ホワイト・ダフネ捜索隊の救出任務まであと数時間。指揮官、ライトニング・サンダースは先日の会話を思い返していた。
「さ、サンダース。君の考えとは、な、何なんだね?」
「副司令。まず、言っておかねばならないのは、捜索任務自体はそう難しくないということです」
話のちゃぶ台をひっくり返されたことに、ヘルムが声を上げる。
「ちょっと待ってちょうだい。いずれも同じ気象現象が起きているのよ。3日目の映像を見たでしょう? 朝、I-DOLL・フラワーが装備を置いて行方不明になっていて、カメラを回したサンとオーシャンも屋外に出た瞬間不可解な霧に包まれて消えた。ホワイト・ダフネも濃霧が発生してから通信が乱れて消息不明になった。それを簡単だなんて」
「そう、簡単になってしまうのさ。ミシリスの作ったアルゴス・システムと君の部隊の力を借りればね」
ライトニングはアンカーの持つ高性能レーダーの存在に着目していた。アルゴスの目の数字的な地理把握とアンカーのレーダーを使えば、かなり正確に位置を割り出せるだろうし、ルート構築もより確かなものになる。
「アンカー、君の力を貸して欲しい。一時的にハンドレッドに合流してくれないか?」
「まだ、見つけた後のことを言ってないっスよ? アンカーさんを危険な任務に行かせるわけにはいかないっス」
「マストのいうことも理解できる。だがどうしても力を借りたいんだ。これは私の推論にすぎないが……」
ライトニングはこの濃霧の発生は意図的なものであると推論した。任務を受けてから、該当地区の過去数年分の気象データを閲覧していた。そこで明らかになったのは、この地区は年間を通して気温がやや低く、降水量が多いということだった。
湿潤な気候、それも冷えやすいとなれば自然と霧が発生しやすくなる。あとはその地理的条件から霧を生み出す存在がいれば、合点のいく仕組みだった。獲物が近づいたら霧を作る。そして攫って捕らえる。
ラプチャーの中には神経ガスや電撃を生成するものがいる。同じようにして霧を発生させる、あるいはその条件を整える個体がいてもおかしくはない。
「な、なるほど。それなら確かに霧の発生はラプチャーの仕業だと言うことが、で、できるかもしれない」
「しかし、重要なのはそのラプチャーをどう発見し、討伐するかよ」
バーニンガムの納得を押し除け、ヘルムは続けて言う。
「そのくらいの力があるなら、最低でもマスター級以上のラプチャーなはずよ。そして辺り一帯を濃霧にする程ならば、かなりの数がいるということも考えられるわ」
「だから、ハンドレッドの出番なわけだ。メルトの使うアルゴスの目と、斥候に長けたレイディ、そしてアンカーのレーダー。この組み合わせならこの戦場にもってこいだ」
「待ち伏せではなく罠に頼るタイプなら、機動力や戦闘力はそこまで大きくないだろう。2つのレーダーの力で敵の強みを看破し、こちらの戦闘力で押さえつける。今回の作戦の概要だ」
「アンカー、どうするの? 判断はあなたに委ねるわ」
ヘルムの問いかけにアンカーは肯定の意を示した。
「うん。私、やってみるよ。よろしくねサンダース大尉」
日が経ち、任務開始まであと少し。未知のラプチャーとの遭遇も考えられる。考えられる状況をシミュレーションしながら時間を待っているとMETAL-00メルトが入室した。
「指揮官、失礼します。出撃の準備が整いました。指示の通り、私、レイディ、アンカーを中心とした捜索隊とそれを掩護する分隊を2つ編成しました。各分隊5機編成で計15機の出撃です」
「全機出撃でなくてもよいのですか? 数が多ければ総合的な戦力も上がりますし、複雑な構造の都市であれば捜索には人手が必要かと」
それも考えたが、敢えて数の少ない編成にしたことをメルトに伝える。濃霧の中で奇襲を受ければ、以前ラプチャーの卵が孵った時のようにパニックに陥る可能性がある。可能な限り人数を抑えておきたかった。
加えて、メルトはまだアルゴスに適応しきれていない。最後に行ったシミュレーションルームでの訓練では、50機の認識、運用が限界だった。敵機の捕捉も考えると15機の出撃が限度だろうと考えていた。
「もうすぐ時間だ。全隊を基地の正門に招集してくれ」
メルトの呼び掛けでMETAL-01ゴルド、METAL-02シルヴァがそれぞれ率いる2分隊、そしてMETAL-00メルト、METAL-05レイディ、派遣要請を受けたイージス部隊のアンカーによる混合分隊の計3分隊が集結した。
集まった15機のニケを前にライトニングが号令をかける。
「12:00、現時刻よりホワイト・ダフネ捜索隊救助作戦を開始する!」
「士官学校の講義:気象遭難とラプチャー」
教官:今日、君たちには戦場で気象遭難におけるラプチャーとの戦闘について学んでもらう。まずは、この通信記録を聞いてほしい。
「こちらジェニ…ンナ…ウン軍曹。オペレーター、……えますか? ……ーター、こちら…ファー・ア……ブラ…です! 聞こえ……返……てくだ…い!」
「こちら管制室。ブラウン軍曹ですね? どうなさいましたか? 通信状況が悪く聞き取れません」
「そち……音声が…聞こ…づら…。探索任……に気象…難…陥った。…が濃く…何……ない。部…の仲……も逸れ……」
「軍曹、落ち着いてください。今、通信機の現在位置を割り出しています……出ました。作戦域から遠ざかりつつあるようです。来た道を戻ってください」
「すでに方…感覚……失……いる。戻れ……。ラプ……遭……たっ! 一旦、通……切り…」
「軍曹、聞こえますかっ? ……通信、途絶しました」
「……ッ! 通信機が物凄い速度で移動している! ダニエル少尉、聞こえますか!?こちら管制室。あなたの部隊のブラウン軍曹がラプチャーの襲撃を受けた可能性があります。そのラプチャーと思われるものがそちらへ向かって高速で移動中です。警戒してください!」
教官:この部隊は3機1分隊のニケを4分隊ずつ率いた指揮官3名による任務だったが、36機もニケがいながら全滅した。
士官候補生:では、ロード級やタイラント級のラプチャーが出現したということですか? 通信内容では気象遭難に遭った指揮官の通信機が高速で移動し、部隊の方へ向かっている状況が読み取れます。
教官:半分正解だ。その読み取りは正しい。ただし、そこに現れたのはマスター級のラプチャーであることが後の調査で分かった。
教官:マスター級なんぞ、セルフレス級やサーヴァント級に毛が生えた程度だろうなどと、思ってはいかん。悪状況が重なれば十分な脅威と成り得る。雑魚だと括った高で首を吊る事になるぞ。よく覚えとけよ。こんな真面目な話、そうそうしてやれないんだからな。