「あんたの席はもう無いっすよ」
「ちょっと、黙れ小僧」
「あんた誰っすか?」
「そいつが千束だ」
案の定、サクラがたきなに絡んでおりそれを千束が制止する。
だいぶたきなに対して挑発的な態度を取っているサクラだが彼女は彼女なりの理由があった。
「フキ先輩!あ、司令まで…これが電波塔の」
「これって言うなぁ!」
「いや、ただのアホだ」
例の銃取引現場の一件でたきなに対する誹謗中傷が発生したのは事実だがそれに加えフキもその噂の対象になったと言うのは千束たちは知らない。
直属の部下すら諌められない残念ファーストなんて陰口を叩かれる始末だ。
それはフキを敬愛しているサクラにとっては許せないことだったのだ。
「司令、私は銃取引の新情報たる写真を獲得し提出しました。この成果ではまだDAには復帰できませんか?」
「復帰?」
「成果をあげれば私はDAに復帰できるのでは…」
「そんなことを言った覚えはない」
「楠木さん!」
「そんな…」
楠木からの言葉に呆然自失となるたきな。
「あきらめろって言われてるのがまだ分からないんっすか?」
「おい!」
「おぉ、怖。流石、電波塔のヒーローさま!噂通り迫力ありますねぇ」
「サクラ訓練の時間だ。いくぞ」
サクラを探すために千束と行動を同じにしていたがこれ以上は時間の無駄だとその場から立ち去るフキ。
それを阻止したのはたきな、彼女はフキの左手を掴み静かにこちらを見つめてくる。
あきらかに助けを求めている表情だがそれをあえて無視する。
誰が何を言おうと何をしようとたきなの処遇は変わらないのだ。
ならやることは一つだろう。
「んだよ」
「すいません」
「ってめぇ。あの時丁寧に教えてやったこと覚えてないのか?お前みたいなお荷物、DAには必要ないんだよ」
「フキ!」
千束はたきなを庇うように二人の間に入るがフキの言葉のトゲは彼女に大きく突き刺さる。
「文句あんのか?」
「言い過ぎだって!」
「文句あるなら言ってみろよ。無理だよなぁ、おまえにそんな度胸はない。ただ思考停止して自分の腕に酔いしれてただけだもんなぁ」
「いい加減に!」
我慢できずに千束がフキの胸ぐらを掴むが気にしない。
「なら模擬戦でもするか?相手になってやるよ」
「おうおう良いじゃん。たきな、やろうやろう!」
「離せよ」
「ごめんごめん」
「あれ、ビビってんすか?」
「よっしゃ、2対2で…たきな!?」
「あっはは!逃げやがったよ!」
胸ぐらを捕まれ乱れた制服を整えるとたきなを追いかけて行く千束を見送る。
ーー
「本当に来るんすかねぇ」
「絶対来るよ。そうじゃないと困る」
演習場で待機しているフキとサクラ。
「サクラ」
「はい」
「本気で行けよ。相手はDA最強だ」
「あの電波塔がっすか?」
「あぁ、お前の思ってる何倍もな」
自身のグロック17を確認すると予備として最近使い始めたグロック26を制服の中に納める。有事の際のサブウェポンとして42は適任だ。携帯性に優れ、マガジンも少し飛び出すが17のものを使用できる。
「先輩よりもっすか?」
「あぁ、悔しいがな」
それに17の方もフキが出荷された後にしたように専用のカスタムを施した。
弾倉交換を容易にするマグウェル、グリップも自身の手に合わせて貰った特殊形状、スライド上部にクーリング・ホールを設け軽量化し、エンクテンディド・サムレストによってマズルシャンプを軽減させる。
これだけしてもらうのに1ヶ月かかったからこれの慣らしも兼ねている。
「おう、待たせたなてめぇら」
「それにしては謝意がたりねぇんじゃねぇか?」
(本人の前だと死ぬほど口悪いっすね)
先程まで誉めていた姿が消え、喧嘩腰になるフキを見て素直じゃないなと素直に思う。
「おうおう、それが先輩に対する礼儀か?言葉使いがなってないねぇ」
「たった1日で偉そうにしてんじゃねぇよ。ゴムしか撃てねぇ腰抜けが」
「なんだとてめぇ、どこ中だこらぁ!」
「あ?頭の中までゴムになったのか、電波塔の麓で隠居して茶でも入れてろよぉ!」
「んだと!?」
「んらぁ!?」
「あんたら、仲いいっすね!」
ほぼゼロ距離で睨み合う千束とフキだったが見かねた楠木が放送で仲裁しそれぞれ配置につく。
「一定の距離を取れ、近づかれたら即待避しろ」
「分かりました」
「それと死ぬほど煽ってくるから熱くなるなよ」
「はい!」
ビーー!
開始の合図と共に駆け出すサクラとフキ、たきなが不在だろうが容赦するつもりはない。
開始の合図と共に駆け出し千束とぶつかる。
銃すら役に立たない近距離においては動体視力が異常な千束に有利だったが優位に立ったのはフキだった。
接触と同時にフキの足払いが決まり千束の体勢が少し崩れる。
だが持ち前の体感の強さで持ち直した千束の胸ぐらと袖を捕み、投げる。
「っ!」
「ほよ!?」
巴投げされた千束のみならず観戦していた全員が驚く。
流石に地面に転がる千束に対し匍匐状態になっていたフキはそのまま発砲する。
「ちょ!ちょちょちょ!」
ふざけた言葉とは裏腹に即座に立ち上がり反撃してくるがフキも身を翻し一旦離れる。
「あっぶなぁ。たきな来る前にやられるかと思ったぁ!」
「やっぱり通じないか」
このままでは千束の相手をサクラが請け負うことになるが成長のために一度、ボコボコにしてもらうのもありだな。
そんな考えに対して千束はドアなどを派手に破壊して突き進んでくる。
「相変わらずどんな脚力してんだ」
訓練用に用意された施設とはいえ道具なしでドアを破壊する千束の存在は異常だ。
すると銃声が聞こえてくる、サクラが千束と交戦したのだろう。
「もう二回死んでるよ」
千束に牽制射撃を加えながらサクラを回収すると角に隠れる。
「なんなんすかアイツ。舐めやがって!」
「暑くなるなって言ったろ」
「あ、すいません」
獲物を失ったサクラにグロック26を渡す。
「良いんすか?」
「ペイント弾入ってるんだ。ルール的にも問題ねぇよ」
そう言うと近くのドアを開けて駆け出すフキ。
「フキ先輩!」
「忘れ物ですよぉ!」
「このぉ!」
千束の言葉に再びボルテージが上がったサクラは投げられた自身のグロック17を拾い千束に向けて発砲するが当たらない。
弾を使いきり使い物にならなくなったグロック17を見て千束は駆け出すがサクラはすぐさま17を捨て、26を取り出す。
「え、マジ!?」
予想外の行動に焦る千束だがサクラに接近し銃口を逸らすと取り上げ、蹴り飛ばす。
そして角で待機しているはずのフキに対して牽制射をと視線を移すが居ない。
「あれ?」
それと同時にフキが背後から現れる。
左腕で右手もとを隠しながら銃口を向ける。
発砲する以上、銃口は隠せないなら少しでも射撃タイミングが誤魔化せればと思ったが本命の初弾は頬を掠めた程度だった。
だが一発が千束の銃に当たり、使用不能になる。
「ちっ!」
悔しがるのも束の間、たきなが千束の横の角から現れ千束を間に挟み対峙することになる。
絶好の好機に千束を仕留めたいが即座に撤退を選択し物陰に飛び込むと千束の避けたたきなの弾がこちらに飛来してきた。
「なんかフキ、急に強くなってない?」
サクラにしっかりととどめを刺した千束はグロック26を拾い軽くチェックする。
「行きましょう」
早速、追撃に向かうたきな。
その後ろをカバーするように配置する千束は警戒を強める。
「っ…」
角で気配を感じたたきなは警戒を強めると同時に角から出てきた物体に正確にペイント弾を叩き込むがそれはフキによって投げられた鞄だった。
「たきな!」
たきなの発砲と同時に角から現れたフキ。
それを庇うように千束が前に出る、千束とフキのペイント弾は互いの急所に着弾し模擬戦は集結した。
「くそがぁ!」
悔しくてその場に倒れるフキ。
二人を同時に仕留めるつもりだった、しくじってもたきなだけは持っていこうとしたフキだったが千束のカバーとたきなの正確な射撃にやられてしまった。
「あぁ、参ったよ。完全に敗けだ」
「いやぁ、正直想定外。強くなったね、フキ」
笑いながら手を差しのべる千束。
「お前が言うと嫌味にしか聞こえねぇ」
それを睨み付けながら差しのべられた手を掴み、立ち上がる。
こうして模擬戦は結果こそ変わらなかったがフキにとっても実りのある試合となった。
ーー
模擬戦後、食堂でコーヒーを飲んで一服するフキとサクラ。
「え、マジすか?そう言うのはアニメだけの話ですよね」
「アニメ?」
「え、アニメ知らないんすか?」
サクラに千束の能力について教えていると話が少し脱線を始める。
「見たことねぇな」
「もったいないっすよ。何本か見繕うんで見てくださいよ」
「えぇ…」
「そら!」
サクラの熱量におされながらかりんとうを食べるフキ。
その後ろから千束が現れ、抱き付かれる。
「なんだごらぁ!」
「ありがとうね、フキ」
抱きつかれたのは一瞬で耳元で感謝を述べられ、動作が止まる。
「次はもっとボコボコにしてやるからなぁ!」
「おととい来やがれ!この不良リコリスがぁ!」
中指たてながら走り去る千束を見送るとため息をつきながら椅子に座り直す。
「もうちょっと素直になっても良いんじゃないっすか?」
「うるせぇ!」