虹夏のドラムになるだけのお話   作:愛と孤独

6 / 10
第6話

「たしか、あのライブハウス。名前が書いてあったよな」

 

僕は、喫茶店でコーヒーを飲みながらこめかみを揉む。

思い出せそうで思い出せない。

スタ……スタ……スターリンだとか、レーニンだとか、そんな名前だったんだ。

素寒貧でも、スカタンでもない。

 

「うーん」

 

とりあえず、コーヒー飲んじゃおうか。

お気に入りのこの店のビターブレンドは美味い。

飲み終えると、僕は、行きつけの古着屋に行くことにした。

そこの店員のダイスケってやつは、音楽に詳しい。

ライブハウスについて知ってるかもしれない。

 

 

※

 

 

「ちわっす」

 

僕は、古着屋の扉を開けた。

ぼろぼろの扉だ。

売ってる服に合わせて、扉までわざとぼろくしているんだろうか?

顎ひげを伸ばしたデブ……ダイちゃんが、俺を見て手を挙げた。

 

「よぉ。どうしたよ」

「服を見に来る以外に用事あるか?」

「俺に会いに来たのかと思ってさ」

「言ってろ……と言いたいところなんだけどさぁ」

「ん?」

「マジで、ダイちゃんに会いに来た」

「え、なに。俺、モテキ!?」

 

きゅーんって顔をすんなよ、キモい。

 

「いや、ダイちゃんさ、音楽詳しいだろ?」

「あぁ、好きだぜ」

 

今は、ちょっとレイドバックしたサーフミュージックが流れている。

店内は、中古レコードも取り扱っている。

 

「ライブハウス。探してるんだ」

「へぇ。どんなハコ?」

「うーん、地下にあってだねぇ」

「うん、うん」

「名前が、こう、スターリンみたいな」

「スターリンねぇ。ずいぶん革新的だな」

 

ダイちゃんが笑った。

 

「いや、スターリンじゃないんだ。スターリンみたいな感じなだけ」

「トロツキー?」

「いや。そういう、ソ連ネタじゃない。スタ……なんちゃらなんだよ」

「あぁ、そういうことね」

 

ダイちゃんが顎髭をなでる。

 

「スタイルⅩ、スタンダード・プレイ、スタッカート」

「違うなぁ」

「うーん」

 

僕の、妄想なのか?

やはりあれは、ただのとりとめのない夢なのだろうか?

 

「あ、そういうと」

「ん?」

「なんか若いねーちゃんが始めたライブハウス、あったな」

「何て名前」

「いや、こう、あんまロックらしくないんだわ。キラキラネームっつぅか」

 

しばらく考え込んで、ダイちゃんが、手をぽんとたたいた。

 

「思い出した! スターリーだよ! ほら、星がいっぱいキラキラ~みたいな意味の。スターリーナイトっていうじゃん!」

 

スターリー!!

 

「それだ!!!!」

 

僕は思わず叫んだ。

 

「ど、どこにある? その店!」

「お、おぉ、どうしたよ」

 

ビビるダイちゃんに、「これ買うから」とどうでもいい安Tシャツを握らせる。

店の位置を、教えてもらった。

 

「あんがと、ダイちゃん」

 

店を出ようとする僕に、ダイちゃんが言った。

 

「店長さんに惚れたか?」

「あぁ?」

「美人で有名なんだよ、そこの年若き店長さん!」

「へぇ」

 

あれ?

違ったか?

その子を探してるのかと思ってたぜ。

そんなことをぶつくさ言うダイちゃんを無視して、僕は店を出た。

 

 

 

つづく

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。