鉄屑の赫き   作:姫神__

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思い出、出会い

 地上エレベーターに乗って作戦区域へと向かう。あの映像に映っていたエレベーターと同じ場所だ。ライトニングはホワイト・ダフネ捜索隊の量産型ニケ達が辿った道と同じ道を行くことにした。救助という目的である以上、同じ経路を辿ることは、最も発見しやすいからだ。

 

 そして、捜索隊の救助の他にホワイト・ダフネの消息の手掛かり、この気象遭難の原因となっているかもしれないラプチャーの発見も重要だ。そのためには、やはり再現性が求められる。

 

「あ、大尉。着いたみたいだよ?」

 

 アンカーの呼びかけでMETAL-00メルト、METAL-05レイディと共にエレベーターを降りた。後にはソルジャーF.A.とプロダクト23が続いた。

 

「こちら救助隊第1分隊、メルト。ゴルド、シルヴァ、エレベーターは問題なく稼働しているわ。降り口で待っているから」

「こちらゴルド、了解」

 

 他の分隊を待っている間、エレベーター降り口の周辺を見回す。映像で見た通りの景色が広がる。

 

「全員揃ったら予定通りこの地下通路を進もう。それにしても、少し冷える割りに蒸れるな……アンカー、こういう気候ってあるものなのか?」

 

「うん、水辺の地域や山間部の地域ではよくあるかも。寒冷な気候なんだけど雨が多くて、この梅雨や夏場はうっすらとした肌寒さに加えて、すごく湿った空気が流れるんだ」

 

「何だか、これから怪談でも始まる勢いだな」

 

「あ、そうそう。まさにそんな感じの空気感だよ」

 

「ところで、頼んでおいて変な質問だが、アンカーはどうして混合部隊の結成に賛成してくれたんだ?」

 

「うーん、一番は私の力が役に立つってことかな。イージス部隊ってほとんど出撃の機会がないし、私の探知能力の出番があるなら、力を貸したい。それに生きている以上、捜索隊の子達も、ホワイト・ダフネも、救助を待っているはずだから」

 

 アンカーの志に感心したのか、メルトが会話に入る。

 

「流石、イージス部隊ね。救助任務にあなた達を頼って正解だった」

 

「ううん、メルト。私もね、溺れたり遭難したりした人を助けたいって気持ちを認識できたのは最近なんだ。よくお世話になる指揮官がいてね、私の過去の記憶を取り戻してくれて……」

 

「それで、人間だった頃から救助隊になりたかったんだって知ったの」

 

「いい指揮官に出会えたんだな。そんな君だから、頼りにしている」

 

 アンカーの頭を撫でてやる。彼女は小っ恥ずかしそうにはにかんだ。ソルジャーF.A.やプロダクト23は生前の記憶という話題に飛びついて、3人娘で姦しく歓談が始まった。ニケ達は生前の記憶を多く持たない。彼女達も例外なく、たとえ自分以外の事であろうと気になってしまうものなのだ。

 

「指揮官、父親めいた顔になっていますよ」

 

 メルトに釘を刺され、咳払いをすると、レイディに笑われてしまった。もうすぐ他の分隊もエレベーターで到着する頃合いになり、電光掲示板を見ると丁度、到着したようだった。

 

「皆さん、お待たせしました。シルヴァ隊、ゴルド隊、到着です」

 

 METAL-02シルヴァとMETAL-01ゴルドがそれぞれ他の量産型ニケを率いてエレベーターから降りた。この2分隊はメインとなる混合分隊の護衛が目的のため、分隊長の2人を除いて防御型と支援型のニケで編成を固めている。

 

「それでは、出発する。地下施設から出た時、すでに霧が出ているかもしれない。気を抜かずに行こう」

 

 長い地下通路を進んでいく途中、今度はアンカーの方から質問された。

 

「さっきの話の続きなんだけど、そういう大尉はなんでこの任務を?」

 

「いや、私が受けたわけではないのだが、成り行きでな……」

 

「ふうん……じゃあ、ハンドレッドに就任したのは?」

 

「まぁ、それも中央政府に任命されたからっていうのが始まりかな」

 

 全部成り行きなんだね、とアンカーに残念がられるので何か話してやろうと過去を思い返す。

 

「そうだな……何で指揮官になったかは教えてあげられるかな」

 

 他のニケ達も興味を持ち始めたのか、聞き耳を立てている。せっかくだから話しておこうとライトニングは幼い頃の思い出を語り始めた。

 

「子供の頃、すごく弱虫だったんだ。ちょっと変わった家系でね、よく揶揄われたりしたのさ。でも負けず嫌いなもんだから、その度に仕返しして、見事返り討ちに遭っては泣いていたんだ」

 

「ある日、中学生の頃だった。いつも揶揄ってくる連中としょうもないことで大喧嘩になって、度胸比べが始まったんだ。それでさ、ガキの頃なんて馬鹿だったから地上エレベーターにこっそり潜り込んだんだ。ちょうど作戦に向かう量産型ニケが乗り込むところでな」

 

「それで、本当に地上に行っちゃったんですか!?」

 

 プロダクト23が驚いて聞き返す。そりゃあ、そんな馬鹿な真似をする奴はいないから、こんな反応も出るだろう。

 

「ああ、まずは高低差でエレベーター酔いになったよ。最悪の気分だった。周りのニケがすごく親切に介抱してくれたんだ。そして、地上に着いた。扉が開いた瞬間、今まで吸ったことのない透明な空気にびっくりしたなぁ」

 

 そう、地上の空気は今となっては当たり前だが、一生をアークの中で暮らす人が大半で、そういう人々にとっては絶対に味わうことのできない本物の味だった。

 

「それからはそのニケ達に土下座までして任務に連れて行ってくれるよう頼み込んだんだ。こんな機会2度とないと思ってね。彼女達は結局エレベーターに押し戻すことはせず、連れて行ってくれた。途中でラプチャーを倒し、目的地にビーコンを設置して帰るだけの、今考えればそんな小さな任務だった」

 

「でも、地上はそう簡単じゃなかった。マスター級ラプチャーに遭遇してしまって、3機いたニケのうち、2機がブレインシェルターに、1機は大破して歩くのがやっとの状態になってしまったところを、あるニケに助けてもらったんだ」

 

 おそらく、自分がいなければ彼女達はもっと上手く戦えた、いや、きっと余裕を持って勝利できたのだろう。だが、この時はパニックになって走り回る子供を守りながらの戦闘。今考えたら最悪の気分だ。自分のせいでよくしてくれたニケに仇を返すとは。

 

 そしてこの時の出会いについても語った。今こうして生きているのも彼女に偶然助けられたからだ。

 

「地上に彷徨い棲むニケがいるのは知っているか?巡礼者(ピルグリム)の都市伝説さ。偶然そのピルグリムに助けてもらって、何とかアークに帰ることができたんだ」

 

「それで、指揮官を目指すようなことがその中で起きたんですか?」

 

 その後もライトニングは話を続けた。巡礼者から聞いたニケの悲しい運命を。所詮、彼女達は兵器なのだと、勝利の女神でも何者でもなく、ただ壊れゆく運命なのだと。

 

 彼女は元々量産型だったという。今ではもう製造されていない、とても古い型式のものだった。全身、間に合わせのパーツで何度も修理した跡があって、もはや原型がわからないほどカスタムされていた。

 

 ある日の任務で一番槍、つまり使い捨ての駒にされたが、命惜しさに思考転換を起こし、脱走してから一人地上を彷徨い続けたらしい。

 

 そしていつしか、地上で困っているニケを見かけては、助けて回るようになった。もちろん、助けられなかったニケもいたという。当時ライトニングは話を聞いていて、人間よりもずっと強い存在なのに、扱いは酷く、ラプチャーと戦えば脆く崩れるその命の儚さに嫌気がさした。今でもその気持ちは変わらない。

 

「その時彼女、自分をフェイトと名乗っていた。ニケの悲運を少しでも無くすために地上を彷徨うことを決めたと。そのための決意の名前だと言っていた」

 

 そして実はフェイトには“絶対指揮官になるな、真似事でも地上に上がろうなんて思うな”と叱られたのだが、地上で力強く生きる姿に憧れて指揮官になってしまったわけだが。それに、叶うことならまた彼女に会いたい。

 

「まあ、要するに憧れのニケに会いたくて指揮官になったんだ。ピルグリムに会うには地上を駆け回らなければならない。私が日々強さを求める理由の一つだよ」

 

「何だか、くだらない話に付き合わせてしまったな」

 

「全然くだらなくないよ。好きなものや望むもの、それがあることが何より自分らしくあることだと私は思うから。大尉は立派な指揮官なんだね」

 

「ありがとうアンカー。さあ、もうすぐ地下通路を抜けるぞ」

 

 照れ隠しに声を掛け、階段を上がる。地上に出た。

 

 一つ、安心できることとして、外は霧ではなかった。薄い暗い雲が空を覆い、街全体に影を落としていた。雨が降りそうで降らない、じめじめとした梅雨の空気が肌に纏わりつく。

 

「霧は……出ていないようだな。このまま映像記録の道順に従って進もう」

 

「指揮官、一度アルゴスを試してみても?」

 

 メルトの提案に乗り、一度レーダーを使ってみることにした。アンカーにも頼んで探索を開始する。

 

「アルゴス・システム、起動します」

 

 メルトがバイザーを下ろし、遠隔モードを起動する。

 

「うっ……」

 

 トライブタワーやシミュレーションルームではここまで建造物が広がることはなかったため、高層ビル群の密度や高低差のあるグラフィックに目がチカチカする。

 

 だんだん慣れてくると周辺の様子が伝わってくる。現在地はアーケード下にあたる。3階建の店舗がずらりと並び、その奥にある出口と垂直に交わる道路、そして交通の要となる大通り。

 

 自分達の信号を確認する。自身の白い点、ライトニングの青い点、他のニケ14機分の黄色い点。もしホワイト・ダフネや捜索隊がいれば黄色い点がどこかに表示されるはずであるが……。

 

「ダメです。この周辺には居ないようです」

 

 アンカーの方を見る。彼女は目を閉じウンウンと唸っている。

 

「うーん、この辺には居ないね。何となくの方向としてはこっちかな」

 

 アンカーが指さす方角を見てメルトは感嘆の声を上げる。

 

「すごい、映像記録で捜索隊が向かった道と同じ方向……!」

 

「なかなか、すごい能力ですね! これなら捜索、救助もそう難しくはない! 指揮官の言う通りかもしれませんよ!?」

 

 ゴルドがそのレーダー能力の高さに興奮気味に呼応する。普段落ち着いたシルヴァも声は上げないものの、驚いた表情を見せた。他の量産型ニケ達はもはやスタンディングオベーション状態だった。

 

 道中、何度かセルフレス級やサーヴァント級のラプチャーと交戦したが、破損はほぼ無く捜索を続行した。

 

 やがて捜索隊がビバークした場所へ辿り着いた。見通しは広いものの、小高い丘には雨除けになる東屋が、少し下ると遮蔽物になる銅像、石碑、遊具のある大きな公園で野営するには良さそうだった。

 

 ラプチャー相手に見つかりにくく、逃げやすく、戦いやすい。こういったローケーション選びができるあたり、やはりあの映像のI-DOLL・フラワーは優秀なニケだったのだろう。

 

 運よく雨には降られなかったため、東屋を中心に陣を組んで野営を始めた。今日は何とか無事に過ごせた。だが肝心なのは明日の夕刻には着くであろう商業施設。あの付近に確実に霧の主は居る。

 

「明日、おそらく例の商業施設に到着する。以前話した通り霧を出すラプチャーが鈍足だった場合、その周辺を根城にしているはずだ。今夜は明日に向けて十分備えてくれ」

 

 相変わらず曇った空が夜をより暗くさせる。西の空には高層ビルの天頂の奥に黒い雲が覆っていた。明日、雨が降るとするなら、霧の主はきっと自分達を狙い動き出すはずである。ライトニングは心配をかき消すように無理やり寝つこうと寝袋に頭を埋めた。




「映像記録:密着取材! 指揮官を目指す青年」

レポーター:今回は指揮官を目指し、最年少で士官学校に入学するという少年、ロジャー君に密着取材です!

ロジャー:ロジャー・フォードです! 来年の春から士官学校に入ります!

レポーター:ロジャー君はなぜ指揮官に?

ロジャー:それはもう、アークの英雄や新星のようなヒーローになりたいからです!ゴッデスのような強いニケと一緒に戦って絶対地上を奪い返して見せます!

レポーター:もしロジャー君が大物指揮官になったらぜひサインをくださいね!

【ネットの書き込み】
名無し:わざわざ地上に行きたいなんて、馬鹿なガキだな
名無し:親が可哀想、というか分かってて入学させてるのか?
名無し:どうせこの子もすぐドッグタグになって帰ってくるよ。俺の兄貴がそうだった
名無し:指揮官なんて、なるもんじゃないよな
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