(しくじったな…)
某国某所、その物陰で静かに自身の死を確信している人物がいた。
リコリスとしての指名を果たし、出荷され数年。
自分も例外はなく某国の諜報機関員として奮闘してきたが自分の悪運もここまでのようだ。
左手で腹を探ると止めどなく溢れてくる血を感じる。
「千束…」
腐れ縁の名を呼び思い出すのは延空木事件。
リコリス人生で一番苦い思い出であり、一番鮮烈に覚えている過去であった。
「たきな…」
あの狂犬にはどんだけこちらの胃を破壊されかけたか思い出すだけでも腹立たしい。
あの模擬戦のときに頬をぶん殴られたのを思い出して思わず笑ってしまった。
「サクラ、エリカ、ヒバナ」
今思えばリコリスであった自分はある種の青春を謳歌していたのかもしれないとふと思う。
当時の自分に言ったら全否定されるだろうが。
「居たぞ…」
「……」
声と共に静かに近づいてくる足音。
どうやら走馬灯すら見せてくれないらしい、眼前に銃口を突きつけられ静かに目を閉じる。
リコリコのパフェでも食っておけば良かったなぁ
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
激しい銃撃音に死を確信したフキはいつまで経っても来ない痛みに目を開き状況を確認する。
目の前に写ったのは自分にとどめを刺しに来た敵の姿ではなく床。
ビルのフロアにありがちなタイルの床は埃や瓦礫が転がり廃墟であることは認識したがそれ以上に絶え間なく続く銃声の源はどこだと顔を上げるとそこには機銃掃射するたきなの姿があった。
「なっ!」
装填されていた弾を全て吐き出し沈黙するPKMを担ぎながら生き残りが居ないかと歩き出すたきなに絶句しながらも理解が追い付かない頭をフルに回転させてようやく立ち上がり歩を進める。
「エリカ!」
慌てて駆け出すヒバナを見送りたきなの元へと辿りついたフキは自身の記憶を辿り言葉を出す。
「おまえ、エリカを殺す気か?」
「生きてますよね?」
なにが悪いのか全く理解できないとばかりに首をかしげながら言葉を発するたきなを見て怒りが沸いてきたがそれ以上に自身の現状に対する戸惑いが大きかった。
「…作戦終了だ。ヒバナ、エリカに着いていてやれ」
「う、うん」
「たきな、この件に関してはあとで話し合おう」
「……」
ビルの外を見ると向かい側のビルの屋上にライフルをしまい、撤収するミカの姿を確認する。
間違いない。ここはあの延空木事件の始まり、千丁の銃の取引現場制圧作戦だ。たきなの暴走があったから間違いない。
「……」
自分はこれを既に経験している。
過去に戻ってしまったのか、それともこれは走馬灯なのか。
いや、走馬灯なのだとしたらおかしい点が1つある、それは自分がたきなを殴り飛ばしていないことだ。
走馬灯なら自分の意思とは関係なくたきなを殴り飛ばしていた筈なのに自分はまだ彼女を殴っていない。
「…」
「なんですか?」
念のためにたきなの左頬を確認するが殴られたような痕はない。
「おまえ、私に殴られてないか?」
「本当に何を言ってるんですか?」
頭でもおかしくなったのかと言わんばかりの表情に若干、苛立ちを覚えるが呼吸を整えて落ち着くと持っていたグロック17を鞄にしまい深呼吸をしながら懐かしDA本部の帰路につくのだった。