鉄屑の赫き   作:姫神__

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ふたり、前を見て

 ホワイト・ダフネ隊のヴァインからイレギュラーのニケについて聞いたライトニングはエルヴィスと共にミシリス本社へ出向いていた。それはアイビーの見たというイレギュラーについて問うためだった。

 

 イレギュラーとは侵食や思考転換により正常に機能しなくなった、人間に危害を加える判断されたニケのことを言う。

 

 ライトニングが見たことがあるものは、侵食によって自制の効かなくなったニケが銃を乱射したり、同じ言葉を繰り返したりする様が多い。思考転換の場合は辛い戦場に耐えられなくなり、自らラプチャーの群れへ走って行った者や自決した者がいた。

 

 こういった光景は、ライトニングに限らず指揮官ならば皆見たことのあるもので、イレギュラーとなった個体は基本的に指揮官の手によって廃棄、すなわち殺処分されると決まっている。

 

 アイビーが見たというイレギュラーは少なくとも侵食されたニケではないことが分かっている。だとすれば思考転換を起こしたニケになるのだろうが、人類に敵対するほど激しい思考転換を起こしたニケが地上でまともに生きていけるだろうか?

 

 ミシリスのオフィスに到着するとシュエンの秘書をしているリアンが案内をしてくれた。顔を合わすなり溜め息を吐くので、シュエンに関わる面倒事には業を煮やしているのだろう。社長室に入ると御世辞にも可愛らしいとは言いたくない仏頂面が踏ん反り返っていた。

 

「シュエンCEO、お久しぶりです。ホワイト・ダフネ、それから捜索隊については残念な結果になってしまいました。心中お察しします」

 

「なぁに? 嫌味でも言いに来たの!?」

 

「いえ、嫌味などでは……」

 

 ライトニングは心底腹の立つ娘だ、と心の中で愚痴を言うも、この性格とは今後も付き合っていかなければならないのだろうと半ば諦めるように彼女の罵声を浴びる。

 

「こんな結果になったのが私のせいってワケ? そもそも! I-DOLLなんてテトラのゴミクズを使ったから碌に任務もこなせないのよ! うちのニケを使ってればアンタに借りを作る必要もなかったの」

 

「……ま、所詮は鉄屑の仕事。野垂れ死のうが構わないわ。アイビーは記憶処理で済ませたしね」

 

「その、アイビーの記憶の部分について話しに来たのですよ」

 

 もう知ってるの? ちょうどいいわ、と吐き捨てた後、シュエンは社長室のソファにドサッと腰掛けてはその白い手脚を組み、大儀そうに話し始めた。

 

「アイビーのこと、どうせヴァインから聞いたんでしょ。ったく、ペラペラと喋りやがって。アイツも記憶消去が必要ね」

 

「感謝なさい、特別に教えてあげる。と・く・べ・つ・に、よ! ただし! この極秘事項はアンタが調査に行ってくること。ついでにM.M.R.の新作も調子を見てきてちょうだい。アルゴスも悪くなかったでしょう?」

 

 シュエンによると、アイビーが見たのは間違いなくイレギュラーのニケで、明確な敵対心を持っていたそうだ。現行の生産ナンバーには無いニケで、詳細は何も分からないという。結局真相は分からずじまいであった。

 

 そしてちゃっかり次の任務の指示、装備の試験まで請け負ってしまった。確か準備中だった装備は腕部に取り付けるものだったと記憶していたが……。

 

 思い起こしていると秘書のリアンが大きなケースを取り出し、机上に置く。

 

「おいデブメガネ、これの説明をなさい」

 

「へいへい承知しましたよ、社長」

 

 エルヴィスはシュエンの口の悪さに関してもう気にも留めていないようだった。慣れというのは羨ましいものである。オホン、と咳払いをすると彼は眼鏡の位置を直し説明を始める。

 

「今回新たに開発した装備を我々は“腕”と呼んでいる。以前にも少し説明したからライトニングは覚えているね?まずは金色の方から」

 

 超電磁放出装置、その名をミダスという。これは腕部にあるジェネレータで発電をし、掌にある射出口から電流を飛ばす装置である。ラプチャーの通信や駆動系に作用することを目的としたE.M.P(電磁パルス)攻撃、敵基地の機能停止の他、作戦中のあらゆる電気を必要とする場面での活用が期待できる。

 

 2本目の腕は銀色に輝いていた。高馬力駆動機、ヌァザという。これは強化外骨格として腕部に取り付ける装備になる。通常のニケには持てない重量も難なく持ち上げることができ、膂力を大幅に向上させる。

 

「ちなみにアルゴス・システムは多角視点情報補助器というんだゼ」

 

「そんなことどうっでも、良いわよ!! 分かったらとっととこの前の作戦区域に行ってイレギュラーの調査をしてきなさい!」

 

 シュエンに怒鳴られるままミシリス本社を出てエルヴィスと別れた後、前哨基地まで帰ってきた。

 

「指揮官、戻られたのですね」

 

 メルトが出迎えた。先の戦いでは彼女の活躍があってこそ、アイビーの救出ができた。ある意味、記憶消去を受けてしまった以上アイビーを救えたとは言い難い。シュエンの態度を見る限りヴァインも今後どうなるか分からない。

 

 量産型も全員救うことが出来なかった。勝負には勝てても、作戦は成功できても、守れないものばかりとは、虚しいものだ。

 

「メルト、急で悪いがブリーフィングを開く。次の作戦指令を受けてきた」

 

 数分後、指揮官室にはハンドレッド部隊の要となるMETALシリーズのニケ達が集まっていた。

 

 0号機メルトをはじめ、順にゴルド、シルヴァ、プラナ、リディア、レイディ、ロウ、ルーシィ、オズマの9機だ。

 

「次の任務はもう一度同じ場所へ行く。目的はとあるイレギュラーの捜索、調査だ。ハンドレッド部隊を全投入する」

 

「待ってください指揮官、イレギュラー1機のために100機を投入するのですか?」

 

 ゴルドが疑問を投げかける。

 

「できるだけ早く突き詰めたいからだ。今回は戦闘が目的ではないが、危険が伴う」

 

「うーん、前回留守番してた身としては出撃できるのはちょー嬉しいんだけどぉ、ゴルドの言うことに賛成かな。そのイレギュラーについて詳しく教えてっ?」

 

 METAL- 07ルーシィがゴルドの意見に乗る。

 

「君達がそう言うのも無理はない。説明しよう。先の任務で助けたホワイト・ダフネ隊のアイビーがイレギュラーのニケを見かけた。侵食ではない、意思を持って敵対するニケだ」

 

 一部冷静な者もいたが、その場にいた多くがざわついた。順を追ってヴァインから聞いた話を伝えると皆納得はしたようだが理解がまだ追いついていないようだった。

 

「心配するのも分かるが、代わりに新兵器を預かって来た。ゴルド、シルヴァ、君達が装備するんだ」

 

 そう言ってゴルドにミダスを、シルヴァにヌァザを渡した。ゴルドの腕は後日リペアセンターで換装されることになり、シルヴァは今この場でヌァザを着用してみせた。

 

 シルヴァは装備した感触を確かめるように、肩を回したり、手のひらを何度か握ったり、開いたりしてみた。

 

「えぇ〜、ちょー似合ってるじゃん! シルヴァ強そう!」

 

 METALの-07ルーシィは新しい装備に興奮している。この部隊はメルトやゴルド、シルヴァの3機こそ、ベテラン軍人のように動くが、他のニケはそういうわけではないのがよく分かる。

 

「この新兵器の試験も兼ねているから今回はこの二人の部隊を前衛にし、他はサポートをする形になるだろう。メルトは小隊を組み私の護衛と指揮の補助だ」

 

「この二つがあることでまた戦術に広がりができそうですね。様々な場面にも対応できそうです」

 

 そうだなとメルトに返し、ライトニングは先の戦いを振り返っていた。ムーン・ゲイザー戦のような小さく素早いラプチャーが密集した時にはミダスの力が大いに役立つだろうし、ムーン・ゲイザー本体の殻をこじ開けようとした際にヌァザがあればもっと手早く止めを刺すことができただろう。

 

 ブリーフィングが終わるとメルトだけが指揮官室に残った。

 

「指揮官、次の任務ですが……」

 

「アルゴスを生かして前線に出たかったか?」

 

 ライトニングはブリーフィングをしていた大きな角テーブルから応接用のソファまで移動して腰掛け、メルトにも座るよう合図する。メルトは隣に腰を下ろし、一息つく。

 

「いえ、そうではなくて。先の戦いでムーン・ゲイザーのコアを露出させた時です。生身であれだけラプチャーに近づくのは今後お辞めください。ムーン・ゲイザーや寄生体自体に攻撃能力が無かったことが幸いでしたが、正直に言うと心配でした」

 

 メルトも他のニケ達と同じように、ニケとして生きてきた長い年月の中で何度も指揮官が代わってきた。そんな中で数年振り、いや、十数年振りだろうか。

 

 ニケと共に戦ってくれる指揮官と出逢えた。メルトにとってライトニングとの巡り合わせは幸運、いや、運命に近いのかもしれないと彼女は思っていた。

 

 優秀な指揮官でも一つ間違えれば自惚れ、謀略、様々な要因で姿を消す。彼のような人材に、今度こそはそうなって欲しくないのだ。

 

 できることなら彼のような指揮官と共にずっと戦っていたい。仮にハンドレッド部隊が中央政府やミシリスの思惑の中で生きるモルモットだとしても、信頼できる指揮官となら上手くやっていけると思っているのだ。

 

「無理をしてすまなかった。ただ、あの時はああするしか無かったんだ。指揮官がただ見ているだけ、なんて悠長なことは言っていられないからな」

 

 私はそういうことを聞きたかったわけじゃない、とメルトは小言を入れる。

 

「本当に、心配だったんですよ。貴方がこの部隊に配属されてから半月が過ぎました。今回の戦いで貴方がどういう指揮官か、分かってきた気がします。貴方は信頼するに足る指揮官です」

 

「私も君のような優秀なニケと共に戦えることを誇りに思うよ」

 

「だから、次の任務では無理をなさらないでください。この部隊は“ハンドレッド”です。貴方に未だ見せていない強さがこの部隊にはあります。我々に敗北はありません」

 

「メルト……君、けっこう熱血なんだな。そういうの、嫌いじゃないよ。君の言う通りさ。次の任務も、私達に負けの2文字はない」

 

 隣り合う2人は顔を上げて、ただ何でもない空虚を、前だけを見つめていた。




「シミュレーションルーム結果報告:METAL-00メルトの記録」

被験者
 METAL-00メルト

武装
 メタルストーム(AR)
 ガッデシアムバイザー
 ガッデシアムベスト
 ガッデシアムアームガード
 ガッデシアムブーツ

戦績
 2段階セクターCクリア。当セクターにおいて武器の破損、右腕損傷により戦闘続行不可能。

総合評価
 戦闘力16000相当。
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