虹夏のドラムになるだけのお話   作:愛と孤独

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第7話

下北沢の街を歩く。

歩きながら僕は、さっきダイちゃんが言っていたことを考えていた。

僕は、古着のお代を払うときにダイちゃんに問いかけたのだ。

 

「なぁところでさ」

「ん?」

 

値札を外しながらダイちゃんが顔を上げた。

 

「PAってのは、何の略か知ってる?」

「PA?」

「そう」

 

あの時、夢の中で天井に押しつぶされて肉塊になった女性。

PAさん、と呼ばれていた。

伊地知さんがそう言っていたんだ。

間違いない。

僕が伊地知さんの言葉を聞き逃すはずがない。

 

「PAってのは、パブリック・アドレスの略だな。機材というか、音の調整とかそういうの」

「じゃ、ライブハウスでPAって呼ばれてたら……」

「そこでミキサーとかいじってんだろうな」

「なるほど、ありがとう」

 

ということは、もしも僕がこれからあのライブハウス「スターリー」に行ったら、あの女性はどうなっているんだろうか?

死んだのか?

それとも?

 

僕は首を振った。

馬鹿な。

何を考えているんだ。

夢だぞ、夢。

そもそも実在なんてしないはずなんだ。

たまたま、スターリーってライブハウスがあったってだけだろう。

あの夢の店とは一切関係がない、違う店かも知れない。

そもそも、スターリーだったってのも、おぼろげな記憶に過ぎないんだ。

 

「落ち着こうぜ、落ち着くんだ」

 

僕は、自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

小さな路地裏に、その店はあった。

上が集合住宅になっているこじんまりとしたライブハウスだ。

まだ新しいからだろうか、どことなく、ライブハウスらしくない清潔さを感じる外見。

打ちっぱなしのコンクリートの階段の先の地下に、その店があるようだ。

ごくり。

僕は、つばを飲んだ。

ど、どうする?

ここまで来て、引き返せないよな?

あぁ、そうだよな。

男を見せる時だ。

僕は、勇気を出して、階段を下りる。

一段、二段、三段……。

一番下の踊り場に降りて。

 

「おいおい、まだ開いてないよ」

 

ドアの前でため息をついた。

勇気を出した意味がなかったぜ。

ライブハウスのドアには張り紙が。

そこには「チケット販売17時から」と書いてある。

やれやれ、とりあえず戻るか。

と踵を返した瞬間。

 

「おい」

 

ひぃーーーーー!!

急にドスの利いた声で呼び止められた!

だ、誰ですか!?と振り向くと。

えらい美人のおねーさんが。

ん?

なんか、伊地知さんにちょっと似てるような。

目つきは険しいけど。

 

「お前、何やってる?」

「え、あ、いえ、ぼ、僕は、そのっ」

「店。夕方5時からだぞ」

「へ?」

 

おねーさんは、張り紙を指さした。

僕はほっと胸をなでおろす。

なんだ、店の人か。

 

「す、すいません。こういうところに来たの、初めてだったんです」

 

夢では何度も来てるけどね。

 

「ふーん。まぁ、その。ありがと」

「え!?」

 

急にお礼?

 

「あ、いや。だってさ、わざわざ、初めてなのにうちの店に来てくれたんだろ?」

 

おねーさんが、プイっと目をそらしながら、そういった。

頬が赤くなってる。

何この人、可愛い!

 

「まぁ、その。後でもう一回来なよ。開いてる時間に」

「あ、は、はい」

 

僕は、別れ際に問いかけてみた。

 

「あの」

「ん?」

「おねーさんって、この店のPAさんですか?」

「いや、店長だけど」

 

て、店長さんだったのか。

そういえばダイちゃんが偉い美人の店長さんがいるって言ってたな。

ってことは、PAさんは他にいるのか?

 

 

 

 

僕は、17時まで時間をつぶすことにした。

 

 

 

 

つづく

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