りが重くなったのを、お兄ちゃんが悟った。そして、一旦その場に立ち止まると、私のことを抱き締めてくれた。

 

「ごめんな……怖い話ばかりしちまって。今のは全部、俺の憶測だ。きっと間違ってるのもたくさんある」

 

「…………………」

 

「大丈夫だ、俺がついてる。一緒に頑張って逃げよう。俺たちならきっと大丈夫……」

 

「…………………」

 

私は、辺りをキョロキョロと見渡した。大通りではあるけど車も少なく、運の良いことに、周囲に人もいない。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

お兄ちゃんがこっちに振り向いてきた瞬間を狙って、私は唇にキスをした。

 

「ありがとうお兄ちゃん……愛してる」

 

「…………………」

 

「ママは戻ってこないかも知れない……戻ってきても夜か明日かも知れない……。そう思ってても、私のこと心配して、学校を早退までしてくれた。本当に私……恵まれてるなって思う。お兄ちゃんに愛されて良かったなって、心から思う」

 

「美結……」

 

「愛してる……お兄ちゃん」

 

「…………………」

 

お兄ちゃんはより一層、私のことを抱き締めてくれた。その胸の中に……いつまでもいたいと、そう願う私だった。

 

 

 

 

 

 

……警察署についた私たちは、城谷さんから、いつもいじめの件について相談させてもらっている例の相談室に通された。

 

「いきなり押し掛けてすみません」

 

「ううん、気にしないで明くん。それで、一体何があったの?」

 

いつものように私たちと城谷さんは、机を挟んで対面して座った。事の一部始終については、私の方から話した。

 

城谷さんはこれまたいつものように、「うんうん」と親身になって聴いてくれた。ところが、私がママから『産まなきゃ良かった』と言われたくだりを話した時、城谷さんの顔つきが変わった。

 

「……それ、ホントに?」

 

その時の城谷さんは……呆然というか唖然というか、とにかく信じられないと言った顔だった。私が黙って頷くと、突然城谷さんがぼろぼろと泣き出した。

 

両手で顔を覆い、眼をぎゅーっ!と瞑って、小さくだけど嗚咽までしていた。

 

「し、城谷さん……?」

 

私がそう訊くと、城谷さんはガタッと椅子から立ち上がり、こちら側へ周りこんで……身体を屈ませ、私をぎゅっと抱き締めた。

 

「城谷さん……」

 

「美結ちゃん……美結ちゃん……」

 

城谷さんの声が震えてる。こんな姿の城谷さんは初めて見た。私はママから『産まなきゃ良かった』と言われたのは辛かったけど、城谷さんにこんなに泣かれると困惑する。

 

でも……どうしてこんなに泣いているのか、私はそのすぐ後……城谷さんの口から出た言葉で、直感的に全てを察した。

 

「美結ちゃん……あのね?」

 

「は、はい……」

 

「この世に……この世にね、産まれてこなくていい人なんて、一人もいないんだよ……?」

 

「……!」

 

私は思わず、ぎゅっと城谷さんを抱き締め返した。

 

城谷さんはきっと……本当はこの言葉を、この気持ちを……

 

 

亡くなった妹さんに伝えたかったんだ。

 

 

 

『妹は……あの子は、この口座に3000万円を刻むために、生まれてきたの……?』

 

 

 

そう……城谷さんは今、私を抱き締めるのを通して、自分の妹さんを抱き締めてる。

 

生きてる内に伝えたかったんだろうなって気持ちが……城谷さんの抱き締める強さから、伝わってくる。

 

「……城谷さん」

 

「大丈夫、大丈夫だから……」

 

「…………………」

 

しばらくの間、城谷さんはそのまま私を抱き締めていた。私から離れたのは、それから5分した後。城谷さんは自分の涙を手の甲で拭って、「ごめんね、取り乱しちゃって」と言って笑った。

 

「二人とも、よく家を抜け出してこれたね。とても勇気ある行動だと思う」

 

「お兄ちゃんが提案してくれたんです。学校をわざわざ早退してまで……」

 

「明くん、学校を早退したの?」

 

「美結から電話を受けてからですね。ここで判断を鈍らせたら、取り返しのつかないことになると、そう思って……」

 

「さすが明くんだね。初めて会った時からそうだけど……本当に未だに、未成年なのが信じられない」

 

城谷さんはすっと立ち上がると、私たち二人の顔を交互に見た。

 

「二人とも、これからどうしたい?私としては、虐待案件として児童相談所に行くのがベストかなって」

 

「虐待……」

 

「立派な虐待だと思うよ。ビンタするっていう暴行もあったわけだし、十分虐待で通用すると思う。児童相談所へは私が送ろうかなと思ってるけど、どうする?」

 

私とお兄ちゃんは一度顔を見合わせた後、城谷さんへ送ってもらうようお願いした。

 

 

「……それじゃあ、シートベルトを閉めてね?」

 

「はい」

 

城谷さんに連れられたのは、パトカーだった。運転席には当然城谷さんが乗って、私たちは後部座席に二人並んで座っていた。

 

それにしても……まさか自分がパトカーに乗ることになるなんて、思いもしなかった。決して悪いことをしているわけじゃないのに、なぜか周りの人の目が気になって、そわそわする。

 

城谷さんが運転を始めると、私もお兄ちゃんも、ようやく落ち着いた気がした。深く席に腰かけて、ふう……とお腹にたまった息を吐いた。

 

「ようやく……安心できるな」

 

お兄ちゃんの言葉に、私は「うん」と小さく返した。

 

「やべ~……落ち着いたら腹減ってきた」

 

「うん、私も……」

 

「二人ともお腹空いた?どこかでご飯買う?」

 

「良いですか?」

 

「もちろん。ちょっと行った先にコンビニが見えたから、そこでお弁当でも買おうか」

 

城谷さんが5分ほど運転してくれた後、コンビニへ駐車してくれたので、三人でご飯を買いに言った。

 

時々、ママに似た背格好の女のお客さんがいて、ドキッとした。パトカーから降りなきゃ良かったかな……?

 

「あれ?二人ともそれだけでいいの?」

 

城谷さんが、私とお兄ちゃんの手に持っているご飯を見てそう言った。お兄ちゃんは、おにぎり二つとペットボトルの水ひとつ。私はサンドイッチひとつだけ。

 

「私たち……あんまりお金がないので、無駄使いしちゃダメだと思って」

 

「でも美結、せめて飲み物は買っておいたら?俺がいくらか出すからさ」

 

「そんなお兄ちゃん……」

 

そんなやり取りを見ていた城谷さんは、「もう!」と呆れた口調で独り言を言うと、店内にあった大きな籠をひとつ持って、私たちの前に差し出した。

 

「ここに、二人が食べたいものを好きなだけ入れて?」

 

「え?」

 

「ほら、遠慮しないで?私がお金出すから」

 

「でも……」

 

「いいの!さあ、たくさん選んで?」

 

そうして、その籠は私たちに手渡された。遠慮しないで……なんて言われても、やっぱりちょっと気にしちゃう……。

 

私はお兄ちゃんに顔を向けた。その時、お兄ちゃんも同時に私の方へと向いて、少しだけにこっと笑った。

 

「ここは、ご厚意に甘えよう。変に意地を張らず、好きにさせてもらおう。その方が、城谷さんも安心されるさ」

 

「…………………」

 

お兄ちゃんに諭された私は、自分の食べたいものを好きに買わせてもらった。サンドイッチ三つとお菓子、それからお茶……。

 

お兄ちゃんと私は、会計が済んだ後に城谷さんへお礼を告げた。城谷さんは笑って「ゆっくり食べてね」と言った。

 

……これから一体、どうなるんだろう?

 

この逃亡があまりにも非現実すぎて、私はドラマのワンシーンでも見ているのだろうか?という気になった。

 

ママ……もうたぶん、一緒には住めないね。私ももう……あなたをママだと思いたくない。

 

 

 

『隆一さんは、私と結婚してから、一度だって抱いてくれなかったのよ?ちゃんと愛してくれる人のそばにいるのが、一番幸せになれるじゃない。美結もそれはわかるでしょ?』

 

 

 

……ねえ、ママ。

 

ママは本当に、その新しいパパが……自分を愛してくれてると思っているの?

 

私は……どうしてもそう思えない。ただ身体を求めあっただけで……動物のようなセッ○スがあっただけで、その行為自体に……愛があったようには思えない……。

 

私が少し成長したからなのか……私にとってママが、もう大人には見えなくなってしまった。その姿は、まるで反抗期の子ども……。それも、自分の思い通りにいかないと癇癪を起こす……2歳の少女みたいな……。

 

ママ……私は、あなたを不憫に思います。愛がなんなのか知らないまま、大人になってしまったあなたが……。

 

 

 

ただ、悲しくて仕方ない。

 

 

 

 

 

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