虹夏のドラムになるだけのお話 作:愛と孤独
「たしか、あのライブハウス。名前が書いてあったよな」
僕は、喫茶店でコーヒーを飲みながらこめかみを揉む。
思い出せそうで思い出せない。
スタ……スタ……スターリンだとか、レーニンだとか、そんな名前だったんだ。
素寒貧でも、スカタンでもない。
「うーん」
とりあえず、コーヒー飲んじゃおうか。
お気に入りのこの店のビターブレンドは美味い。
飲み終えると、僕は、行きつけの古着屋に行くことにした。
そこの店員のダイスケってやつは、音楽に詳しい。
ライブハウスについて知ってるかもしれない。
※
「ちわっす」
僕は、古着屋の扉を開けた。
ぼろぼろの扉だ。
売ってる服に合わせて、扉までわざとぼろくしているんだろうか?
顎ひげを伸ばしたデブ……ダイちゃんが、俺を見て手を挙げた。
「よぉ。どうしたよ」
「服を見に来る以外に用事あるか?」
「俺に会いに来たのかと思ってさ」
「言ってろ……と言いたいところなんだけどさぁ」
「ん?」
「マジで、ダイちゃんに会いに来た」
「え、なに。俺、モテキ!?」
きゅーんって顔をすんなよ、キモい。
「いや、ダイちゃんさ、音楽詳しいだろ?」
「あぁ、好きだぜ」
今は、ちょっとレイドバックしたサーフミュージックが流れている。
店内は、中古レコードも取り扱っている。
「ライブハウス。探してるんだ」
「へぇ。どんなハコ?」
「うーん、地下にあってだねぇ」
「うん、うん」
「名前が、こう、スターリンみたいな」
「スターリンねぇ。ずいぶん革新的だな」
ダイちゃんが笑った。
「いや、スターリンじゃないんだ。スターリンみたいな感じなだけ」
「トロツキー?」
「いや。そういう、ソ連ネタじゃない。スタ……なんちゃらなんだよ」
「あぁ、そういうことね」
ダイちゃんが顎髭をなでる。
「スタイルⅩ、スタンダード・プレイ、スタッカート」
「違うなぁ」
「うーん」
僕の、妄想なのか?
やはりあれは、ただのとりとめのない夢なのだろうか?
「あ、そういうと」
「ん?」
「なんか若いねーちゃんが始めたライブハウス、あったな」
「何て名前」
「いや、こう、あんまロックらしくないんだわ。キラキラネームっつぅか」
しばらく考え込んで、ダイちゃんが、手をぽんとたたいた。
「思い出した! スターリーだよ! ほら、星がいっぱいキラキラ~みたいな意味の。スターリーナイトっていうじゃん!」
スターリー!!
「それだ!!!!」
僕は思わず叫んだ。
「ど、どこにある? その店!」
「お、おぉ、どうしたよ」
ビビるダイちゃんに、「これ買うから」とどうでもいい安Tシャツを握らせる。
店の位置を、教えてもらった。
「あんがと、ダイちゃん」
店を出ようとする僕に、ダイちゃんが言った。
「店長さんに惚れたか?」
「あぁ?」
「美人で有名なんだよ、そこの年若き店長さん!」
「へぇ」
あれ?
違ったか?
その子を探してるのかと思ってたぜ。
そんなことをぶつくさ言うダイちゃんを無視して、僕は店を出た。
つづく