オペレーション“グローイング・ルート”が発令されてから数刻、METAL-01ゴルドは未だ寝付けず、宿舎のロビーに居た。
ここは日頃ハンドレッド部隊に所属する量産型ニケ達が談話したり、お茶を嗜んだりし、余暇の時間を過ごす憩いの場となっている空間である。
街灯、館内の照明も消灯時間を迎え、夜も更ける頃、ロビーの壁に等間隔に並んだ窓からは月光が細長く伸び、モノクロの縞模様を室内に作り上げていた。
彼女はその片隅にある合皮のソファに身を預け、グラス一杯の水と共に白銀を浴び、物思いに耽っていた。
「大規模作戦か……いや、これまでもそう言って差し支えない作戦でしたが…。砂漠のタイラント、特殊個体のムーン・ゲイザー。お次は侵食持ちと来ましたか」
「今回の作戦はエルヴィスが寄越してきたものでしたね……。前回はシュエンが。ハンドレッドへの技術提供の根幹もミシリスが担っている。あの企業は私達に何をさせたいのでしょうか…」
遠くから足音が近づいてくる。聴き慣れた優雅な歩み。METAL-02シルヴァだった。
「まだ起きていましたか」
「それはこっちの台詞よ。明日は早いのよ」
考え事をシルヴァに話すと彼女はゴルドの隣に座り、大きく伸びをする。
「私もね、緊張していたの。そしたら誰かさんの声がブツブツ聞こえるものだから来てみたら……そんなことだったの」
「そんなことって……怖くないんですか?」
いつだって、明日の命があるとは限らない。作戦に出るたびゴルドは覚悟する。この数十年、仲間を何度も失い、部隊を転々と変えてきた。
長きに渡る生存能力が評価され、METALシリーズへの改修を受けてからも、その恐怖は消えない。
「まさか、怖いわよ。侵食作用のあるラプチャーとだって何度も戦ってきたじゃない。仲間だって腰抜けの指揮官に変わって何人も処分してきた。でもね、私たちの使命ですもの。無下にできるものでもないし。何処ぞのお嬢さんが鉄クズなんて呼ぶくらい、即席な命なのよ」
それに、と続けて彼女はミシリスのきな臭さについても同調するが、口に出し過ぎないようにとも諫める。
「本当に臆病ね、昔っから。三大企業なんて闇が多いのは当たり前よ。何処かしらでその片棒を担がされているの。私たちは」
「生き残りたいんですよ」
シルヴァは心の中でこの臆病な戦友にじゃあ何でニケになったんだ、と言いたかったが、鉄屑にそんな高尚な理由はない。勝利の女神に生まれ変わるはずが量産型の有象無象になろうとは、誰も思ってはいないのだ。ましてや自分だって“気がつけばそうなっていた”分際なのだ。
「なら早く寝て、明日に備えましょう? いや、もう今日になってしまったかしら」
時計を見ると12時を過ぎていた。どうりで月が明るいわけだ。しかし、その光も次第に翳る。薄く雲が流れてきたらしい。
飲み干されたグラスに影が差す。雲が明けるまでには眠りに就こうと、ゴルドは雲越しに伝わる明るみを頼りに、一口だけ残ったグラスをぶら下げて自室へ戻った。
「文書記録:METALシリーズへの換装志望者の審査」
製造番号:DMTR1064型
所属企業:エリシオン
希望モデル:METAL -01ゴルド型
志望理由:40年近くエリシオン所属ニケとして任務を遂行する上で、現在の自身のモデルだと形式が古く、戦場での十分な戦果が保証できないと考えるため。また、生存性を向上させ、より長期間、人類のために任務を遂行したいと考えるため。
評価:A+
講評:淡々としており、積極性は感じられないが、戦績や戦場での生存能力の高さからハンドレッド部隊の要となるMETALシリーズに相応しいと評価できる。