鉄屑の赫き   作:姫神__

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救えない者

 METAL-00メルトの叫びと共に戦いの幕は閉じた。幻惑の霧に包まれた特殊個体“ムーン・ゲイザー”はコアの光を失い、二枚貝のような大きな装甲を左右に広げて動かなくなった。

 

「各分隊、被害報告を」

 

 ライトニングが聞くと軽傷は負っているようだが、全てのニケがまだ戦闘続行可能なほど被害がないことが分かると安心して大きく息を吐く。

 

「皆疲れているところ悪いが、これから本命だ。工場内にあったニケの反応を確かめよう」

 

 メルトとアンカーの指示で工場の一番奥に行くと、事務仕事をするような一室があった。

 

 意を決して扉を開けると鼻をつくような死臭が漂ってきた。小蝿が数匹、顔の横を飛び去ってゆく。

 

 ああ、間に合わなかったんだなとライトニングは悟った。目をやればI-DOLL・サンとI-DOLL・オーシャンの残骸がそこにあった。

 

 もがれた四肢からは毛細血管のようなケーブルや人工の筋組織がだらりと垂れ、そこから擬似血液が滴る。漏れ出すオイルと死の匂いに、つい眉を顰める。剥き出しになった電子回路類はショートしている様子がないのでコアのエネルギーは失われているのだと分かった。そのせいで脳が腐ってしまっていたのだろう、臭いや蛆はここから湧いてきている様だった。

 

 ボディを確認するために2機の体を脇に寄せると、もう1機倒れていた。その可憐な容姿は間違いなく、資料で見たホワイト・ダフネ隊の1人、アイビーのものだった。

 

 さっきまで2機のニケの下敷きになっていたせいか、細い腕が赤らんでいる。まだ血が巡っているということだ。アイビーは助かったのだ。2機の量産型ニケは最後まで任務を全うし、アイビーを庇ってそのまま逝ってしまった。

 

 高コスト、高火力、高性能に裏付けられた優秀さを持つ特化型のニケを生きながらえさせるために、低コストの量産型ニケが命を張る。この世界では当たり前のことだ。自分だって今まで何度もニケを肉盾にしてきた。囮にだって使った。人類が生き延びるため、自分の部隊が一機でも多くラプチャーを屠るため、死なないため。

 

 ニケの命は軽い。当たり前だ。この前も10機死なせたばかりではないか。悔しさでもなく、悲しさでもなく、怒りでもない、やるせないとも言えない気持ちが募る。ライトニングは軽く死んで行く命を疎ましく思った。もっと強ければ死なずに済んだのに、と嫌がるように。それは見下しや差別的な感情から湧くものではなく、慈悲の思いから至るものだった。

 

 ライトニング・サンダースの言う貴賎のないニケ像とは、人類の味方であるということ、そして等しく死の間際に居るということだった。強くても、弱くても死ぬ。より強ければ死ににくい。量産型だとか、カスタムモデルだとか、そう言う“瑣末”な違いは関係なかった。

 

 工場内を捜索するも、残りの1機であるI-DOLL・フラワーは見当たらなかった。映像記録の時点でムーン・ゲイザーの襲撃に遭っていたのだ。もしかしたらもう……。

 

 ライトニングは諦めるしかないと考え、“アンダーテイカー”部隊への要請をするようにメルトへ伝えた。

 

 アンダーテイカー部隊とは、地上作戦で命を落としたニケのボディ回収を専門とする運び屋部隊のことだ。ニケの死体ばかり運んでいるので葬儀屋とも呼ばれている。

 

 ラプチャーの中には、タイラント級:ブラック・スミスのようにニケのボディーを連れ去る個体がいる。

 

 少しでもそういった敵に戦力を与えないために活動する部隊で、また、別の意味でも必要とされている部隊だった。それは、ボディの使い回しである。

 

 アークは資源が少ない。全くないと言うわけではないが、馬鹿でもなければどうやって補っているのか疑問を持つ程度には。だから、ニケの死体だって貴重な資源なのだ。

 

「指揮官、アンダーテイカー部隊への要請が完了しました」

 

「ありがとう。では、帰還しよう」

 

 全隊へ帰還命令を出し、最寄りの地上エレベーターへ向かう。道中、アンカーから出撃前に答えた質問の続きを聞かれた。

 

「大尉、出撃前に地下道で話したことの続きだけどね、大尉が憧れたフェイトっていうピルグリムには、指揮官になってから今まで会ったことがあるの?」

 

「一度も無いよ。どこを彷徨っているのか分からない。ただ、フェイトと名乗るピルグリムに会ったことがあるという噂は時折耳にするんだ。だから、必ず生きている。まあ、ここ2、3年は噂を聞かないが」

 

「それじゃあ死んじゃったかも、とか思ったりしないの?」

 

「いや、無いな。彼女は本当に強いニケだった。そこいらの装備頼りなニケなんかよりずっと強い。美しい戦い様だった。3機1組でラプチャーの群れをバタバタと薙ぎ倒していったのを今でも覚えている」

 

 ピルグリムは1機じゃなかったのかとアンカーに驚かれ、まだ話していなかった残る2機についても話をした。

 

 1機はドゥーム、もう1機はロトという名前だった。2機ともフェイトと似たような理由で地上を彷徨い、巡り合い、3機1組の巡礼者となったそうだ。

 

 フェイトは凛とした出立ちで、いかにも真面目そうな性格だった。長くて艶のある黒髪が地上の風によく似合っていた。

 

 ドゥームは荒々しいが人情味あふれる性格だった。灰褐色のベリーショートに黒い肌で見ているだけで快活さが伝わる姿だった。

 

 ロトは大人しいニケだった。金髪を長い三つ編みで1本に纏め、肩に垂らしていた。隣にいるだけで和やかになるような、優しいニケだった。

 

 そんな3機も戦場に出向けば鬼神の如くラプチャーを破壊して回る。大破した量産型ニケと一緒に、ブレインシェルターを抱えていた自分には、そんな様子を見る余裕はなかったはずだが確かに見惚れる戦いだったのだ。

 

 彼女達にだって救えない命はあったと言われたが、あの景色を見て救われない者などいないはずだと当時の自分は強く信じていたことを思い返す。

 

「どうだい、満足したかい? 未熟だった頃の話は恥ずかしいからこのくらいにしたいのだが」

 

「うん、ありがとう。いつかその子達に会えるといいね」

 

 ああ、と軽く返事を返し、そんな会話を続けているうちに地上エレベーターへ辿り着いた。2、3時間くらい経っただろうか? エレベーターから前哨基地へと向かい、指揮官室に帰る。

 

 シャワーを軽く済ませて、ガウンも羽織らずベッドに横たわる。今回は死なせなかった。でも、救えないものもあった。まずは明日、リペアセンターに向かってヴァイン、アイビーの様子を見よう。それからバーニンガムへの報告も……

 

 気付けば朝になっていた。長期間の任務というわけではなかったが、特殊個体のラプチャーと戦闘したせいか、疲れていたのだろう。ぐっすり眠ってしまっていた。

 

 ライトニングが目を覚ましたのは朝日でも、小鳥の囀りでも、しっかり者な部隊長の美声でもなかった。それは、エルヴィス・エドワーズの喧騒だった。

 

「ライトニング! 起きてくれ! 君、なんてことをしでかしたんだ!?」




「文書記録:アンダーテイカー部隊 回収履歴」

7月25日
 アーク近郊の地上にて量産型3機の回収。いずれも大破。生命反応なし。

8月1日
 廃都市エリアにてカスタムモデル1機、量産型2機の回収。いずれも大破。頭部なし。

10月12日
 森林エリアにて量産型試験部隊20機の回収。機体により破損率の差あり。生存2機。リペアセンターへ搬送。

12月5日
 砂漠エリアにて量産型4機の回収。いずれも大破。。生命反応なし。

12月26日
 砂漠エリアにて量産型6機の回収。大破5機、生命反応なし。中破1機、生存。ブレインシェルターへ確保の後、リペアセンターへ搬送。

1月12日
 大規模作戦による大量回収。量産型回収数不明。カスタムモデル4機の回収。内3機生存。リペアセンターへ搬送。
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