ギターヒーローを探して。 作:二期まだ?
うわっ、うめえ。
虹夏ちゃんが再生してくれた動画に聴き入る。かき鳴らす弦が心も揺らす。目がストロークに釘付けになる。
やっぱギターヒーローはんぱねえ。元の身体の俺と比べても数段上手い。これが女子高生って、まじかよ。
「うっわ〜、今回の動画もすごい! ねっ、ギターヒーローさん最高に上手いよね!」
「うん、すごく上手かった」
虹夏ちゃんだけじゃない。心なしか山田の声も弾んでいる。誰の心をも掴む、有無をも言わせぬ魅力がその演奏にはあった。
単純なテクだけじゃない。そう、まるで演奏者の感情が伝わってくるような……待てよ。なんだ、この違和感は?
「よーし、私たちもライブ頑張ろう! そういえば、ライブでなんて紹介すればいいかな?」
「……えっ!? えぇ〜っとぉっ〜!」
不意の虹夏ちゃんの問いかけに焦りまくる。そういや俺、まだ自分の名前もわかんないじゃん。どどどどうしよう、何も考えてねえぞ!
「あだ名とかでもいいよ?」
「えっと、じゃあ、ぼっ……いや!」
ぼっちちゃん、と言いかけて慌ててやめる。それじゃ本物のぼっちちゃんが来た時に困るじゃねえか。えーっと、他になんかないのか。なんかそれっぽいあだ名。やばいやばい、何でもいい早く言わないと!
「ごっ、ごっちです!!!」
「…………へ?」
うーわっ、やらかした。あらゆる意味で一番ダメな方向じゃねえかそれ!
すみません、今の無しで。消して下さい。リライトして下さい。
「あっ、もっち! もっちでお願いします……」
穴があったら入りたい。
あっ、ライブは完熟マンゴーの段ボールに入ってやるので。そこんとこよろしくでーす。
□
「はじめまして! 結束バンドでーす!」
元気な虹夏ちゃんのMCを聞き流しながら、段ボールの隙間から客席を眺める。
「ピンクジャージ、ピンク髪。ピンクジャージ、ピンク髪。……ちっ、やっぱいねえか」
ワンチャン観客にぼっちちゃんが紛れてたりしないかと思ったが、そんなこともないらしい。まあさっき動画上げてたしな。普通に考えて家だろうか。きっと今は下北周辺にはいないんだろう、さっきその辺では見つからなかったし。
「ったく、何やってんだよ……」
今日は記念すべき結束バンドの初ライブで、そこにお前がいなきゃダメじゃねえか。
仕方がないから今日は俺が代打をするけどよ。これはあくまで代打だ。ここは本来、俺なんかがいるべき場所じゃない。
こうして段ボールを被っているのだって、ちゃんと考えあってのことだ。こんな段ボール越しじゃ、中身が誰かなんてわからないだろ? それでいい。次回のライブまでに後藤ひとりを見つけて入れ替われば、万事元通りってスンポーだ。
「今日はみんなも知ってる曲を何曲かやるので、聞いてください!」
そして、ライブが始まる。
ドラムが鳴り出せば、頭は音でいっぱいになる。段ボールの中でも問題ない。姿は見えなくても、言葉はなくても、音があれば俺たちは繋がれる。
リズムに乗って、大胆にギターをかき鳴らす。
――この2人、面白い!
技術的にはまだ甘さもある。山田は浸りすぎだし、虹夏ちゃんは安定感が足りない。
でも……でも!
理屈じゃない。感情が音に乗って伝わってくる。楽しい、楽しい、楽しい!
もっとだ、もっとこの2人と――。
……もっと、なんだ?
…………いま俺は、何を考えていた?
「あっりがとうございましたー!」
最後の挨拶で締める虹夏ちゃんの声を、俺は呆然と聞いていた。
ふと、思い当たった。
ギターヒーローの動画を見て、抱いた違和感の正体。
あの演奏は……とても、楽しそうだったんだ。
孤独なヒーローらしからぬ……ひどく、楽しそうな演奏だったんだ。
□
「よーし、もっちちゃん歓迎会兼反省会するぞー!」
ライブが終わると、虹夏ちゃんは元気にそう宣言した。
ただまあ、周りがそれに乗るかはまた別の問題で。
「ごめん、眠い」
「ええっ!?」
マイペースな山田の反応も、今回はありがたい。これ以上深入りする前に、俺も流れに乗ってさっさと退散しよう。
「すみません、俺も今日はもう帰り……」
帰ります、と言いかけて気がついた。
……あれ、俺家どこだ?
「えっ、もう帰るの? もっちちゃん、家遠いとか?」
くっ、虹夏ちゃんの無邪気さが今は憎い……!
慌てた俺は、思わず妙なことを口走った。
「えーっと、ちょっと今、家はなくてー……」
「家はなくて!?」
「えと、じゃなくて……」
「もしかして……家出中、とか?」
山田がハッとしたように呟く。おっそれそれ、それでいこう! ナイスー!
「そ、そんなような感じです」
「あー、親と喧嘩したとか? でもさー、事情もわからずこんなこと言うのもあれだけどさー、親とは出来るだけ仲良くしておいた方が良いよー?」
虹夏ちゃんが少し悲しそうな表情でそんなことを言うものだから、俺は慌てに慌て、さらに言わない方がいいことまで口走ってしまった。
「あっ、いや親もいなくてー……いや、そういうことじゃなくて!」
「……もっちちゃん、今まで苦労してきたんだね」
あっ、これあかんやつや。虹夏ちゃんは完全に目を潤ませてるし。こっちの言葉の後半も耳に入ってないし、今さら訂正とか出来そうもない雰囲気だ。なんか複雑な家庭環境とかがある感じになってしまっている。
「よし、わかった! そういうことなら、もう何も事情は聞かない! いくらでもウチに泊まって行きなよ!」
そして誤解の果てに、虹夏ちゃんはそんなことを言い出した。いやいや、そういう話じゃなくてですね?
……いや、俺にとっては悪い話ではないか? 実際寝る場所はどこかに確保しないといけないわけだし。いやしかし、そこまで迷惑かけるのもなあ。
「いや、そういうわけには……最悪野宿とかもありますし」
「ダメダメ! こんなに可愛い年頃の女の子が野宿なんて! ちょっと待ってて、お姉ちゃんにも話してくるから!」
そう言って、虹夏ちゃんは元気に走り去ってしまった。
……あれ、これ伊知地家お泊まり確定な感じ?