【完結】生意気な義妹がいじめで引きこもりになったので優しくしたら激甘ブラコン化した話   作:崖の上のジェントルメン

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40.VS湯水(part2)

 

 

「……遅いなあ、メグちゃん」

 

校舎の出入口にて、彼女を待っていた。行き交う人々の顔を一人一人確認するのだが、一向に彼女のことは見当たらない。

 

スマホで時間を見ると、午後四時十分だった。ホームルームが終わってから、既にニ十分は経過している。何かの委員会で集まりでもあるのだろうか……?だけど、それなら最初に俺へそう告げるはずだ。

 

「……それにしても、仮の彼女……か」

 

俺は今日の昼休みに、メグちゃんから告げられた作戦のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

『仮の……彼女?メグちゃんが、俺の?』

 

『はい。学校の中では、私がその役をつとめます。そうすれば、湯水に美結のことがバレることなく、美結を守れます』

 

『でもその代わり……君が目をつけられるかも知れない。悪いけど、俺は反対だ。メグちゃんのことが心配だ』

 

『ふふふ、それはお互い様ですよ明さん?私だって、明さんが湯水のターゲットにされていること、とっても心配なんですから』

 

『……メグちゃん』

 

『それに遅かれ早かれ、湯水は私へ目をつけてきます。明さんの噂を流したのは私……。入学したての一年生なのに、三年の先輩のことを知っていて、かつその人のことを好意的に思ってる。ということは、私が明さんの彼女なんじゃないか?って推理が働くはず。そうしたら、私たちが何もしなくても、彼女の方から私へ声をかけてくることだってありえます』

 

『……それは確かに、そうかも知れないが……しかし……』

 

『大丈夫、私は明さんのこと好きですけど……同じくらい、美結のことが好きです。友達として彼女のことを守れるなら、私だって頑張りたいんです』

 

『…………!』

 

『それに仮とは言え、明さんと彼女になれるのも悪くないな~……なんて、打算的なことも考えてますよ?♡』

 

『メ、メグちゃん……』

 

『ね、だから大丈夫です。私は私の意思でこの話に飛び込むんです。だから責任は、私が取ります』

 

『…………………』

 

『……ダメ、ですか?』

 

『……いや、ダメじゃないさ。君がそこまで言うのなら、その言葉に甘えて……協力を、お願いしたいと思う』

 

『ホントですか!』

 

『ただし、約束してほしいことがある。この作戦が危険だと思ったら……すぐに止めてほしい。俺と君が別れたことにしておけば、湯水も君へちょっかいを出すことはないだろう』

 

『はい、分かってます』

 

『それと、学校への登下校と昼休みの時間は、なるべく俺と一緒にいてほしい。君を守るためでもあるけど、カップルとして周りにアピールするのにも効果的だ』

 

『分かりました!それじゃあ、早速今日から、一緒に帰りましょう』

 

 

 

 

 

「……………………」

 

という経緯から、俺は今、彼女を待っている。しかし、一向に彼女は現れない。

 

「……………………」

 

メグちゃんに先ほど送ったLimeの内容を見ている。『今、出入口前にいるよ』と十分前に送ってから、既読もつかない。

 

もう一度送ってみようかな?と思っていた矢先、美結からのLimeが届いた。

 

 

『お兄ちゃん、今日の夜は何が食べたい?』

 

 

俺はひとまず、彼女への返信を送った。

 

『オムライスとか久々に食べたいな!』

 

『分かった!じゃあ、準備して待ってるね♡』

 

ハートマークをつけて返す美結が、可愛くて仕方なかった。やっぱりうちの妹は最高だ。うむうむ。

 

そうだ、美結にもちゃんと言わなきゃいけないよな、メグちゃんと付き合ってるフリをすること……。もし美結が嫌がるようなら、この作戦は止めるつもりだ。たとえ仮であろうとも、美結を不安にさせるようなことだけは避けたい。

 

もちろん、メグちゃんと美結の信頼関係はきちんと築かれているだろうから、作戦についてもそこまで心配しなくても良いだろうが……それでもちゃんと説明するべきだ。それに美結はどっちかと言うと、俺がメグちゃんに盗られる心配よりも、単純にメグちゃん本人のことを心配しそうだしな。

 

「……ちょっと待てよ」

 

俺は美結へメグちゃんとの作戦についてLimeを送ろうとした時、ふいに頭にある考えが過った。

 

メグちゃんは今、ホームルームが終わったのにも関わらず、二十分経った今もここへ来ない。

 

メグちゃんの性格上、急な用事で遅れる場合は、俺へLimeを送るはずだ。『すみません!遅れます!』とか、そういう細かい気遣いのできる子だ。それが無いってことは……“そんな気を使うことすらできない状況にある”ということじゃないか?

 

そんな状況っていうのは……つまり……

 

「もう湯水が、メグちゃんに目をつけたってことか!?」

 

俺はスマホを動画撮影モードにしてポケットに入れ、急いで彼女のクラス……1年B組へ向かった。

 

わざわざ動画撮影モードしているのは、会話を録音するためだ。何らかの証拠を残すために、今できるのはこれくらいしかない。

 

「1-Bは……こっちか!」

 

廊下を走る最中、通りすがった先生から「こら!廊下を走るな!」と注意されたけど、構わず俺は走り続けた。

 

「メグちゃん!」

 

教室の扉を勢い良く開けて、彼女の名を呼んだ。その教室には、メグちゃんと……そしてやはり、湯水の姿があった。

 

彼女たちは教室の真ん中で対面していた。

 

「明さん……!」

 

「……………………」

 

メグちゃんと湯水が、同時に俺の方へ顔を向けた。

 

湯水に向かって『彼女に近寄るな!!』と叫びそうになるのを、俺はなんとか堪えた。今ここでそういう発言は、不自然でしかないからだ。湯水を警戒するのは、湯水がいじめる人間であると知っている者だけ。だが、俺と湯水はあくまで最近知り合った者同士……少なくとも湯水にはそう思っていてもらわないと困る。でないと、変にこっち側のことを探られてしまうからだ。

 

今の俺はあくまで、『彼女を心配して教室までやってきた彼氏』……そういう風なシナリオなんだ。だから落ち着け俺……慌てるな……。

 

「……なんだ、良かった。今日は一緒に帰ろうって話してたけど、一向に来なかったから、心配して教室まで見に来たんだ」

 

呼吸を整えて、なんとか笑みを作りながら、教室の中へと入る。メグちゃんが安堵した様子でいるところを見ると、やはり湯水に詰められていたところなのだろう。

 

湯水は俺とメグちゃんを交互に見て、「へえ……ホントなんだ」と、小さく呟いた。

 

そして、俺の方へ笑顔を向けると、「ずいぶん彼女さんのことがお好きなんですね、渡辺先輩?」と、妙な含みを持った口調で尋ねてきた。

 

「彼女が待ち合わせに来なかったからって、先輩ったら……そんなに焦った様子で来るなんて……よほど一緒に帰りたいんですね」

 

「いやあ……まあね」

 

走ってきたのは失敗だったか……!湯水に変な推理をさせてしまうきっかけを与えてしまった……。でも走って来なかったら、もしかしたら今頃……メグちゃんが酷い目に遭わされていたかもしれない。とりあえず、パッと見た感じでは傷をつけられた様子はない。メグちゃんを守ることができたなら、たとえ失敗でも走ってきた意味がある。

 

「メグちゃんは待ち合わせに遅れるような子じゃないから、何かあったんじゃないかって心配になってさ。どうやら、走ってくる必要はなかったみたいだ。俺ってば恥ずかしいやつだなあ~」

 

そう言って俺は苦笑を湯水へ見せつつ、後頭部を掻いた。

 

「湯水さん、何かメグちゃんへ用事でもあったのかい?」

 

「……そうね、でも……もう良いわ。今日のところはもう良い」

 

「そう?ならメグちゃん、一緒に帰ろうぜ!」

 

「は、はい!」

 

彼女は俺の方へ小走りでやってくると、俺の服を湯水に見えないように……ぎゅっと小さく掴んだ。その手は、小刻みに震えていた。

 

「……それじゃあ湯水さん、俺たちはお暇するぜ」

 

「ええ、また明日。平田さんも、また……明日ね」

 

「う、うん……。また明日」

 

メグちゃんも俺も、湯水へ笑顔を見せて手を振った後、背を向けて教室を出た。

 

 

……静かな通学路を、俺とメグちゃんは並んで歩いていた。俺が道路側で、メグちゃんが歩道側だ。

 

彼女は一度だけ後ろを振り向き、誰もいないことを確認すると、再度前を向いて「はあ……」と息を吐いた。緊張の糸が切れた瞬間、と言ったところだろうか。

 

「いきなりだったね、メグちゃん」

 

俺がそう告げると、彼女はこくんと頷いた。

 

「さすがに、ちょっとびっくりしました……」

 

何回か深呼吸をした後、メグちゃんは湯水と何があったのかをポツリポツリと話してくれた。

 

「湯水は、明さんの彼女が誰かを探っていました。明さんのタイプがどんな人か、どういう人に傾くのか。私が彼女だと伝えると、どういう出会いをしたのか?どんな経緯で付き合ったのか?を、事細かに聞いてきました」

 

「ふむ……」

 

「私は湯水へ、『明さんのことが気になるのは結構だけど、私が彼女なのだから、彼に手は出さないで』と伝えると……彼女は笑って言いました。『もちろん、平田さんの彼氏さんだもの。“こっちから”手は出さないよ』って」

 

「……なるほどな」

 

湯水の考えが俺もあらかた読めてきた。やつは自分から手を出す方向からシフトし、『俺から湯水へ手を出すように、俺の好みに合わせていく』戦法に切り替えた、ということだ。

 

「ちなみに、俺の好みについては、なんて答えたの?」

 

「えーと、一応私が彼女なので……私っぽい感じで言っておきました。線の細い感じで、年下でみたいな……。自分で自分のこと良く言うのは、結構恥ずかしかったです」

 

「ははは、まあそうだよね」

 

それからも俺は、メグちゃんが湯水へ言ったことを細かく尋ねた。特に『出会った経緯』『付き合ったのはいつか』『告白はどっちからか』と言ったところは、お互いに設定を共有しておかないとボロが出るからだ。

 

「出会った経緯は、バスの中で……あの、実際に明さんと会った流れを話しました」

 

「うんうん、ここを偽る意味はあんまりないもんね」

 

「それから、その日に私の方からお互い連絡先を交換しないか?って言って、そこから仲良くなって……今年の2月14日に、バレンタインを口実として私から告白した、という風にしました」

 

「おお……け、結構積極的な設定だね」

 

「実際、私って意外と積極的な気がします。よくもまあ、友達の彼氏に向かって好きと言えるなと、我ながら……変な子って思いました」

 

頬を赤く染めてうつむく彼女を見て、俺は思わず苦笑した。

 

……しかし、もう湯水はメグちゃんの存在に気づいたか。これから俺や彼女へ接触してくる機会も増えてくるだろう……。メグちゃんを、美結の二の舞にさせてはならない。それだけは肝に銘じておかなきゃいけない……。

 

「…………………」

 

メグちゃんは、制服の胸の辺りをぎゅっと掴んでいた。そして、何やら考え込んでいる様子だった。

 

「……メグちゃん、怖かったかい?」

 

「え?」

 

「湯水のこと、怖かったかい?」

 

「…………………」

 

しばらく沈黙した後、メグちゃんは小さな声で「はい……」と答えた。

 

「でも私、まだやれます。湯水が私に……ひどい嫌がらせをする可能性は、十分にあります。でも……まだ、まだ大丈夫です」

 

「……分かった。それじゃあ、これからも一緒に頑張ろう、メグちゃん」

 

「はい!」

 

彼女の眼は、強張りつつも芯のある強さを持っていた。美結は本当に……本当に良き友達に恵まれたなと、つくつぐそう思った。

 

「……じゃあメグちゃん、今日は家まで送るよ」

 

「え?どうしてですか?」

 

「ん?んー……まあ、なんとなく?あ、もちろん嫌だったら嫌でいいよ?」

 

「い、いいえ!嫌だなんてこと……」

 

彼女はさっきよりさらに顔を赤くして……俺を一瞬だけちらりと見た後、「どうして分かったんですか?」と尋ねてきた。

 

「分かった……というと?」

 

「いえ、あの……家まで、ついてきてほしいってこと」

 

「あ、やっぱりメグちゃん、そう思ってた?」

 

「は、はい……。なんで、ですか?」

 

「いや……ほら、今日はいきなり湯水に接近されてさ、メグちゃんも恐い思いしただろうから、1人で帰るの不安じゃないかなって、一緒に帰ってあげた方がいいんじゃないかって、そんなお節介が頭に浮かんだだけだよ」

 

「…………………」

 

「……当たってるかな?」

 

彼女は唇をきゅっとつぐむと、小さく頭を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……明さんは、私の家までずっと送ってくれた。日が暮れて、空が赤から青へ、そして宇宙の黒へと変わる途中の……そんな鮮やかなグラデーションを魅せる空の下を、私たちは歩いている。

 

「そう言えばさ、メグちゃん」

 

明さんは、歩きながら私へ尋ねる。

 

「美結と仲良くなったきっかけって、なんだったの?」

 

「美結と……ですか?」

 

「うん。ほら、なんていうか……前の美結って、結構性格キツかったじゃん?メグちゃんってああいうタイプ苦手そうだったからさ。よく前から友達だったよなあって思って」

 

「…………………」

 

そう……明さんの予想通り、実は美結のことは苦手だった。当時の美結は、それはもう生意気で、誰にだって上から目線なのがアリアリと伝わるような……そんな子だった。だから、私の方からは決して近寄らなかったし、騒いでいる美結を遠くから眺めているだけだった。だけど……

 

「美結は、私の絵を……褒めてくれたんです」

 

「絵を?」

 

「はい。当時、私は絵を描き始めたばかりの頃で……全然上手くなんてなかった。傍目から見ても初心者って分かるような、そんなクオリティでした。そんな私は、同じクラスにいる絵の上手い子達に『下手だ下手だ』とバカにされていました」

 

「…………………」

 

「でも、美結だけは……私の絵を『かわいい』って褒めてくれました。それをきっかけに、彼女と少しずつ仲良くなって……」

 

夜の肌寒い風が、背中を吹き抜けていく。

 

「美結は、昔はとっても生意気で、頑固で、友達と言えど腹の立つことが何度もありました。友達なんて止めてやる!って、そう思ったことも数えきれないほどあります。でも、ふとした時に見せる……美結の優しい一面を見ると、『絶縁するほどじゃないよね』って、そんな気持ちで……友達を止めるに止められないでいたんです。道を訊かれたら目的地まで道案内してあげたり、独りぼっちでぽつんといる子に、声をかけてあげたり……。本人すらも気づいていないくらいの優しさを、私はどことなく見ていたんです」

 

「…………………」

 

「……未だに、後悔しているんです。ネットに美結の愚痴を書き込んでしまったことを。確かに美結に腹が立って、それにイライラしていたことは事実です。でも……だからって美結を、あんなに傷つけることなんてなかった」

 

いつの間にか、私の手は拳を作っていた。それは、自分自身を殴ってしまいたいと……そう思う気持ちの現れだった。

 

「なのに、そんな私のことを、美結は許してくれた。友達だって言って、私へ謝ってくれた」

 

「…………………」

 

「私が湯水に痛い目を遭わされることがあるとすれば、それは私が……受けるべき罰を受けたということです。『美結がいじめられたらいいんだ』と、そう思った私への裁きだって……」

 

「……メグちゃん」

 

明さんは、私の頭に手を置いた。思わずドキッとしてしまった私は、彼の方へ顔を向けた。

 

彼の浮かべていた表情は、悲しそうにも、苦しそうにも見えた。

 

「……罰を受けることで、君が救われるなら、俺は止めやしない。だけど、ひとつだけ話しておきたいことがある」

 

明さんは、置いていた手をさすって、私の頭を撫でてくれた。

 

「君が苦しむと、悲しい想いをする人がいることを……忘れないでほしい」

 

「…………!」

 

「美結はもちろん、俺だって悲しいし……君のお母さんやお父さんだって、きっと辛いと思う。だからどうか、美結への償いをするんであれば……みんなのことを笑顔にできるような、そんな償いをしてもらえたら、俺は嬉しい」

 

「……明さん」

 

「責任を取るために自らへ罰をかすことは、自分自身の罪悪感を消すのにはとっても有効だ。だから俺は、罰を受けること自体は悪いことだと思っていないし、それで本人が救われるなら良いと思っている。でも、必ずしも……苦しむことが責任を取ることにはならない」

 

「…………………」

 

「どうかメグちゃん、美結のことを本当に想うなら……自分のことも大事にしてあげてくれ。君自身を守ることは、美結を守ることに繋がるんだ」

 

……私は、明さんから視線を外して、自分の足元に目をやった。だって……恥ずかしくて仕方なかった。

 

私は……自分本位でしかなかったんだ。自分の罪悪感を払うために、周りのことを無視しようとした。

 

「ごめんなさい、明さん……私……自分本位でした」

 

「いいよ、それほどまでに罪悪感がおっきくて、辛かったんだろう?それを早く消したくって、自分を責めるようになっちゃう気持ちは、俺もよく分かるよ。俺も自分を傷つけることで……美結を助けられなかった悔しさを消そうとしちゃってたからさ」

 

「…………………」

 

「それに、その罪悪感の大きさは、それだけ美結のことを大事に思ってくれてる証拠じゃないか。メグちゃん、いつも美結の友達でいてくれて、ありがとう」

 

……明さんの優しい言葉が、ずるい。ちょっとだけ、泣きそうになってしまった。

 

「あ、メグちゃん。ほら、家についたよ」

 

そう言われて顔をあげると、確かに私の家が見えていた。

 

私が立ち止まると、明さんも止まった。彼の手が私の頭から離れていくのが……すごく、切なかった。

 

「それじゃあメグちゃん、俺はそろそろ帰るね」

 

「はい……。ありがとうございました、ここまで送ってくださって」

 

「ははは!いいよいいよ!大したことじゃない!それに、仮とは言え……ほら、彼女、だしさ?」

 

「…………………」

 

「じゃ、また明日ね」

 

明さんはそう言って、私に手を振った。私がそれに手を振り返すと、彼はにっこりと笑って、背を向けた。

 

その時、彼のスマホに着信が入った。それに出ると、「あっ!?美結!!」と叫んでいた。

 

「わー!美結すまん!うっかりしてた!オムライス、もう作ってくれてたんだな!ごめんごめん!ちょっといろいろあって……。今からすぐ帰る!ホントにすまなかった!」

 

スマホで美結と話ながら、明さんは帰り道を走っていく。彼の帰る先には、いつも美結がいる。

 

「………明さん」

 

私は永遠に仮の彼女でしか、居られない。それは重々、分かっています。だけど、もしかしたら……私たちが本当の恋人同士だった世界も、あるんでしょうか?

 

「大好きだよ、明さん」

 

……敬語を止めて、『本当の恋人』のような言葉を、私は彼の去っていく背中に告げた。

 

 

 


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