鉄屑の赫き   作:姫神__

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生態

 ホワイト・ダフネ隊のヴァインを回収部隊に預け、ハンドレッド部隊は1次捜索隊が消息を絶った大型商業施設を目指していた。

 

 オフィス街を抜けると大きな道路が目立つようになった。かつての主要道路だったのだろう。両脇に洋服店や靴屋等の大型店舗が立ち並び、飲食店がいくつも集まってブロック化している場所もあった。

 

 この辺りまで来ると自然の猛威はさらに増しており、さながら巨大なテラリウムが並んでいるような、建造物と自然の調和した姿がひとつのアートになっている様が広がっていた。

 

「遠目から見た時はもう山の中なんじゃないかって思っていましてけど、案外コンクリートが残っているものですね。歩きやすくて助かります」

 

 METAL-01ゴルドは感心したように声を上げる。他のニケたちも負荷の少ない行軍に喜んでいた。

 

「確かに、砂漠の時は足が取られて大変だったものねぇ……」

 

 普段は淑やかなMETAL-02シルヴァも気の抜けたように返事をする。ゴルドは型番が近いことや性能が似ていることからよくシルヴァと行動を共にするが、最近彼女はお嬢様じみた性格なだけではないようだと思い始めていた。

 

 ライトニングは隊に緊張感が無くなってきたと感じ、考えていたことをニケ達に話すことにした。

 

「皆、聞いてくれ。ムーン・ゲイザーについてなんだが」

 

 メルトは話を聞こうと、ライトニングに半歩近付いて身を寄せる。

 

「と言うと、あの無抵抗さについてですか?」

 

「その通りだ。私とメルト、ファルコンで7機いたうちの1機を仕留めたが、本体が鎮座しているだけで、それを守る存在も、本体からの抵抗も何もなかった。足も生えていない、その場に生えてきたように動かない」

 

 メルトは話を聞きながらその時の悍ましさを思い出していた。二枚貝のように左右から装甲で覆われたコア、その赤い光が瞳のようにギョロリとこちらを見つめていたあの姿。

 

 銃口を突きつけられても、動じることもできず、ただ撃たれるだけ。あまりの無抵抗さに気持ち悪さを感じずにはいられなかった。

 

 ラプチャーは生き物ではないが、殺されまいと踠き、足掻く素振りは見せるものだと思っていたがそうではない個体を初めて見た。

 

 それは他のニケ達も同じように思っていたようで、皆何とも言えないような、表現に困ったとでも言いたげな表情をしていた。

 

 メルトは答える。

 

「ムーン・ゲイザーにはまだ何か裏がありそうです。あれはあくまで複製、或いは使い捨てのような存在だったのかもしれません。本体か、母体となるものがいるのかと」

 

 それは私も考えていた、とライトニングは返し、考察を続ける。

 

「そしてあの時霧の中で襲ってきた小型ラプチャーたちはムーン・ゲイザーを守る様子は見られなかった。だからもっと奴らの勢力が大きい地域に行けばいるはずなんだ」

 

「ムーン・ゲイザーの本体とその協力者たるラプチャーが……」

 

 オフィス街でムーン・ゲイザーを仕留めようとした時、もしその協力者がいたらどうなっていたかと思うと、メルトは心をざわつかせていた。

 

「それでは、次戦う時は容易に仕留められず、霧の中で相手が仕向けてくる戦力も増えるということですか?」

 

「概ね、そう思っておいた方がいいだろう」

 

 それから数十分歩くと例の大型商業施設が姿を表した。時刻は夕方になり、この地域の気候のせいか少し肌寒くなってきた。

 

 それはつまり、ムーン・ゲイザーにとって戦いやすい状況が整っているということだった。ライトニングはヴァインの発見が結果として時間の遅れ、戦闘を生じさせ計画が狂い始めていることに気づき始めていた。

 

「まずいな。日が落ちて冷えてきた。このままでは不利な状況になる……」

 

「指揮官、どうしましょう? 一旦ビバークして気温が高い時間帯に攻め入りますか?」

 

 しかし、ライトニングはメルトの提案を受け入れなかった。ヴァインが生きていた以上、アイビーも、捜索隊のニケもまた同じように生きている可能性があるからだ。大破しているか、或いはブレインシェルターに脳を保存している可能性だってある。

 

 ここで十数時間を浪費することは救助対象の生存確率を著しく低下させることを意味している。であれば日が落ち切る前に攻略してしまった方が良いと判断したのだ。

 

「メルト、アンカー。周辺にニケかムーン・ゲイザーと思しき反応がないか確認してくれ。レイディは周囲で特に気温が下がりそうな場所を見極めてくれ。夕暮れ前にこの一帯を制圧したい」

 

 レイディは返事をし、双眼鏡を手に取る。コンクリート造りの建物がほとんどである以上、夜はどの場所でもよく冷える。石造りよりももっと冷える場所……。見渡す中に一つ、工場があるのを見つけた。

 

「金属製…これだ! 指揮官、商業施設より西に約2km、工場がある。おそらくここが」

 

 レイディの声に応えるように、アンカーがニケの存在、そしてラプチャーの反応もそこにあることを報告する。

 

 工場に近付き、メルトがアルゴス・システムを起動させると、確かに最深部にニケの反応がある。

 

「入口は一つ、一階がメインフロアで、二階は橋渡しのように通路が巡っている吹き抜け状です。ニケの反応は入り口から一番遠い所、いくつかの構造物で囲われています。おそらく隔離されているのでしょう」

 

 メルト、アンカーの見立てではムーン・ゲイザーは1機のみ。ただ、他のラプチャーが多数いることが分かった。

 

「準備はいいな? ロケットランチャーやグレネードの使用は禁止する。工場内に引火性の燃料があれば工場ごと全員吹っ飛ぶからな。それと霧対策だ。ソルジャーE.G.とプロダクト12は突入したら風上から風下へ抜けるように壁を破壊して通風口を空けろ」

 

「これより工場を制圧する! エンカウンター!」

 

 入り口のドアを開放し15機のニケが突入する。ソルジャーE.G.とプロダクト12がアサルトライフル、マシンガンを連射し、南西側と北東側の壁に穴を空ける。

 

 ムーン・ゲイザーは2階の通路の一番奥の開けた足場に居座っていた。殻を開くと、たちまち冷気が工場内に篭る。奥からシュウ、と蒸気の生成される音が響き、工場内が霧に包まれる。しかし、霧に満ちたと思ったのも束の間、最初に空けた穴から風が吹き込み、もう片方の穴から霧がどんどん抜けて行く。

 

 屋内を拠点にしたことがムーン・ゲイザーにとって仇になった。無数の銃弾が空けた穴から入って噴出した空気はジュール・トムソン効果によって屋内の温度は下がり、発熱が抑えられる。結果、水蒸気による濃い霧ではなく、冷気による薄い靄になる。

 

「最低限の視界は確保できた! 攻めるぞ!」

 

 プロダクト12が叫ぶとニケたちは分隊ごとに陣を組み、次々とラプチャーを撃ち抜く。配管の中から、機械の隙間から、至る場所からラプチャーが出てはムーン・ゲイザーを守るように囲い込む。見ても分かる。先程見た個体より二回り、三回りも大きい個体。この一帯の支配者なのだろう。

 

 この個体の力無くしてはこの地域のラプチャーはニケには勝てなかったのだろう。ロード級以上の強いラプチャーが地域に定着しなかったために適応していったと考えられる。そうしてこの一帯に巣食うラプチャーたちはムーン・ゲイザーを利用してきた。

 

 工場に突入してからもうかなりの数、ラプチャーを仕留めているが、ムーン・ゲイザーを庇う層が一向に薄くならない。ラプチャーを倒しているはずなのにあまり数が変わっていないのだ。そこでライトニングはある勘違いに気づいた。

 

 ラプチャーはよく協力関係を築く。自爆特攻型のラプチャーが無駄に撃破されないようにシールドを展開するラプチャーの影に隠れたり、単純な銃撃性能しかないラプチャーが逆に攻撃力に乏しい神経ガスや制圧レーザーを使うラプチャーと行動を共にしたりするように。

 

 ただし、不利な状況になればそれらは散開し、協力関係を解くことが多い。ロード級ラプチャーが撃破されるとその取り巻きが去って行くのが最たる例だ。そして、ムーン・ゲイザーはどうだろうか。協力関係にあるラプチャーは純粋な銃撃型、浮遊型を中心に時折シールド展開型も現れる。理にかなった体制だ。

 

 だが、濃霧というアドバンテージが無くなった今、そのラプチャー達は尽く破壊されている。他のラプチャーにとって引き際ではなかろうか。いくら協力関係にあるラプチャー同士とはいえ、これ程までムーン・ゲイザーを守ることに必死になるものだろうか?

 

 もしやムーン・ゲイザーには他のラプチャーに指示を送る機能があるのか? ロード級やタイラント級じゃない、マスター級のラプチャーであるのに? どちらかというと指令を受ける側なはずである……

 

 次の瞬間、ライトニングは近くに転がるラプチャーの残骸から一匹、極小の個体が零れ落ちるように出てきては、配管の裏へ逃げていくのを見た。地上には、自分に都合の良いように他の生物を操る生き物がいると聞く。まさにそんな、寄生虫のようなものを見た。

 

 そう、このラプチャー達はムーン・ゲイザーを守っていたのではない。守らされていたのだ。

 

「……っ! メルト! ラプチャーの総数を確認しろ!」

 

 ライトニングはその気付きが正しいかどうかを確かめるため、メルトに指示を出す。

 

「ラプチャーの反応多数、目視以上の反応があります! 一体何が!?」

 

「全員、小型に張り付いている虫ケラを落とせ! でなきゃ無限に湧いてくるぞ!」

 

 おそらく、この超小型のラプチャーが周囲のラプチャーを操り、ムーン・ゲイザーを守っているのだろう。操っている個体が倒れれば、次の個体に寄生する。そうして無限にボディーガードを増やし続けているのだ。今逃げた1匹も、きっと新しい宿主を探しに行ったのだろう。

 

 ライトニングの指示を受けてゴルドは今仕留めたばかりのラプチャーをひっくり返すとその腹に小さい蟹のようなラプチャーがひっついているのを見つけてしまった。

 

「何ぃ!! 寄生虫ですと!?」

 

「指揮官、ムーン・ゲイザーの本体から寄生体が次々と!」

 

 メルトが指す方を見ると、ムーン・ゲイザーの殻の隙間からわらわらと寄生ラプチャーが溢れ出てきていた。この状況を危機とみなし、増援を出す気だろうか。戦闘が長引くとこの工場を中心にラプチャーが集まり、手駒が増えてしまう。それは避けなくては。

 

「メルト、単騎突入! 本体のコアを!」

 

 ライトニングの声を聞いてメルトは大掛かりな機械やパイプを踏み台にして2階の通路へ上がると、群がるラプチャー達を無視してムーン・ゲイザーの元へ走った。

 

 後はこのコアを破壊するだけだ。メルトが銃口をコアに突きつけ、引鉄を引く……はずだった。二枚貝のように左右の装甲が閉じ、銃を噛み砕いてしまったのだ。

 

「ッ!? 銃が!」

 

 前回はなかった抵抗に驚いた。

 

 アサルトライフルが砕かれ、急いでサブウェポンを手に取ろうと腰回りを弄るが、焦って拳銃を1階へ落としてしまった。他に身につけている武器は手榴弾とナイフのみ。ライトニングが言っていたように手榴弾を工場内で使用するのは得策ではない。かといってナイフでは刃が立たない。そもそも指揮官の生存を助けるための採集、狩猟用なのだから。

 

 二枚貝の殻の隙間に五指を差し込み目一杯開こうとするが中々開かない。何か殻を開くための、あるいは隙間から攻撃するための道具はないかと、メルトはムーン・ゲイザーに対面したまま辺りを見回す。が、見つからない。一旦引こうかと後ろを振り向くと、こちらへ走るライトニングの姿が見えた。

 

「メルト! 殻を開け!」

 

 ライトニングが手に持っていたのは、どこから拾ってきたのかバールのような工具だった。メルトが目一杯殻の隙間を開けると、彼はコア目掛けて一気に刺し込む。ムーン・ゲイザーが悲鳴を上げ、コアを激しく震わせる。震動に応じて棒がガタガタと装甲の縁と当たり、金属音を小刻みに放っていた。

 

「ぐっ……」

 

 ライトニングは右腕を抑え、痛みに耐えている。ここに来るまでに銃撃を受けていたようだ。力を入れたことで血が吹き出し、袖から血が滴っていた。だがコアの破壊は目前である。ここでケリを付ける。メルトがそう思った時だった。

 

 少しだけ工場内が暗くなった。隣にいるライトニングを見るとまずい、という顔をしていたのが見えた。その目線を追うと、最初に開けた穴が小型のラプチャーや寄生ラプチャーによって塞がれていた。先程、寄生型を出したのは増援ではなく壁の修復のためだったのだ。

 

 すぐ近くから冷気が走る。肌を伝う汗が一気に氷の粒になるのを感じた。そしてシュウ、という音と共に一気に蒸気がその殻の隙間から噴出する。

 

 霧の噴出と同時に寄生型のラプチャーが殻の隙間から這い出てきて、2人を通路の反対側へ押し返した。幸いなことに、この寄生型ラプチャーに殺傷能力はないようで、ライトニングは切り傷を負う程度で済んでいた。

 

「メルト! 寄生型に人間は殺せない、私に構わずとどめを刺せ! アルゴスなら視える!」

 

「ラジャー。アルゴス・システム……起動!」

 

 メルトの視界が電子世界に切り替わる。近接モードで見ると目の前の寄生型の群れは青や碧のうねる波のようにサーモグラフィーが映し出していた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 彼女が飛び上がると水飛沫のようにその一部は弾け飛び、階下へ落ちていった。そのままうねる波の上を走っていく。そしてムーン・ゲイザーまであと数メートルまで近づくと、一気に跳躍する。

 

 一段と大きな飛沫をあげて飛び上がったメルトは、自由落下に任せて右足をコアに刺さったままのバール目掛けて突き出し、真っ直ぐに全体重を乗せた蹴りを繰り出す。それを防ごうと寄生体が盾のように彼女へ覆い被さる。だがその蹴りは波を突き抜けながら落下する。

 

 そして全ての波を突破したと同時に、その蹴りは見事バールに命中し、ムーン・ゲイザーのコアが串刺しになる。バリンという音と共に砕けたコアが散らばる。

 

 直後、主人の死を悟ってか、寄生体はその場から消え、操られていたラプチャー達も散り散りになっていた。もう工場内には勝者しか残っていない。

 

 幻惑の霧に包まれた二枚貝は、掠れた断末魔を上げながら光を失い、眠りについた。

 

「ムーン・ゲイザー、撃破!!」

 

 メルトの雄叫びが静かな霧の中響き渡った。

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