鉄屑の赫き   作:姫神__

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深奥に挑むために

 砂漠地帯での戦闘から1週間が経とうとしていた。ライトニング・サンダースはあれから指揮官室に篭り、資料と睨め合っていた。机上は何冊も書籍が積み重なり、アークのライブラリーからデータを印刷した紙は皺になって何枚か床に散らばっている。

 

 今日もずっと資料を漁っていたためか、半ば眠気を感じていたところにノックをする音が響く。

 

「指揮官、メルトです。今、よろしいですか」

 

「構わない、入ってくれ」

 

 入室を促すとメルトがそろりと部屋に入る。ライトニングの顔を見るなり彼女は驚いた様子を見せた。

 

「指揮官、ちゃんと寝ていらっしゃるんですか?目の隈が酷いです」

 

 その言葉を聞いて鏡を見ると、確かに酷く疲れた顔をしていた。目は充血し、彼女の言った通り隈で真っ黒に眼窩を形取っている。無精髭もそのままに、髪の毛や肌は脂でべたついていた。

 

「心配をかけたね。でも、大丈夫だ。前回の作戦で気になったことがあって、調べ物に集中しすぎたみたいだ」

 

「気になったこと、というとあの件ですか?」

 

「ああ、ラプチャーが“卵”の様なものから増殖したこと。それに加えてあの不自然な増援。戦闘音によばれた野良のラプチャーかと思っていたが、戦闘後の調査では周辺の砂地や乾燥地にラプチャーの足跡が無かった。そもそも外からの襲撃なら、待機させていた軽量ボディの兵站部隊から報せがあったはずだ。」

 

 今この2つの疑問がライトニングを悩ませている。今まで聞いたこともない状況が作戦中に起こった。あのタイラント級についてもミシリスの研究所に調査を依頼しているが、未だ返答がない。いつかはあの場所に調査へ行きたいが、そのための情報が足りない。そして戦力、もとい彼とハンドレッド部隊の実力も、まだ万全ではない。

 

 「まあ、この件はゆっくりと調査を進めて、準備が出来次第、本格的に動き出そう。それより、何か用事があったんじゃないか?」

 

「そうでした。バーニンガム副司令官とシュエンCEOより連絡がありました。2時間後、本日15時に中央政府へ出向くように、とのことでした」

 

「2時間後か、急いでシャワーを浴びないとだな。こんな姿は見せられない。連絡してくれてありがとう、話の内容は帰ってから皆に連絡するから、そのように知らせてくれ」

「ええ、それではお気をつけて」

 

 そう言うと彼女は指揮官室を後にした。シュエンもいるとなると、遅れるわけにはいかない。何かと面倒な人だからな……と少し嫌そうにシャワーを浴び、髭を剃る。制服に袖を通し、身なりを整えるとアークへ向かうエレベーターに乗って中央政府へと赴いた。

「副司令、失礼します。ライトニング・サンダース、参りました」

 

「さ、サンダース、来てくれたか。そ、そこに腰掛けてくれ。シュエンがもう少しで、く、来るそうだから」

 

「それでは失礼します。しかし、なぜシュエンCEOまで?」

 

「そ、それはだな……」

 

 バーニンガムが言いかけたところで副司令室の扉が開き、シュエンとM.M.R.研究員のマナが入って来た。

 

「それは、あんたの部隊が新兵器運用の試験部隊に選ばれたからよ、サンダース」

 

「しゅ、シュエン、来たか。ちょ、ちょうどいい、彼に今回の件を、せ、説明してくれないか?」

 

 シュエンはミシリスの新兵器開発の運用に向けて、試験部隊を探していたこと、その部隊にハンドレッドが選ばれてことを説明した。

 

 どうやらメティスのマクスウェルやM.M.R.の新兵器開発部含め、ラプチャーへの対抗手段としてさまざまな兵器の開発をしているが、企画段階で頓挫するものが多く、試験運用とデータ収集を継続して担ってくれる部隊を探していたらしい。

 

「CEO。新兵器、とは具体的にどんなものですか?」

 

 その質問にマナが答える。

 

「今試験できるものはとりあえず2つです。一つ目は高精度なレーダーシステム『アルゴス』です。部隊の要となるニケに持たせると良いでしょう。半径500mに渡って地形情報や味方信号、動きのある目標等を観測し、戦場を俯瞰的に見ることが可能になります」

 

「二つ目は防御装備として装着できる形態の武装『ミダス』と『ヌァザ』です。『ミダス』は高出力のエネルギー流出装置が組み込まれており、エネルギーを開放、あるいは放出することでレーザー兵器や限定した対象へのEMP攻撃が可能とされています」

 

「『ヌァザ』は駆動系を強化した腕部パーツだと思ってください。これまででもニケの持つ力は人間の比ではありませんが、そのさらに上を行くパワーを出すことが可能です。更生館にいるあるニケが他のニケと比べて身体能力が高いことから着想を得た兵器です」

 

 今回はアルゴスだけを渡すということで、ミダスとヌァザはまだ少し調整が残っているとのことだった。ニケが100機いてもこの前のような状況になったら、やはりその場を打開する強力な火器、兵器が欲しくなる。

 

 それに部隊の運営費がカツカツだ。アルバイトと思ってミシリスの依頼を受けながら、あのタイラントの情報も引き続き調査しよう。

 

 契約を済ませ、シュエンが去った後、バーニンガムから呼びかけがあった。

 

「さ、サンダース。前回の作戦はハンドレッド就任後の初陣ながらよくやってくれた。い、イレギュラーの件はM.M.R.だけでなく、中央政府でも調査を進めている。ふ、不足した量産型もすでにそちらに届いているはずだ。き、期待しているよ。次の任務もが、頑張ってくれたまえ」

 

「副司令、ありがとうございます」

 

 もっと上手く戦いたい。もっと敵を知りたい。もっと武器が欲しい。もっと強くなりたい。ライトニング・サンダースが中央政府から部隊の指揮官に直接任命される人物たり得る、彼の根源的な欲望だ。

 

 今回、その足掛かりを得られたことに彼は内心、歓喜していたのかもしれない。既に頭の中では、先日の戦闘が、新兵器を使ってシミュレーションし直されていた。何度か試験任務を受けた後、彼はあのタイラント級の謎、ラプチャーの凄む深奥に挑むだろう。今よりも強くなって。




「会話記録:M.M.R.談話室より」

開発者「いやぁ、今回の新兵器は結構自信あるんだよねぇ」

研究員「アルゴスシステム、量産に成功すれば各部隊の戦果も上がるでしょうね」

開発者「ああ、そうだとも。でも、大事なのはアルゴスじゃないよ」

研究員「と、言うと?」

開発者「考えてごらんよ。アルゴスを見るのは結局ニケ自身の“目”だ。使いこなせなきゃ、意味がない。それにあの部隊は200も目玉を持っているじゃない? 優秀な目玉が201番目と202番目だけじゃ、部隊としてはいまひとつだね」
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