鉄屑の赫き   作:姫神__

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初陣

 午前10時過ぎ。行軍を始めて3時間近くが経とうとしている。砂漠地帯は茹だるような暑さに包まれていた。目標地点までもう3時間程といったところである。

 

 出征したのは100機のうち80機、残り20機は拠点中継と物資補給の小隊を務める。また、80機のうち5機が斥候として先行している。

 

 ニケ達は戦闘用ボディの重量及び装備や弾薬含め1機あたりの重量が多く、車両での運搬は適さない。そのため指揮官が装甲車、他のニケが徒歩(とは名ばかりで、小走り或いは疾走するので時速40〜80kmは出ているのではないか?)での行軍となる。

 

 物資等を運ぶニケ数機は軽量のボディで大型の装甲運搬車を運転する。そろそろ斥候部隊は目的地に到着している頃だろう。

 

「指揮官、斥候部隊から通信です。無事目標地点に到着し、簡易拠点を設営中のようです。途中、小規模な戦闘がありましたが小型ラプチャー数機のみだったため損傷率はゼロ。中継基地の設営も予定通りのポイントに設置済みで、活動に問題はないそうです」

 

「ひとまず順調だな。斥候部隊に指示を。簡易拠点の設営が出来次第、前哨基地との通信を確認。後に周囲を警戒しながら30分ごとに定期連絡をせよ」

 

 メルトは通信を再開した。後ろを振り返ると緩やかな坂が続き、後続部隊のニケたちが暑さに文句を言いながら、あるいは談笑しながら隊列を組んでいる。

 

「指揮官、前方に」

 

 ゴルドが重たい声で知らせた。向こうには小さく砂埃が立っており、双眼鏡を覗くとヤツらの雑踏が見える。ラプチャーだ。

 

「全部隊に告ぐ。進行方向にラプチャーの群れを発見。目標地点を根城にしている部隊の一部だろう。距離2000m、規模は複数の中型を軸とした数十機。前線20機のニケは戦闘準備を。後続は行軍を停止し、非常時に備えよ」

 

「戦闘要員、準備完了。エンカウンター!」

 

 メルトの合図で戦闘が開始する。スナイパーライフルを装備したニケ数機が小型ラプチャー数機を破壊し敵部隊を誘き寄せる。

 

 そのまま狙撃を続け、アサルトライフルの射程に入り次第一斉に射撃する。ものの10分ほどで敵部隊は壊滅に追い込まれたが、残った個体が最後の抵抗とばかりに大きなコーリング・シグナルを掻き鳴らした。

 

「厄介だな。全部隊へ、コーリング・シグナル発生、増援に備えよ」

 

 ラプチャーは通常、ヒトを発見した時や自機或いは所属する部隊が窮地に陥ったとき、”コーリング・シグナル”と呼ばれる警告音を出す。その音量は絶大で、耳をつんざく様な騒音であり、遠く離れた部隊でもこの音を聞き付ければたちまち集結して敵を襲う。

 

 この”物音に反応する習性”の実に厄介な事だ。ラプチャーと戦闘する際、なるべく音を出さないかデコイを撒いて他のラプチャーが近づかないようにするのが鉄則である。

 

 しかし砂漠地帯のど真ん中、平地に孤立した部隊はどこから増援が来ても不利になりやすい。早いうちに移動しなければならない。

 

 増援の可能性を抱えながら行軍を続ける。随分と進んでいたようで、空を仰ぐと太陽が真南を過ぎ去っていた。地図上ではもうじき遺跡群に着く。斥候部隊が通信設備を整え、中継基地を作っているはずだ。

 

「全部隊に告ぐ。中継地点Dの遺跡群が見えた。そこで30分ほど小休憩を取る。遅くなってしまったが、昼食を摂り装備を整えるように。もう少しで目標ポイントに着く」

 

「指揮官。先程の戦闘ですが……」

 

 ゴルドが先程のコーリング・シグナルを気にかけている。彼女はこの部隊の中でもかなり古いニケだ。ボディこそはMETALシリーズ1号型として換装・改修されているが、元はエリシオン製の40年ものであった。

 

 ライトニング自身が生まれる10年以上も前、第二次地上奪還作戦から時間が経ち、アークが今の怠惰な姿になり始めてきた頃、彼女はゴッデスや新星に憧れてニケになることを決めた。

 

 そんな時期だったからこそ、彼女のニケとしての人生は厳しいものだった。無能な指揮官の下で何度も死線を彷徨い、社会の風刺に耐え、高性能ニケの光の陰で部隊を転々としてきたベテランである。

 

 だから戦士の勘とでも言うべきだろうか、彼女の第六感はコーリング・シグナルの後に訪れた砂塵の静けさに恐怖を感じていた。

 

「分かっている。正直、不安に思っているよ。ただ、斥候からもうじき連絡が来るはずだ。そこで判断材料が出るまでは進軍を続ける」

 

「ラジャー。貴官がそう言うなら信じましょう」

 

「ありがとう。ただ、こういう時は……」

 

 言いかけたところで砂嵐がなる。通信が入った。

 

「指揮官へ、こちらMETAL05-レイディ! 緊急。至急援軍を要請! ロード級以上の性能を持つラプチャーによる強襲ッ。繰り返す、ロード級以上相当のラプチャーによる強襲ッ!」

 

「こちら指揮官、了解。現在地点D、到着まで20分。なんとか持ち堪えろ。場合によっては撤退を許可する」

 

「ラジャー!」

 

 ブツリと無線が切れる。他のニケたちは皆大急ぎで準備を終えていた。

 

「なぁ? ゴルド。こういう時は大体こうなる。君もよく知っているだろう?」

 

「えぇ、最悪の気分ですよッ」

 

 当初の作戦が全て流れてしまった。ここからは全て場当たり的な判断で戦う必要がある。本当に、最悪の初陣になりそうだ。




「文書記録:作戦記録概要」

1.概要
 本作戦は先の戦闘(以降、戦闘A)でラプチャー部隊に拉致された高性能ニケ3機の救出作戦である。

 戦闘Aにおいてタイラント級相当のラプチャーが出現、量産型ニケ5機及び高性能ニケ3機の2小隊が全滅。現地に量産型ニケ数機分の残骸を発見。高性能ニケ3機は痕跡が皆無のため拉致された可能性あり。

 拉致されたと思しき高性能ニケはミシリス社の新型ニケであることを確認。ミシリス社より捜索の申請を受け、本作戦を受理した。

2.調査記録
 複数回の調査により当該ラプチャーは巨大な楕円形で袋状のボディを持ち、驚異的な性能があることを確認。

 別作戦において行動不能になった小型ラプチャーの捕食、量産型ニケを飲み込むようにして鹵獲する等の姿を確認。特徴や戦闘力の高さから中央政府は当該ラプチャーをタイラント級に指定。「ファットマン(以降、対象F)」と呼称。
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