鉄屑の赫き   作:姫神__

5 / 30
野戦築城

 数十機のニケたちが装備を抱え砂漠を駆ける。重量が砂を押し潰し、引き摺るように脚を上げると一気に塵が舞う。熱を帯びた陽光がスクリーンとなった砂煙に差し、群体が流れてゆく影を写し込んでいた。

 

 向かう先はおそらくタイラント級。ライトニングは装甲車のアクセルに足を乗せる力がぐっと強くなるのを感じた。

 

 10分前、斥候部隊からの支援要請が入った。ロード級以上に相当する、すなわちタイラント級の強さに匹敵するラプチャーが現れた。

 

 ただのタイラント級ならまだ良い。これまで様々な部隊が残した戦闘データがあるからだ。メティスやアブソルート、特に最近活躍していると噂のカウンターズ、だったか。

 

 彼女らが次々とコードネームを持つタイラント級を撃破しているため、複数体いるとされているモデルに遭遇した際はそのデータが非常に有効となる。

 

 100機のニケを運用するこの部隊なら全滅は避けられる。上手く運用すれば損害を最小限に抑えた撤退も可能だ。

 

 しかしだ。無線の主であるレイディはコードネームを告げなかった。それが意味するのは今までほとんど確認されていない、または新種のラプチャーだということだ。このままでは分が悪い。

 

 タイラント級ということは体長が5メートル程はあると考えられる。図体のデカさを封じ込めたい。ライトニングはとある資料を思い出した。

 

「METAL -08 オズマ、聞こえるか。こちら指揮官。待機している君の08部隊と兵站部隊はそのまま地点Dに残り遺跡群を拠点にした防衛陣地を作成しろ。野戦築城だ」

 

 了解の返事と共に立案の内容をオズマは尋ねた。

 

「こちらは砂漠化が酷くて足場が悪い。おそらく敵を引きつけながらそちらに戻る。足場の良さと建造物を生かしてトラップのようにしたい」

 

「図体が大きければ嵌まりそうですね。身動きを封じたところに高火力の斉射、という形でよろしいでしょうか」

 

「それで頼む。退避を始めたら通信を送る。トラップとしての機能を第一に陣地作成してくれ」

 

「了解、通信終わり」

 

 オズマは遺跡全体を見渡す。ここはドーム状の建造物であることが分かる。一時侵攻前は都市部だったのだろう。実際、地点Dに辿り着くまでにも大きなビルや鉄塔などの遺跡を通過してきた。周辺にも小さい建物の残骸がいくつも見られる。

 

 ドームの中には椅子がたくさん並んでおり、アーク内の総合体育館やアリーナとよく似ている。中央の広い面に敵を抑え付けることができれば、全面囲まれた客席から斉射が可能である。

 

「指揮官より通信がありました。08部隊、兵站部隊の皆さんは陣地作成を行います。地点D、即ちこのドームを巨大な対タイラント級トラップに作り替えます。昔、空中型の巨大ラプチャーを捕獲する設備があったと聞いたことがあります。その構想を応用したいと思います」

 

 オズマの指示に従って量産機達が作業にかかる。爆薬や火器で入口を広げるのは楽だが、それでは野良のラプチャーが集まる可能性がある。コンクリート性の分厚い壁をハンマーや削岩機でできるだけ静かに砕き、作業をする。

 

 10分ほどかけて全面が大きく開いた。これなら大型のラプチャーも入ることができる。本体はそろそろ斥候部隊と接触するだろうか。客席部には兵站部隊がせっせと運んだ試験兵器を設置するよう各員へ指示を出し、一息つく。

 

 短く、しかし乱雑に切り揃えてある黒い前髪から汗が滴り、ヘルメットからはみ出たやや長い後ろ髪はうなじ周辺を蒸れさせた。外縁部にあるベンチに腰掛けた彼女はヘルメットを外し、粉まみれのグローブで額を拭うと、指揮官の構想をシミュレートして備えた。

 

「各員戦闘配置に着け。これより目標地点へ進軍し斥候部隊の援護、及びタイラント級と思われるラプチャーの撃破を試みる。エンカウンターッ!」

 

 アクセルを踏む力がより一層増す。何度も砂煙を浴びて口内に入った砂を吐き出し、眼鏡のレンズに張り付いた砂を手袋のまま無理矢理拭い落とす。前方には斥候部隊と大型のラプチャーが戦闘している姿が見えた。

 

 人影を数える、まだ1機も失っていない。それともう一つ安心した要素があった。”当該するラプチャーは規格外のタイラントではなさそうだ”という考えが脳内を駆けた。

 

 決して油断ではない。思い描いていた図体の大きさそのままだった。これなら大きく兵力を失うことなく策を成功させ、前哨基地まで撤退できるかもしれない。そう思える状況だったのだ。

 

「レイディ、遅くなった!」

 

 指揮官の声に振り返る。レイディ達斥候部隊は皆、瞳に光を取り戻した。目の前のタイラント級への恐怖が多少安らいだ気がした。自分たちの破損率は決して高くはなく、稼働に問題なし。であれば作戦続行、指揮官と目線を交わし確認する。

 

 対峙するタイラント級ラプチャーは全長5〜7メートルほどの、ぼてっとした寸胴の個体であった。両脇に一対の足が生え、上空に向かって大口を開けていた。

 

 それはしきりに口内から太く長い触手を飛び出させ、べたん、べたん、と攻撃を仕掛けていた。機動力に乏しいタイプのように見える。これは上手くいきそうだと胸の内が軽くなった気がした。

 

「各員へ。これよりタイラント級ラプチャーを地点Dへ引き摺り出す。ソルジャーV.T.、プロダクト32、I -DOLL・ルナ各機はアンカーを打ち込み隊列を先導しろ。他はアンカーロープを最大限引っ張れ!」

 

 指令を受けた3機が砂上を荒らし加速してゆく。正面、左右に回り込むと大型のアンカーを射出した。放たれたアンカーの切先が弧を描き、揺れるように鋼鉄性のロープが追いかける。それぞれの錨はどっしりとラプチャーの懐に食い込んだ。

 

 グオオンと悲鳴が上がる。目一杯引っ張られたロープに次々ニケが掴みかかり、元来た方向へ踏ん張る。その後方からはサブマシンガンやスナイパーライフルを用いた細かい射撃でラプチャーを煽り、一歩、また一歩と遺跡側へ引き寄せる。

 

 そうやって数分、距離にして数十メートル引き寄せた時、目玉のように付いていたコアの一つがついに割れた。更なる雄叫びをあげ、各部が真っ赤に光る。ラプチャーが本格的にこちらを敵だと認識した合図だ。

 

「来るぞ、全力で引け!」

 

 ライトニングはメルトに運転を代わらせ、装甲車で一気に引き返した。それを追うようにタイラント級はドタドタを足踏みをし、進み始める。

 

 ニケ達はロープを担いで装甲車を追いかける。こうしてまんまと策に嵌まったラプチャーはずるずるとドームの直前まで連れられてきた。

 

「お散歩の時間はおしまいね!」

 

 ソルジャーV.T.が吐き捨てると同時に他2機に合図を送る。ロープを持ったニケはドーム内へ、他のニケは客席へ。これより360°パノラマ弾丸サーカスへご招待である!




「とある報告文:ソルジャーシリーズV.T.(バルチャー)型の戦績について」

 エリシオン社の量産型ニケ「ソルジャーV.T.」の作戦行動における成果を以下にまとめる。

・第321地区掃討作戦
 5機のニケからなる小隊での作戦。V.T.型はカバード:3機、バルカン:1機、オルガン:2機を撃破。破損率13%

・第47地区掃討作戦
 アブソルート部隊への同行作戦。他量産型ニケと共にエンジェルリング:1機、リビルドバルカン1機を撃破。破損率23%

・第108地区調査作戦
 V.T.型単独での調査任務。調査中に出現したサーヴァント級ラプチャー4機を単独撃破。破損率3%
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。