ストライクウィッチーズ オルタナティブ アサルトウィッチーズ 作:UNIMITES
第29話となります。
目覚めると最初に目に入ったのは白い天井だった。
どこか見覚えのあるその天井、そして白いベッドから医務室の天井であることすぐに理解する。
「う……なんで、俺……」
気怠さを感じる体を起こして周囲を見渡す。
窓の外は日が昇り青空だけが広がっていた。
「んー……」
「ん?」
ベッドの横には寝息を立てて眠りについていた少女の姿がある。
ルミナスウィッチーズの1人であるヴァージニア・ロバートソンであった。
隣には使い魔であるモフィも眠っている。
「ヴァージニアさん、起きてください」
「ん……あっ!琴村さん、目が覚めたんですね!よかったー」
「あの、ここは?」
「軍の医務室です。港近くで倒れていた琴村さんたちを軍の人たちが見つけて運んでくれたんです。お水どうぞ」
「どうも……」
受け取ったコップの水を一気に飲み干し、一息ついた。
そのタイミングで医務室の扉がノックされる。
「失礼しまーす。あ、琴村さん目が覚めてたんだ」
「無事でよかったです。ジニー、早いな。昨日も遅くまで看病していたのに」
「あ、えっと。はい」
彼女は笑って見せていた。
さきほどまで眠っていたところを見るに、もしかして朝までずっといたのか?
そんなことを考え、再び視線を戻す。
「グレイスさんにアイラさんまでどうして?」
そう口にして室内にやってきたのはグレイスたちの顔を見つめる。
「だって、ガリアじゃ琴村君たちのこと知っているの私たちくらいだし」
「……」
言われてみれば、特務隊であり秘密裏に活動しているアサルトウィッチーズはガリアに知り合いなどいない。
それこそ限られた軍の人間くらいのものだった。
「……ありがとうございます。でも、俺そろそろ行きます」
そう口にしてベッドを出る。
「ちょ、琴村さん!まだ動いちゃ駄目ですよ!」
「いえ、もう大丈夫ですから」
「駄目だよ!まだ治ってないんだから!」
医務室を出ようとするが、彼女たちは止めようと必死になる。
「騒がしいと思ったら零治。起きてたのか」
お互いに引かずにいるとそんな声が室内に響く。
扉の方には直人と直葉が立っていた。
「直人、それに鈴木少佐も無事だったのか」
「なんとかな……」
「お二人共まだ動かないほうが!」
続くように入室したいのりが声をかける。
「俺はもう大丈夫ですって。他の奴に比べれば傷は浅いですので」
返答する直人の肩を掴む。
「直人、ユースティアナを助けに行くぞ。時間がない」
「っ!……おい、零治、落ち着け。今すぐは無理だ、それにどういうことだ?」
「何言っているんだ!ぐずぐずしてたらユースティアナを助けられなくなる!」
感情的になっていることはわかっている。
だが、今は急がなければならないという気持ちだけ先行していた。
「だから落ち着けって、零治。今は――」
「……」
言葉を遮るように直葉が腹部に蹴りをかました。
「うっ!鈴木少佐……なにを」
思わず零治はうめき声をあげ、その場に蹲る。
「大丈夫か、零治!おい、姉貴!」
「琴村さんは怪我人なんですよ!」
ヴァージニアも間に割って入るように立つ。
睨むような視線にも直葉が怯むことはなかった。
「少しは落ち着いたかい?琴村少年」
「うぅ……」
「冷静になりたまえ。君は特務隊アサルトウィッチーズの隊長だろ?まずは状況を説明するんだ。ローゼンクロイツさんはどうしたんだ?」
「……ユースティアナが、敵に攫われた」
そう口にして、昨日のことを思い出す。
ユースティアナはグルーシャに連れていかれてしまった。
彼女だけは守らなくてはならなかったのに。
すでに、戦闘から十数時間が経過していると考えられる以上、はやく助けに行かなければ手遅れになるかもしれない。
「……そうか」
「医務室にローゼンクロイツさんの姿がなかったから、もしかしたらと思っていたけど……」
零治の表情を見た2人も納得したのか頷く。
「だから、早く探しに!」
「すぐにってのは無理だ」
「なんでだよ!?」
思わず声を上げていた。
「琴村少年……今は、ベアトたちも動けないんだ。昨日の戦闘で魔法力をほぼ使い果たした上、みんな負傷している」
「……!負傷ってどういうことだよ?だってネウロイは問題なく倒したはずじゃ?」
「鈴木少佐の言う通りだよ、琴村君。フーバーさんたちも今は休まないと飛べないと思う」
説明を聞いていたグレイスが念押しする。
「じゃあ、どうすれば……」
「零治、今は体を休めろ。探しに行くにしてもお前が倒れてしまったらユースティアナを見つけられないだろ。俺はこれからブリタニアに戻ってベアトたちのストライカーユニットとGrowを取ってくる」
「直人……」
「グレイスさん。急で悪いんですけど、少しの間零治やベアトたちを見ててくれませんか?俺がいない間に無茶しないとも限りませんから」
「え?」
思わずグレイスも驚いた表情を見せる。
「問題ないんじゃないですか?琴村さんたちにはストライカーユニットを整備してもらった恩もありますし」
「う、うん。わかったわ、任せて!」
グレイスが胸を張り、依頼を請け負う。
「零治」
「わかってる……今はお前の言う通りにする」
そう口にして再び、ベッドに腰を下ろした。
「そうか。行くぞ、姉貴」
「うん」
直人と直葉は医務室を後にする。
長い廊下を歩き始めて少し経った頃、
「で、なんで零治にあんなことしたんだ?」
「珍しく琴村少年が取り乱していたからね。でも、どうしてあんなに?」
「彼女が零治と同じデザインソルジャーだからかもな。元々ローゼンクロイツに対してあいつは少し執着していたからな……」
「……そうか。ローゼンクロイツさんにねぇ」
説明を聞いて彼女はそう口にしていた。
軍の格納庫に到着した直人は自分たちの使用していたランカスターを見つめる。
「おーい、鈴木、直葉少佐」
名前を呼ばれ、思わず振り返る。
そこにはユリウス・グラハムの姿がある。
「グラハム?目を覚ましたのか」
「ああ。零治から聞いたがブリタニアにストライカー取りに行くんだって?」
「ベアトたちが使用するストライカーユニットが必要だからな」
直人が頷くと、
「俺も連れていけ。手伝うくらいはできる」
ユリウスも親指を立ててそう口にする。
「お前は俺たち特務隊とは無関係だろ」
「かもな。なら、俺とお前を海に突き落としたやつはなんだ?」
「……」
直人は少し動揺したように視線を逸らす。
ウォーロックという機密情報を公開することができないからだ。
「答えたくないならいいさ。でも、俺もやつに傷をもらった。ならもう無関係ってわけにもいかないだろ。それに今のお前らには1人でも多く人員が必要なんじゃないのか」
「なかなかカッコいいことを言うね、グラハム少年。弟が1人では心配だ、私が行こうと思ったが君が同行してくれるのは私としても願ったりだ」
「おい、姉貴」
「は、はい!まかせてください!いくぞ鈴木」
「……わかったよ」
それ以上何を言っても聞かないことを悟ったのか直人も渋々了承する。
そして、2人を乗せたランカスターはブリタニアに向けて、飛びだっていくのだった。
昼食を終えた零治は医務室を出る。
事前に確認していたベアトたちの医務室へと赴く。
扉を開けると見慣れたウィッチの顔が確認できた。
「零治さん!」
「琴村さん!」
「みんな、大丈夫か?」
「無事ではありますが、あまり大丈夫とは言えないかもですね。みんな魔法力をギリギリまで使って今は回復に努めてますが」
「そうか……」
ヨハンの説明に零治もそう口にして、再びウィッチたちの顔を順番に見つめる。
どうやら大きな怪我はしていないようだ。
動けないと聞いていたから大きな負傷したのかとも思ったが魔法力の枯渇による一時的なもののようだ。
「琴村さん。ユースティアナさんは?」
「そ、それは……」
クロエの質問に思わず視線を逸らしてしまう。
「琴村さん!」
「彼女は……敵に、攫われてしまった」
「そんな!琴村さん近くに居たんですよね!どうにかならなかったんですか!」
彼女が感情的になって声を上げた。
「おい、エリザベート、よせ。琴村さんだって!」
「く、クロエさん!」
ヨハンやソフィアが声をかけるが
「すまない……」
「う、ううぅ……ユースティアナさん」
クロエは涙を浮かべて顔を伏せていた。
自分もただただ拳を握りしめる。
何もできず、彼女を連れ去られる光景を見ていることしかできなかった自分の無力さを痛感していた。
「ベアト。アルカ・ネウロイは問題なく倒したんだよな?そっちで何があったのか聞いてもいいか?」
「はい。アルカ・ネウロイ、テンパランス(節制)との交戦後、私たちの前に3機のウォーロックが現れたんです」
「なに?!」
驚きを隠せなかった。
彼女の口から「ウォーロック」の名前が出たからだ。
「そうだよ。琴村さん、どういうことだ?軍が保有するコアは私たちのストライカーユニットのものしかないんじゃなかったのか?」
ヨハンもこちらに質問するように声を上げていた。
ウォーロックが3機も?そんなのありえない。
そもそも今の軍がウォーロックを製造できるはずがない。
「でも、琴村さんのお父さんしかネウロイからコアを摘出する方法知らないんでしょ?」
「そうだとしても私たちはウォーロックっと交戦したじゃないか!これは事実だ」
「まさかグルーシャが?だが俺もウォーロックを見ている……」
「零治さん?何かわかったんですか?」
ベアトがこちらに質問するように顔を覗き込む。
「おそらくベアトたちが交戦した3機のウォーロックというのは無人機動兵器『ウィザード』だ」
「ウィザード?」
「ウォーロックと同時期に開発されていた量産型だ。といってもウォーロックから機能を限定した簡易量産型だがな」
無人機動兵器「ウィザード」。
ウォーロックと同様にコアを動力源とした無人機動兵器ではあるが機能を限定化した簡易量産機である。
無人で飛行、戦闘が可能な点は同じだが、あくまでもウォーロックの戦闘支援ユニットのため複雑な動きや連携を単独では行えず、運用にはウォーロックを司令塔に置くことが不可欠な機体だった。
そのほかにも整備性向上やフレームを簡素化するため変形機能もオミットされているといったコストダウンのためのダウングレードがされている機体なのだ。
「でも、そんな機体がどうして今になって現れたんですか?」
「敵はアルカ・ネウロイだけじゃないのかもしれない、ってことだ」
零治の頭には、かつてウォーロックを運用した男の顔が浮かんでいた。
「それって。どういう……?」
「まずはユースティアナを助け出すことが最優先だ。直人が今ブリタニアにWRとGrowを取りに行っている。戻ったらすぐに捜索となるだろうからみんなも体を休めておくんだ」
「当てはあるんですか?」
涙を拭いたクロエが再び質問を投げる。
「俺の感知範囲はそれほど広くはないからな。正直、まだ何も思い付いていない」
「なら、ナイトウィッチに捜索要請するのはどうでしょうか?」
「ナイトウィッチに?」
「はい。ナイトウィッチの探知ならユースティアナさんを見つけ出せるかもしれません。私も捜索に出ますが、人員は多い方がいいと思いますので……」
「そうか。わかった、少し掛け合ってみる」
零治は頷くと、医務室を後にするのだった。
薄暗い部屋でユースティアナは瞼を開いた。
「う、うぅ……」
体を起こして室内を見渡す。
室内は変わったところは確認できない。
だが今の自分にはここがどこなのかはわからなかった。
「ここは?通信機は……さすがに取られているよね。ティア?」
自分の体を探るが、自分の通信機はない。
仲間に通信を取る方法はないようだった。
ティアも今は眠っているのか、声をかけても反応はない。
「零治さんたちは無事なのかな?」
「目を覚ましたか」
扉が開け放たれ現れたのはブロンドヘアに紅の瞳を持つグルーシャ・ローゼンクロイツであった。
「……っ!」
反射的に身構える。
しかし、戦闘でほとんど魔力を使い果たしていた今の自分には固有魔法を使用するだけの魔力すらも残っていなかった。
「そんなに身構えるな」
グルーシャはパンの置かれた皿と牛乳瓶の置かれたトレイをテーブルに置く。
「あなたは、本当に私の兄さんなの?」
「血縁上はな。といっても俺はすでに人間ではなくなっている」
ふと、彼の右手が目に入った。
ネウロイのような黒い装甲肌に紅い亀裂模様が入ったその手は、彼が人間ではないことをいやでも理解させる。
「ユースティアナ、どれだけ人間として振る舞ってもお前に待ち受ける先はアルカ・ネウロイと同じだぞ」
「そんな……」
ショックを受け、彼女は膝から崩れ落ちる。
グルーシャもユースティアナの顔をただただ見つめているのだった。
ちょこっと設定紹介
・扶桑刀「烈風丸」
坂本少佐が鍛造した扶桑刀であり、刀身が魔法力を帯びた特殊な刀剣武器。
大規模作戦にてネウロイ化した大和を撃墜できるほどの攻撃力を持つが、同時に使用し続ければウィッチの魔法力を枯渇させてしまうという曰く付きの武器でもある。
大規模作戦後は宮藤芳佳のストライカーユニット「震電」と共に浜辺に打ち上げられていたが、軍によって回収された。
その後、震電は修理に回されたが、烈風丸は鈴木直葉が扶桑にて刀身を打ち直して、アサルトウィッチーズ所属、琴村零治に託している。
なお、魔法力を持たないはずの琴村零治が、なぜ烈風斬のような紅の斬撃を放つことができたのかは不明である。