【完結】生意気な義妹がいじめで引きこもりになったので優しくしたら激甘ブラコン化した話   作:崖の上のジェントルメン

61 / 86
61.VS湯水(part16)

 

 

 

 

 

……俺はいつものように、下駄箱付近でメグちゃんを待っていた。

 

雨音が激しくなるのを聴きながら、「メグちゃんは傘を持っているだろうか?」と、そんな心配をしていた時。

 

「よお、明」

 

俺へ声をかけてきたのは、友人の飯島 圭だった。つんとつり上がった狐のような目で俺を見ている。

 

「なんだ、圭か」

 

「なんだとはなんだ、明。失礼な」

 

「なんだとはなんだとはなんだ、圭。お前にはそれで十分だろ?」

 

「なんだとはなんだとはなんだとはなんだ、明。嫌味な野郎だぜ」

 

そう言って俺たちは、ケラケラと笑いあった。

 

「もしかして明、“これ”待ちか?」

 

圭が右手の小指を立てて、俺の顔の前まで持ってくる。俺がそれを払いのけて、「当たり前だろ?」と返すと、圭は「おいおいずるいだろ~!」と言って嘆いた。

 

「お前、可愛い義理の妹もいれば、年下彼女までいて!」

 

「圭の方は、なんか浮いた話とかないのかよ?」

 

「……ん、まあ、一週間前に彼女ができた」

 

「マジ!?おいおい良かったじゃ……」

 

「んで、昨日フラれた」

 

「……良くなかったか、すまん」

 

「なーに、気にするな。インターハイ前だし……ちょうど空手部の方に専念したいなと思ってたところだ」

 

「なんだってまた、そんな最速で別れたんだ?」

 

「知らねー。『なんか思ってたのと違う』とかなんとか言われて終わったわ」

 

「……告白は向こうからだったのか?」

 

「ああ」

 

「それは酷い話だな。勝手に人に期待しといて、勝手に失望して」

 

「良いんだよ明、俺にはお前がいれば」

 

「圭……」

 

「明……」

 

「なんだこのノリ」

 

「はははは!」

 

圭がバカ笑いしているのを見て、俺も少し嬉しくなった。

 

……最近、どうにも気が滅入ることが多い。湯水のこともそうだし、美喜子さんのことも……。

 

自己嫌悪に陥って、どうしようもなく苦しくなる時が増えた。夜眠る時に、美結と一緒に泣いていることだってある。

 

だから、圭とこうして笑っていられると、少しだけ気が楽になる。

 

 

ザーーーーー……

 

 

窓の外から響く雨音が、だんだんと激しさを増していく。メグちゃん遅いなあ……。どうしたんだろ?

 

Limeで連絡をしてみようかなと思い、スマホを鞄から取り出そうとしたその時……

 

 

「……うう、ぐす…………」

 

 

小さくすすり泣く声が、微かに耳に届いた。

 

「……あれ?圭、なんか……泣く声がしないか?」

 

俺がそう言うと、「おいおい止めろって!」と告げ、慌てて耳を塞いだ。

 

「俺、心霊系全然ダメなんだよ!そういう冗談よしてくれ!」

 

「バカ、そんなんじゃない。ホントに聞こえるって。耳をすましてみろよ」

 

俺の言葉を受けて、圭はおそるおそる耳から手を離した。すると、どうやら圭も聞こえたようで、「あれ……?マジだな」という独り言を溢した。

 

「たぶんこの近くだぞ」

 

俺はその声を頼りにして、声の主を探し始める。

 

圭と共に辺りをうろうろしてみると、その声の主は……一年生が使う下駄箱の前で、地面に三角に座り、顔を伏せていた。

 

天然パーマでモジャモジャの髪をした少年で、おそらく後輩だろうと思われた。

 

「……君」

 

俺がそう声をかけると、彼はびくっと肩を震わせてから、ゆっくりと顔を上げた。

 

たれ目で丸顔な……いわゆるタヌキ顔な雰囲気の彼は、目にいっぱい涙を浮かべていた。

 

「……どうしたんだ?そんなところで。大丈夫かい?」

 

「……………………」

 

「どこか怪我でもしたのか?保健室……良かったら案内するけど、どう?」

 

「……………………」

 

俺の問いかけにも、彼は反応しない。ただじっとこちらを見上げるばかり。

 

俺と圭は一度顔を見合せた後、その少年に背を向け、5メートルほど離れた場所で二人……声を潜めて話し合った。

 

「なんだと思う?圭」

 

「わからん……。だが、なんか嫌な予感がするぜ。ひょっとすると、いじめかもしれん」

 

「えー?まだ一年生……入学してから3ヶ月も経ってないじゃんか」

 

「いじめなんて、一秒にも満たないやり取りでターゲットが決まるもんだ。それは、俺がよく知ってる……」

 

……そう、圭は昔、俺のことをいじめていた時期があった。それは小学生の頃で、俺はもう気にしてはいないのだが……圭はまだ、俺に対して罪悪感を感じているらしい。

 

「…………だけど、とはいえ『いじめられてるの?』とは言いにくいよな……」

 

「そうだな……困ったもんだ」

 

俺たちは少年へどうにか声をかけようとして、その場でしばらく逡巡していた。

 

「お!よう、ちゃんと待ってたなー!チン毛!」

 

ふと気がつくと、その天然パーマの少年に向かって、三人の男子が廊下の奥からやって来るのが見えた。一人が坊主で、一人が角刈り、もう一人がロン毛の男子生徒だった。

 

天然パーマの彼は、震えながら静かに立ち上がると、消え入るように小さな声で「スマホ……」と言った。

 

その小ささを煽るようにして、三人の内一人である坊主が「え?なに?聞こえねーんだけど!」と返す。天然パーマの少年は、ごくりと息を飲んだ後、再度三人へ告げた。

 

「スマホ……返してください」

 

「あー!スマホね!はいはい」

 

三人はニタニタと顔を見合せて笑う。そして、ロン毛が肩にかけている鞄の中から、彼のビニール袋を取り出した。その中に、おそらく彼のスマホがあるんだろう。

 

「ほれ、返すよ」

 

ロン毛から手渡された天然パーマの少年は、直ぐ様袋の中からスマホを取り出した。そのスマホは、遠目から見ても分かるほど、びしゃびしゃに濡れていた。スマホからぽたりと滴が垂れて、床に水滴の跡を残していた。

 

「え……なんで、濡れて……」

 

「あ、わり!うんこと間違ってトイレに流しちまったわ!」

 

「「きゃははははは!!」」

 

ロン毛がそう言って爆笑すると、残り二人も続けて笑った。

 

「「……………………」」

 

俺と圭は、互いに言葉を交わさずとも、何をするべきか心の内で決めていた。

 

お互いに目配せだけをして、黙って頷きあうと、彼ら四人の元へ歩いて行った。

 

「もう止めな、やりすぎだ」

 

俺がそう口火を切ると、四人がこちらを向いた。

 

天然パーマの子は、さっきと同じように……ただじっとこちらを見やるばかりだった。そしていじめっ子たち三人も、俺と圭へ顔を向けていた。

 

意外だなと思ったのは、三人とも妙に罰の悪そうな……なんとなく申し訳なさそうな顔だったことだ。それゆえか、俺と圭から三人は視線を逸らすと、ため息をついたり、ポケットに手を突っ込んで、床に視線を落としていた。

 

「三人でよってたかって、みっともねえだろ」

 

続けて俺がそう言うと、坊主だげか「うっす……」と答えた。この『うっす』の『う』の部分が小さすぎて掠れており、実際に聞こえるのは「っす……」みたいな感じだった。

 

(……ははあ、なるほどな)

 

俺はこの三人の様子を見て、心境を粗方察した。三人とも、自分が悪いことをしているという自覚がある。だからこの、微妙に気まずい……罰が悪そうな感じなんだ。だけど、俺と圭へ素直に謝ってしまうのもシャクに触るから、若干突っぱねた態度になる……と。

 

(もっとこう……『ああん?お前らには関係ないだろー!』的な、よくヤンキー漫画とかで見る光景になるのかと思いきや……。案外、こんなもんなんだな。ま、俺らが先輩であることと、体格のいい圭が隣にいるのもでかいかもな……)

 

それにしても、悪いと思ってるなら最初からするなよ……と、俺がそんな風なことを考えていた時、圭がつかつかと彼らの元に歩いて行って、こう言った。

 

「お前ら、憧れの人間とかいねえのか?」

 

「……?憧れ、すか?」

 

角刈りが聞き返すと、圭が彼に顎をしゃくった。

 

「お前らバカにでも、憧れた人間くらいいるだろ?言ってみろよ」

 

「……………………」

 

「ガキん頃でもいい。なんかいるだろ、一人くらい」

 

「……………………」

 

誰一人として、圭の問いかけに答えなかった。圭はため息をつきながら、「俺には二人、憧れの男がいる」と、そう話し始めた。

 

「一人は、ドラゴンボーイのゴハクだ。どんな奴にも負けねえ強さに憧れた。ガキん時は本気でカメハメ弾撃つ練習してたし、スーパーサハラ人になれると思ってた。その憧れがずっと残ってっから、今も空手やってっし、強くなりてえと思ってる」

 

「「……………………」」

 

「そんでもう一人は、あいつだ」

 

その時、なんと圭は俺のことを指差した。拳を握って親指だけを立てて、その親指で背中越しに俺をさした。

 

いじめっ子たち三人と、天然パーマの少年が、一斉に俺を見た。

 

「あいつはマジで強え。俺にはまるで敵わねえ」

 

「「……………………」」

 

「言っとくけど、腕っぷしの話じゃねえぞ。心の強さだ。あいつみてえに強くなりてえって、今も思ってる」

 

「「……………………」」

 

「俺は、あいつのことを……小学生ん時にいじめてた。お前ら三人がやったみたいなことを、俺もその時はバカだったからやってた。だが、それでもあいつは折れなかった。それどころか、俺が事故って入院した時に、『大丈夫か?』っつって見舞いに来てくれた。俺はダチが多い方だって過信してたんだが、俺の見舞いに来てくれたのは、あいつ一人だけだった」

 

「「……………………」」

 

「いじめの相手を労れるその根性が……強えなって。俺、こいつには敵わねえって、そう思ったんだよ」

 

圭がどんどん話し始めるのを、俺は頭を掻きながら聞いていた。なんか、すんげえ恥ずい……。

 

「いいか、バカ三人ども。誰かをいじめて気晴らししてえ気持ちは、俺も前に持ってたからよく分かる。だけどよ、憧れた人間の前で、今のてめーの姿……晒せるか?ガキん頃の……憧れを夢見てる自分に、『これがてめえの未来の姿だ』って、晒せるか?」

 

「「……………………」」

 

「晒せねーんなら、そんなくだらねえこと止めちまえ。糞みたいなことに時間使うくらいなら、ちゃんと憧れた奴に近づけるよう、努力しとけ」

 

「「……………………」」

 

「ま、どうせお前らバカに説教したところで、半分も聞いちゃいねえだろうがな。そら、とっとと失せろ。自分の憧れた人間すらまともに言えねえ雑魚に用はねえ」

 

……いじめっ子たちは、気だるそうにダラダラと歩きながら、その場を去っていった。

 

「……おい」

 

圭が天然パーマの子に声をかけた。それを受けて、彼がおそるおそる圭を見上げる。

 

「お前、いじめの話は……ちゃんと先公とか親とかに言っとけ。言いなりになんのが一番ダメだ」

 

「……………………」

 

「それじゃ、気をつけて帰れよ」

 

「……………………」

 

少年はぺこりと圭へ頭を下げると、スマホをビニール袋に入れて、それを胸に抱いたまま、その場を立ち去った。

 

「……憧れ、ねえ」

 

俺がそう言って圭に近づくと、圭はニッと口角を上げる。

 

「そうだぜ明。俺はお前が思ってるより、お前のこと買ってるつもりだぜ」

 

「……ちぇ、なんかずりいよな」

 

俺の反応を見て楽しんでいるのか、圭は「くくく」と声をあげて笑った。

 

「さて、明。そろそろ愛しの彼女ちゃんと帰るんじゃねーのか?」

 

「あ、そうだメグちゃん……。もう待ち合わせ時間から40分近く経ってるけど、まだ来ないな……」

 

俺は改めてスマホをポケットから取り出して、メグちゃんにLimeを送ろうとした……その時だった。

 

ベストのタイミングで、メグちゃんは現れた。廊下の向こう側からこちらへやって来ているのが見えて、「お!メグちゃーん!」と叫んで手を振った。

 

「……………………」

 

メグちゃんは、こちらに小さく手を振り返してくれたけど、何も言葉を発さなかった。なんとなく気になった俺は、そのまま彼女がこちらへ来るのを待ってみた。

 

「…………!」

 

だんだんと近づいてきた彼女を見て……俺は戦慄した。彼女の頬が、赤く腫れ上っていて……尚且つ、頬には涙の痕がたくさん残っていたからだ。

 

「メグちゃん!」

 

俺は小走りで彼女の元に走っていった。そして、両肩をぎゅっと掴んで、「どうしたの!?大丈夫!?」と、捲し立てるように話しかけた。

 

「……………………」

 

彼女は泣きつかれた虚ろな瞳で、俺にこう告げた。

 

「……明さん。湯水に…………美結のこと、バレてしまってました……」

 

「え!?」

 

「私と明さんが嘘の恋人だってこと……湯水に、バレてしまったんです。そして、美結のことまで……」

 

「……!!」

 

俺は全身から……さーーーっと血の気が引いていくのを感じていた。冷たい手で心臓を握られているような……そんな気持ち悪さ。

 

「……ってことは、メグちゃん……その頬は、湯水が……」

 

「……………………」

 

「……っ!!あんの野郎!!!」

 

俺は歯をギリギリっと食い縛って、メグちゃんにくるっと背を向けて、走り出した。

 

「おい!明!」

 

圭の声が背中越しに聞こえたので、俺は振り返らずに「すまん圭!メグちゃんを頼む!」と言って、そのまま駆け抜けた。

 

「湯水!!おい!どこだ!!」

 

誰もいない廊下を走りながら、大声で奴の名を叫ぶ。頭に血が昇って、身体全体が熱くなってるのを感じる。

 

「湯水!!返事しろ!!どこにいる!!」

 

バクバクと心臓が揺れて、極度の興奮状態……。もはや、錯乱していると言った方が正しいかも知れない。

 

(どうする……!?既に学校を抜け出してるか!?ひょっとして、もう美結に何かしようと企んで……!?)

 

「……!!」

 

探し続けてしばらくした頃……俺は、ようやく彼女の姿を見つけた。

 

湯水は、中庭にいた。

 

校舎に囲まれたその中庭で、青々と繁る芝生の上に、彼女はいた。空を見上げて、土砂降りの中立ち尽くしていた。

 

そんな彼女の光景が、廊下の窓越しに見えていた。

 

「……………………」

 

……彼女の方へ眼を向けたまま、俺も中庭へと足を踏み出す。外に出た途端、ごうごうと雨が頭上に降り注ぎ、一瞬にして身体中が濡れた。

 

風が鳴り響いて、そばを吹き抜ける。髪がそれに煽られて揺れる。

 

「…………湯水」

 

「……………………」

 

俺の囁くような独り言に、湯水は反応を示した。ゆっくりと目線を俺へと向け、びしょびしょの髪から水がぽたぽたと落ち、制服が濡れて透けるのをまるで意に介さないと言った様子で……湯水は笑った。

 

「…………ふふふふ」

 

湯水は……なんとも不思議な……ゾッとするほど美しい微笑を湛えて……こう言った。

 

 

 

 

 

 

「好きよ、アキラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。