ライトニングがブリーフィングを発令してから十数分が経過した頃、ロイヤル・ロードのハンバーガーショップで昼食を済ませていたエルヴィス・エドワーズとハンドレッド部隊に所属しているI-DOLL・オーシャンが熱心に話し込んでいた。
「つまりね、エルヴィス主任。ミダスはレールガンみたいな、電力の放出を物理攻撃に転化させる運用方法も考えられると思うの!」
「そうは言ってもなぁ……確かにミダスはコイルガンの要領で極小の金属媒体を飛ばし、それを介して電流を放出させる機能はある。けど、せいぜい指向性を持たせることができるくらいで、レールガンほどの威力は出ないんじゃないかな」
「ガッデシアムを撃ち抜けないのは現在想定されている運用法が根底にあるからじゃないの? 元はE.M.P.攻撃と電力供給がメインの構想だったんでしょう? 方向性を変えて開発し直せばそういった使い方も可能なんじゃないかしら」
一人ではしゃぐオーシャンは身振り手振りを交えて次々と論理を展開していく。目の前にあるマイルドコロッケバーガーの存在も忘れ、ペラペラと口の塞がる様子がない。
「しかしだね、おチビちゃん。」
難色を示すエルヴィスとは裏腹にオーシャンの語りは止まらない。彼女はハンドレッド部隊に配属されてからその兵器開発、整備を担当しているMETAL-06ロウとも打ち解け、日夜新兵器の開発や現在の装備の改修を議論していた。
そんな彼女にとって、アルゴス・システムの試験をきっかけにハンドレッドと関わることになったエルヴィス・エドワーズという男は、新たな知見を得るための恰好の獲物だったのだ。
METALシリーズとしてロールアウトされる前からメカニックとして様々な部隊を渡り歩いてきたロウが気に入っているのだから、
斯く言うエルヴィスも彼女の発想に感心していた。自分含め、科学者達ならばニケの腕をレールガンにするなど難しいと考えるだろう。実用的な、それも対ラプチャー用のレールガンをそこまで小さく作るという技術的な問題と、その腕になってニケが思考転換を起こさず平然といられるかという倫理的な問題があるからだ。
「もう、主任ったら難しそうな顔をして」
オーシャンが唐突に切り出す。エルヴィスは十数秒、しかし女の子を待たせるには十分な時間、黙りこくっていた事に、たった今気がついた。
「所詮、素人に毛が生えた程度の考えじゃ実現は難しいのね?」
「ま、言ってしまえばそうだ。だが大事な考えだよ。科学ってのはそれを乗り越え、実現するために進歩を続けているんだ。旧時代ならそもそもニケを作ることすら不可能だと考えるだろうね。武器という観点でライトニングに言わせれば、そもそも人間は殴り合いから始まった、なんて言いそうだ」
「そうね」
ククッと喉を鳴らし、小刻みにオーシャンが笑う。こういう仕草に少女らしさを感じるのか、エルヴィスは食堂で声をかけられたあの日から彼女を“おチビちゃん”と呼んでいる。
「もう時間になるだろ? 最寄りのエレベーターまで送って行くよ。話の続きは車の中で。ほら、ハンバーガー食べちゃいな」
「時間が無いからポテトは一緒に食べてくれる?」
「もちろん。朝からパーフェクトバー1本しか口にしてないんだ。自分のセットだけじゃ足りなかったところだよ」
エルヴィスはポケットからくしゃくしゃになったパーフェクトバーの包装を取り出してはぶら下げて見せる。パッケージには“一本大満足”と書かれている。誰もがそんなことを思うはずもなく、間に合わせで口にする商品だった。
「本当に腹ぺこだったのね」
前哨基地に繋がるエレベーターへ向かう途中、車内でオーシャンが尋ねる。
「そういえばさっきの話だけど、兵器開発部門は主任の持ち場なのよね? だったらもっと色々試してみたらいいんじゃないかしら? アルゴスも、二つの腕も、あんまりパッとしないもの」
「そりゃあ僕だってもっとロマンあふれる研究はしたいよ? でもね、ウチの実権を握っているのは僕じゃないんだ。僕はあくまで遂行役のナンバー2。実の父親が兵器開発部の顧問なんだ。僕の父さんが研究の内容を取り仕切っているのさ」
「えぇ!? 毎度さも私が作りましたって顔して説明してくるから、てっきり主任が全部仕切ってるのかと思ってた……」
「そういうことだから、僕にお願いしたって研究のお手伝いはさせられないし、君の開発案をいただくこともできないんだ。だから僕等はこうして武器の話を語り合う友人でいようぜ。同僚にはなれない」
オーシャンはがっくりと肩を落とす。せっかく機械弄りができるコネを見つけたと思ったが、とんだ期待はずれだったようだ。
エルヴィスの車から降り、今度はエレベーターに乗る。前哨基地に着くと時刻はもうもう17:40を過ぎていた。
門をくぐり、宿舎、大食堂と通り過ぎるとコマンドセンターがある。いつものブリーフィングは100機のニケの纏め役であるMETALシリーズのニケが指揮官室の奥にある広い角テーブルを囲って行われる。
だが今回は全員招集のブリーフィングだ。この場合、コマンドセンターの隣にある大会議室で行われる。つまり、遅刻は恥ずかしいということだ。それもエルヴィスとハンバーガーを食べていました、なんて理由にならない。
「すみません、遅くなりました!」
大会議室の扉を大きく開くと何列にも並べられた椅子は9割ほど埋まっており、まだ時間に余裕があったことがわかる。オーシャンは大きく息を吐いた。
「大丈夫。まだみんな集まってない…」
ロウの声だった。
「ああ! ちょうど会いたかったのよ! エルヴィス主任とたくさん話せたんだけどね……」
オーシャンはそれっきりロウとおしゃべりモードに入ってしまった。その間にも1機、また1機とニケ達が集まり、定刻には100機全員が座席に着いていた。静まり返った場に気付き、壇上に目をやるとライトニングがマイクの調整をしていた。
「みんな、定刻通りの招集ご苦労だった。これより全体ブリーフィングを開始する」
ライトニングがタブレット端末を何度かペンで叩くとスクリーンに地形図が投影される。
「今回の任務は、前回救出したホワイト・ダフネ部隊のアイビーが目撃したというイレギュラーの捜索だ。場所はアイビーが通信中にイレギュラーと遭遇した地点から北西に約3km離れた住宅街。この地域で作戦行動中だった量産型の部隊が被害にあったそうだ」
METAL-02シルヴァが挙手をする。
「指揮官、被害とは具体的に何でしょうか? ムーン・ゲイザーはしばらく勢力を確保できていないかと」
「ムーン・ゲイザーではなく、集団侵食だ。よって今回は侵食を受けるリスクがある」
大会議室がどよめく。恐怖、焦り、不安が伝播していく。皆これから地獄にでも向かうかのようだった。
ライトイングは演説台を軽く二度、三度手のひらで叩いて場を静まり返らせた。
「現在、作戦区域には侵食作用のある攻撃をするラプチャーは見つかっていない。君達もよく見たことのある種で構成された小集団がいくつかあるだけだ」
「もし侵食を武器とする敵がいるのならそれこそが探しているイレギュラーだ。そして確認されているイレギュラーの数は1機だ。」
あちらこちらから安堵の声が漏れる。侵食作用のある攻撃を為すタイラント級の話は何度も耳にする。そうでなくとも侵食能力のあるラプチャーはかなり手強いとニケ達は知っている。だからそんなものが大群を成して襲ってきたらと身震いしていたのだが、違うと分かっては安心せずにはいられない。
「しかし、その1機しかいないイレギュラーをどうやって探すというのですか?」
METAL-00メルトが質問する。この広い街ひとつを100機でどう探すのだと、他のニケ達も視線で訴え掛ける。
「それについては考えがある。まずは前回同様、アルゴス・システムで索敵を行う。しかし、アルゴスの連続使用時間は10時間程度とそう長くはない。そのためミダスによる電力供給で可能な限り捜索を続ける」
「ミダスの電力供給に限界がきた場合どうなさいますか?」
METAL-01ゴルドが声を尋ねる。ミダスの換装を終えた彼女はその金色に照り返す右腕を胸の前に差し出している。
「ミダスの稼働時間は約20時間。充電を行なった場合、アルゴスに約3度の充電が可能だ。1日6時間の捜索をしたとして、最大5日間捜索できる。勿論これはミダスの電力を一切消費しない前提だから、実際は3日、長くて4日しか保たないと思ってくれ。その間、簡易的な小基地を設営し、そこを拠点として作戦を執り行う」
1時間に一度はラプチャーと遭遇すると言われている地上で数日間、同じ場所に留まることは本来悪手である。ここ数十年の戦闘記録や現在士官学校で教えられる内容に反する。
地上では基本的に動き回る方が良い。そうすれば少しでもラプチャーに遭遇する確率を減らせる。デコイも撒けば尚更だ。ただし、ハンドレッド部隊に所属するニケ全てを動かすとなると話が変わってくる。
交代制での見張りがより容易に、より強固になり、非常時に全員が反撃に転じることで大火力での撃退が見込める。だからこの発案に文句を言うニケは1機もいなかった。寧ろ安全な策だとすら思える者もいた。
「つまり……今回の作戦を要約すると、簡易基地から遠征隊による捜査と技術部隊の空中ドローン捜索で制限期間内にイレギュラーを発見し、可能な場合は撃破すること。また道中ラプチャー小集団とも戦闘になることは避けられないため、大規模殲滅戦になる」
「ただし、地形データを見て分かるように、旧市街地は非常に入り組んでいる。小型ラプチャーの殲滅にも意識を回したいが、そもそも期間内にイレギュラーを見つけることが困難だ。素早く、隈なく、抜かりなく、地を覆う蔦の如き働きが求められる」
ライトニングが語気を強める。
「それでは、明朝6:00よりオペレーション“グローイング・ルート”を開始する!」