鉄屑の赫き   作:姫神__

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二つの影

 アスファルトの敷かれた大地を踏み砕く音が近づいてくる。METAL-01ゴルドがそちらを向くと、大きな影が一つ見えた。

 

「ロード級……ッ、やはり来ましたか。メルトから話を聞けていて良かったです。皆さん、怪我はありませんか?」

 

 西班のニケ達はほぼ無傷なようだ。ロード級1体だけなら20機のニケで対応可能だろう。そう踏んでゴルドは指示を出す。

 

「ロード級の存在を確認しました。幸いなことに、先ほど片付けた連中が取り巻きと思われます。プロダクト23はライブラリを照合してください」

 

「……識別出ましたっ! こいつはテルミットです!」

 

「指揮官、聞こえますか? こちら西班、ゴルド。ロード級テルミットと遭遇。指揮権はこちらのままでよろしいでしょうか?」

 

「基本的に君の指示に任せる。特殊個体ではないが手強い相手だ。爆弾と貫通弾に気を取られやすい。よそ見をしてアサルトライフルを喰らわないよう気をつけろ」

 

「ならば、散開して戦う方がいいわね」

 

 METAL-02シルヴァが付け加え、そこへライトニングがさらに補足をする。

 

「奴の円形爆弾は足場を悪くする。撃ち落とすか、ミダスを使って誘爆させると良い。それから典型的な四脚タイプだ。基本を忘れるなよ」

 

「ラジャー。西班、散開! 足を狙ってください! 円形爆弾はミダスで対処します!」

 

 量産型ニケ達がテルミットを囲うように距離を取る。狙うは脚部の関節、膝の部分だ。

 

 サブマシンガンによる牽制、アサルトライフルで注意を引いている間にスナイパーライフルで関節を狙っていく。が、意外にも装甲は硬く、簡単には崩れない。

 

 テルミットも負けじと弾幕を張りニケ達の接近を許さない。ある程度距離が離れたところで爆弾の投擲。散り散りになったニケ達がまた距離を詰める。

 

 これではいたちごっこ、消耗戦だ。

 

「随分戦い方がなっていますね……」

 

 ゴルドがぼそりと呟いた。

 

「ラプチャーを褒めてどうするのよ!」

 

 シルヴァが思わず突っ込みを入れる。だがこのラプチャーが戦い慣れているのも事実だった。実際、彼女たちは20対1の戦いの中で決定打を繰り出せていない。

 

 このような状況がしばらく続いた後、前線に立つ二人の元へソルジャーF.A.がやって来て進言した。

 

「ゴルドさん、気づいたことがあります。聞いてもらえますか?」

 

 彼女によると、このテルミットは貫通弾の精度が悪いのだという。

 

「何度か狙われましたが全て外れました。そして奴はあの十字路からほとんど動いていません」

 

 ファルコンの推察を聞いて、プロダクト23がポン、と拳を掌に落とした。

 

「そうか、弾幕で牽制しているんじゃない。こいつ、撃つのが下手クソだから居座ってばら撒くしかできないんだ!」

 

 プロダクト23は嬉々として答えた。

 

 それは、爆弾さえ切り抜けられれば一気に距離を詰められるということを意味していた。これなら弱点を突ける。

 

「シルヴァ、私が前に出ます。援護を!」

 

 ゴルドはそう言い放ち、テルミットへ向かって走り出す。路上で朽ちた自動車を遮蔽物にして徐々に近づいていく。

 

 途中、何度も撃ち込まれた貫通弾は、やはり当たらない。顔のすぐそばを銃弾が抜け、切り裂くような熱と風が頬に伝わった。

 

「8番、武器を!」

 

 プロダクト08が呼び掛けに応じてスナイパーライフルを放り投げる。同時に投げ出されたアサルトライフルを掴み取って迎撃し、ゴルドの進む道を開く。

 

「いくわよ!」

 

 ずっと後ろの方でシルヴァが叫び、ロケットランチャーを担いだ。テルミットまであと10m程、ほとんど目の前だ。ゴルドはすかさずテルミットの真下へ滑り込んでゆく。

 

 テルミットの影でゴルドの視界が一気に暗くなる……ドオン! 頭上で巨躯が震えた。ゴルドは暗闇の中でその衝撃が全身に走るのを感じた。

 

 シルヴァの放った弾頭が命中したようだ。テルミットの脚が止まった。胴体のライフルも真下は向けまい。今が体勢を崩すチャンスだ。

 

 テルミットの真下を潜り抜けるまで僅か数秒。ゴルドは装甲の薄い膝裏を4箇所、確実に撃ち抜いた。後ろ側へ抜け出し、再びスナイパーライフルを構える。

 

 テルミットは脚を崩した元凶をその目で追いかけて、振り向こうとした。その時、壊された膝関節が捻れ、脚が卍を描くように回転しながら倒れ込んだ。このラプチャーに、もう逃げ場はない。

 

 最後の抵抗とばかりに、テルミットは爆弾を左右のポッドから打ち上げ続けた。だがそれもミダスの電撃によって力無く爆ぜる。

 

「止めだ!」

 

 スコープを覗いた先には真っ赤なコア。引き金を引く直前、その赤い瞳がギョロリと動いた。

 

「うわっ!?」

 

 突如、視界が青い光に包まれる。ゴルドは咄嗟に右手をかざし、電磁フィールドを生成した。それが幸いしてか、ダメージを受けることは無かった。

 

 焦って距離を取る。さっきまで自分がいた所を見ると、地面が抉れていた。溶けたアスファルトから立ち上る、焼け焦げた臭いが鼻をつく。

 

「ゴルド! レーザー攻撃よ!」

 

 何が起きたか、シルヴァが説明した内容は辻褄が合わない。ゴルドは訝しんだ。

 

「レーザー攻撃ですか!? テルミットにそのような武装は無いはずですが……別個体の可能性が?」

 

「ゴルドさん、そいつは間違いなくテルミットですよ! 爆弾を投げて来たでしょう? データ通りの行動です」

 

 プロダクト23がライブラリの画面を見せながら言い返した。

 

「じゃあ何が攻撃したっていうの!」

 

 誰かが叫ぶ。テルミットの脚は崩れて動けないはずなのに、大きな足音が聞こえてくる。

 

 奥にある住宅の陰からそれは出て来た。さっき止めを刺そうとしたテルミットによく似ているが、搭載している武器に若干の違いが見られた。

 

 ロード級は一体ではなかったと、全員が認識するまでそう時間はかからなかった。そう、レーザーを放ったのはテルミットではなく、新たに現れたラプチャーだった。

 

「二体目!? どこから……まさかアルゴスに検知されなかった!?」

 

 新たな敵と西班のニケ達が交戦する。ロード級とその取り巻きに押され、前線が下がり始めた。ゴルドは急いでライトニングへ無線を繋いぐ。

 

「指揮官ッ、聞こえますか! ロード級が2体いました! ……何? 取り巻きに修理型が紛れている!? ポニーテールか!」

 

 事前にMETAL-00メルトがアルゴス・システムで捉えたロード級ラプチャーは1機。アルゴス・システムの索敵範囲の最外端を移動していたそれは、1機だけではなかった。索敵範囲から外れたところに、もう1機いたのだ。

 

 テルミットが陣取っていた交差点から、もう数軒分後ろに下がっている。取り巻きのラプチャー達が列を成してニケ達をさらに後退させる。

 

 修理型のラプチャーがテルミットに群がり始める。すると、数分もしないうちにテルミットがその巨体を起こし始めた。脚を直されてしまった。

 

「ゴルド、大丈夫か!」

 

 ライトニングが無線に応答する。

 

「ええ、ただしかなりまずい状況です。ほぼ無力化したテルミットが修理型によって再生しました。万全のロード級が2体です。新しい方はテルミットによく似ていますがレーザーを使います」

 

「おそらく、テルミットBだろう。テルミットの強化型だ。レーザーだけでなく放射線を放つ。気をつけてくれ」

 

 危機的状況だ。ロード級1体にニケ20機ならば勝機はあるが、2体同時は厳しい戦いとなるだろう。ここは定石で、かつ堅実なやり方が必要だと考えたライトニングは、西班のニケ達に指示を出す。

 

「いいか、修理型を優先的に倒せ。ロード級に群がるサーバント級は無視して構わない。修理型を倒した後は、周りの小型を。親玉を仕留めるのは最後だ」

 

 ライトニングからの指示通りに量産型ニケ達が声を掛け合う。

 

「ポニーテールは私達で引き受ける! 修復の無力化まで耐えてくれ!」

 

「周りの雑魚はこっちで牽制するよ! 二人はロードをお願い!」

 

「任せてください!」「任せなさい!」

 

 ゴルドとシルヴァの声が揃った。二人は同時に駆け出す。

 

 ゴルドは、円形爆弾やレーザーをミダスの放電によって薙ぎ払った。誘爆した円形爆弾の轟音が耳をつんざく。

 

 シルヴァは、ヌァザの怪力でアスファルトを板状に砕く。それを盾代わりにし、アサルトライフルの弾を受け止めた。弾を受けるたび、小刻みな振動が体の芯に伝わる。

 

 短い呼び掛けだけが二人を動かす。片方がもう片方を守り、互いに攻めの起点を作り合う。

 

 長年共に戦ってきた感覚が二人の連携を加速させる。ゴルドとシルヴァはどんどん前へ突き進む。

 

 テルミット、テルミットBも負けじと応戦する。交互に実弾とエネルギー弾を浴びせ、時折タイミングをずらして撃つ振りをするなど、フェイントも織り交ぜてきた。

 

 相手の猛攻が続く。ロード級の冠は伊達ではない。

 

 繰り返される銃撃の中でテルミットBが放射線を放つ。目に見えない波が勢いよく二人に吹きつける。

 

 筋肉が緊張し、思うように体が動かない。関節が軋んで明らかに反応速度が落ちる。

 

 テルミットはそれを見逃さなかった。精度の悪い貫通弾も、相手が鈍ければ当たる。

 

「ぐっ……」

 

 ゴルドの左肩が貫かれた。血液が吹き出し、熱く突き抜けるような痛みが全身を駆け巡る。

 

 歯を食いしばり耐えようとするが、膝をついてしまう。吹き出た血がアスファルトを赤く染める。

 

「ゴルド! 大丈夫!?」

 

「はい……今、痛覚センサーを切りました。まだ戦えます」

 

 ゴルドは撃たれた血の滴る左肩をぐるりと回して、動きに問題がないことを確かめる。

 

 痛覚センサーさえ切って仕舞えばどうということはない。

 

「駆動系か? 伝達回路か? どこに作用するかは分かりませんが、これはきついですね……やはり強い」

 

「この二体……今までずっとコンビを組んでいたんじゃないかしら?」

 

 シルヴァが荒い息の中、にやりと不敵な笑みでゴルドに問いかける。ゴルドには、更なる連携を見せつけてやろうという彼女の企みが透けて見えた。

 

「ええ。なら、こちらも見せつけましょう」

 

 ゴルドは血を拭って、自信に満ちた顔で答える。

 

 ラプチャーの連携技にやり返すように、ゴルドとシルヴァも息を合わせて動く。二人の連携は、相手に決して劣っていない。いや、むしろ一枚上手だ。周りの小型ラプチャーは他が抑えてくれている。今が止めを刺す時だと、ゴルドは確信した。

 

「シルヴァ!」

 

 ゴルドの声に、シルヴァは即座に反応した。言葉がなくともやることが分かった。

 

 彼女は地面を叩き割り、アスファルトの破片を大量に舞い上げる。その破片が飛来する弾丸を次々と弾いた。

 

 ゴルドは即座にそこへミダスの雷を放つ。

 

 電流がアスファルトの破片の隙間を縫うようにして、網目状広がり電磁フィールドを形成する。

 

 実体と電磁の二重障壁。テルミットたちの攻撃はその防御の前に、全て無力化された。

 

 電磁フィールドが解けると、アスファルトの欠片がばらばらと崩れ落ちる。その向こう側から、ゴルドとシルヴァが飛び出す。

 

 一際大きなコアを持つその二体は、違うニケを見ていたが、同じ結末を迎えた。

 

「はぁっ!」

 

 シルヴァがテルミットのコアへ勢いよく左腕を突き刺す。ヌァザの怪力は、いとも容易くラプチャーのコアを粉砕した。

 

 ゴルドが右手でテルミットBのコアを鷲掴みする。放たれた電撃がバチバチと音を立てコアの奥深くへ流れ込み、焼き尽くす。

 

 同時に破壊されたコアは光を失い、脚からその巨体がガクンと崩れ落ちる。もう、二つのラプチャーは動かない。

 

「テルミット、テルミットBーー撃破!!」

 

 高く掲げられた金と銀の腕は、陽光に照らされ、勝利の輝きを放っていた。

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