【完結】生意気な義妹がいじめで引きこもりになったので優しくしたら激甘ブラコン化した話   作:崖の上のジェントルメン

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42.いたずら娘たち

 

 

「柊さん、ごめんなさい。もう少しだけ訊いてもいいですか?」

 

メグとお兄ちゃんが押し黙っている間、私は柊さんへさらに質問を投げ掛けてみた。柊さんは「ええ、どうぞ」と言って、私の言葉を受けてくれた。

 

「メグに醜い一面が出た時に、湯水は動くって言われてましたけど……もし、メグが何もしていないのに湯水がお兄ちゃんへメグの信用を落とすようなことを言ってきたら……どうすれば良いんでしょう?」

 

「まあ、ホントにしろ嘘にしろ、明氏は湯水を全く相手にしなければ良いです。ただ、たぶん湯水は……火のない所に煙は立たぬ戦法を使う気がします」

 

「火のない所に……?」

 

「湯水は頭が良くてプライドが高い。生半可なマウントでは満足しない脳みそになっていると思います。従って、メグ氏がボロを見せて初めて、湯水は動くはずです」

 

「なるほど……」

 

柊さんへ尋ねたいことをあらかた終えた私たちは、彼女へぺこりと頭を下げて、お礼を述べた。そして、お兄ちゃんが肩掛けのカバンから封筒を取り出して、柊さんと私たちを隔てるテーブルの上に置いた。

 

「柊さん、すみません。これ……追加でのお支払いです」

 

「追加、と申しますと?」

 

「ほら……俺の親のこととか、相談事とか、もろもろたくさんしてくださってたのに、俺たち何もお礼できず仕舞いで……。俺たちが前に支払った30万じゃ割に合わないんじゃないかと思いまして」

 

「……………………」

 

「俺、前とは別のバイトですけど、また始めたんです。そのバイトで稼いだ初任給……5万円が入ってます。少ないですけど、どうぞお受け取りください。もちろん、足りなければまた後日お支払いいたします。いつもありがとうございます」

 

柊さんはお兄ちゃんと私へ眼をやった後、その封筒に向けて視線を落とした。それから一言「分かりました。ありがたくちょうだいします」と言って、その封筒を手に取った。

 

そして「そうそう、明氏と美結氏は、来週引っ越すらしいですね」と、そう尋ね返してきた。

 

「ええ、父さんが帰ってくるのと入れ替りで……俺の高校の近くにあるマンションへ、引っ越すことにしました」

 

「じゃあ、お祝いをしなきゃいけませんね。はい、こちらお祝いのお金です」

 

柊さんは私たちが渡した封筒を、丸々そのまま私たちに手渡し返した。

 

「ひ、柊さん……良いんですか?」

 

「良いも何も、今のやり取りそのままですよ。私はお代を受け取り、そして今度はお祝いのお金を明氏たちに贈った。それがたまたま同額だっただけです」

 

「……………………」

 

引っ越しの時にお祝いのお金なんて渡す風習は、本当に大人の間であるんだろうか?結婚式とかそういうのは聞いたことあるし、家を建てたとかならなんとなく理解できるけど……。

 

でも、たぶん……それが本当にあるものかどうか、訊かなくて良いことなんだと思う。

 

「柊さん……ありがとうございます」

 

柊さんのご好意にもう一度頭を下げた私たちは、彼女の事務所を後にした。

 

 

 

 

……帰宅した時には、もう既に夕方の六時を過ぎていた。メグは今回うちにお泊まりするので、メグのも合わせて、お兄ちゃんと一緒に3食分のうどんを作った。

 

メグから「二人とも夫婦みたい」って言われた時は、ちょっと照れ臭かった。

 

夕飯を終えた私たちは、お風呂に入ることにした。

 

「ねえ美結、せっかくだし、良かったら私と一緒に入らない?」

 

「え?お、お風呂を……?」

 

「うん。あ、もしかして嫌だったかな……?」

 

「う、ううん!全然大丈夫!」

 

まさかメグからそんな提案がされるとは思っていなかったけど、メグとなら本当に嫌じゃなかったし、むしろ二人で楽しく遊べそうと思った私は、彼女の提案を快諾した。

 

「じゃあお兄ちゃん、私たちお先するね」

 

「おう!俺は自分の部屋にいるから、上がったら呼んでくれ」

 

そう言って、お兄ちゃんは二階へと行った。私とメグは着替えを胸に抱いて、脱衣場に向かう。

 

「メグ、今日はパジャマ貸さなくて大丈夫?」

 

「うん、ウチから持ってきたんだ」

 

「良かった!この前は急に決まっちゃったから、今日はゆっくりできていいね」

 

「そうだね」

 

脱衣場の鍵を閉め、お互いに服を脱いでいく。シャツを脱いで、スカートを下ろし、ブラを外していく。

 

友達と言えど、互いに自分の裸を見せ合うのは、やっぱり恥ずかしかった。

 

(メグってスタイルいいな~。細身でしゅってしてて……。こういうの、スレンダーって言うんだっけ?肌も白くて、羨ましい……)

 

私も家から中々出ないので肌が白い方ではあるのだが、その白さはちょっと不健康な感じの白さで、メグのはもっと透明感というか……美白っていう言葉がぴったりの白さだった。

 

ふと、私の視線に気がついたメグが、ちょっとはにかんでから腕で胸を隠して、「どうしたの美結?視線がエッチだよ」と言って笑った。

 

「いや、メグってスタイル良いなあって思って……肌も綺麗で羨ましい」

 

「えー?それ嫌味で言ってる?」

 

「な、なんで?」

 

メグは私の胸に、人差し指をつんと当てた。ちょっとだけ反応しちゃった私は、ぴくんっと肩を震わせた。

 

「私だって、美結のおっぱいおっきいな~、羨ましいな~と思って見てたんだよ?」

 

「そ、そうかな……?」

 

「何カップなの?」

 

「えーと……今はGかな。最近またおっきくなったの」

 

「えー!!ずるいー!私、全然A から成長しないのにー!」

 

「でも、大きければ良いってものでもないでしょ?メグのだって、形綺麗だよ?」

 

「そういうお世辞はいいの!私、胸ちっちゃいのコンプレックスなんだからー!」

 

「私に分けてよー!」と言って、メグは私の胸を揉んだ。「止めてよー!」と彼女の手を払い除けながら私が返す。そんなはしゃぐ声が、脱衣場に響き渡った。

 

 

 

「……はあ~、あったかい」

 

湯船につかるメグが、気持ち良さそうな声を漏らした。湯船から出る湯気が、彼女の肌をしっとりと濡らしていく。

 

私は彼女が湯船にいる間、湯船から出て、シャンプーで髪を洗う。その間、メグがじーっと私を見てくるので、私は腕で胸を隠して、「どうしたのメグ?視線がエッチだよ」と言って笑った。それを聞いたメグが「ふふ」と小さく笑うと、「ちょっと訊きたいことあるんだけどいい?」と告げる。

 

「訊きたいこと?良いけど……どうしたの?改まって」

 

そう答えてから、私はシャワーを手に取ってお湯を出す。髪についている泡立てたシャンプーを、シャワーで洗い流していく。眼を閉じていると、その流れるシャワーの音が激しく聞こえる。それに混じって、メグの言葉が耳に届いた。

 

「美結は、運命の出会いって信じる?」

 

……きゅっ

 

お湯を止めて、濡れた髪をかきあげる。前髪を全部後ろに流して、オールバックみたいな形になる。頭から流れてくるお湯が、私の頬を伝っていく。

 

「……運命の出会い?」

 

そう聞き返すと、彼女は「うん」と答えた。

 

「……………………」

 

しばらく熟考し、ある程度考えがまとまってから、メグへ自分の答えを告げた。

 

「……私は、運命の出会いっていうのは、あんまり信じてないかな」

 

「ほんと?意外かも」

 

「どうして?」

 

「ほら、美結と明さんの出会いって、結構ロマンチックだから。運命的な感じしない?」

 

「まあ、形だけ見たらそうなんだけど……なんだろう、私はお兄ちゃんとの縁は、お兄ちゃんのお陰だって想ってるから、あんまり運命的な感じしないなあ」

 

「明さんのお陰って?」

 

「私はほら、すっごく生意気でさ、お兄ちゃんのこともぷいって感じで無視してたもの。いじめられて引きこもった時も、お兄ちゃんに心配されるのがムカつくっていうか……自分の中のプライドに傷がつくって思っちゃうっていうか、そんなくだらないこと考えてた。でも、そんな私のことをずっと見捨てないでいてくれたのは、お兄ちゃんなの。だからお兄ちゃんのお陰でできた仲だから……運命的な出会いとか、偶然の縁だとか、そんな風には思いたくないな」

 

「……………………」

 

私の言葉を一通り聴いたメグは、一瞬だけ驚いた顔をしていたけど、すぐにその顔を崩し、なんとも微笑ましいものを見るような、そんな優しい笑顔になった。

 

「ホントに大好きなんだね、明さんのこと」

 

「や、やだ、なんか恥ずかしいよメグ」

 

「ふふふ」

 

メグは折り曲げていた脚をのばして、よりリラックスした体制になる。その時、彼女は遠くを見つめるような瞳で「ホントにお似合いだなあ……」と一言告げた。

 

「お似合いって?」

 

「同じ質問をね、明さんにも尋ねたことあるの」

 

「へえ……」

 

「明さんね、『自分と美結の縁は、美結が作ってくれたんだ』って話してたよ」

 

「……!」

 

「明さんはこう言ってたの。『俺が美結との仲を築けたのは、美結が俺を受け入れてくれたからだ。確かに声をかけたのは俺だし、境遇からすると運命的な出会いなのかも知れない。でも、それに美結が応えてくれなかったら何も始まらなかった。だから美結のお陰だよ』って」

 

「……………………」

 

私はその言葉に、思わず赤面した。お兄ちゃんがニコニコ笑いながらその言葉を語っている姿が、アリアリと目に浮かんだ。

 

「美結、照れてるの?」

 

「て、照れるよ!そんなのずるいよ!」

 

「ふふふ、ごめんなさい!」

 

眼をきゅっと閉じて笑う彼女を見て、私も思わず綻んだ。

 

 

私は身体の方も洗い終えると、メグと場所を交代した。私が湯船に浸かり、メグが髪を洗う。

 

シャンプーを泡立ててる彼女を、こうして眺めているのは、なんだか奇妙な非日常感があって少しワクワクした。

 

……思えば、メグとの縁も運命なんかじゃない出会いだと私は思う。メグがこんな私を受け入れてくれたからこそ、今こうして一緒に友達でいられる。

 

人の出会いっていうのは、運命なんかじゃなくて、互いの優しさが繋げていくのかも知れない。

 

「ふー!美結のおうちのお風呂場って、広くっていいねー!すっごく爽やか!」

 

「今度はメグんちにも泊まってみたいな」

 

「うん!おいでおいで!きっとお母さんたちも歓迎してくれるよ!」

 

彼女も全身を洗い終えると、浴槽へと入ってきた。二人して脚を折り曲げて、浴槽の中を並んで座った。互いに顔を見合わせて、「あったかいねー」「ねー」なんて言いながら微笑み合う。

 

「あ、ねえねえメグ、ちょっと電気を消してみてもいい?」

 

「電気?いいよ。何か起きるの?」

 

「お兄ちゃんから……というか、お兄ちゃんのママから教わった遊びなの」

 

そう言って、私は一度湯船から出て、お風呂場の外にある電気のスイッチを押して、お風呂場と脱衣場の明かりを消して、真っ暗にした。

 

いつものように、差し込むのは月明かりだけ。その幻想的な風景に、メグが「すごーい!素敵!」と言って子どものようにはしゃいだ。

 

「へー!お風呂場ってこんな感じになるんだ!今度から私のうちでもやろー!」

 

さすが、絵を描くのが好きなだけあって、こういう雰囲気は相当好きみたい。私は月明かりを頼りに、もう一度浴槽へ戻った。

 

「明さんのお母さんって、こんなことしてたんだね」

 

「道端のたんぽぽを摘んできたり、夢で見た風景を絵に描いたり、そんなことが好きな人だったみたい」

 

「へー!一度お会いしてみたかったなあ~」

 

「うん、私も」

 

暗がりの中、互いの顔と身体がぼんやりと見える。微量な月明かりが、私たちの肌についている水滴を仄かに光らせる。

 

「美結ってさ、明さんとお風呂入ったりするの?」

 

「え!?い、いや……そんなことは……」

 

あります。ありますし、ちょっと……その…………え、えっちなこともします。でも絶対に口が裂けても言えないので、私は何も話しません。

 

「そっかそっか。うんうん、いいの美結。私にはわかってるから」

 

メグの含みを持たせた笑顔が妙に怖かった。メグって……意外とSっ気あるかも……?

 

「あ、美結。私ちょっと……いたずらを思い付いちゃったんだけど、やってもいい?」

 

「いたずら?」

 

私がそう聞き返すと、メグはにこっと笑って湯船から出る。それから、脱衣場に一度出て、私とメグの服を脱衣場内にある洗濯機の中に入れて隠した。

 

そして、メグはスマホで電話をかけ始めた。それは、お兄ちゃんだった。

 

「あ、明さん?私たちお風呂上がりましたから、入ってきていいですよ」

 

「!?」

 

メグのスマホから、お兄ちゃんの声が聞こえる。『おー!分かった!ありがと~!』といつもの通りのお兄ちゃんの明るい声。

 

メグは電話を切ると、いつになくニコニコして、お風呂場へと帰ってきた。湯船に入り、私の耳元で彼女が囁いた。

 

「明さんが入ってきたら、『きゃー!エッチー!』って合わせて言お!」

 

「メ、メグってそんな一面あったんだね」

 

彼女の意外な顔に驚きつつも、私はそんな彼女を見られたことが嬉かった。

 

これからも付き合っていく中で、まだまだお互いが見せていなかった顔を見ることになる。そんな時、こうして一緒に遊んでいられるような、そんな仲でありたい。

 

「……さーて、風呂でさっぱりするか~」

 

脱衣場の外から、お兄ちゃんの声が聞こえる。私たちは肩をすくめて、ニヤニヤしながら口をつぐんだ。

 

パチッ

 

脱衣場の電気がつくと、カラカラという扉を開ける音がする。お兄ちゃんが脱衣場に入ってきたんだ。お風呂場にある磨りガラス越しに、お兄ちゃんが服を着替えているのが見える。

 

思わず笑い声が出そうになるのを、私とメグは口に手を抑えてなんとか耐えていた。

 

「生きてることが大好きで、意味もなく興奮してる~♪一度に全てを望んで~、マッハ50で駆け抜ける~♪」

 

歌を歌うほど上機嫌なお兄ちゃんは、とうとうお風呂場の電気をつけた。そして、カラカラっと磨りガラスの扉を開けた瞬間……

 

 

「「キャーーー!エッチーーーー!」」

 

 

「うわあっ!!?」

 

驚きのあまり、お兄ちゃんは尻餅をついた。眼をまん丸にして、「え?え?」とパニクっている様子だった。

 

「お兄ちゃんの変態ー!きゃー!」

 

「明さんー!見ちゃダメー!恥ずかしー!」

 

私たちは腕で身体を隠しながら、お兄ちゃんに向かって叫んだ。お兄ちゃんは私たちがまだお風呂に入っているということをようやく認識したらしく、「うわわわ!!!ご、ごめん!!」と慌てふためきながら、お風呂場の扉を閉めた。

 

「え!?え!?まだ入ってたの!?」

 

「すみません明さん!さっきのは嘘でーす!」

 

「もー!マジ勘弁してくれよー!寿命縮んだよー!」

 

「えー?お兄ちゃん、私たちの裸見られて逆に寿命伸びたんじゃないのー!?」

 

「何言ってんだよこのやろー!」

 

お兄ちゃんの嘆きの声を聞いて、私とメグは声をあげて笑った。その笑い声は、お風呂場だけじゃなくて……家全体に響き渡ったんじゃないかというくらいに大きかった。

 

 

 

 

 

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