虹夏のドラムになるだけのお話   作:愛と孤独

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第3話

「せ、先輩、それっ!?」

 

赤い髪の少女が、僕――伊地知さんのドラムを見て、叫んだ。

 

「出てきてますよ!!」

「え、ほんと!?」

 

伊地知さんが僕を見つめる。

僕は、少し照れ臭くなった。

 

「ほんとだ! 出てきてる!!」

 

伊地知さんが叫ぶ。

 

「やったぁー!」

 

元気いっぱいに、両手を売り上げた。

 

「やっと、やっと。あたしの楽器からも、出てきたんだ! 羽化したんだ」

「はい、そうですよ、伊地知先輩!」

 

よくわからないが。

僕はどうなっているのだろう?

僕は、さっき、このドラムの体が変貌を遂げたような気がした。

それは、間違いじゃなかったのか!?

伊地知さんに問いかけたかった。

しかし、僕にはまだ、口がなかった。

口はないが……見える。

ということは、まさか?

意を得たりという様子で、伊地知さんが、手鏡を僕に向けた。

そこに映っていたのは、目だった。

ぎょろりとした、目。

血管が浮き出て、すごく気持ち悪い。

とても夢だとは思えないような目。

それが、ドラムに生えていたんだ。

 

「これは。僕の目なのか?」

 

問いかけたかったが、口がない。

とかくドラムというのは、不便なものだ。

 

「いやぁ、いつか出てくると思ってたんだよねー」

 

うんうん、と伊地知さんが、首を振る。

 

「やっぱり持っている人間は持っているんですなー」

「でも……まだ、目だけですね」

 

少し悲しそうに、赤い髪の女の子がうつむいた。

 

「大丈夫だって、これからだよ」

 

そういって慰める伊地知さん。

と、気が付いたが。

赤い髪の女の子のギターには、目と、腕と脚があった。

目は、小さく切れ長だ。

腕と足は、ひどく小さい。

まるで奇妙な虫か何かのように見える。

だから僕はさっきまで、気が付かなかったんだ。

ギターの手足は、もそもそと動いていた。

まるでそこに閉じ込められているのが窮屈であるかのように。

目は、何かを訴えるかのように、いや諦念であるかのように、ただそこにあった。

僕は、なぜだろうか、いたたまれないような気持になった。

と、その時だ。

 

ごごごごっ

 

地面が鳴り響いた。

バスドラムの音?

いいや、違う。

もっと恐ろしい、地震のような音だ。

 

「きたっ!」

 

伊地知さんが叫んだ。

ドラムスティックを手に取る。

 

「きょ、今日は誰なんだ?」

 

不安げにつぶやく。

ライブハウスの舞台の向こうに、いつの間にかスクリーンが表れていた。

スクリーンには。

天井に圧し潰されそうになっている女性が映っていた。

長い髪の女性。

僕らより年上だ。

 

「ぴ、PA……さん」

 

伊地知さんが、叫んだ。

 

「そんな!」

 

赤い髪の子も叫ぶ。

 

「くそっ、やるしかない!」

 

伊地知さんが、まるで破れかぶれみたいに。

ドラムを叩いた。

痛い!

なんて衝撃的な痛さだ!

僕は、涙を流した。

そうだ、僕には、目があるんだ。

今の僕は、涙を流すことができる。

 

 

 

 

 

つづく

 

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