鉄屑の赫き   作:姫神__

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監視者

 METAL-03プラナとMETAL-05レイディを先頭に、20機のニケが行軍を進める。

 

 出発から相変わらず天候は良く、見晴らしが良かった。広がる青空、心地よい風。暖かな日差しが降り注ぐ中、彼女たちは捜索範囲を東へ伸ばしつつあった。

 

 イレギュラーの捜索には良い条件だが、これまでの道のりでそうだったように、ラプチャーとの戦闘もほとんど無く、暇を持て余す者もいた。

 

 それは地を這う蔦作戦、東班のニケ達が第二グリーンフィールド義務教育学校を出発してから数十分が経った頃に起きた。

 

「ん? プラナ。今何か動きませんでした?」

 

「いえ、私は何も……」

 

「ほら、あそこ。1時の方向、ここから8軒先の住宅の屋根に……」

 

 レイディは何かが動いたように見えた。新調したフォーカス・アイボールは彼女の視力を倍増させ、これまで以上に索敵しやすくなっていた。

 

 その目が捉えた異変を逃したくないという思いがあった。何より、一昨日から確認されている謎の視線について、彼女もまた警戒を示す立場を取っていたからだ。

 

 前日行われたブリーフィングでは、東班は高い索敵能力と狙撃で、そもそもの戦闘を避けることがコンセプトになっていると、ライトニングの資料には記載されていた。

 

 今回彼女とコンビを組んで主軸となったプラナは、射撃の名手だ。シミュレーションルームでは、スナイパーライフルを使った記録ならハンドレッド部隊随一である。

 

「レイディ、お前も視線のことを気にしすぎだ。指揮官もゴルドも、みんな真面目すぎるんだ……。ラプタャーが来たら撃てば良い話だろう? 何を怖がる」

 

「プラナ……あなたはガサツすぎなんですよ。その狙撃能力は見事なものですが、やはり緊張感というものを持ってですねぇ……」

 

 ああ……また説教だ、とプラナはため息をついた。

 

 彼女は、レイディやMETAL-01ゴルドなど、その他多くの心配性なニケ達から、いつもこのように小言を言われる。

 

 スコープを覗いて辺りを警戒する振りをして、レイディの話を聞き流していると、ピタリとその足が止まった。

 

「どうしました?」

 

「いや、すまない。さっきは私が悪かった」

 

「もう……急に謝らないでください。それじゃあ本当にさっき見たのはラプチャーだったみたいじゃ」

 

 言いかけてレイディもその足を止めた。とても小さい、サーバント級のいわゆる“小型”よりもさらに小さな姿をその目が捉えてしまった。

 

 思わずこめかみのあたりを抑えてフォーカス・アイボールの倍率を上げ、よく見ようと試みた。

 

 甲虫のような丸い形のそれは静に翅を広げると、音を立てずに飛び去って行った。その頭には確かに赤く光るラプチャーのコアがあったことをレイディは見逃さなかった。

 

「指揮官が言っていた風切り音……あれは羽音だったのか!」

 

「きっと気配や音を感じた者のすぐ傍まで来ていたのだろう。なんと命知らずな……」

 

 だが、その勇敢な偵察行為はここまで誰にも見つからずに遂行されていた。それは即ち、ハンドレッド部隊の動きが、少なくとも今朝の出発の段階までは筒抜けであるかもしれないということだった。

 

「まずい、早く指揮官に連絡しないと……っ、何ですかプラナ」

 

 プラナがレイディの腕を抑え、通信を止めるよう合図する。

 

「待て。ここ数日間、アークを出てからずっと監視されていたかもしれないんだ。今更ノコノコとその頭を晒すということは……」

 

「罠、ですか?」

 

「ああ、そうだ。私達は今四方に分かれて探索をしている。仮に東班に北班と南班が合流するようなことがあれば、西班はどうなる?」

 

 孤立する。言葉にする前にレイディは理解し、目を合わせることで返事をした。

 

「その通りだ。これまで不思議なほどラプチャーとの戦闘が無かったのも、どこかに潜んでいるからに違いない」

 

「それじゃあ余計、応援を呼ばなきゃ私達まずいじゃないですか!」

 

 他のニケ達が二人の様子を気にし始める。次第に話を聞き齧り、その不安が押し寄せてくる。

 

「ちょっとレイディ、プラナ。その話本当なの!?」

 

「応援を呼ぶべきよ!」

 

 抗議の声が上がる中、プラナは凛とした声を張り上げた。

 

「皆! ここは私達だけで対処をする! 指揮官に通信は入れる。が、やはり罠の可能性が高い。逆にこの監視者とその取り巻きを私達だけで撃破できれば、部隊全体が有利に動ける」

 

「地を這う蔦作戦は電撃戦であり、殲滅戦。どの道、止まることも引き返すことも出来ない! 敵がこちらの思惑に気付いていない今こそが、仕掛ける絶好の機会だ!」

 

 東班のニケ達が次第に静まり返っていく。プラナの言葉に気持ちが傾いた。もう、心の攻撃態勢は整っていた。

 

「これより監視型超小型ラプチャーを排除するーーエンカウンター!!」

 

 プラナの威勢のいい掛け声に応じてニケ達が一気に展開する。フォーマンセルの菱形陣が5つの方向に伸びる。

 

 プラナとレイディの二人には、ソルジャーO.W.、I-DOLL・フラワーが加わり、超小型ラプチャーを見た方向へ進んでいく。

 

「指揮官、聞こえるか? こちら東班プラナ。例の視線の正体を発見した。超小型の監視ラプチャーだ。これより排除する」

 

 プラナは合わせて自身の考察を話した。他の班を孤立させる罠かもしれないこと、他のラプチャーが潜んでいるかもしれないこと。

 

「プラナ、相手は強力なラプチャーではない可能性が高い。が、これまでのことを考えると君の考えも十分あり得る」

 

「今はフォーマンセルで展開しているんだったな? 放射状に探索範囲を広げるのは推奨できない。各組の距離を保ちつつ団子状に対応してくれ」

 

 広がるな、つまり少数で対応できない場面が想定されると指揮官は言っている。プラナはそう解釈した。

 

「やはり、大型ラプチャーが潜んでいる可能性があると?」

 

「ああ。さっきゴルドからも通信が入ってな。西班は今ロード級と戦闘中だ」

 

 ロード級。普段肝の据わっているプラナでも、その言葉を聞いて背筋がぞくっとした。

 

 西班は新兵器を手にしたゴルドとシルヴァのコンビがいるから、戦力としては安心できる方だ。

 

 だが、東班はそもそも戦闘を避ける事を重視した部隊。プラナの狙撃とレイディの索敵能力だけではロード級には敵わない。

 

 他の量産型達と上手く連携出来れば勝機が無いわけではないが、その難易度は高い。

 

「プラナ、東班の現場指揮は君に任せる。数で押されそうになったり、ロード級以上のラプチャーが出た場合は拠点まで引き返せ。考えがある」

 

「ラジャー」

 

 ブツリと通信が切れる。プラナは大きく息を吐き、弾倉を確認した。グリップを握る力が強くなる。ここから先は自分達だけで進まなければならない。

 

「レイディ、他のみんなも今の通信を聞いていたな? 頭に入れておけ。……待て。近くにいるぞ」

 

 ブウン……ブウン……。羽音が聞こえた。レイディは再び眼の倍率を調整し、辺りを見回す。

 

「プラナ、あそこです」

 

 小さい声でレイディが耳打ちする。プラナは指さされた方向へスナイパーライフルを向け、スコープを覗いた。

 

 青空の上を呑気に飛ぶ姿があった。こちらに背を向けていてまだ気付いていない。

 

 慎重に、慎重に狙う。気取られてはいけない。

 

 できればコアを正確に撃ち抜いて、ほぼ無傷の状態で機能を停止させたい。機械が得意なニケに見せれば何か分かるかもしれないからだ。

 

 引き金を引く直前、そんな欲が出てしまったせいか、指に力が入り過ぎてしまった。

 

 パシュッとサイレンサー越しに発砲音が鳴る。弾丸はやや左にずれ、ラプチャーのコアのすぐ隣を貫通した。甲虫のような翅が1枚、ばらばらに砕け散る。

 

(しまった……!)

 

 プラナの瞳が大きく開く。声にならない悲鳴が漏れた。罠、ロード級、様々な不安要素が、普段は直線的に考える彼女を慎重にさせ過ぎてしまったのだ。

 

 ギュイイイイィン!! けたたましくコーリング・シグナルが鳴り響いた。

 

「えいっ」

 

 すぐ後ろにいたフラワーがロケットランチャーを放ち、騒ぎ立てる監視者を木っ端微塵にする。

 

「プラナ、珍しいわね。外すなんて」

 

「ああ、すまないっ……私の責任だ……!」

 

 後悔している暇はない。コーリング・シグナルが発せられた以上、周囲のラプチャーがこの場所を目指して一直線にやってくる。

 

「まずいですよ! 距離はまだありますが、ラプチャーが続々とこちらへ向かっています! 数が多すぎて観測しきれません!」

 

 レイディは早速周囲の状況を確認し始める。ラプチャーのこの習性は何度体験しても気持ちのいいものではない。自分達が狩られる側に逆転する合図だからだ。

 

「来るぞ! 構えろ!」




「遺失物:とある男の手記」

5月10日
 アークを出て2日経った。俺は運が良い。まだ1回もラプチャーに見つかってない! アークを抜け出せただけじゃなく、こんな僥倖が! これからの旅路に祝福を!

5月14日
 拠点にしても良さそうな建物があった。少し古いが、つくりは頑丈だ。缶詰もあるし、ここで数日過ごせるだろう。

5月19日
 朝、遠くから爆発音が聞こえた。惜しいが、この家ともおさらばだ。食料も減ってきたし、近所の家を漁って物資を整えたら出発だ。

5月26日
 ここ数日間、ラプチャーに追いかけ回されている。噂じゃアイツらは熱に反応するらしい。火が使えないから冷たい飯ばっかりだ…

5月30日
 ああ、くそ! ラプチャーに追われてもう1週間以上だ! まともに眠れもしない! どこかシェルターの跡地でもあればいいが……


6月3日
 ああ、俺は本当に運が良い。今日、任務を放棄して脱走した量産型ニケと出会った。二人ぼっちだが、かなり心強い。今日は休めそうな建物も見つけられた。彼女とこの地上で上手くやっていいきたいものだ。

6月7日
 ニケってのはただのサイボーグかと思っていたが、俺たち人間となんも変わりはしない、ということが分かってきた。気持ちも、体温も、温かみがある。本気で彼女と共に地上で生きていきたいと思い始めてすらきた。

6月15日
 ここ2週間ほど、彼女と共に生活しているが、小さいラプチャーなら戦ってもらえるし、重い荷物も持ってくれる。本当にいい子だ。

6月22日
 今朝、彼女に本気で共に暮らしていきたい気持ちを打ち明けた。快く受け入れてくれた。嬉しい、嬉しいよ。もうすぐ見回りから彼女が帰ってくることだろう。今日は(夥しい量の血痕でこの先は読めそうもない)
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