卑屈で重たい少女とお人好しで重たい幼馴染 作:あわ
私なんかが、いいのかな。
また笑われたり、しないかな。
なんでお前がって、責められたりしないかな。
ああ、鬱屈とした思考が終わらない。
自分の性格が大概面倒臭いことは、重々承知している……筈だ。
だけれど、分かっているのだけれど、辞められない。
なんで私が。
まただ。結論を出そうとすると如何して、何処からか止め処なく思考が濁流してきて、一向に纏まらない。
自責の念、とは少し違う気がする。何方かと言えば、自己憐憫だとか言うくそ面倒臭い、それでいて一才面白くないものに駆られていて、自分の境遇を苛み、何て哀れだと同情し、いっそのこと、消えてなくなってしまいたいと願う。願うだけ。
最初はそれだけだったのに、何度もそんな事を思う内に段々と拗らせてしまって、とうとう、『いっその事、本当に死んでやろうか』と開き直ってしまい、とり返しのつかないくらいそう強く思うようになってしまった。これも多分、自己憐憫とか言うやつだ。次第にタガが外れてしまって、軽率に自分を痛めつけるようになった。
周りに迷惑だと言うのは分かっている
今だってそうだ。苦痛を快楽だと信じている。
例えば、目の前にあるお
これで首を吊ったら、それだけの苦痛が?そして一体――どれだけの快楽が?
それでも辞められないのは、如何しようも無い私と言う人間の
……なんて、嘘。感情を理屈で説明しようとするから、こうも変に堂々巡りになるんだ。
……緊張と不安、結局の所、全部屁理屈だ。本当に死ぬ気は……あるにはあるけれど、そんなちっぽけな事なんか、吹き飛んでしまうくらいに―――
『大丈夫!わたしにまかせて!』
未練がましいと言おうか、執着と言おうか。
最期の一歩を踏み出そうとする時、いつも貴女の顔がチラついてしまって。
「ほら、私の手を掴んで!」
結局貴女に、すくわれてしまうんだ。
貴女はいつも、私の手を取ってくる。
「私たちはずっと一緒だって、約束したじゃない!」
あまりの眩しさにチカチカして、くらっと来てしまうけれど。
その明るさに照らされて生きている。
「だって――ッ」
貴女はずっと、私の光だ。
「――私が貴女と一緒に居たいから!」
……なんて思ってしまうのは、多分、ズルいのだろうな。
/
勇者の剣が抜けた。
他ならぬ、私の友人の手によって。
私の目の前で。
この友人と言うのは、昔から何でもできた。
いや、流石になんでも出来たは言い過ぎかもしれない。彼女にだって苦手分野があるのかもしれない。だけど少なくとも、私は彼女に出来ない事なんかある訳ないと確信していて、彼女も私に応えて……と言うのは自意識過剰だろうけど、私の無茶振りにも愚痴こぼす事なく見せてくれた。私はそれに魅せられていた。これには本当に反省しているし、申し訳なく思っている。いくら温厚だからと言って、金魚のフンみたいに毎日ついて来られて、無茶振りをされては随分煙たく、うざったく感じていた事だろう。そう、私は彼女の金魚のフンだった。
彼女、ミトアとの付き合いは、今私が16歳だから、かれこれ12年程になる。きっかけは、残念なことに覚えていない。多分、彼女の方から何かしらのキッカケを作ってくれたのだろう。やけに自分本位の言い方になってしまったけれど、手放しでそう言えるくらい、それ程までに彼女は明るくて、人格者なのだ。今も、昔も。
村という閉鎖的な空間の中、その頃から私たちは家が近所であったこともあり、いつも気が付けばなんとなく二人だった。
私は内気で、卑屈で、どうしようもないくらい人と関わるのが苦手で、その度に彼女が助けてくれて。いつしか私はそれを当たり前のように享受するようになって。そうなってしまったら、もうダメ。卑しい金魚のフンの出来上がり。それが今の私。
勿論、そのことを揶揄されることも少なくなかった。いくら厚顔無恥であれど、流石に彼女に引け目を感じることもあった。
だけどその度に、まるで御伽噺の
……以下、同じ。
兎に角、私は彼女なしで生きることなんて考えられなくなって、より一層彼女から離れ難くなって。
……勝手に重たい女になってしまって、迷惑。
接続詞は忘れて、ある日。
この日ばかりは、何時もの村ではなかった。
何というか、得体の知れない恐怖と、不安と、虚弱。そして張り詰めたような緊張。
そんな不気味な雰囲気が村全体を覆い被していた。
大人たちに聞いても閉口するばかりだったけれど、断片的に聞こえてきた噂を耳にするに―――どうやら都で魔物に人が襲われたらしい。
それを聞いて思わず、ああ、と大人たちが閉口した理由がなんとなく察せられた。
だけど同時に、どうしても信じることができなかった。
魔物。それは厄災の獣。ひとたびその鋭利な牙を振るえば大地が裂け、その咆哮は空をも揺るがす。それは到底徒人が敵うようなものではなく、ただ天をも穿つまでのその救世を希え……と御伽噺には書いているが、まあ、流石に誇張はしているのだろう。こういう寓話の類は全くの事実を後世に伝えるのではなく、危機感を伝えるためのものなのだと……本からの受け売りだ。
そもそも、誇張でないのならば、今頃都は壊滅的な筈だ。けれどそう言った話は入ってきていない。……都は既に壊滅、全滅で、それを伝える者が居ないと言うならば話は別だけれど……流石にそれは無かった。
この時の私にはまったく、危機感というものが足りていなかった。魔物と言う異常事態を漠然と不安に思っていながらも、その実、やはり何処か現実が見れていなかった。
きっと物語みたいに英雄が颯爽と現れて、片手間で片付けてしまうのだと。
そんな甘ったれた未来を夢みていた。
……と、悲劇のヒロインぶれば良いのだろうか。よく分からない。
それから間も無くだった。街とか都とか、そういう単位の話ではなく、国、しかも連立でこの辺鄙な村までお達しが来たのだ。
要約して、曰く、“魔族倒すために必要な選定の儀をするから
愈々らしくなって来たなと馬鹿みたいなことを考えていた。当然だ。私なんかがその……選定の儀?に参加したって、選ばれるわけないからだ。
これは捻くれてる云々の話ではなく、当たり前の話だ。
この選定の儀で勇者の剣に選ばれる基準は、どうやら、勇者の中にだけある『勇者の因子』によるものらしい。
それは正しくご都合主義、あり得ないと言いたくなる様なもので、しかもその『勇者の因子』はその者の素質だとかは一切関係なく、本当に只々『運』によって決まるらしい。らしい、というのはこれが未だ推測の域を出ない───その癖して、そうであると断言せざるを得ないものだからだ。これについて語れば長くなるので、割愛する。
兎も角、数千万といる国民の中から
精々将来の昔話の種になるくらいに考える方が、健全とは言えないかもだけれど、全然現実的だと思う。そもそも、選定の儀に選ばれたからって良いことなんて一つもないじゃないか。どんな人であれ、態々自分の命を賭してまで平穏を求めようだなんて、そうそう起きない気だ。もしそんな事を常考えている人がいるならば、そいつは夢見がちな妄想癖か只の馬鹿だ。言い方はアレだったかもしれないが、そもそれは誰もが察する事だ。
もし選定の儀に選ばれてしまったら、その人は好き好む訳でもなく強制的に狂人の真似事をさせられるのだ。
そんなの、耐え難いで表せて良いものじゃない。
……まあどうせ、選ばれないから、他人事だけど。
彼女もそんな風に考えていて。
その日は二人で、選定の儀が取りなされる都に行ったら何をするかを話していた。
話していたのに。
/
「「ぁ」」
呆気なく、抜けた。
嘘だ。
「リ、リト……ど、どうしよ……」
彼女は剣を持ったまま、震わせたその翡翠の瞳で私のことを見てきて。
───目の前が真っ白に染まる。
「嘘だ」「あり得ない」「何故」「夢!」「黙れ」「妄想」「幻覚」「化け物」「勇者」「狂人?」「暗澹」「でも彼女は」「渇感」「焦燥」「殺意」「憐憫」「憎悪」「絶望」「陰鬱」「晏然」「虚脱」「喪失」「陰湿」
「死か!」
───ああ、それは止め処無い思考の濁流だ!
渇感が、焦燥が、ただ私を暗がりに追いやる。
思考は木偶の坊と化し、混乱は狂気という名の絶望に打ちひしがれた!
頬を伝う冷や汗が私に
───ヤメて、そんな目で私を見ないで。
何もしない。
私は関係ない。
───ああそれは、くだらない自己保身だった。
私は、瞬く間に人波に襲われる彼女をただ茫然と眺めるだけで。
───動けよこの木偶の坊!
心の中では絶えず私を奮い立たせるような叱責で溢れている。
その癖して、動き出そうとする足は!
───一体何方を向いているのか?
ただ己の足を見ろ。
それはどちらを向いている?
それは何処へと走り出す?
ただ己を見ろ。
自分は何処へ行きたいのか?
───私は彼女の居る所へ向かわなくてはいけない。
そうだ。
私は。
私は───、駆け出して───、
彼女の───!
───彼女の?
「あれ?」
気がついた時には既に、私は逃げ出していた。
震える足は逃げる為?
ただ天をも穿つ救世を希え。
はっ、馬鹿らしい。
ああ
私はどうしようもない屑だった。
話の後半になるにつれて勢いが尻窄みになるのが目下の課題
続かない