METAL-01ゴルドが眠りについたのも束の間、朝はやってきた。作戦開始から数時間が過ぎ、ハンドレッド部隊は総出で件の市街地へ赴く最中だった。
「ここからあと2日ほどかかるのか……目標地点に辿り着くだけでも大変ですね。残弾節約しないと」
「でも前の砂漠と比べたら断然、歩きやすいよ」
前回は作戦に参加しなかったニケ達が散々に文句を言うが、ムーン・ゲイザーの親玉がいなくなったせいか、ラプチャーの勢力は以前より縮小していた。
「やはり、ムーン・ゲイザーの勢力下であったことが、この地帯で部隊の失踪が頻発した原因なようですね」
METAL-00メルトはライトニングに確認するように問いかける。
「そのようだな。これだけ歩いてまだ小規模な集団1つと戦闘しただけで済んでいるなど、なかなかに運が良くなければなり得ない状況だ」
地上では小一時間も歩けばラプチャーと遭遇する。向こうから人間の、ニケの気配、音、熱などを感知して寄って集ってくるのだ。それが数時間に一度というのは、それだけこの地帯のラプチャーが数を減らしているということに他ならなかった。
「ただし、エルヴィスからの情報ではロード級を軸とする集団がいくつかあるそうだ。各員、気を抜かないように。レイディ。今回もまた斥候を頼む。目的地周辺は住宅街であると分かっている。他部隊からの報告では公共施設と思しき建造物があることも確認されている。今回の作戦は街一帯を探索するための拠点づくりが要となる。いい場所を探してきてくれ」
「了解。新調したオートフォーカスアイボールも感度良好です。前のものより倍も拡大視できるんですよ!」
METAL-05レイディはゴルド、シルヴァに負けじと目を新しいものに換装していた。彼女達ニケにとって、良い装備というのは羨ましく、嬉しいものでもあるようだ。レイディは斥候を主に動くことが多く、強い武器や多彩な機能よりも、こういった普遍的な便利さを求める傾向にある。
「ゴルド、君の腕は今回、アルゴスの充電役も担っている。そのため、私の指示なしに腕を使うことを禁止する。緊急時を除いて、必ず認証を得てから使用するように。」
「砂漠の時もそうでしたが、そういうことは言わないでいただけますか、大尉。まるでこれから私が緊急を要する事態に巻き込まれて、泣く泣くミダスを使用する羽目になるかのような言い方ではありませんか。そんな鬼気迫る状況になんかなりたくありませんよ」
「それなら、もっとすごい予想でもしてみせましょうか」
METAL-02シルヴァが脇から出てゴルドを揶揄う。今回この二人はイレギュラーと遭遇した場合の重要な戦力になる。電磁波の放出によるE.M.P.攻撃や電力の供給を可能とする黄金の右腕「ミダス」と駆動系を限界まで強化し、桁違いの膂力、怪力を有する銀色の左腕「ヌァザ」。ミシリスの兵器開発部主任であるエルヴィス・エドワーズが「アルゴスの目」の次にハンドレッド部隊へもたらした特殊な兵装だ。
ミダスを備えたゴルド、ヌァザを携えたシルヴァはミシリスのシミュレーションルームでも好成績を納めた。だから、今回は並大抵のラプチャーであれば敵にすらならないのである。
しかし、作戦の目的は先日救出したホワイト・ダフネ隊のアイビーが見たというイレギュラーの捜索。人類に敵対するニケだというが、侵食された機体なのか、それとももっと違う存在なのかは定かではない。ただ、分かっていることは侵食作用を持つ攻撃を仕掛けるラプチャーが作戦区域にいるということだ。
だからこそ、ゴルドは、冗談でもそういった危険な存在と戦わざるを得ないようなことは避けたいのであった。
レイディがライトニングの前を軽い駆け足で追い越し、振り返る。
「大尉、斥候部隊の選出、準備が整いました。これより作戦区域へ一足先に向かいます。30分に一度、定期通信を行いますが、構いませんね?」
「ああ。メンバーは
「ラジャー!」
ソルジャーシリーズの威勢のいい声が響き、5人の影が瞬く間に小さくなってゆく。
それから数十分は歩いただろうか。レイディから1回目の定期通信があって少し経った頃、アルゴス・システムにラプチャーの反応が検知された。
「指揮官、ラプチャーの反応、出現しました。2時の方向、150m先の住宅です。数は3」
「了解した。フラワー。住宅へ1発打ってくれ」
ライトニングの指示でI-DOLL ・フラワーがロケットランチャーを1発、住宅へ向かって撃ち込む。爆発音と共に白塗りの壁が吹き飛び、後に爆風が前列にいたニケ達の髪を揺らした。
「オールクリア。反応途絶、ラプチャーの活動、確認されません」
「ロウ、残骸から使えそうな物資がないか見てくれ。ラプチャー自体の型も確認しておきたい」
METAL-06ロウは無惨に飛び散ったパーツを手早くかき集め、ラプチャーの形を作っていく。その様子は太古の化石を復元しているかのようだった。ハンドレッド部隊のメカニックを兼任するだけあって彼女の機械に対する造詣はかなり深い。作業の傍ではI-DOLL・オーシャンが手持ちの電子端末からライブラリを開き、見つかった部品とラプチャーのデータを照合している。
「大尉、使えそうな素材はなかったよ…。それから大体の型も分かった。これは偵察型のラプチャー。とても小さい。このタイプはロード級と共に行動して、周辺情報を集めてくるのが仕事なはず。どうして住宅内に潜んでいたかは…よく分からない……」
ロウの通信を聞いてか、隊列の後ろでは
ライトニングはロウの情報をもとにメルトと議論する。矮小なラプチャーが単独で行動、あるいはその種のみで群れることはあるのか。ロード級のいる本隊から離れたとして、どのくらい離れることができるのか。
ただのはぐれではないのか。アルゴスの索敵範囲外にロード級がいるだけかもしれない。ムーン・ゲイザーの消失で勢力を失った集団の成れの果てではないか。可能性は様々考えられるが答えは一向に出なかった。
「議論はここまでにしよう。まずはあと2日、行軍を優先して作戦区域に到着次第、小基地の設営を急ぐ。アルゴスもミダスも、燃費はあまりいいとは言えない。素早さはこの作戦において重要だ。それに、こちらが大きく動けばイレギュラーも釣られて出てくるはずだ」
不自然な小型ラプチャーの出現。一向はその不安を置いてレイディ達が見繕っているであろう小基地の設営候補地を目指した。
「会話記録:METAL-06ロウとI-DOLL・オーシャン」
ロウ:オーシャン。何を見ているの?
オーシャン:これ? エリシオンが新しく発売した電子端末よ。携帯タブレットみたいだけど、どちらかというと電子辞書に近いかしら。
ロウ:電子辞書? ずいぶん古風。でも、大抵のことは脳に書き込まれている…。いちいち見なくてもいいのに……。
オーシャン:実際にデータと照らし合わせながらじゃないと分からない時があるのよ! それに自分好みに情報を整理したり、書き加えたりできるんだから!
ロウ:旧時代の…ネット百科事典みたい? 君は、テトラ製なのにミシリスみたいな趣味をするし、道具の好みはエリシオン製で、不思議……。
オーシャン:ロウ、あなたの技術力は尊敬してるけどね、そんなちんたら話さないでちょうだい。私たち機械好きには時間が無いのよ! さぁ早く倉庫のお宝達を調べに行くわよ!
ロウ:お宝? ああ…ラプチャーの残骸……。