ギターヒーローを探して。 作:二期まだ?
ってなわけで、やってきました秀華高校! ぼっちちゃんの学校!!
校名は覚えてたし、グーグロマップで検索したらすぐに場所もわかった。いやー、便利な世の中だね!
よーっし、今日こそは捕まえてみせるぞ後藤ひとり! 見つけちまえばこっちのもんだ。泣こうが喚こうが溶けようが関係ねえ、ふんじばってでもSTARRYに連行してやる。なに、元々バンドやりたい気持ちはあるんだ。一度連れてっちまえば、あとはどうとでもなるだろう。
で、本当は校内に突撃! といきたいところなのだが、中々そうもいかない。最近の学校はセキュリティ厳しいからなー。部外者が簡単に校内に入ったりできないし、無理やり入ったら通報されかなねない。
そういえば、年齢的には今の俺も高校生くらいなんだよな。制服っぽい服着てたら、怪しまれずに中に入れるんじゃないか? いや、指定と違う制服だとかえって目立つか。ならジャージとか? 後藤が指定でもなんでもなさそうなどピンクジャージで過ごしてるくらいだ。それっぽいジャージをドソキで買ってくれば、割といけるかもしれない。っていうか、なんであいついつも制服着てないんだろう? ま、ものは試しだ。やってみるか。
そういうことになった。
ひとっ走り買ってきたばかりのジャージに袖を通し、校門をくぐる。さすがにどピンクジャージを着る勇気はなかったから、黒いジャージにした。ま、こっちの方が目立たなくて良いだろう。なんかすれ違う生徒たちが、みんなこっちを見てギョッとした顔をする気が……いや、きっと気のせいだ。ぼっちちゃんに比べればましな格好だしな、うん。
……しっかし、校内に入ったはいいが、ぼっちちゃんがどこにいるかわかんねーな。しょうがない、誰かに聞いてみるか。そう思い、通りがかる生徒たちに声をかけていく。
「すみません、後藤ひとりさんはどこにいるか知りませんか? 全身ピンクジャージピンク髪のヤベー奴で、たしかクラスは1年2組だったと思うんですけど」
そんな質問を何人かにしていく。反応はさまざまだが、こちらの期待する答えはなかなか返ってこない。
「後藤? いや、知らないな」
「ピンクジャージの人なんて見たことないけど……それよりあなた、制服はどうしたの?」
「誰お前? てかなんでジャージ?」
大体こんな感じの反応だ。半分予想通り、半分期待外れってとこか。元々ぼっちちゃんに知り合いがいるとは思ってないし、名前が知られてないのはわかってたことだ。でも、ピンクジャージすら見たことがないってのは、一体どういうことだ? あれスゲー目立つし、一度でも見たことがあれば印象に残ると思うんだけど……。まあいいか。とりあえず、1年2組の教室を探してみよう。
「えーっと、にくみにくみー……おっ、ここか」
教室名の書かれたプレートを眺めながらしばらくうろついていると、ついに目的の教室を見つけた。少し開いてる扉の隙間に首を突っ込み、中の様子を伺う。ちょうど休み時間だったらしい。生徒たちは各々好きな場所に集まっていて、誰も座っていない席も多い。
「ピンクジャージ、ピンク髪……ピンクジャージ、ピンク髪……うーん、いねーな」
今は席を外してるのか? まあいい。なら、なめくじのいそうな場所を探しに行こうか。ゴミ箱の中とか、石の裏とか、校舎裏の日陰とかな。いや、戻ってくるのを待った方がはやいか?
「ねえ、誰か探してるの? ロインで呼ぼうか?」
そんなことを考えていると、親切な少女が声をかけてくれた。ぼっちちゃんがロインを交換してるとは思えないが……まあ、聞くだけ聞いてみるか。
「ええ、ちょっと知り合いを。後藤ひとりって言うんですけど、今はいないですかね?」
「えっ?」
俺が後藤の名前を出した途端、少女は怪訝な顔をした。
「後藤さん、だっけ? そんな名前の人、このクラスにはいないよ?」
「……えっ?」
あれ、クラス間違えたか? 表札はしっかり見たつもりなんだが……。
「……1年2組の教室って、ここであってますよね?」
「うん、それはあってるよ。でも、うちのクラスにそんな名前の子はいない。ね、みんな?」
「うん、いないいない」
「佐藤ならいるけどねー」
少女の言葉に、周囲の生徒たちも同調する。嘘を言ったり、勘違いしているわけではなさそうだ。
いやいやいや……あれ? おかしいな。もしかして、2組じゃなかったっけ? そうか、きっと記憶違いだ。1組とか3組とか、別のクラスにいるんだろ。なーんだ、そんなことか。驚かせやがってこんにゃろ。そうとわかれば、はやく全クラスを探しにいかないと!
「ちょっと、そこの君!」
次のクラスに走り出そうとした途端、俺は教師に呼び止められた。
「君、この学校の生徒じゃないでしょ! ダメだよ勝手に入ったら、こんなところで何やってるの!?」
なっ……!? ここの生徒じゃないことがバレてる、だと……!?
「……い、いえ! ここの生徒ですけど、俺!」
「いや、制服着てないし……そんな変なジャージ着ててそれは無理だろ……」
「それは……そうなんですが……」
くっ、なんてこと言いやがるんだこの教師。正論でしかない……!
「……とにかく、職員室に行くぞ。着いて来なさい」
「……はい」
あれー、おっかしいなー……完璧な作戦だと思ったんだけどなー……。
□
「本当なんです、信じてください!」
連れて行かれた職員室で、俺は必死に教師に訴えかけた。
「だから君の話はわかったって。後藤ひとりって知り合いを探しに来たんだろ? でもねー……」
しかし、教師は煮えきらない態度だ。
「じゃあ、どうして信じてくれないんですか!?」
「ちゃんと信じただろ? だから名簿も探してあげた。……でもなぁっ!」
繰り返されるやり取りに、教師の口調が少し荒げる。
「この学校のどこにも――後藤ひとりなんて生徒はいないんだよ!」
そう、今日何度目かの台詞を繰り返す。そんなはずは……そんなはずはないんだ。
「きっとどこか見落としてるんです! もっとよく探してください。絶対に、この学校にいるはずなんです!」
「もう何度も何度も見返しただろ!? 検索もかけた! でも、見つからなかった! もういい加減に認めたらどうだ? なんと言われたのかは知らないが……」
哀れむような目で、教師が俺を見る。
「お前、そいつに騙されたんだよ」
……違うよ、先生。それは違う。
俺はまだ、そいつに会ったこともないんだから。
□
「もう他校に不法侵入すんなよー! 次は通報するからなー!」
そんなことを言いながら、教師は俺を校外に送り出した。
「お、お世話になりましたー……」
少し頭を下げ、のろのろと歩き出す。
わかってる。あの教師は悪くない。むしろ、よく俺なんかの言葉を信じて協力してくれたもんだ。
でも、おかげではっきり理解してしまった。この学校に、後藤ひとりはいない。
「クソっ、どうすりゃいいんだよこれ……」
のろのろと動いていた足が、ひとりでに動きを止める。校門からいくらも離れない内に、俺の身体はしゃがみ込んでしまった。もうどこに行けばいいのかわからない。何をすればいいのかわからない。
ちらほらと通りがかる高校生たちを、ぼんやりと眺める。何人もの生徒が通っていくが、その中にピンク色の影はいない。ギターを背負っている生徒も、学校指定じゃないジャージを着ている奴もいない。
「……どこいったんだよ、ギターヒーロー」
結束バンドには後藤ひとりが必要だ。お前がいなくてどうするんだよ。誰がキレキレのリードギターを、鬼畜難易度のギターソロを弾くんだよ。誰が鬱屈した、でも魅力的な歌詞を書くんだよ。誰が結束バンドの――虹夏ちゃんたちの夢を叶えるんだよ。
そんなことを考えている内に、俺はいつの間にかうつむいてしまっていたらしい。
「ねえ、大丈夫? 具合悪いなら、救急車呼びましょうか?」
下を向き、地面を見ているだけだった頭の上に声がかかる。
「あっ、いや、すみません」
しまった、そんなふうに見えたか。変に心配させては悪い。
「大丈夫なので、お気になさらず……」
慌てて立ちあがろうと顔をあげた俺は、途中で言葉を失った。
「そう? 本当に大丈夫?」
「…………あっ」
揺れる赤髪。陽の気配溢れる笑顔。
結束バンドのギターボーカルになるはずの少女――喜多郁代がそこにいた。