【完結】生意気な義妹がいじめで引きこもりになったので優しくしたら激甘ブラコン化した話   作:崖の上のジェントルメン

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76.慟哭

 

 

 

 

 

(……なるほど、それなりには覚悟しているようね)

 

私は、城谷の眼に宿る火を見て、そのことを確信した。致命傷にはならないように、私を撃つ。そういう覚悟をしている眼。

 

(しかし……この二人、一体どうやってこの場所を……?誰かが裏切った……?)

 

私の手下たちの誰かが、この場所を告げ口した……。そこまでは分かる。だが問題は、“誰が”ここを明かしたかだ。

 

(ちっ、“しつけ”が足りなかったみたいね……)

 

顔の分からない裏切り者に毒づきながら、私は城谷へ言った。

 

「ねえ、取引しましょうよ」

 

「いいえ、あなたの言葉は聞かない。さ、早く手を頭の後ろへ!」

 

「……………………」

 

「早く!言う通りにしなさい!」

 

「てめえが囲ってた男どもは、もう俺たちが片付けたぜ。助けは来ねえんだ、諦めな」

 

城谷と圭の刺すような視線を、私は真正面から受け止めた。

 

私はニッと口角を上げ、肩を震わせて笑った。

 

「なにをしてるの湯水!言う通りにしないと……」

 

「わかった、わかったわよ。言う通りにする……」

 

私は両手を上げて、頭の後ろで組んだ。そして、床へとうつぶせに寝た。城谷は私に銃を向けたまま、私に手錠をかけた。城谷はほっと、安堵のため息をついた。

 

「明くん……」

 

「明!待ってろよ!今縄をほどいてやる!」

 

二人が彼を縛っている縄すべてをほどいた。腕と足首には、凄まじいほどに跡がくっきりと残った。圭は「くそったれが……!」と毒づいて、眉間にしわをよせていた。

 

明に残った拘束の跡……。それを観るだけで、私はゾクゾクと興奮していた。それは、私が彼を支配していた証拠。その跡こそが、私が彼のことを想っていた証。

 

「……………………」

 

アキラはじっと、自由になった自分の手足を見つめていた。

 

「明くん、もう大丈夫よ。みんなが……」

 

そうして明に語りかけている隙だらけの城谷を、私は背後から襲った。

 

うつぶせにしていた状態から音を消して立ち上がり、両手を前に付き出して、手錠によってできた手とチェーンの輪っかを、城谷の頭にくぐらせた。そして、ぐっと自分の方に手を引くと、チェーンがちょうど城谷の首にかかった。

 

「うっ!」

 

突然のことに狼狽えた城谷は、思わず拳銃をベッドに落とした。それは、ちょうどアキラの手元辺りだった。

 

ぐうっと首を締め上げていくと、城谷の顔が青くなっていく。

 

「湯水!」

 

「てめえ!まだ懲りねえのか!」

 

アキラと圭の叫ぶ声がする。

 

「アキラ!さあ!早く!」

 

私は彼に向かって怒鳴った。

 

 

 

「その拳銃で、早く私を撃ち殺してよ!!」

 

 

 

「……………………!!」

 

アキラの顔が強張った。そして、自分の手元にある拳銃に眼をやった。

 

「さあ!ほら!さっさとしないと、この女を殺すわよ!」

 

「ゆ、湯水…………」

 

「あ、明くん……!だ、だめ、よ!湯水の言う通りにしちゃ、だめ……!」

 

城谷の耳障りな言葉を黙らせるために、チェーンで締める強さをさらに上げる。

 

「くうっ!!」

 

「城谷さん!」

 

「さあなにしてるの!?アキラ、あなたのせいで人が一人死ぬかも知れないのよ!?それでもこの私を殺せないの!?」

 

「ぐっ!」

 

アキラは、眼を大きく見開いて、私のことを黙って見つめていた。

 

「銃を貸せ!明!」

 

その時、圭がアキラの代わりに銃を手にした。

 

「圭!何をする気だ!?」

 

「お前が撃たねえなら、俺が代わりに撃つ!」

 

「バカ!止めろ圭!」

 

「心配すんな!急所は狙わねえよ!」

 

圭がこちらへ銃口を向けるが、すかさず城谷を私の前に向かせて、盾にした。

 

「ちっ!湯水!てめえ卑怯だぞ!」

 

「間抜けな男ねえ!そのためにこの女を捕まえてたことがわからないの!?」

 

「くっ……これじゃ撃てねえ……」

 

「私はね!アキラ以外に殺される気は更々ないのよ!さあアキラ!早く銃を受け取って!アキラに銃が渡ったら!私もこの女を解放して、すぐに死んであげるから!」

 

「……………………」

 

「ほら早く殺して!殺してよ!アキラ!アキラ!アキラーーー!!」

 

「……………………」

 

……アキラの眼差しには、本当にいろんな感情が混ざっていた。怒りや恐怖も当然あるけど、やはり寂しそうな……不思議な憐れみを含んでいた。

 

「……圭」

 

「な、なんだ?アキラ」

 

「銃を貸してくれ」

 

「なに?」

 

「頼む、貸してくれ」

 

「お前、変な気を起こすなよ。ここで湯水を殺したら……」

 

「大丈夫だ、圭。信じてくれ……」

 

「……………………」

 

圭はしばらく迷っていたが、最後にはアキラへと銃を手渡した。

 

「……湯水」

 

アキラは真っ直ぐに私を見つめ、額に冷や汗をかきながら、銃口を自分の頭につけた。

 

「!?な、なにしてるのよアキラ……!?」

 

「城谷さんを離せ。でないと、俺の頭を撃つ」

 

「あ、明くん……!?なにを……言って……」

 

「明!?何考えてんだよ!?」

 

城谷や圭がアキラに向かって叫ぶけれど、当の本人は私から視線を全く逸らさずにいた。

 

「ま、まさか、冗談よね?アキラ。この女のために死ぬなんて……」

 

「湯水、俺はいつだって本当のことを口にする。それは、お前が一番よく知ってるだろ?」

 

「……………………」

 

頭では、もちろんこれはアキラの駆け引きだってことは分かってる。でも、それ以上に……アキラの頭に銃が向けられているということが、たまらなく怖かった。

 

(ダ、ダメよアキラ……。止めて、やだ、何してるのよ……)

 

アキラが死ぬなんてことは、絶対にあってはならない。

 

もしそんなことが起きたら、私はもうどうしていいか分からない。

 

「……………………」

 

じっとりと不安にかられて、心臓の脈打つ速度が早くなる。

 

アキラは眼をぎゅっと閉じて、引き金に手をかけた。その瞬間、私は堪らずに叫んだ。

 

「嫌!止めて!!死なないでアキラ!!」

 

そのアキラに気を取られた一瞬が、命取りだった。

 

「くっ……!ふっ!」

 

その時、城谷が突然動き出した。私に首を絞められたまま、後ろへと勢いよくバックし始めたのだ。

 

そのまま押された私は、壁に思い切り頭と背中を打ち付けた。

 

「ぐっ!」

 

その衝撃によって緩んだ私の腕から、城谷は直ぐ様抜け出した。私はその場に尻餅をつき、城谷から見下ろされていた。

 

「はあ……はあ……」

 

「城谷さん、大丈夫ですか!?」

 

「ええ、気にしないで明くん。このくらい……大したことない」

 

(くそっ……!城谷はさすがに警察官なだけあって、私よりも体力がある……。格闘では敵わない……)

 

城谷は圭から拳銃を受け取り、再度私へと銃口を向けた。けほけほと軽く咳をしつつ、「さあ湯水」と、そう声をかけた。

 

「もう観念しなさい。そろそろ、私たちの援軍も到着する時間よ」

 

「……………………」

 

……ふと、城谷が入ってきた廊下の方へ眼をやった。数人の男たちが、その場で気絶していて、床に倒れていた。その中には、本来そこにいるはずの立花の姿がない。大方、どこかにか逃げ出したのだろう。あんなに私のことに執着していたくせに、いざとなったら逃げ出す程度の想いでしかなかったのね。

 

そして、窓の外から赤と青の光が廊下の中にちらちらと入っている。間違いなく、パトカーがそこにいる。

 

そう……もう、手詰まりってことね。案外と呆気ないものだわ。

 

「さあ湯水、立って」

 

城谷に催促されて、私はゆっくりと立ち上がった。

 

横目でちらりと、アキラを見る。ふふふ、あなたともこれで……お別れみたいね。

 

きっとたぶん、一生あなたには近づけないんでしょうね。これだけのことをやったんだもん、誓約書なりなんなりを結ばれて、一生会えないようにされる……。話すことも、一目見ることさえもできない。

 

「……城谷さん」

 

アキラが彼女に声をかけた。城谷は「なに?」と言って返していると、私の目の前に、服が差し出された。

 

「湯水に……服を着せてやってもいいですか?」

 

「服を?」

 

「こんな格好じゃ……さすがに良くないと思って……」

 

…………アキラは眉をひそめて、私のことを見つめている。

 

「……そうね、じゃあ……着せてあげましょうか」

 

城谷も別にそこは否定する理由がなかったため、私に服を着せることを承諾した。

 

その時、圭が床に脱ぎ捨ててある服を指差して、アキラへ告げる。

 

「まあまず、お前から着ろよ。“息子”をさらしてるのも気恥ずかしいだろ」

 

そう言われて、アキラは城谷さんをちらりと見やった。そして、少し顔を赤らめて「なんか……すみません」とそう呟いた。

 

「いいえ、大丈夫。私は……うん、大丈夫だから」

 

城谷は城谷で、ちょっと恥ずかしそうに笑っていた。

 

「城谷さんも、圭も……助けに来てくれて、ありがとう」

 

「バカ野郎、水臭いこと言うなや」

 

「外でみんなが待ってるよ。さ、準備して行こう?」

 

「……はい」

 

アキラはぺこっと少しだけ頭を下げ、そそくさと服を着た。彼の素肌が服に隠れていくにつれて、私は……どんどん寂しさが増していった。

 

「さて、待たせたな」

 

全ての服を着終えたアキラから、私はパンツをゆっくり履かされていた。

 

「ほら、湯水。右足を上げてくれ」

 

「こう?」

 

「ん……OK。次は左足だ」

 

「……なんだか、恥ずかしいわね」

 

「今さら何を言ってるんだよ」

 

「ふふふ、それもそうね」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

パンツを履き、スカートも着終えた後は、上半身。まずアキラは、城谷へひとつお願いをした。

 

「あの……一瞬だけ、手錠を外してもいいですか?服を着せられないので……」

 

「明くん……!それはさすがに……」

 

「大丈夫、湯水は自分の置かれてる状況を理解しています」

 

「しかし……」

 

「お願いします、城谷さん」

 

「……………………」

 

城谷は渋々ながらも、私の手錠を外した。左腕のすぐ横に、銃口が突きつけられる。それから私の後ろにも、圭が腕を組んで立っている。

 

……見られたくなかったな、私の身体。アキラ以外に……見せたくなかった。

 

「さあ、湯水。まずはブラジャーからだ」

 

アキラは丁寧に、私にブラジャーを着せていく。背中のホックも手慣れたもので、案外あっさりと着終えた。

 

「慣れてるのね」

 

「……美結のブラを、つけてあげたことが何回かあるからな」

 

「……そう」

 

彼は黙々と、私の白いシャツを着せていく。前のボタンを止めていく時に、私は彼へ言ってみた。

 

「ねえ、アキラ。キスしてよ」

 

「……………………」

 

「もう私、きっとあなたには会えないと思うから、ほら、最後に一回だけでいいから……」

 

「……………………」

 

アキラはシャツのボタンを全部止め終わると、顔を上げて、私のことを見つめた。

 

「……ごめんな、湯水」

 

……彼のくれた答えは、凍てつくほどに残酷で……苦しいくらいに、優しかった。

 

「…………ふふ、ふふふ」

 

気がつくと、私は笑っていた。笑いながら、泣いていた。

 

ぴくぴくと涙袋が痙攣して、口角を上げたまま、ぼろぼろと涙は溢れ出た。

 

「……………………」

 

アキラは、私に向かって手を伸ばした。伸ばして……それからは、何もしなかった。ただその場で止まった。そしてしばらくしてから、その手はまた引っ込められた。

 

「……イヤ」

 

私は、私は…………

 

「イヤ、イヤよ」

 

火山が噴火してしまうように……爆弾が引火してしまうように……心の内のぐちゃぐちゃな想いが、破裂した。

 

 

「イヤイヤイヤ!!アキラと離れたくない!!そばにいたい!!そばにいたい!!」

 

 

……大粒の涙が、床にこぼれ落ちる。今までの人生で押さえ込んできた、塞き止めてきたものが、一気にここで決壊したような、そんな涙……。

 

「けっ、五歳児かよ……」

 

後ろにいる圭の冷たい呟きが、耳に届いた。正直、私も私を醜いと思っている。駄々こねる子どもに等しい……無様な泣き顔だって。

 

「好き!!好きなの!!私!!私!!大好きなの!!アキラが大好きなの!!」

 

「……………………」

 

「一緒にいさせてよ!!あなたのそばにいさせてよ!!あなたともっと話したいのよ!!あなたの肌に触れたいのよ!!」

 

でも、無様とわかっていながら、止められない。想いが胸の中からどんどん溢れてきて、止まることを知らない。

 

身を切り裂かれるような悲しみに、私はもうなす術がなかった。こんなにも自分が小さな人間だなんて、思い出したくなかった。

 

「湯水……」

 

滲んだ視界の先に、ぼんやりとアキラの姿が見える。ああ……もっと鮮明にあなたを見たいのに……。最後にもう一度、あなたの優しい眼差しを受けたいのに。

 

 

「アキラ!!アキラ!!アキラーーー!!」

 

 

 

……私の慟哭に、喉が焼かれた。

 

ああ……アキラ。

無様な私でごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

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