鉄屑の赫き   作:姫神__

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電子視界の闘い

 足元まで迫ってきた霧が臍の辺りまで立ち込めてくる。次第に視界が、狭まってくる……。

 

「くっ……思った以上に視界が悪い! 見通せるのは5、いや2mが限界か…?」

 

「大尉! あちこちに熱が急激に変化している個体がいる!」

 

 アンカーの呼び掛けにヴァインが答える。

 

「それがムーン・ゲイザーです! アレは熱を操作して水蒸気を飽和させ続けているのです!」

 

 この地一帯の霧の多発はこの特殊なラプチャーによるものだったのだ。冷気を吐き周囲を凍らせた後、装甲を急激に熱することで一気に蒸気を作り出す。

 

 複数の個体が同時にそうすることで、辺り一体に霧を生み出していたらしい。それによって攻め入ったニケの部隊を悉く返り討ちにしていたのだ。

 

「メルトはアルゴスを使ってゴルド隊に! アンカーはレーダーでシルヴァ隊に! それぞれ位置情報を送り続けろ!」

 

「ゴルド、シルヴァ隊は無闇に動かずに陣形の維持を優先! これより防衛戦を開始する!」

 

 ライトニングの視界には自分のすぐ隣で横たわるヴァインがはっきりと見え、自分とヴァインを守るように円陣を組むメルト、アンカー、ソルジャーF.A.、プロダクト23は背中の影のみが見える状況だった。

 

 そのさらに外側に陣取っているはずのゴルド隊、シルヴァ隊の姿は全く確認出来なかった。

 

 メルト、アンカーの指示でゴルド、シルヴァの隊は迎撃を開始する。

 

 メルトはアルゴス・システムを起動した。これまでまで靄の掛かっていた世界がデジタルの様相に変化する。黒い画面に黄緑色の線が何本も折り重なって、三次元構造をいくつも作り上げている。

 

 この周辺は高層ビルが何棟も建ち、それらの隙間に路地が通る、オフィス街のような地形だった。その細い路地に点々とラプチャーがいる。じっと動かないものが7機、これがムーン・ゲイザーだろう。

 

 そして、ゴルドに向かってくるものは小型ラプチャーのみ。全部で6機、うち2機が等速で近付き、背の低い構造物を越えてくるので、浮遊型だと判断した。

 

「ゴルド、そっちに小型が4機、浮遊型が2機向かってる!」

 

 近接モードに切り替えると、地図を見るような視点から、VR空間にいるような視点に切り替わる。建物を表す立体は辺のみで構成される点は先程までと変わらないが、サーモグラフィーや騒音、さまざまな数値が自分の見ている世界を補助している。

 

 熱源が2つふらふらとゴルド隊へ近づく。あの丸いシルエットはカバードだろう。武装がアサルトライフルのみの対処しやすいラプチャーである。

 

「カバードが2機、前方斜め上」

 

「それなら容易い! 8番、オウル、前方上空に斉射!」

 

 3機が同時に銃弾を放つ。ソルジャーO.W.のサブマシンガンが張った弾幕に金属音が混ざる。

 

「8番、見えたね? あそこだよ」

 

「分かっている……仕留める!」

 

 プロダクト08の狙撃が命中、2機のカバードが地べたに墜落する。その数秒後にガチャガチャと足音が近づく。

 

 メルトの視界には足音を聞き分けたAIがその形状を予測し、考えられるモデルがリアルタイムで更新されていた。その中に、四角い頭に4つ足、よく見かけるラプチャーの影があった。

 

「残る4機はキューブと推定されるわ」

 

「それなら……」

 

 ゴルドは僅かに考え、そして直ぐに決断した。ロケットランチャーを放ってくる相手に時間をかければ、密集して陣を組んでいるこちらが不利になる。

 

「今日はARの他にこっちも持ってきてるんですよ……ねっ」

 

 そう言うとアサルトライフルを腰のラックに掛け、背中に背負っていたグレネードランチャーを取り出し、脇に抱える。実弾を装填し、銃口を足音のする方へ向ける。

 

「今の時代になっても詰め込み式ってのは随分アナログで手間ですが、爆風のためなら何のその!」

 

 ドーン、という爆音と共にキューブ4機が吹き飛んだ。

 

 一方、シルヴァ隊の方はアンカーのレーダーによって的確にラプチャーを処理していった。

 

「シルヴァ、前方やや右、距離20m。12番は弾幕を貼り続けて。23番はシールドを構えて2人を防御」

 

「本当に当たったわ…アンカーのレーダーは格別なのね……。続けて頂戴」

 

 アンカーの示すポイントをスナイパーライフルで撃つ、金属音と共に駆動音が止む。その繰り返しだった。あまりに正確なため、銃弾が当たってラプチャーを撃破する度にシルヴァは感嘆の声を漏らしていた。

 

 やがてアルゴス・システムに移るラプチャーの数はムーン・ゲイザーを残すのみとなった。

 

「ムーン・ゲイザー自体は攻撃力がないと予測される。ここからはこちらのターンだ。全部で7機、取り逃がすなよ!」

 

 ニケたちの応答、怒号が響き、それぞれメルトやアンカーに言い渡されたポイントに向かう。ヴァインをアンカーに任せ、ライトニングはメルト、ソルジャーF.A.と共にムーン・ゲイザーの元へ向かう。

 

 ビルの屋内、通路を突き進んで裏側に取り付けられた非常口を開けるとさらに細い路地へ出た。奥へ奥へと足を進めるとそこに目標はいた。

 

 大きな楕円形の装甲が左右から本体を包み込み、その隙間からコアの赤い光が漏れている。壁際と床に張り付くように固定されたそれは二枚貝のような見た目をしていた。

 

 辺りは蒸し暑く、先程蒸気を生成した原因であることは明らかだった。この静かなラプチャーこそがムーン・ゲイザーなのだ。天井から結露した水滴が滴り落ち、鼻先に当たる。ソルジャーF.A.は慎重に近付き、拳銃を構える。

 

「指揮官、メルト、撃って……いいんですよね?」

 

「ああ、静かすぎて不気味だが、それで問題ないはずだ。確実にコアを打つんだ」

 

 ファルコンがコアに銃口を突きつけると、ぎろりとこちらを見た気がした。罠のように思えるこの口無しが気持ち悪くて仕方ない。これからは巻貝だけでなく二枚貝も嫌いになりそうだった。

 

「うぅっ」

 

 パン。銃声が部屋にこもる。湿度のせいか、少し鈍い音だった。瞑った目を開けると、他のニケたちも成功したのだろうか。霧が僅かに弱まり、視界が広がっていた。

 

 コアの光は徐々に弱まり、やがて暗転した。ムーン・ゲイザーを仕留めたのだ。じわじわと安堵が伝播し、全身の筋肉が緩む。体温が上がり、やっと大きく息を吐くことができた。

 

「はぁー、2人とも異常ありませんか?」

 

「ああ、お疲れ様。アンカーたちの元へ戻ろう」

 

 全機に集合をかける通信をし、ライトニングは2機と共に陣を組んだ場所へ移動した。霧の謎が晴れ、部隊の士気は向上しているように見えた。どのニケからも不安の表情は感じなかった。

 

 間もなくしてヴァインの回収をしにきた部隊が合流した。

 

「サンダース大尉……」

 

 力なくヴァインが呼びかける。担架に寝かされ安堵した彼女はそれでもまだ不安を取り除き切れてはいない。相方のアイビーがまだ行方不明だからだ。

 

「アイビーはおそらくこの先の大型商業施設の周辺にいると思います。アイビーとの最後の通信で彼女はショッピングモールがあると言っていました。遠くへ移動していなければ、ですが」

 

 映像記録の内容とも合っている。その近くにムーン・ゲイザーが根城とするような建物があるのだろう。ヴァインを見送り、ライトニングたちは出発した。

 

 道中、ライトニングはある点に疑問を抱いていた。なぜムーン・ゲイザーは自らは霧の生成以外できないのか。生き物が地形や自然環境に適応していくように、ラプチャーも世代交代する中で特徴が変わっていく。

 

 その成れの果てにじっと霧を生み出し続ける形になるには何か要因が必要だ。自分が直接狩りをしなくていいような、協力者がいるはずなのだ。

 

 今回の小型ラプチャーはどちらかというとムーン・ゲイザーの作り出した環境に住み着いた野良と言っていいだろう。数が少ないし、キューブの放つロケットランチャーの爆風は霧を晴らしてしまうから相性が悪い。

 

 まだ見えない部分が多く、一筋縄で攻略のできるラプチャーではないと実感し、ライトニングはニケたちに自らの考察を話した。初めて遭遇する特殊個体を倒しても、まだ警戒を解くことはできない。やはりここは地上なのだ。




「とある指揮官の話:蜃気楼」

 昨日、作戦中に蜃気楼を見たんだ。物資が枯渇しそうな中ニケたちと地上エレベーターを探して彷徨っていたらあまりに暑かったからか、奥の景色が揺らいで見えた。陽炎を見たのは初めてだったよ。
 そして、その後さらに不思議なことが起こったんだ。急に涼しい風が吹いてきて、辺りが真っ白になった。これが蜃気楼か。ついに頭がおかしくなったのかと思いニケに話しかけると、彼女たちも困惑していた。
 しかし、すぐに幻ではないと分かった。蜃気楼の奥に赤い光が揺らいでいたんだ。幻覚なのか知らないが、ラプチャーにはこんな恐ろしい奴もいるのかって思ったよ。危うくやられるところだった。
 後になって知ったんだが、蜃気楼は蛤の妖怪が見せる幻なんだとか。でもラプチャーの方が怖いや。蛤は鉄砲なんざ売ってこないからな笑
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