鉄屑の赫き   作:姫神__

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世話焼きシルヴァ

 ムーン・ゲイザーを撃破してから数日が経った。昼を少し過ぎた頃、ハンドレッド部隊前哨基地では久々に思える日常が繰り広げられていた。

 

 ライトニングは先の戦闘における作戦報告書を仕上げたので、昼食を済ませようと指揮官室を出て食堂に向かうところであった。

 

 大食堂の扉を開くとハンドレッド部隊のニケ達がまばらに席につき、各々食事を摂っていた。そんな中慌ただしくテーブルの間を、上を、いくつもの食器を蹴散らしながら走り回っている姿があった。

 

 グラスが割れ、フォークが飛ぶ。芋は砕け、スープで床が水浸しになる。

 

 端的に言ってしまうと、ソルジャーE.G.がプロダクト23を追いかけ回していた。

 

「こら! 23番! 私のデザート返しなさーい!」

 

「ファルコン、悔しかったら捕まえにおいでよ! デザートが食べられちゃう前にさ! ははっ!」

 

 またあの2機かと呆れていると、逃げているプロダクト23がMETAL-02シルヴァにぶつかった。

 

 埋まった彼女の胸元から見上げると、シルヴァの頭にはぐずぐずに崩れたエクレアが直撃し、その綺麗な顔がカスタードまみれになっていた。彼女は眉間に青筋を立て、その目尻は小刻みに震えている。

 

「あ、あの……その……シルヴァさん、これは違うんですよ……ちょっとした、は、はは……ね? ファルコン?」

 

「……諦めましょう。覆水盆に返らず。こぼれたカスタードは生地に戻らないわ」

 

 問答無用と言わんばかりに彼女らは後ろ首を捕まれ、食堂から伸びる渡り廊下の奥へと引き摺られて行った。誰もがそれを眺めることしかできなかった。

 

 元々シルヴァの隣を歩いていたMETAL-01ゴルドに聞く。

 

「なあゴルド、シルヴァはいつもああなのか?」

 

「そんなことないですよ、指揮官。彼女はとても優しく仲間想いです。METALシリーズのボディに換装する前からずっと一緒に組んでましたけど、昔からあんな感じで世話焼きばかりですよ」

 

 アレが世話なのかと疑いたくなるが、長い付き合いの彼女が言うからそうなのだろう。そして今日の昼食にありつけるのは、ここを綺麗に片付けてからだと思うと、気は重くなるばかりだった。

 

「君はいつもシルヴァと一緒にいるが、彼女はどんな感じなんだ?」

 

 掃除の間、ゴルドはシルヴァについて語ってくれた。彼女は人間だった頃、若くして母親だったそうだ。指揮官だった夫を亡くし、女手ひとつで娘を育てていたが、その娘も病で亡くしてしまう。果てに自死を選んだが死にきれず、救急搬送された先で気づけばニケになっていたという。

 

 ハンドレッドに所属しているニケ達の中では生前の記憶が随分残っている方だろう。

 

「逆にあの2機は学生のうちにニケになったみたいで。ロールアウトもここへの入隊直前だったそうです」

 

 だからだろうか、あの2機に見える幼さについ反応してしまうのは。彼女には母としての何かが宿っているのかもしれない。

 

「指揮官のお母様はどんな方だったのですか? 私は母親の記憶はほとんど無くて。話していたら少し羨ましくなってしまいました」

 

「ある意味、一生懸命な母親だったよ。父が失脚して命を落としてからは人ががらっと変わってしまってね。随分捻くれてしまったんだよ。今じゃ認知症になって昔の優かった母に逆戻りさ。私のことは覚えてないがね」

 

「それは、すみません。聞くべきでは無かったですね」

 

「よくある話さ、気にしないでくれ。それより掃除に付き合ってくれてありがとう。シルヴァの話も聞けたしね。もう戻ってもらって構わない」

 

 ゴルドと別れ、やっと昼食にありつけたライトニングの太腿が震える。エルヴィスからの通信だ。

 

「やぁライトニング。おチビちゃんから聞いたよ。昼間っから賑やかだねえ君達は。僕は今朝までM.M.R.の地下深くでカンヅメだったっていうのにさ。食事だって味気ないパーフェクトバーだったんだぜ?」

 

 おチビちゃんというと、以前食堂でエルヴィスを見ていたI-DOLL・オーシャンだろうか。ソルジャーO.W.かもしれない。いつの間にうちのニケ達と仲良くなったのか。ライトニングはマッシュポテトをスプーンの背で潰しながらため息をついた。

 

 そういえばオーシャンは今日用事があるからと前哨基地を出ていた。メカニックの世界や武器製作にも興味があると言っていたし、ハンドレッドでその役目を果たすMETAL−06ロウともよく話していた。エルヴィスは今オーシャンと会っているのか、呑気な奴だ。

 

「それはご苦労な研究だったなぁ。次の任務についてアテが出来たから連絡を寄越したんだろう?」

 

「ご明察。例のイレギュラーの情報が入った」

 

 それは確かなのかと聞くと、自信満々にそうだと返される。彼が言うには前回の都市部のすぐ近くにある住宅街で、量産型ニケの分隊が集団侵食を起こしたらしく、その際にイレギュラー出現の旨を伝える通信があったそうだ。

 

「100機で探すにしても時間がかかりそうだな」

 

「そこは前回の功労者、METAL-00に任せればいいさ」

 

「メルトはまだ完全にアルゴスに馴染んだわけじゃない。今も捕捉可能対象を増やすためにシミュレーションルームに篭っているよ」

 

「そうかい。そういや、僕が試験した過程でアルゴスの最大稼働時間は10時間だ。前回はマメに使っていたから2日間の使用に耐えたんだろう。バッテリー残量に気を付けながら調査をしてくれよ。じゃあ、いい結果を聞かせてくれ」

 

 一方的にプツリと電話が切れる。直後エルヴィスのblablaからURLが送られてきた。作戦地域を表す地形データと付近で観測されたラプチャーの情報だった。ロード級がいるが、よく見かける構成の集団だった。

 

『感謝する。準備が出来次第出撃する予定だ』

 

『くれぐれも気をつけてくれよ』

 

『p.s.エクレアは雷って意味らしいゼ⭐︎』

 

 こんなくだらない事を言う余裕があるなら後続の試作品をせっせと開発して欲しいものだ。そもそも、付けるなら星形ではなく雷型の絵文字だろう! とツッコミを入れたくもなる。

 

 ライトニングは一層強いため息を吐いてグラスに注がれたミネラルウォーターを一気に飲み干した。

 

 時を同じくして食堂の扉がバァン、と勢いよく開いた。シルヴァがプロダクト23とソルジャーF.A.を引き摺って帰ってきたようだ。

 

「あら? もう後始末は終わってしまったのですか指揮官。ごめんなさいね、2人の説教に時間がかかり過ぎてしまったみたい」

 

 ふん、と投げ捨てられるように前に出された2機はおとなしく正座をして俯いている。

 

「いや、本来私が指導する立場だったんだ。代わりにしてもらって申し訳ない」

 

 シルヴァが正座していた2機の背中を、急かすように爪先で小突く。

 

「し、指揮官……その、お騒がせして申し訳ありませんでした。掃除までしていただいて……」

 

 頭を下げたソルジャーF.A.の腹が可愛らしく、キュウと鳴り、思わず吹き出してしまった。

 

「ふふっ、ほら。食べ損ねていたろう? 私のを食べると良い」

 

「そうやって甘やかさないでください! 子育てではないのよ?」

 

「子育てじゃないからだよ。前線に立って銃を構えるためには活力が大事だ。エクレア1個を気掛かりに命を落とすなんて嫌だろう? 出撃前ってのは何も食べ残しちゃいけないのさ。仮にステーキなんて残して行ったら戦闘どころじゃないね、私だったら」

 

 新たな任務が始まるのだと気づいたのか、シルヴァの表情が変わる。

 

「シルヴァ。ついでに部隊各員へ伝令を頼む。本日18:00にブリーフィングの後、出撃だ。非番の者にも召集を。他は前哨基地内の放送で構わない」

 

「ラジャー。直ちに」

 

 シルヴァが踵を鳴らして揃えると、ファルコンと23番もすっと立ち上がり、シルヴァと共に敬礼をして食堂を後にした。

 

「世話焼きかぁ。お母さんなんだな」

 

 ライトニングはシルヴァのことが少し分かった気がした。




「メッセージ:次回作戦地域の地形データ及び確認されるラプチャーの情報」ーエルヴィス・エドワーズのblablaよりー

 次回作戦地域は「第1次ホワイト・ダフネ調査隊の救出任務」においてホワイト・ダフネ隊所属ニケ「アイビー」が消息を絶った地点から北西へ約3km離れた旧時代の住宅街である。
 1〜3階建ての建造物が大半を占めており、道路区画も整えられた、作戦行動のしやすい区域であると言える。反面、死角が多く、小型ラプチャーは家屋への侵入も可能であると判断。
 確認されるラプチャーの勢力は比較的穏やかでロード級1〜2機を主とした集団の形成があるのみであり、ハンドレッド部隊の戦闘において問題はないと考えられる。
 判明している個体はテルミット、テルミットBタイプ、オルガン、キャップヘッド、クリケット、シールド、ソード等が確認されている。

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