【完結】生意気な義妹がいじめで引きこもりになったので優しくしたら激甘ブラコン化した話   作:崖の上のジェントルメン

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80.幸せな毎日

 

 

 

 

 

 

……それからの俺たちは、びっくりするほど平穏な日々を送った。

 

「ただいまー、美結」

 

「お兄ちゃんお帰りー」

 

誰のことも気にする必要がなく、毎日が無事でいられることに幸せを感じた。家に帰れば美結が待っていてくれて、俺を出迎えてくれる。手垢のついた表現だが、当たり前の日常がかけがえのない幸せの風景だった。

 

いよいよ夏休みも終わり、二学期が始まった頃から、俺は進路を決めるよう先生から言われた。

 

「俺は……児童相談所の職員になりたいです」

 

先生との二者面談で、そう答えた。

 

児童相談所職員になりたい理由は、二つある。ひとつは当然、虐待だったりいじめだったり、理不尽で残酷な目に遭ってしまった子どもたちを、微力でも良いから支えになりたいからだ。

 

そしてもうひとつは、児童相談所が地方公務員だからだ。

 

地方公務員には高卒枠と大卒枠があり、俺が高校卒業してすぐに就職することが可能だ。そうすれば、結喜ちゃんを引き取る時期が早まる。そして働きながら通える大学に通い、心理学を学ぶ。資格がなくとも児童相談所職員にはなれるらしいが、資格があるとよりいいだろう。卒業してから大卒枠に切り替えることもできる。

 

それに何より、地方公務員ならば転勤がそこまで遠方にならない。採用されるのは県や市町なので、転勤があるとしてもあくまでその中だけだ。それなら、美結と結喜ちゃんのそばにいつもいられる。単身赴任で寂しい想いをさせることもない。

 

美結や柊さん、そして城谷さんに相談しながら決めた。これが今のところ、最善だと思う。

 

「じゃあ……一年浪人しなきゃね」

 

「え?」

 

城谷さんのその一言で、俺の平穏な日々はあっさり終わった。

 

なんと地方公務員は、9月に試験があるのだ。夏休み明けで、1ミリも勉強していない俺にはもう完全に無理だ。ユニフォームを着る前に試合終了していた。

 

「ろ、浪人ってことは……父さんから一年分の家賃を、また援助してもらわなきゃいけないってことか……?」

 

正社員として働くのが一年遅れるということは、そういうことだ。

 

俺は美結と共に、もう帰ることもないだろうと思われていた実家に行った。

 

そこで、むちゃくちゃ恥ずかしい想いをしながら、父さんに事情を洗いざらい話し、土下座した。

 

「ごめん!めちゃくちゃ自分勝手なんだけど……!あと一年だけ、家賃の援助をしてほしい!すんげーダサいことしてるのは分かってるんだけど……どうしてもそこに勤めたいんだ!」

 

「明……」

 

「借りた金は必ず返す!だから……」

 

父さんは最初びっくりしていたけど、「頭を上げなさい明」と言って、こう語った。

 

「美喜子さんの子ども……結喜ちゃんだったか?あの子をお前たちが引き取るんだろう?なら、そのための養育費もいる。家賃と一緒に、それも援助しよう」

 

「……!」

 

「心配するな。ほら……結喜ちゃんの実父の蛭田から、不倫の慰謝料を貰っているからな。それをお前たちに渡すだけだ。そこまで俺の懐は痛まないよ」

 

「……父さん」

 

「大人になったな、明。ここにはさぞ来にくかったろう。お前は意外と頑固だからな、一度家を出てたとなれば、俺から援助を受けるなんて、本当はしたくなかったはずだ。だけど……美結ちゃんや結喜ちゃんのために、恥ずかしい想いをしてでも俺へ頭を下げに来たのは、立派だよ」

 

「……………………」

 

「なに、俺へ頭を下げる必要なんかないさ。美結ちゃんたちを、大事にしてくれ。俺にはできなかったことだからな……」

 

そう言って、父さんは苦々しく笑った。

 

 

 

 

 

 

……それからの俺は、毎日勉強漬けの日を送ることになった。

 

公務員試験の出題範囲は、一般企業の就職試験で出される一般常識を問う試験よりも、数段レベルが高い。

 

「ちくしょー!中国の歴史とか知るかっつーの!分かるかこんなもん!」

 

愚痴を垂れまくりながら、手にペンタコを作る勢いで勉強をし続けた。過去問を解いては、間違ったところを何回も勉強し直した。

 

「お兄ちゃん、夜食におにぎりを握ったけど、食べる?」

 

「いるーーー!いるいる!おくれー!」

 

美結にいろいろと支えられながら、俺は死に物狂いで勉強した。今まで湯水とのことに気を取られすぎて、全然勉強してこなかったツケがここに来て払われることになった。

 

「遊んでたわけじゃねーのになー……。世知辛い世の中だよ」

 

「大丈夫だよお兄ちゃんなら!試験が終わったら、いっぱい遊ぼう?旅行とか行ったりしてみたいな」

 

「旅行いいな!じゃあ美結、行きたいところをピックアップしててくれ!それを頑張る糧にする!」

 

「ふふふ、うん!」

 

そうさ、自分たちのために勉強できるってことは、きっと幸せなことなんだろう。

 

今まで、美喜子さんから逃げるためだったり、湯水から身を守るためだったり、ずーっと何かと戦っているような毎日だった。自分のしたいことを叶えるために勉強をすることはできなかった。

 

それが今、ようやく……自分達の幸せのために、前を向けるようになった。それだけで十分かも知れない。

 

「よし!ご馳走様!ありがとな美結!また勉強始めるよ!」

 

「うん!」

 

俺は美結からもらったおにぎりを平らげて、また勉強机に向かった。

 

「えーと、ソクラテス、アリストテレス、アレクサンドロス……。んがーーーー!なーんでこの辺の時代の人間はどいつもこいつも名前似てるんだよーーー!流行りか!?流行りなのか!?このミーハーどもめ!」

 

分かるかこんなもーん!と、俺の絶叫が響く。その後ろで、美結が「お兄ちゃんがんばれー!」と叫ぶ。

 

そんな幸せな毎日の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

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