虹夏のドラムになるだけのお話   作:愛と孤独

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第2話

「え、ここは!?」

 

夜。

多分、夜なのだと思う。

夢の中で、また僕は、動けない無機物になっていた。

薄暗い場所。

どこかざらっとした、地下のような雰囲気がする。

感覚に覚えがあった。

ここは……ライブハウスだ。

前の夜と同じ。

下北沢の、地下のライブハウス。

ということは……僕は、また!?

と思った瞬間。

 

ズガンッ!

 

また、激しい痛みが僕を襲った。

ドラムスティックの強烈な一撃。

伊地知さんだ。

伊地知さんの、冷徹なほどに正確なドラム捌きだ。

 

ズド、ドドドドドドドドッ!

ズシャッ

デュンデュンデュン

デュブッ!

 

ダダダダダダダダァッ!

シャンッ

 

彼女の腕が自在に動き、示唆に富んだビートが生まれていく。

僕は、泣きそうなぐらいに痛いのを我慢して、伊地知さんに答えた。

僕は、ドラム。

この夢の中で、ドラムなんだ。

 

さぁ、こい!

と身構えたのだが、伊地知さんの腕が止まった。

どうしたんだ?

僕は、君のドラムになる覚悟ができているのに。

ポタリ、と、ドラムの表面に、汗が落ちる。

伊地知さんの汗だ。

濃厚な彼女の体液が、僕に一粒落ちてきたことに、僕はひどく興奮する。

伊地知さんが、立ち上がった。

 

「だめだ」

 

つぶやき。

つぶやきが聞こえた。

 

「やっぱり、出ないよ」

 

何が出ないっていうんだ?

 

「私だけ、ダメなのかも」

 

辛辣な声。

泣きそうになっているのがわかる。

 

「虹夏先輩……」

 

バンドのメンバーだろうか?

赤い髪の女の子が、心配そうにこちらを見ている。

彼女は、手に、巨大なギターを持っていた。

ギターって、あんなに大きかったっけ?

僕は少し、不思議な気分になった。

いやしかしこれは夢。

夢なのだから、サイズ感が合わないぐらいは何の問題もないかもしれない。

 

「まだ、これからですよ、きっと」

 

赤い髪の女の子が、慰めるような言葉を吐く。

伊地知さんは、うつむき加減に

 

「うん」

 

とつぶやいた。

ここで僕は、心配になった。

今、これはライブの途中じゃないのか?

ライブの途中にくっちゃべっていて、いいもの何だろうか?

そんなん、観客から缶ビールでも飛んできそうだけど。

っていうか。

僕は、重要なことに気づいた。

 

〝聞こえている〟

 

聞こえているのだ。

二人の会話が。

僕はドラム。

この夢の中ではドラムになっているはずだ。

手も足も耳も口も目もない。

なのに、なぜ?

いや、そもそも。

 

僕はどうやって、赤い髪の少女を見ている!?

 

そう考えた瞬間。

ぐりんっと体が裏返るような感覚があった。

僕は、ドラム。

無機質な生物であるはずなのに。

まるで生き物の鼓動のように、体が跳ね上がったんだ。

 

 

 

つづく

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