【完結】生意気な義妹がいじめで引きこもりになったので優しくしたら激甘ブラコン化した話   作:崖の上のジェントルメン

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54.VS湯水(part12)

 

 

「……はあ」

 

朝の七時半。私……湯水 舞は、誰もいない下駄箱で盛大なため息をついた。

 

下駄箱は、上段に上履きを入れ、下段に靴を入れるようになっているのだが、その上段……上履きの方に、手紙が入っていた。白い便箋に入れられた、丁寧な作りの手紙だ。

 

「……………………」

 

その手紙を取って便箋を破り、中身を取り出す。一通り読んでみると、それは私の想定通り、ラブレターだった。

 

 

ビリリリリッ!!

 

 

手紙を真っ二つに引き裂いて、ぐしゃぐしゃと丸めた。そして、それを廊下に置いてあるゴミ箱へ放り投げた。

 

「バカにすんじゃないわよ」

 

クラスへ向かう廊下の途中で、私は捨て台詞を吐いた。

 

だって、あの手紙……あまりにも無神経すぎるんだもの。『最近、湯水さん髪の毛を水色にしたね。とってもかわいいよ』だなんて書いてあるのよ?何を言ってるのよ。お前のために染めたんじゃないから。勘違いも甚だしい。

 

これだから頭の悪い脇役は嫌いなのよ。脇役はね、脇役としての自覚を持つべきよ。あくまで主役である私を輝かせるための舞台装置……。シンデレラが結婚するのは王子であって、村人Aじゃないんだから。

 

「私、バカはやっぱり嫌いね。この世のバカはみんな死んでくれないかしら」

 

再度捨て台詞を吐いて、私は自分のクラスに入った。

 

クラスメイトは誰一人としていない。当然よね、朝7時半なんて誰もいるわけないわ。いつもならこんな時間に来ることはないんだけれど、考え事をしたくって、わざわざ誰もいない時間帯を狙って来たってわけ。

 

私は自分の席まで歩いていって、鞄を机に置いて、椅子に腰を降ろす。そして、その机に突っ伏して、ぼーっとその考え事をする。

 

考え事というのは、アキラのことだ。

 

(……残るデートは、あと二回。その二回で……なんとかアキラを惚れさせたい……)

 

しかし、アキラを惚れさせるには、一体どうすればいいのだろう?

 

どんな場所に行っても、どんな体験を一緒にしても、アキラが私に靡くイメージができない。

 

成功するイメージができないというのは、私にとってかなり……屈辱的なことだった。イメージとは、成功するために不可欠な要素。イメージがあって初めて、人は動くことができる。本当の天才とは、そのイメージが隅々まで行き渡っていて、それ通りに物事を運べることができ……そしてついには『当たり前にこなせる』ようになる人間のことを言うのだ。

 

(……だから、この私がイメージできない……なんてこと、あってはならない。なのに、あのアキラは……きっと平田のことを裏切らないだろうなって、それがアリアリと分かってしまう)

 

私は顔を机へ横向きに乗っけたまま、平田の席へ眼を移らせた。

 

(そして……アキラが平田を裏切らないことを…………心のどこかで、望んでいる自分がいる)

 

この気持ちが、私にとっても非常に驚きだった。意味が分からない。私に靡かないことを望む?あまりに心がちぐはぐすぎる。

 

私はアキラがほしい。何がなんでもほしい。でも、アキラが平田を見捨てて私のところへ来てしまうと、私はアキラにひどく失望するような気がする。その他の有象無象とアキラも同じだったのかと、そんな風に思うんじゃないかしら?

 

だから私は、平田に何も手を出さない。やろうと思えば、彼女の浮気をいくらでも捏造して、別れさせてやることだってできる。たぶん、今までの私なら平気でやってる。それをやらないのは、平田にそんなことをしたところで、アキラはたぶん、彼女を見捨てやしないだろうからだ。

 

(……それに…………)

 

それに、もし私が平田の浮気を捏造したら、おそらくアキラは真っ先に私を疑う。『湯水の捏造に違いない』と、妙に感度のいい鼻で探ってくる。

 

そうなれば、アキラの私に対する信用はガタ落ち……。今まで以上に、嫌われることになる。

 

「……………………」

 

……この際だからはっきりしよう。私は、アキラに嫌われたくない。

 

この事実から目を背けてしまっていたが、いよいよ受け入れるしかなくなった。いや、というより……受け入れるもなにも、嫌われたくないというのは、別に何も恥ずかしいものではないと自覚したからだ。

 

だって、私はアキラをほしいと思ってるのよ?ほしいと思う人間に嫌われるのは、不快というか……まあ、普通に嫌じゃない?だから嫌われたくないと思うのは、至極当然のことなの。

 

そう、あくまで合理的に考えた上で、嫌われたくない事実を認めた。そういうことよ。

 

「……………………」

 

……アキラ、私はあなたがほしいと思ってる。でも私に靡いてしまったら、きっと失望する。

 

変な感情よね、全く。今まで経験したことのない……極めて非合理的な気持ち。

 

そのことを、アキラ……あなたに話したら、あなたはバカらしいと言って笑うかしら?それとも、気持ち悪いと言って顔をしかめるかしら?

 

「……いいえ、違うわね」

 

あなたは……悲しい顔をして、何も言わずに私を見つめてるような気がする。

 

そうよアキラ、私には分かってるんだから……。

 

 

 

「……………………」

 

 

 

耳をすますと、グラウンドで朝練をしている野球部たちの声が、微かにうっすらと聞こえる。そのくらい、教室の中は静かだった。

 

「……だな」

 

「……ですね。だから……」

 

ふと、その野球部たちの声に混じって、廊下の方から話し声が聞こえた。小さすぎて確認できないけれど、もしかするとそれは……

 

「……アキラ?」

 

そう、たぶん……アキラだと思う。アキラと……それから女。おそらく平田だろう。その二人の会話する声が聞こえる。

 

「……………………」

 

何を話しているのか興味が沸いた私は、音を立てずに席を立ち、抜き足差し足で、教室の引き戸まで歩いてきいった。

 

「……としては、そういう気持ち……なのかなあって思うんだよ」

 

「でも、私はまだ時期尚早な気がします。湯水と近づけるは、やっぱり危険だと思います」

 

「俺もそう思うんだけど……。うーん、一回柊さんとかに相談してみようかな」

 

「そうですね、その方がいいと思います」

 

私が引き戸に近づくにつれ、その声がだんだんと鮮明になってくる。

 

(私の話をしている……?)

 

余計に気になった私は、引き戸をそー……と開けて、顔を少しだけ廊下へ覗かせた。

 

すっと伸びるその廊下の先、おそらく5mくらいの距離の地点で、やはりアキラと平田が会話をしていた。

 

その場にしゃがみこんで、廊下側からは見えないように、引き戸を背にして聞き耳を立てる。

 

「それじゃあメグちゃん、またお昼休みに」

 

「はい、お待ちしてます」

 

「ごめんね、いつも俺と一緒にさせてしまって」

 

「いえいえ、私は全然構いません。本当の彼女みたいで、嬉しいです」

 

そう言われたアキラの、照れ臭そうに笑う声が廊下に響いた。

 

(……なに?どういうこと?)

 

私は、彼らの会話の中にあった……とある単語が脳裏に焼き付いた。

 

 

“本当の彼女みたいで、嬉しいです”

 

 

(……なに言ってるのよ平田、あなた……あなたが本当の彼女……でしょ?え?違うの?本当の彼女じゃないの?)

 

私は額に手を当てて、ぐっと眉間にしわを寄せた。

 

あの会話をそのまま受けとると、平田とアキラは本当は恋人同士じゃなくて……偽物の恋人ってことになるけれど……

 

(まさか、でも……そんなわけ……)

 

だって、あの平田は……間違いなくアキラが好きだ。それは感覚的に理解できる。なぜなら、眼差しが違う。あれは本当に、恋をしている人間の眼差し。

 

(私は、大量の男たちを落としてきた女……。恋を込めた眼差しがどんなものか、熟知している。今日の朝だってラブレターを貰った。この前だって告白された。元カレにも未だに執着される。彼らが私に向ける眼は、まさしく切望の眼差し。心から欲する眼差し。すなわちそれが……恋の眼差し……)

 

そんな私だからこそ、平田がアキラに向ける眼差しが本物の恋であることくらい、すぐにわかる。

 

……いや、待って。眼差し云々以前に、あの女は今『彼女みたいで嬉しいです』と答えた。この言葉からもわかるように、平田は絶対にアキラが好きだ。本物の恋人関係かどうかはこの際置いておいて、平田の好意そのものは、間違いなく本物だ。

 

(じゃあ、仮にその関係が偽物だったとして……なんで二人は、そんなことをしているの?)

 

目的はなに?なんのために偽物の恋人を演じるの?なぜ演じる必要があるの?

 

……今すぐに予測できるものとしたら、おそらく……平田からの要望。

 

1.平田がアキラに告白する

 

2.アキラは恋人になることを渋ったので、平田が「少しの間、仮の彼女にさせてください」と要望する。

 

3.しばらく二人で過ごしてみて、本当に気が合うと判断したら……晴れてちゃんとした恋人になる

 

……みたいな感じ?

 

いやでも、これでは筋が通らない。

 

アキラは常々、私にこう言ってる。『自分はメグちゃん一筋だ』『湯水、お前とのデートで彼女を不安にさせるのは嫌だ』と。

 

つまり、アキラの方もちゃんと平田へ好意を抱いてる。つまり両想い……であるはず。

 

それに、あのアキラよ?アキラは絶対、人に対して曖昧な態度を取る人間じゃない。

 

告白されて、その人と付き合えないと想ったら、ちゃんときちんと断る。付き合いたいと思ったら、仮ではなく正式に受ける。『それが誠実さ』だろ?と……そう語る人間だ。仮の彼女だなんだって、本命以外の女の子をキープして思わせ振りなことをするなんて、あの男はしない。

 

(なのに、偽物の恋人?まさか、そんなはずはないわ)

 

そう……頭で弾き出した理屈では、そういう答えに行き着くのだが、あの平田の言葉が……どうしてもその答えを納得させてくれない。

 

朝の静かな教室と対照的に、私の胸はざわつきで満ちていた。理解できない、納得できないという思考が、不安と不気味さを呼び起こす。

 

アキラ……あなた、一体何を考えているの?

 

 

 

 

 

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