「指揮官! METAL-01、ゴルドです! もうすぐ校舎北側に到着しますが、近付くほどにラプチャーが増えていますっ!」
「もう近くまで来たか。こちらはなんとか持ち堪えている状況だがそろそろ厳しい。なんとか攻め切るんだ!」
ゴルド率いるハンドレッド部隊西班は第二グリーンフィールド義務教育学校の校舎北側へと迫っていた。
ゴルドたちが校舎に近付くほどラプチャーの数は増え、戦闘は苛烈さを増していった。
だが、校舎がもう見えるだろうという頃、本隊の置かれている状況が芳しくないことが明らかとなる。
「こ、これは……!?」
先ほどのタイラント級との戦いでも信じられないような光景が繰り広げられたが、こちらも引けを取らないものだった。
壁面一帯を所狭しと埋め尽くすラプチャーの群れ。ガチャガチャとけたたましく響く足跡。ばちばちと絶え間なく煌めく発砲炎。
まるで世紀末や終焉を絵に描いたような景色がそこには広がっていた。
「こちらゴルド。北側に到着、このまま鶴翼陣に移行します!」
「そのまま東門へと前進、校地内のラプチャーは無視しろ。外の敵を囲う方が先だ!」
ラプチャーの群勢は南東側から攻めていた。東班では偵察型のコーリングシグナル、南班ではゲリラ的大量発生。
ハンドレッド部隊は南門、東門にて迎撃していたがそれでも突破され、校内にまでラプチャーが雪崩込んでいる状況。
そこへ駆け付けた西班の猛攻が始まった。新兵器ミダスの力によって小さなラプチャーたちは一網打尽にされる。
内に寄せられ膨れ上がった陣形は、校地内で機動力を失い、タレットや狙撃の餌食となっていった。
やがて校舎の南東から面を広く取って前進していたラプチャーの布陣は、面から線へ、線から点へと縮小していく。
「指揮官! ラプチャーの殲滅率、50%を上回りました! あとは校舎内に流れ込んだ分が殆どです!」
「よし、大詰めに掛かるぞ。校舎内のニケに通達! これより校舎上階と校庭側、上下からの挟み撃ちに移行する! 反撃開始だッ!」
校舎内のニケたちが続々と屋上へ集まり始める。それに引き寄せられたラプチャーもまた上階へと登っていく。
一方、鶴翼陣によって取り囲まれたラプチャーたちは校舎内へと押し込められていく。
ほぼ全てのラプチャーが、防火設備によって迷宮化した校舎内へ隔離された。もう袋の鼠である。
校舎内で響く銃声が激化してきた。爆発音もとめどなく聞こえてくる。そして、それはやがて落ち着いていった。
タタッ! 最後の引鉄を弾いたMETAL-00メルトが通信を入れる。
「指揮官、こちらメルト。全てのラプチャーを排除しました。アルゴスにも反応ありません。殲滅完了です」
「了解。全員、校庭指揮台前に集合。各班ごとに整列して待て」
「ふあああ……切り抜けたぁ…。正直今度こそダメかと思ったぁ」
絶体絶命の危機を乗り切ったのだ。皆、安堵のあまりその場にへたり込んでしまう。震える脚が命の巡りを知らせてくれる。
「ほら、座ってる暇はありませんよ。校庭に集合です!」
余力の残ったニケたちによって部隊は再び列を成し、集合した。
「注目」
ライトニングの一声で再び空気が引き締まる。
「ハンドレッド部隊の皆、よく最後まで戦い抜いてくれた。一時は追い詰められたが、皆の協力あってこそ、作戦は成功した」
「我々はイレギュラーの観測に成功した。加えて西班は特に尽力してくれた。ロード級2機の撃破、タイラント級1機の撃退。これはアークに帰ったら早速ニュースになるだろう。それほどの功績だ。君たちに多大なる賞賛を」
たちまち拍手が起こる。それは静かで淡白だった。失ったものもあった。
「だが、犠牲も出てしまった。完全勝利とまではいかなかった。我々は合計6機の仲間を失ってしまった。彼女たちに祈りを」
今度は皆が胸の前で手を合わせる。涙を浮かべる者。震える者。皆思い思いの祈りを捧げる。
数秒してぽつりぽつりとニケたちは顔を上げ始めた。
「それから、METAL-02について報告だ。シルヴァはまだ生きている可能性が高い。西班の証言からして鹵獲されたのだろう。シュエンの指示待ちになるが、おそらく次はシルヴァの救出作戦になる。つまりタイラント級と戦うことになる」
もう、以前のようにタイラント級と戦うことで怖気付く者はいなかった。今回の戦闘でハンドレッド部隊はまた一歩前に進んだ。
そう実感できるだけの危機と戦果であったとライトニングは感じた。
「これをもって地を這う蔦作戦の終結を宣言するッ! 各自帰還準備! 荷物をまとめろ!」
先程までしんとしていた校庭がまた慌ただしくなる。次々と設備の撤去作業が進み、数時間後には築き上げられた城は学舎の姿へと戻っていた。
数日後、前哨基地へ帰還したハンドレッド部隊の元にエルヴィス・エドワーズが訪ねてきた。
「久しぶり、ライトニング。シュエンから言伝を預かっているよ。シルヴァを鹵獲されたそうだね、残念だ」
大きなリュックサックを担ぎ直し敬礼すると、彼は右手を差し出した。ライトニングは手を握り返し、それに応える。
「エルヴィス、よく来てくれた。とりあえず指揮官室まで来てくれ。詳細な報告をしたい」
指揮官室までの間、基地内をきょろきょろと見回すエルヴィスにライトニングが尋ねる。
「誰か探している隊員でもいるのか?」
「あ、ああ。おチビちゃ…いや、メカ好きのI-DOLL・オーシャンは無事だったかい?」
「ああ、最近君と仲良くしているあの子か。無事に帰還しているよ。良かったな」
「なんか、メカニックの後輩が出来たみたいでさ。心配していたんだ。METAL-06も無事かい? 彼女にも相談したいことがあったんだ」
METAL-06ロウが無事であることも伝えると、エルヴィスは胸を撫で下ろした。
「さ、入ってくれ。君は砂糖多めがよかったんだよな?」
「ありがとう、角砂糖5つで頼むよ」
「少しは健康に気を遣えよ。オーシャンにも言われてるんじゃないのか?」
ライトニングはフ、と笑みをこぼしながらコーヒーを注いだ。湯気が立ち、安っぽくも馴染みのある香りが広がる。パーフェクトのコーヒーだって悪くはない。
少なくともM.M.R.に缶詰めすることが多いエルヴィスにとってはアークの市街で食べられる物は何でも美味しいそうだ。
「ところで、先の作戦についてだが、イレギュラーの存在が確立した。アレは侵食などではない。意志を持って人類に仇為す存在。中央政府と三大企業にもそのように伝えた」
「強かったか?」
「ああ、とびっきりにな。メティスやアブソルートでも単独なら敵わんだろうな。撃ち合いもかなりの腕だったが近接戦闘もMETALシリーズより数段上だった」
「本当か!? とんでもないポテンシャルを持っているな……」
「それもだ、自分で言いたくもないが私と戦えるほどには、戦術というものに精通している。おかげで6機損失、1機鹵獲だ」
「だからそんなに手が汚れているわけだ。コーヒーも少し土臭いぞ」
ライトニングは爪に溜まった土を掻き出して払ってみせた。
「今朝まで墓標を建てていたからな。前は10個だった。今回はその半分くらいだ」
「キリがない、君の心がもたなくなるぞ」
「構わない。失ったものは受け止める。その上で強くなる。父がそうであったようにな」
「確かに君のお父上は優秀な指揮官だったさ、だからって君までそうなる必要、ないだろ?」
「いいや、もっと強くならなきゃいけない。ずっと昔にそう決心したんだ。今更変えられないさ。ラプチャーは皆殺しだ。そしてハンドレッドを最強の部隊にする。これが今の目標だ」
「強さにばかりこだわっちゃ、人間でいられなくなるぞ。M.M.R.にもそういう研究員がいる。正直、見てられない」
「怪物でも悪魔でもなってやるさ。勝利のためなら。そのための新兵器を持ってきたんじゃないのか?」
「はあ、君ってやつは……僕の負けだよ」
苦笑いしながら、エルヴィスは大きなリュックサックの口を開くと、中からアトラスケースを持ち出し、セキュリティ・ロックを解除した。
「これが次に試験してほしい新兵器だ。‘空中機動支持縄索’、通称‘アリアドネ’」
エルヴィスがアトラスケースを開くと、そこには腰に巻くベルトのようなものが鎮座していた。
両脇には小型の箱があり、そこからアンカーと思われる部品が飛び出ていた。
「ま、簡単にいうとワイヤーアクションができる装置だ。ベルトの両脇からロープが放たれ、アンカーを壁面や天井に食い込ませて固定する。ロープを巻き戻して上に上がれるわけだ」
「ニケの体重に耐えられるのか??」
「失礼な、一応女の子たちだぜ? 実験ではとっくにクリアしている。あとは実戦でどうか見るだけなんだ」
「それにしてもなぜこのタイミングで? もっと強いライフルとか、盾とか……」
チッ、チッ、チと指を立てるとエルヴィスは書類の束を机上に叩きつけた。わざわざ地味なアリアドネを次の試験対象に選んだことに、意味があるようだ。
「シュエンから次の任務も預かってきた。分かっているとは思うが、シルヴァの救出作戦だ。手負いのブラック・スミスの情報を追って、可能な限り予測ルートを立てたんだが、最も濃厚なのが北部の氷雪地帯だ」
「険しい山道でコイツは有難いだろう? それに、アルゴスやヌァザ、ミダスと比べて単純な作りだからね。部隊全員分、用意できてるよ」
「なるほど、それで機動力を確保するためにアリアドネを……」
「これは彼女たちの命を守るためでもあるんだ。氷雪地帯は知ってのとおり、ラプチャーとの戦闘以外でも死亡リスクが高い。ニケだけじゃなく、指揮官である君もだ」
雪山がそびえる中、雪崩や滑落、遭難。ラプチャーよりも遥か昔から人間の脅威である自然とも戦わなければならない。
だからこそ、北部には特殊部隊「アンリミテッド」が駐屯している。遭難の多い北部氷雪地帯でニケの救助や現地の調査をしている部隊だ。
「アンリミテッドには話を通しているのか?」
「もちろんだ。大規模な部隊での任務だからね」
「助かる。できればアンリミテッドにも協力をもらい、早急に捜索に出たい。ただ……」
北部には何が待ち構えているのか。またあのイレギュラーの手の上で踊らされ、無駄に命を落とさせてしまうのか。はたまた自分が死ぬのか。
「じゃあ、作戦の詳細が決まったら連絡してくれ。なるべく早くって言っても、明日はダメだからな? ライトニング、君もちゃんと休むんだ」
「分かっているよ。気遣いどうも」
エルヴィスを送った後、ライトニングは指揮官室へ戻り、イレギュラーの取った戦術について思い返す。
偵察型ラプチャーを使った監視。こちらの動きを知った上での的確な布陣。最適なタイミングでの襲撃。
そうなると一つ疑問が浮かぶ。
(あれほど戦術眼に長けたニケがなぜイレギュラーに……?)
その晩、ライトニングは指揮官室に籠り切っていた。北部地域に関するありとあらゆる資料を持ち出し、机上に広げる。
氷雪地帯の地図を睨むその目に帯びた熱は、ゆらゆらと燃えていた。
「記録:北部氷雪地帯における自然被害の事例」
1.グレイハウンド小隊
北部高原を探索中、ラプチャーの群れに遭遇。退避中に雪庇へ踏み入り、滑落。全員死亡。
2.ドラゴンフライ小隊
渓谷での戦闘中、爆撃により巨大なクレバスが発生し、滑落。全員死亡。
3.アイアンハート小隊
高山中腹を行軍中、ホワイトアウトによりリング・ワンデ・リングに陥る。プロダクトシリーズ1機のみ帰還。他のニケはアリミテッド部隊が捜索するも、行方不明。