リコリス・リコイル・リターン   作:ガスト

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第3話

 

 リコリスに戻ってから既に1ヶ月が過ぎようとしたときフキの体は記憶以上に仕上がってきていた。

 

「本当にフキ先輩、化け物っすね」

 

「慣れるんだよ、やってれば」

 

 たきなの後任として来た乙女さくらはいつものように床に倒れながら行きを整えていた。

 改めて見ると乙女サクラは井ノ上たきなと正反対な人物像だ。

 乙女さくらは一見、我が強そうだが命令には従順だし考えも柔らかい。コミュニケーションも積極的に取り、1ヶ月も満たない期間で1年間本部にいた、たきなより交遊関係は広くなっていた。

 

 それにサクラは今後もずっと組んでいく間柄だった。最後には目標であるファーストに昇格していたのだから腕はかなり良い方なのだ。

 

「そう言えばこの前の任務の時に見たんですけど美味しそうなパンケーキの店があったんすよ」

 

「で?」

 

「次の任務帰りに寄ってみたいなって…」

 

 フキの機嫌を伺うように視線を移すサクラに対して彼女は一瞬考えて。

 

「私はベリーソースな」

 

「はい!ウチはもちろんチョコレートソースっすよ!」

 

 以前の自分ならリコリスには必要ないと断っていただろうがそれにサクラを巻き込むのは申し訳ない。

 改めて考えればリコリスはいつ死ぬか分からない身、なら好きなものぐらい食べさせてやってもいいだろう。

 

ーー

 

「ん~♪旨いっす!」

 

「あま…」

 

 三枚ほど重ねられたパンケーキにアイスとベリーソースがこれでもかとかけれたものは明らかに1日のカロリーをオーバーしている。

 

「明らかに太るなぁ」

 

「それは言わない約束っすよ。普通の女子高生じゃないんっすから大丈夫っす!」

 

 まぁ、リコリスの普段の運動量から見れば多少食べ過ぎても大丈夫だろうが。

 ベリーソースとアイスをパンケーキを浸して食べる。

 

「慣れれば旨いもんだな」

 

「でしょでしょ!せっかく東京にいるのに食べないなんて勿体ないっすよ!」

 

「次は少し甘さ控えめがいいな」

 

「ならここはどうっすか?」

 

「なんだこれ?」

 

「ニューヨークから来た店らしいっすよ。ほらこれこれ美味しそうじょないっすか?」

 

 前世では食べなかった甘いもの。

 確かにいろんな種類があるし面白そうだ。前世ではかりんとうしか食べなかったがそれもそれで美味しかったが…まぁ、10年以上、食べてたら流石に飽きてくるものである。

 

「あと水族館も言ってみたいっす。前から調べてたんですけどこのすみだ水族館なんて…」

 

 楽しそうに話すサクラを見ながらフキは少しだけ微笑みながらコーヒーを飲むのだった。

 

「そう言えばライセンス更新明日が最終日でしたね」

 

「あっ…」

 

「え、もしかして…」

 

ーー

 

 自分としたことがライセンス更新を忘れてしまうとは情けない。

 正直、それどころじゃなかったと言うのが本音なのだがそう言えばたきなに殴られてた時もその日だったような。

 そんなことを考えながら着替えていると後ろからよく知った声が聞こえてきた。

 

「おや」

 

「千束」

 

「しっかり者のフキさんがライセンス更新が最終日なんて。どうしちゃったの?」

 

「忙しかったんだよ。お前のズボラと一緒にするな」

 

 予想的中、この日をぼんやりとしか覚えていなかった自分を呪いながらと千束と話す。

 

「先生はお元気か?」 

 

 幼い頃から自分達を育ててくれたミカを思い出すが今は特別な感情を持ってはいなかった。

 まぁ、恩人であることは変わらないし尊敬もしている。当時の自分にはそれが特別な感情と混同していたのだろう。

 

「元気だよ、たまには遊びにおいでよ」

 

「機会があればな」

 

「お、素直じゃん。どうしたの?いつもなら任務外の勝手な外出はできないって言うくせに」

 

「まぁ、少し息抜いても良いかなって思っただけだよ」

 

「……」

 

「んだよ?」

 

「頭でも打ったの」

 

「蹴り飛ばすぞ」

 

 フキの変わりように少し驚きながらも嬉しそうにする千束。

 まぁ、相変わらず言葉は厳しいが。

 

「たきなとは上手くやってんのか?」

 

「もちろん。まぁ、私ならあんなキツい言い方しないけどねぇ」

 

「言葉だけでありがたいと思え」

 

ーー

 

 ライセンス更新の為の体力測定は計らずも二人だけだったのでゆっくりと話すことができた。

 

「連れてきたって意味ないことぐらい分かってるだろう」

 

「たきなのこと?」

 

「それ以外ないだろう」

 

「まぁね、なんでここがいいんだろうねぇ」

 

「お前が変なんだろ。DAのほとんどはここに憧れを持ってる。誰だって戻ろうとするだろ」

 

「たきなの気持ち分かるんだったら。フキも協力してよ」

 

「私が協力しても結果は変わらない。それにアイツはここにいても軋轢を生むだけだ」

 

 検査結果は概ね良好。

 動体視力の検査以外は千束とあまり変わらない結果を出せて個人的には及第点だ。

 

「フキ、成長したね」

 

「お前がパフェばっかり食ってるからだろ」

 

「ひっどぉい!」

 

「久しぶりだな千束」

 

「どぉもぉ」

 

 ライセンス更新が終わり話していると楠木が現れる。

 

「リコリスの義務は果たさないくせにライセンスの特権は欲しいんだな」

 

「DAの仕事もたまにはやってるじゃないですか」

 

 千束の司令に対する態度は端から見れば咎められるべきものだが注意しても治る筈はないので放置しておく。

 

「たきな、なんで追い出したんですか?」

 

「命令違反だ。聞いているだろう?」

 

「だけど仲間を救った」

 

「その結果で千丁の銃の行方は以前不明だ。商人は殺してはいけなかった」

 

「これみたでしょ。取引時間間違えてた司令部のせいです。楠木さんだって責任あるでしょ」

 

 二人の意見は結果論でしかないが優先順位は千丁の銃の行方が高い。これも結果論だがそのせいで多くのリコリスの血が流れた。

 

「他人の処遇を気にする前にもっと働いて欲しいものなんだがな。遊びでお前にライセンス出してるんじゃないんだぞ」

 

「あぁ、ごまかした!」

 

「千束、それ以上は」

 

「だいたい、状況判断出来なかった現場リーダーにも責任はあるんじゃないですかね」

 

「それは認める。だがこの場合、誰かが責任をとらなきゃならなかったんだ」

 

「今後はもっとDAに貢献するんだな」

 

「楠木さん!」

 

「もうやめろ!現にたきなは自身の勝手な判断で行動した。DAは組織なんだよ、スタンドプレーが味方にどんな被害を及ぼすか知らないわけないだろ」

 

「フキぃ~」

 

 千束の肩を掴んで制止する。

 流石に感化出来ないラインまで来た彼女を放っておくわけにはいかなかったからだ。

 

「私はここが一番だと思ってる。だけど千束は違うんだろ」

 

「うん」

 

「ならたきなに違う道を示せるのはお前だけじゃねぇか」

 

「フキ」

 

 なにか悟ったようにこちらを見てくる千束に気づかないフリをして更衣室に向かうのだった。

 

 

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