鉄屑の赫き   作:姫神__

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佰機部隊ーハンドレッドー

 地球上にラプチャーと呼ばれる機械生命体が降臨した。彼らは無惨な殺戮を執行し、人類は地上を追われ僅かな生き残りがアークと呼ばれる地下都市に隠れ棲む。そんな時代の只中に人類の希望として生み出された存在がいる。

 

 ニケと呼ばれるそれは人間の脳以外は鋼鉄に包まれた、いわばアンドロイドのような物である。元人間であった彼女たちが人には成し得ない力を持つことを人類は恐れたのだろう。彼女たちに人権など無かった。

 

 自分の顔を捨て、親の声も忘れ、受けた愛もそこにはない。ただラプチャーを斃す兵器、銃やミサイルと変わりない消耗品として扱われる彼女たちは、アークの住民からこう呼ばれた“鉄屑”とーー。

 

 しかし、この世は非情なもので、中には凄まじい戦果をあげる性能のニケたちがいる。ニケを製造する企業は彼女たちに固有の名を与え部隊として編成し、地上奪還を果たす「勝利の女神」と銘打った。

 

 ラプチャーを蹴散らす勇士はアークの住民に希望と熱狂を与え、今なお途絶えることはない。そんな彼女たちでさえ鉄屑であることに変わりはなく、迫害を受けることもしばしばある。

 

 そうなると、量産型のニケは鉄屑どころか塵同然のゴミであるのだ。少数ではロード級ラプチャー1機すら倒せない非力な彼女たちに寄る辺などはなく、堕ちる者はとことん手を悪事に染め、処分されるか、地上へ逃げ果てるか、アウターリムで今日を生き抜くか……。

 

 誇りを持って死ぬならまだ栄光のある死なのであろう。女神という名を冠する彼女たちは強くあると同時に美しくもある。存在意義をなくしたニケの中には誇りすら失い娼婦よりも酷い扱いを受ける者もいる。

 

 量産型ニケに希望はあるのか?無いと言ったら嘘になる。これは鉄屑以下と呼ばれた力無きニケたちが命を赫かせる物語である。

 

「や……やあ、よく来てくれた。そ、そこに座って待っていてくれ、美味しい茶を入れよう」

 

 バーニンガム副司令官の案内に従って柔らかいソファに腰掛ける。地上産の茶葉だろうか、今まで嗅いだことのない柔らかくも芯のある薫りが鼻腔をくすぐる。ちょっとした世間話を済ませ話の本題に入ろうかと副司令が口にすると、一人のニケが入室する。

 

 長くて艶のある白銀の髪が目に入った。凛々しい瞳をこちらに向け、眉に力を入れると彼女は敬礼し所属を語る。

 

「ハンドレッド部隊所属、隊長のメルトと申します。ライトニング・サンダース指揮官、本日より我が隊は貴官の直属部隊となります。微力ながら、貴官とともに地上奪還へ歩めること、光栄に思います。以後、よろしくお願い致します」

 

 こちらこそよろしく頼むと握手を交わそうとしたとき、副司令は訝しげな顔でこちらを覗き込んでいた。彼曰く、彼女に対して疑問は湧かないのかね? とのことだ。確かに疑問点が幾つかある。装備や身体の特徴からいって間違いなく彼女は量産型のニケだろう。

 

 しかし、量産型ニケが部隊長というのはあまり聞かない。大抵は指揮官がそのまま部隊長のような役割になるからだ。それも副司令室に呼ばれるような存在。何より型番管理ではなく名前を与えられている。

 

 要するにハンドレッド部隊とは普通の部隊ではなく、何かしらモチーフや実験の意味が込められた特殊部隊であることが窺える。だが今はそれ以上に……

 

「ニケに貴賎はありません。人類の味方である以上は、ですが。そしてハンドレッド部隊とはどのような部隊なのですか。何か特性があるのでしょう? 副司令」

 

「な、なかなかに鋭いな。中堅どころの指揮官で良い戦果を挙げているだけのことはある。ま……まずは彼女、メルトの説明から」

 

「か、彼女は言ってしまえば各企業が次世代ニケのために作っている試作機と思ってくれ。最新技術も取り込んであるから量産型でありながらかなりのスペックを誇っている。そして彼女を筆頭に100機の量産型ニケを率いて作戦行動を取るのがハンドレッド部隊のコンセプトだ」

 

 噂で聞いたことがある。アーク最強と謳われるアブソルートやメティスに引けを取らない、量産機を大量投入して戦果を上げる部隊が試験段階にあると。まさかそこの指揮官に充てられるとは。

 

「こ、これはね、ライトニング君。ニケの性能ではなく、その指揮力、戦術で活躍してきた君にこそと中央政府が人事異動を検討したものだよ」

 

「な、何より私やアンダーソンが従来より考案していた部隊でもある。少数精鋭の特殊部隊ばかりを頼り、数の多い量産型ニケを兵力的にも人権的にも蔑ろにするのはどうか、数の強みをなんとか生かせないかと思ってね」

 

「く、詳しいことはメルトから聞いてくれ。初任務の通達は後日改めて送る。それまで部隊のニケと顔合わせをし、シミュレーションルームで慣らしてみると良い。そ、それでは、私は失礼する」

 

 副司令が退室した後、ハンドレッド部隊に用意された前哨基地を案内され、数人の隊員と顔を合わせた。どうやら彼女らは一つの大きなコミュニティとして生活を送っており、半ば“ムラ”社会のようなものが出来上がっているようだった。

 

 綺麗に整頓された指揮官室には前任者からの引き継ぎ書類が綴じられたファイルがある程度で、机上に余計なものは何もない。前任者が殉職したのではないことを知り安心する。

 

 コーヒー味のパーフェクト粉末をお湯に溶かして飲んでいるとメルトが入室してきた。彼女のコーヒーも用意して、改めてこの部隊の使命について聞く。

 

「ご馳走になります。コホン、それでは指揮官ライトニング・サンダース。貴官が配属されるハンドレッド部隊について詳しく説明をします」

 

「隊長はこの私メルトが務め、私の他に99機のニケが所属しています。部隊のコンセプトはニケによる人海戦術。多種多様な武器種に対応したニケ100機と地形等を利用した機動的攻略により、ラプチャーの大きなコミュニティを破壊することを目的としています」

 

「指揮官はこれまで多数の部隊を指揮しての攻略、及び指揮における戦術性の高さを評価され任命されました」

 

 それでは、次の作戦開始までゆっくりお過ごしくださいと言い残し、彼女は指揮官室を後にした。大まかに理解はできたがこれまでの作戦データ等を見ようと引継ぎ書類の綴じたファイルを持ち上げた。

 

 途端、するりと紙切れが滑り落ちた。ノートを綺麗に破いた正方形には前指揮官が死せずしてその任を降りた背景が書き散らされていた。

 

 

“ハンドレッド部隊は死地へ向かう。ラプチャーの凄む深奥に踏み込んでは鉄屑をいくら詰め込もうが融けて泡となるのみである。100という数字はあまりに小さすぎる”

 

 

 振り子時計の音に目が覚め、そう書かれたメモを見つめて幾許か経ったことに気がついた。この部隊が駆り出される戦場はいったい何処なのか。ラプチャーの凄む深奥とは何なのか。もう日が落ちて外も暗い。謎に気を取られながら私は床についた。




ライトニング・サンダース

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