【完結】生意気な義妹がいじめで引きこもりになったので優しくしたら激甘ブラコン化した話   作:崖の上のジェントルメン

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75.真夏の風(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たああああああああ!!!」

 

俺の左アッパーが、相手の顎先を捕らえた。腕を振り上げると、相手の顔は大きく揺れ、バキンッ!!と鈍い音を立てて仰向けに倒れた。

 

「ぷっ!」

 

道路に寝ているその男に、俺は唾を吐いてやった。

 

「……………………」

 

俺の相手は、残り二人。1人は真ん前に、もう1人は真後ろにそれぞれいて、俺から等間隔に距離を開けている。

 

各々が角材を握りしめながら、その距離をじりじりと詰めてくる。

 

(ちっ……一斉に飛びかかるつもりだな?さすがに二人を一辺に相手すんのは面倒だ、ここは一人ひとりにご訪問願おうか……)

 

俺は「ごほんごほん」と咳払いをしてから、ニッと笑った。

 

「なんだなあ?ビビってんのか?たかが男1人によお」

 

「「……………………」」

 

「ま、顔を隠してる時点でたかが知れてるよなあ。素顔を晒す度胸もなけりゃ、タイマン張る根性もない。つまらん男どもだぜ」

 

「「……………………」」

 

「ったく、複数人で囲めば勝てるとでも思ってんのか?そいつぁおめでたい頭してるぜ。ネズミが数匹集まれば、虎を狩れるという算段を誰が思い付いたんだか」

 

「…………くそったれが」

 

背後にいる男が、ボソッとそう呟いた。ありがとなお間抜け野郎。俺の煽りに乗ってくれてよお。

 

(さあ、来いやチンピラ……)

 

俺は、そいつに背を向けたまま、あくびをするフリをした。

 

「ふぁ~~~……。静かな夜だなあ。眠くなってきたぜ。お前らもそろそろおうちに帰りな。そんで、ママと一緒にねんねしてもらえや。きっと朝までぐっすりだぜ?」

 

「……死ね」

 

来た!

 

背後から、脚を前に一歩踏み込む音がする。その瞬間、俺は腰を垂直に落とした。

 

ぶわっと、角材が俺の頭の上を左から右へ掠めていった。髪の毛の先がそれに煽られて揺れた。

 

 

たんっ!

 

 

俺は両手を前に出し、地面へつけた。そして、ぐるりと後ろを振り向き、屈んだ状態から右脚を伸ばして、背後にいる男の腹を思い切り蹴りあげた。

 

「ぐえっ!!」

 

男は、胃液を口から漏らした。あまりの痛みに、その場に倒れこんで悶絶し出した。

 

自分が襲いかかった勢いと、俺の蹴りが丁度カウンターになってるので、フツーに蹴られるより何倍もいてえはずだ。

 

「「……………!!」」

 

横目で、残りの一人が狼狽えているのを確認する。

 

 

ザッ!

 

 

俺は脚を引っ込めて素早く前転し、そいつの元へと接近した。

 

「!?」

 

俺は、その男の目の前で立ち上がった。鼻先が触れそうなほどど真ん前に立って、そいつのこめかみ付近を両手で掴んだ。

 

そして、自分の頭を後ろに引いて勢いづけてから、そいつの鼻頭に向かって思い切り頭突きをしてやった。

 

「ぐはっ!!」

 

鼻の穴から、ぬるりと血が垂れる。男は顔をしかめ、角材を手放し、両手で鼻を押さえる。

 

(腹が隙だらけだぜ!)

 

殴ってくれと言わんばかりに空いてる腹を、右の拳でぶん殴った。

 

「げえっ!」

 

男は唾を飛ばして嗚咽した。その場にしゃがみこんで、腹を押さえてうずくまる。

 

(よし、いっちょあがり。藤田たちの方は大丈夫か……?)

 

額にかいた汗を拭って、あいつらの方を見やる。

 

状況としては、平田と男、そして藤田ともう1人の男がそれぞれ対峙していた。

 

平田はスマホを手に持ち、ぶるぶる震えながら、男に壁際へと追い詰められていた。

 

藤田の方は男の左腕に噛みついていて、それを男が必死に男が振り払おうとしている。

 

葵は脚を傷つけられたのだろう、顔をしかめて太ももをさすりながら、地面にへたりこんでいた。

 

「まず助太刀すべきは、平田か!」

 

俺は直ぐ様、平田と対峙している男に向かって走った。

 

その時、平田が男に向かって写真を撮った。パシャッとシャッター音が鳴り響き、フラッシュライトがたかれた。

 

「も、もう無駄なことは止めて!」

 

平田が男に向かって叫ぶ。

 

「あなたたちは、たくさん写真におさめた!それに、葵さんがもう警察に通報している!もうすぐ到着する!」

 

「うっ……」

 

平田の言葉にびびった男は、一瞬だけその場で固まった。その瞬間を俺は逃さなかった。

 

「ナイス牽制だな平田ぁ!!」

 

俺は男の背後に行き、首に腕をかけて思い切り締め上げた。

 

「ぐうっ!?」

 

息が止まりそうになった男は、必死に逃げだそうともがく。

 

「そら!平田!股に一発入れてやれ!」

 

「え!?」

 

「早く!今がチャンスだ!」

 

突然俺から指示を振られた平田は、驚きのあまりテンパっていた。

 

だが、ごくりと唾を飲むと、眼をきゅっと瞑り、「えいっ!」と言ってから、男の股間をぎこちなく蹴りあげた。

 

「ぎぃ!!」

 

男の身体はびくんと揺れて、「あが……が……」と、男ならマジで想像したくない激痛に苦しんでいた。

 

「よし、静かになったな。これでようやく“落とせる”」

 

そうして俺は、「あばよ」と告げてから、さらに首を締め上げた。

 

「……………………」

 

すーっと顔が青くなって、男は気絶した。それを確認してから、俺は腕を離した。どさりと倒れこむその男を、平田は肩で息を切らしながら見つめていた。

 

「これでよし。さて、最後に藤田だが……」

 

呼吸を整えてから、戦闘中のそちらへ眼をやる。しかし、もう決着はつきかけていた。

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!お願いです!離してください!」

 

藤田に噛まれ続けて、男の腕からは血が垂れていた。だが藤田は頭に血が昇っているのか、一向に離そうとしない。

 

「痛い!痛い痛い痛い!!すみません!本当にすみません!!」

 

「おい藤田、もうその辺にしてやれ」

 

「……………………」

 

俺が藤田の肩をぽんっと叩いた。それでようやく、彼は口を腕から離した。くっきりと歯の跡が残っており、血が一筋流れ出ていた。

 

「はあ……はあ……」

 

藤田は藤田で、口から血を垂れ流しており、なぜかちょっとだけ泣いていた。

 

「よくやったな藤田、強かったぜ」

 

「へ、へへ……あざす」

 

興奮で口角がぴくぴくしつつ、藤田は笑った。

 

「本当に……本当にすみません!」

 

湯水の手下であるそいつは、未だに俺たちへ謝っていた。土下座をし、何回も何回も頭を下げていた。

 

「ようお前、湯水と明の居場所を教えろや。言わねえと……分かってるよな?」

 

「はい!い、言います!教えます!」

 

男は、その場で目出し帽を取った。その時……俺はこいつのことを、どこかで見たことあるなと思った。

 

(天然パーマの……丸顔。あ!もしかしてこいつ!)

 

そうだ……こいつは、ちょっと前に明といじめられてたのを助けてやった一年生だ。

 

「お前……あの時のやつだよな?下駄箱でいじめられてた」

 

「……!」

 

向こうも俺のことに気づいたようで、罰の悪そうに顔をむつむかせた。

 

「お前……なんで湯水の仲間になったりしたんだよ?ていうか、湯水と繋がりあったのか?」

 

俺の問いかけに対して、やつはうつむいたまま、唇を噛み締めた。

 

「……その、いじめを……止めてくれたんです」

 

「なに?」

 

「僕……あの、知っての通り、クラスメイトからいじめられてて……。そのいじめを、湯水が止めてくれたんです」

 

「……………………」

 

「そして、僕が『何かお礼をさせてください』って言ったら、『手伝ってほしいことがある』って言われて……」

 

……なんてこった。

 

俺は明から聞いたことがあるが、こいつに対するいじめってのは、湯水本人が引き起こしたものらしい。つまり、自分で種を撒いておき、天パに借りを作らせるようなことをしたと……。あの野郎、本当に人の心がねえな。

 

 

ブロロロロ……

 

 

俺たちの近くに、一台の軽自動車が止まり、三人の女が降りてきた。それは、平田たちの知り合いである、城谷という警察官、柊という探偵、そして明の妹だった。

 

「みんな……!」

 

「どうやら、乗り切った後みたいね」

 

城谷と柊は、俺たちの様子を見て心底安堵していた。倒れている葵や、口許から血が出ている藤田に駆け寄って、怪我の具合を確認している。

 

「葵ちゃん、大丈夫?」

 

「はい……。脚自体は、ちょっと擦りむいちゃっただけなんで、大したことないです。ただ、ちょっと……腰が抜けちゃって……」

 

「そっか……怖かったよね。もう大丈夫だからね」

 

葵は城谷の言葉を聞いて、疲れきった顔をしつつも、目に涙を浮かべて、口許に微笑みを浮かべた。葵は俺たちの中では一番落ち着いたように見えていたが……やはり、内心かなり怖かったのだろう。それを少しも表に出さず、湯水の手下たちと戦えるとはな……。

 

「藤田氏、お怪我はありませんか?」

 

「へへ、どこそこぶん殴られたんすけど、大して痛くねえっす」

 

「アドレナリンが痛みを麻痺させているのかも知れませんね。後から痛みが来る場合もあるので、後程病院に行きましょう」

 

「あどれなりん??」

 

「アドレナリンというのは、脳内麻薬のことです。極度の興奮状態になると、脳内に分泌されるんです」

 

「え!?ま、麻薬なんすか!?それヤバくないすか!?オ、オレ逮捕されないっすよね!?」

 

……藤田のすっとんきょうな言葉に、クールな柊もさすがに笑っていた。

 

明の妹は、平田のそばに近寄って、「メグ!大丈夫!?」と泣きそうになりながら告げる。

 

「うん、私は平気」

 

「良かった……本当に無事で」

 

「ありがとね、来てくれて」

 

「……………………」

 

明の妹は、平田のことを思い切り抱き締めた。平田はちょっと驚いていたが、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべて、抱き締め返していた。

 

「……………………」

 

明よお、お前の周りには、良いやつがたくさんいるな。時々俺は、無性にお前を羨ましく思うことがあるぜ。

 

「あ……そうだ、美結」

 

平田と明の妹はハグを止めると、平田の方からある話を振った。

 

「湯水と明さんの居場所が……分かるかも知れない」

 

「え?」

 

平田は天パの一年へ眼を向けた。

 

「彼がどうやら、その居場所を知っているみたいなの」

 

平田の言葉を受けて、明の妹も天パの方へ目をむけた。城谷や柊、藤田や日髙も、平田たちの会話を聞いていたのだろう、彼の方へ視線を注いだ。天パは罰が悪そうにみんなから目を逸らしていた。

 

「……おい、天パ」

 

俺がそう言うと、彼は怯えた様子で「は、はい」と返事をした。

 

「湯水の隠れ家まで案内しろ。今から乗り込むぜ」

 

「……………………」

 

天パの一年は、ごくりと唾を飲んだ後、黙って頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……幾度も肌と唇を重ね、子種さえも奪ったというのに、未だに私は、この男のことが理解できない。

 

(アキラ……一体、何を考えているの?)

 

私があなたに……何かを隠しているですって?

 

今さらあなたに、何を隠すものがあるというのよ。私はもう、あなたに身体さえも預けてしまった。これ以上、さらけ出すものなんてないわ。あなたの前ではいつだって正直に……自分のことを話してるつもりよ。

 

「……………………」

 

そう……私はアキラへ告げるつもりだった。なのになぜか、上手く言葉が出ない。口から漏れるのは、掠れた空気のようなものだけ。

 

「……なあ、湯水。どうだよ?お前が本当にしたいのは、俺との愛のない交尾か?」

 

「……………………」

 

「俺も正直、感覚的にしかまだ分かっていないが……なんとなくお前は、本当にやりたいことが他にあるような気がするぜ」

 

「本当に……やりたいこと」

 

「ああ、本当に俺に殺されたいのか?それがお前の望みなのか?」

 

「……そうよ、殺してほしいわ。私のことを、目一杯恨んでほしい。私のせいで傷ついてほしいし、私のせいで人生が歪んでほしい」

 

「……………………」

 

アキラは悲しそうに私を見つめた。

 

「…………湯水、お前の望みは……俺の中にお前を住まわせたいってことだよな?いつでもお前のことを思い出してほしくて、強烈に印象付いてほしいって、そういうことだよな?」

 

「そう、絶対に私のことを胸に刻んでほしい。私がいたってことを、永遠に忘れないでほしい」

 

「なら……もう、それは叶ってるよ。お前に散々嫌なことされて、もう忘れようがない。そうだろ?」

 

「……………………」

 

「それとも、まだ足りないか?これ以上に……嫌われたいか?」

 

「…………そう、そうよ。私があなたを好きな気持ちと同じくらいの熱量を……あなたも持ってほしい」

 

「熱量……」

 

「私は、あなたになら全部捧げられる。処女も、人生も、命も」

 

「…………つまり、その……お前の好意と同じ規模くらいに、お前を嫌いになれってことか?」

 

「そうよ。私のこと、全部奪いたくなるくらいに嫌いになって。そうしたら、両想いになれるでしょ?」

 

「……………………」

 

アキラは、深いため息をついた。それは、私への失望というわけではなく……苦しい想いを胸に溜め込まないように、息を吐き出したような、そんな感覚だった。

 

「……湯水よお、俺に人生を捧げるって言うんならさ……ちょいとばかし、尋ねてもいいか?」

 

「なに?」

 

「お前はさ、俺から嫌われたいとは言っているが、もし俺と付き合えるなら、付き合いたいか?」

 

「……もし、付き合えるなら?」

 

「さっき、美結に会う前にどうたらって言ってたろ?どうだ?もし恋人になれるんなら、なりたいか?」

 

「……………………」

 

私は黙って頷いた。

 

「じゃあ、少なくとも俺から好かれるのは嫌じゃないってことだ」

 

「……何言ってるのよ、バカ。嫌なわけないでしょう?」

 

「……………………」

 

「そんな……そんなの、夢みたいな話だから…………」

 

「嫌われる方が現実的だから、好かれることを諦めた。そうか?」

 

「……………………」

 

「なるほどな、だんだん分かってきたぜ」

 

「なにを…………」

 

「湯水、お前は……怖いんだな。俺から愛されることが」

 

「!」

 

私は大きく眼を見開いた。アキラはそんな私のことをじっと見つめている。

 

「湯水、いつだったかお前と……話したことがあったよな。愛ってものの考え方について」

 

「………そうね、私がトロフィーで、あなたが自分の証明……。そう答えてたわね」

 

「ああ。湯水、お前にとっての愛は、駆け引きだ。他人と競争し、その中で勝ち取っていくもの。つまり、お前の中に無償の愛は存在しない」

 

「当たり前よ、この世の中……等価交換が必然じゃない。対価を払ってものを得る……。無償なんてものも、自己満足という精神的な満足感を得るため。これもまた、対価を得ているはずよ」

 

「そうだな、確かにそうかも知れない。だが湯水、人は時に……本当に駆け引きを止める瞬間ってものが、あるとは思わないか?」

 

「……………………」

 

……アキラ、あなたはいつもよく分からない。何を言っているのかもイマイチぴんと来ないし、あまり納得できない。

 

……でも。

 

そんなあなたが、私は気が狂うほどに大好きだってことだけは……充分に、分かる。

 

「湯水、俺はな……駆け引きの中に、本当の愛は産まれないと思っている」

 

「なぜ?」

 

「駆け引きが産むのは、愛ではなく契約だからだ。たとえば、『私はあなたを愛してる。なぜならあなたは“お金持ち”だから』。『僕は君を愛してる。なぜならとても可愛いから』っていう風に、◯◯だから愛してるという構図ができる。これは逆に言えば、この◯◯の部分が崩れたら愛さない、ということだよな?」

 

「ええ、当然よね。貧乏になれば愛さない、ブサイクになれば愛さない……。そういうものよ」

 

「でもな、湯水。俺の思う愛っていうのは……本当は、理由なんていらないんじゃないかと思うんだ」

 

「理由がいらない?」

 

「俺も今、喋りながら考えをまとめてるんだけどな、何か理由をつけて人を愛すると、『自分のことを嫌いになる』気がするんだよ」

 

「……?」

 

「何て言うのかな、人はさ、自分のことを愛したい生き物じゃん?でもさ、自分の嫌なとこって自分が一番よく知ってるわけで……。自分をいかに愛せるか?が人生の明暗を分けるみたいなところ、あるだろ?」

 

「まあ……そうね。それは理解できるわ」

 

「な?その時にさ、自分のことを◯◯できるから愛してるって理由付けするとさ、その◯◯を守るために必死になるわけだろ?容姿なら容姿、金持ちなら金持ち……。でも、ある日突然、その自分を愛せる理由を失ったら、どうなる?」

 

「……………………」

 

「事故だのなんだのにあって、顔に酷い傷がついた。詐欺にあってお金がすってんてんになった。その時の自分を、果たして愛することができるだろうか?」

 

「……………………」

 

「だから俺は、理由付けしない方がいいって思うんだよな。たとえ何もなかったとしても、俺は俺を愛せるって。そうなるとさ、他人のことも理由付けしないで愛せる気がするんだよ」

 

「でも……でもそんなの、理想論じゃない。何もなくても愛せる方が、そりゃいいに決まってるわ。でも現実問題、そんなわけにはいかない。たとえば、私のことをあなたは愛せるの?あなたと、あなたの大切な人たちにたくさん酷いことをした、この私を」

 

「……………………」

 

「ほらね、理由付けしないなんて、無理な話なのよ。どうやったって、損得勘定が頭をよぎってしまう」

 

「……………………」

 

「だから、いいの。アキラ……あなたは私のこと、目一杯恨んで?そうじゃないと……私……」

 

……アキラは、いつになく真剣な眼差しで私を観ていた。私は……なんとなく、その眼が怖かった。何か酷いことを言われると、そう思ったわけじゃない。ただ……

 

ただ………………

 

 

ドガンッ!!!

 

 

「!?」

 

突然、私たちの部屋の扉が、激しい音を立てて開かれた。直ぐ様そちらの方へ振り向くと、そこに立っていたのは……銃を持った女と、いやに目付きの悪い、明と同年代くらいの男だった。

 

「明くん!」

 

「明!」

 

「城谷さん!?圭!?なんでここに!」

 

アキラが驚愕の声を上げていた。城谷と圭……それぞれこの二人の名のようね。

 

「細かい話は後だ!よお湯水、ようやく会えたなこの野郎!」

 

「湯水 舞!両手を上げて手を頭の後ろで組みなさい!」

 

城谷が私へ銃口を向けた。ふん、なるほどね。

 

「大方、私服警官ってところかしら?日本の警察官が、未成年を撃てるわけないわ。そんな脅し、私に通用するとでも?」

 

「なら、試してみる?」

 

城谷の額から、汗が溢れているのが見える。

 

……開かれた扉の奥から、熱い真夏の風が吹き抜けてきた。

 

 

 

 

 

 


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